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ひいくんのあるく町ポレポレ東中野にて劇場公開!青柳拓監督の快挙は?

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

2017年9月2日(土)より、ポレポレ東中野にて上映が行われる映画『ひいくんのあるく町』。

大学の卒業制作として制作されたこの作品は、町を巡回する1人の人物に焦点を当てながら、囁くように、今の日本各地の空洞化する地域を見せたドキュメンタリー映画。

若き新人監督である青柳拓の劇場公開デビュー第1弾作品をご紹介します。

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1.映画『ひいくんのあるく町』の作品情報

【公開】
2017年(日本映画)

【監督】
青柳拓

【キャスト】
渡井秀彦、渡井すづ子、渡井のあ、渡井香江、青柳正輝、青柳好美、一瀬久雄、一瀬喜代司、佐藤文子、小林千恵子、芦沢稔、青柳正彦、望月茂子、小池幸子、宮崎香里、芦沢裕子、芦沢和枝、渡井轟士

【スタッフ】
プロデューサー・熊澤海透、サブプロデューサー・植田朱里、撮影・山野目光政、編集・朝野未沙稀、録音・福田陽

【作品概要】
日本映画大学の卒業制作として制作された47分の短編ドキュメンタリー作品。監督を務めたのは、今作が劇場公開デビュー作となる青柳拓。

第8回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルのコンペティション部門で入賞作品。

2.映画『ひいくんのあるく町』のあらすじ


c水口屋フィルム、日本映画大学

どこにでもありそうな田舎町の風景がある市川大門町。

山梨県甲府盆地の南に位置するこの町に主人公の渡井秀彦は住んでいました。

いつも町内を歩き回る“彼”は、町の住人たちから愛されつつ、“ひいくん”の愛称で呼ばれています。

ひいくんはいつものように今日もヘルメットをかぶって町の見回りに出掛けます。

いく先々の量販店での品出しや農作業の補助など、言われなくとも自ら誰かの仕事を率先して手伝っています。

しかし、そんなひいくんが歩く町も最近では昔と様子は変わってきました。

コロッケ屋、そば屋、スーパーマーケットなどは閉店を余儀なくされ、シャッター通りになっています。

一方で町の電気屋を営んでいた水口屋の店主の青柳正輝は、病気で倒れてからは自分の店の経営することも、そして何より大好きな趣味の写真を撮影することが難しくなっていました。

また、病気の影響から記憶が不確かになってしまった正輝は、彼が楽しみにして残してきた写真にある、平凡ながらも町にあった風景の記録を見ることもありません。

残された写真には当たり前の暮らしが写されていて、写真を撮り続けることで住んでいる町の移り変わりの変遷が見られることを意図したものでした。

後々、正輝が妻とともに、住んでいる町の記憶を呼び起こす楽しみも、今の正輝には困難なものでしかないのです。

また、今日も町を見回るひいくんは、歩くことで人の記憶に残っていました。しかし、そんな緩やかな町も確実に時代とともに変化して行くことが、クロスオーバーしていくのです。

それでも、今年も夏祭りと名物の花火大会はやってきました。

ひいくんは神輿しを先導し、得意げに笛を吹き鳴らし今日も歩いて行くのです…。

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3.卒業制作で監督デビューをした青柳拓監督のメッセージは?


c水口屋フィルム、日本映画大学

今作『ひいくんのあるく町』は、日本映画大学の第3期卒業制作として制作された映画の1本です。

以下は青柳拓監督が卒業された大学サイトにあったコメントになります。

今回は卒業制作であることを尊重して、青柳拓監督のコメントに筆者の色付けはせずに原文のまま引用して、ご紹介いたします。

「地元に帰るといつも歩いてるあの人(ひい君)、見かけなくなっちゃったら、なんか寂しくなるね」
下北沢の居酒屋で同郷の友人と何気なく話をしていた。かくいう僕たちはひい君とはなんの関わりもなくて、話したことすらない、ただ同じ町民ってだけの部外者だ。
ひい君が町を歩くのは、人に会えるから・行きたい場所があるから・誰にも会えなかったとしても「会えるかもしれない」と思える場所があるから歩いているのだと思う。そんな彼を思い出してなぜ僕たちは「寂しい」と感じるのか、それは地元に対して抱く気持ちと似ていた。

