Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/06/21
Update

映画『鏡の中にある如く』ネタバレ感想と考察解説。ベルイマンが“神の沈黙三部作”で描く父の物語|電影19XX年への旅7

  • Writer :
  • 中西翼

連載コラム「電影19XX年への旅」第7回

歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。

第7回は、『叫びとささやき』や『仮面/ペルソナ』など、数多くの傑作を映画界に残したイングマール・ベルイマン監督作品『鏡の中にある如く』です。

作家であるダビッドは、子供のミーナス、カリンとその夫マーチンとともに海辺の別荘を訪れました。

精神分裂症を患うカリンは、壁には穴だらけの部屋で、奇妙な囁き声を聞き……。

神の沈黙三部作の第一作目であり、とある事件で綻び始める家族の姿を描いております。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『鏡の中にある如く』の作品情報


(C)1961 AB SVENSK FILMINDUSTRI

【公開】
1961年(スウェーデン映画)

【原題】
Såsom i en spegel

【監督・脚本】
イングマール・ベルイマン

【キャスト】
ハリエット・アンデルセン、グンナール・ビョルンストランド、マックス・フォン・シドー、ラーシュ・パッスコード

【作品概要】
『叫びとささやき』(1972)や『仮面/ペルソナ』(1966)のイングマール・ベルイマン監督作品。海辺の別荘を舞台に、精神分裂症の娘を観察する父の物語。

同監督作品『不良少女モニカ』(1952)で映画デビューし、ベルイマンとは恋人関係にあったハリエット・アンデルセンが主演を務め、『魔術師』(1959)のグンナール・ビョルンストランドやマックス・フォン・シドー脇を固めています。

映画『鏡の中にある如く』のあらすじとネタバレ


(C)1961 AB SVENSK FILMINDUSTRI

小説家のダビッドは、娘のカリンとその夫マーチン、そして息子のミーナスを連れて、海に入っていました。

なんとも楽しい様子で遊んでいた海水から上がると、ダビッドは寒さに震えます。しかし、風が冷たいと言って、凍えて耐えられないことを認めません。

カリンは精神分裂症を患っていました。夫であり医師を務めるマーチンは、退院はできたものの病状は深刻で、再発の可能性は拭えないと、ダビッドに話します。

ダビッドは言い聞かせるように、カリンを愛していると呟きます。

17歳になったミーナスは、自分の身体や精神の変化に悩んでいました。自分はモテないと嘆き、女は嫌いだと吐き捨てます。

また、父親に相手をしてもらえないことを寂しく感じていました。

ミーナスとカリンは、ミーナスが書いた脚本の舞台を演じます。それをダビッドが惜しみなく褒めました。二人は喜び、拍手を浴びます。

夜になり、カリンはマーチンと眠ります。しかしカリンは、動物の鳴き声に悩まされ、中々寝付けませんでした。

マーチンが眠る中カリンは、埃も被り壁も穴だらけの部屋に入ります。壁に耳を傾けるとそこからは、何者かの囁き声が聞こえました。

カリンは身体をよじらせ、崩れていきます。そして、父のダビッドが小説の仕事をしているところを訪れます。

ダビッドは仕事を止め、カリンの話を聞きます。眠れないと語るカリンをなだめ、布団をかけました。部屋の窓からミーナスが現れ、ダビッドは外に出ます。

その隙にカリンは、ダビッドが執筆のために記録している日記を手に取ります。そこには、カリンのことが書かれていました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『鏡の中にある如く』ネタバレ・結末の記載がございます。『鏡の中にある如く』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

スポンサーリンク


(C)1961 AB SVENSK FILMINDUSTRI

カリンの病気は治らないが、弱り崩れていく姿を観察するのは小説のネタになると、日記には書かれていました。

カリンはショックを一人で抱えきれず、マーチンに話します。病気は治らないと書かれていたことを知らせると、再発する可能性があるだけで、治らないとは言っていないと励まします。

もう一つ、病気を小説の題材にされようとしていることは、カリンの口からは言えませんでした。マーチンはダビッドと船に乗り、日記の内容を直接聞き出します。

ダビッドは日記に書かれた通り、小説の題材にしていると話します。カリンを愛するマーチンは、怒りに震えます。

自分が父親として酷いのは分かっているとダビッドが語ります。それでも、カリンは安らかに眠ってほしいという内なる願望をマーチンも抱えているのではないかと問います。

しかしマーチンは、カリンから解放されたいと思ったことなど一度もありませんでした。

ミーナスはすでに、何本も脚本を書いていました。本を読んで勉強しているかと思いきや、ミーナスが手にしていたのは、女性の裸が載せられた淫らな雑誌でした。

カリンはそれを奪い、からかいます。どの女性が好きなのかとミーナスに尋ねると、少しふくよかだが整った顔立ちの女性を指差します。

ミーナスは拗ねますが、カリンが悪気はなかったと素直に誤ると許しました。

カリンは、またもや囁き声の聞こえた穴だらけの部屋にいました。ミーナスをそこに連れ出し、部屋には神が現れるのだと説明します。

ミーナスはそれを信じませんでした。

海辺の別荘に、嵐がやってきます。古くなって傷んだ船で、カリンが寝そべります。ミーナスはカリンを心配し、船の中を探します。

雨の滴が落ちる中、カリンを発見します。カリンはミーナスを誘惑し、兄妹でありながらも二人は抱き合いました。

カリンは罪の意識から、ダビッドに打ち明けます。再びカリンは、入院することになりました。

するとカリンは、突然姿を消します。ダビッド達が探すと、穴だらけの部屋に佇み、一人でぶつぶつと話していました。

不審に思ったデビッドが話を聞くと、カリンは神が来るのだと言い始めます。マーチンは信じませんでしたが、それでもいいと、カリンとともに祈りを求められます。

マーチンは泣き崩れ、カリンの拳を握り、愛を伝えます。入院を迎えに来たヘリコプターが現れると、ドアが開きました。

カリンは神の登場を喜ぶやいなや、苦しみに悶絶します。暴れ出すカリンを押さえつけると、マーチンは鎮痛剤を打ち込みました。

落ち着いたカリンは、蜘蛛の形をした神が現れ、顔を通ったと語ります。そうして、到着ヘリコプターに乗り込み、病院へと向かいました。

ミーナスはデビッドに、現実が崩れた苦しさを吐露していました。生きることができないと弱音を吐くミーナスにデビッドは、愛にすがれば生きていけると語ります。

あらゆる形の愛は、神でもあり、空っぽの心が満たされるのだ。絶望を愛で乗り越えられるのだと、デビッドは強く言葉にします。

デビッドが去った後ミーナスは、ようやく父が話してくれたと、喜ぶのでした。

スポンサーリンク

映画『鏡の中にある如く』の感想と評価


(C)1961 AB SVENSK FILMINDUSTRI

監督であるイングマール・ベルイマンの少年時代、父は厳格で暴力的な司教でした。

神に仕えていながらも、我が子を支配しようとする父の存在は、ベルイマンに神への不信を植え付け、映画作品にその影を落としました。

例に漏れず、映画『鏡の中にある如く』に登場する父ダビッドも、神の不在を思わせるような、憎むべき人間でした。

ミーナスは、そんな父でも話をしたがり、ふくよかな女性の包容力を好んでいたことから、病死した母の幻影を追っていたように思えます。つまりは、家族からの愛を求めていました。

それでもダビッドは子供を突き放す、孤独な一個人でした。

ベルイマンは、父親の理不尽性と、宗教の存在意義を描きます。ダビッドがミーナスに語った、鏡の中に映るおぼろげなもの全てに愛を見出すという言葉は、存在しない神にすがる宗教の本質を突いていました。

なんとも危うく不確かな思想ですが、それがこの世で生きるための術でもあり、宗教の存在意義です。

人間は皆孤独で、身体を寄せ合ったり父や母にすがったり、あるいは神や愛の存在を信じたりと、あらゆる方法で孤独を忘れようとしてました。

しかし、神にすがりすぎた姉カリンは、病状をより一層悪化させていました。神を信じるのは、あらゆる不幸に対して鈍感にさせるだけであって、実際に病気を治すといった効果は存在しない。それは、神が存在しないからだと描いているのです。

まとめ


(C)1961 AB SVENSK FILMINDUSTRI

4人の登場人物で、それぞれの背景や寂しさを事細かに描いていた映画『鏡の中にある如く』。

第34回のアカデミー賞では外国語映画賞を受賞し、第12回のベルリン国際映画賞で金熊賞を争うなど、ベルイマン監督作品の中でも評価された映画です。

海辺を舞台に息をのむ白黒の映像美や、ベルイマン作品に多数出演しているハリエット・アンデルセンやグンナール・ビョルンストランド、そしてマックス・フォン・シドーの演技が光っています。

ベルイマン自身の個人的な経験から、父への憎しみが強く反映された映画だけあって、非常にエネルギーに満ちた作品です。

ベルイマン作品神の沈黙三部作の第一作は、4人の人物の行動や言葉を織りなし、神への信仰心の意義と、宗教の無意味性を同時に表現しているのでした。

次回の『電影19XX年への旅』は…


(C)1963 AB SVENSK FILMINDUSTRI

次回は、イングマール・ベルイマン監督の神の沈黙三部作の最終作品である映画『沈黙』(1963)を紹介します。どうぞ、お楽しみに。

【連載コラム】『電影19XX年への旅』一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『ラスト・フル・メジャー 』感想解説と評価レビュー。米国空軍兵ピッツェンバーガーの実話を映像化したドラマで勲章授与の意味を探る|映画という星空を知るひとよ49

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第49回 ベトナム戦争で自らの命を犠牲にして仲間を救った米国空軍兵士、ウィリアム・H・ピッツェンバーガー。 ピッツェンバーガーの実話に感銘を受けたトッド・ロビン …

連載コラム

映画『パペット・マスター(2019)』感想評価と考察。人形ホラーシリーズの魅力|SF恐怖映画という名の観覧車71

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile071 10月11日(金)より、ついにヒューマントラストシネマ渋谷にて上映が始まった「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション 2019 …

連載コラム

映画『ダイヤルMを廻せ』ネタバレあらすじと感想解説。ヒッチコックが小道具を活かした完全犯罪の行く末にあるものとは|電影19XX年への旅11

連載コラム「電影19XX年への旅」第11回 歴代の巨匠監督たちが映画史に残した名作・傑作の作品を紹介する連載コラム「電影19XX年への旅」。 第11回は、『めまい』や『白い恐怖』など、多くの名作を映画 …

連載コラム

映画『望み』ネタバレ感想と評価レビュー。小説を原作に描くある家族の苦悩と“3つ目”の真実|映画という星空を知るひとよ27

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第27回 2020年10月9日(金)より全国ロードショー公開を迎えた映画『望み』。 雫井脩介の同名小説を『悼む人』『人魚の眠る家』などを手掛けた堤幸彦監督が映画 …

連載コラム

映画『バオバオ フツウの家族』あらすじと感想レビュー。LGBT運動の先進国がみせた新たな台湾ムービーの魅力|銀幕の月光遊戯 43

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第43回 映画『バオバオ フツウの家族』が、2019年9月28日(土)より新宿K’s cinemaを皮切りに全国順次公開されます。 赤ちゃんが欲しい2組の同性カップルの姿を …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学