地元を離れて、都会で暮らす若者の毎日は新しいことを相手にするのに忙しい。変わっていく地元に対しても、そもそも個人が考えたところで無力、無関係とさえ思っているのかもしれない。でも、大きなお祭りがあると帰郷して「この町も寂しくなっちゃたね」なんて言う。
時代の大きな流れは簡単には変えられない、だからしょうがない。そうかもしれない。
でもそれではひい君やこの町は本当になくなってしまうのではないか。それでいいのだろうか。「しょうがない」と思えるほど、僕たちは生きてきた場所のことを考えただろうか。
(しょうがないという気持ちも含めて)この映画で大勢の人にひい君の存在と町の現在を知らせたい。そしてこの現状を変えようと行動している人たちがいることを知ってほしい。(日本映画大学ホームページから引用)

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4.映画『ひいくんのあるく町』の感想と評価

2016年の秋頃に日本映画評論家の重鎮として知られる佐藤忠男と、ある映画祭でご一緒させていただした際に、若い才能のある監督としてあげた1本が、青柳拓監督の卒業制作『ひいくんのあるく町』でした。

みんなから愛される障がいのある青年の姿を追いながら、日本のひとつの地方都市を写した作品として良い映画なんですと紹介されたのが今作との出会いです。

それから第8回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルで上映されたのをきっかけで鑑賞しましたが、確かに映画評論家の佐藤忠男が述べていたように、卒業制作の枠をはみ出る作品でした。

この作品は障がい者についての問題定義のみを語った映画ではありません。

そのことは、青柳拓監督に会った際に直接質問した際も、即答で「町」を撮りたかったと語っていました。

この映画はドキュメンタリーでありながらも、どこか劇映画のような創作性に満ちた登場人物が多く登場します。

ひいくんこと渡井秀彦は、人の持つ魅力という愛情の溢れる人物で、彼の住む町をパトロール巡回しながら見守ることが彼の選んだ役割。

また、病気によって記憶も曖昧になった青柳正輝は、それ以前には地域の移り変わりを写真に収め続け、町を見続けてきました。また、青柳の妻も寄り添うようにと夫とともに見守ってきたのです。

ほかにも町の風景を水彩画で描き続け、町の生き証人のように見ている素人水彩画家も登場します。

地方の町に住みながら、町と個人という存在を確かめ合うように生きてきた人物たちの生きる記録の作品といえます。

そのことを叔父の青柳正輝に幼少の頃に抱かれていた青柳拓監督、また、ある時は、ひいくんに頭を撫でられた青柳拓監督が追体験として、大学の卒業制作を故郷のひと夏で町を見直そうと見い出した記録と記憶です

この映画は、卒業制作の枠を越えただけでなく、もう一点越えたものがあります。

それは“映像の過激さ”です。

昨今の映像はある種の過激な現場を収めた衝撃映像や、眩暈をさせるほどのCG技術の派手な映像ばかりといえます。

そのようなものには見い出すことができない情感豊か映像を、大学生たちが孤軍奮闘しながらも、あっさりと越えてしまった不思議な魅力のある作品です。

過激でない映像がなぜ強いのか、刺激的でない映像がなぜ心に届くのか。

そんなことについて、ひとつの答えを出したのが『ひいくんのあるく町」といえるでしょう。

青柳拓監督はプロの映画界の先輩たちからは青臭いと言われるかもしれませんが、お金のために映画を撮りたくはないと語ってくれたことも印象的な彼の人柄です。

そして、今なお、故郷である山梨の桑畑でノラ仕事に出て働いている故郷の町を愛する人でもあります。

そんな青柳拓監督の愛する町(作品)は、どこか、フェデリコ・フェリーニ監督の『アマルコルド』や、フランソワ・トリフォー監督の『トリフォーの思春期』、またはジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ニュー・シネマ・パラダイス』の匂いを見る者に感じさせてくれます。

しかし、それは若者が甘く抱いたノスタルジーという訳ではなく、地方の町の空洞化、離婚後の母子家庭、障がい者の生活、自宅介護などの人物描写も描かれ社会問題にも切り込みを入れています。

このようなことを、これまでは町という地域社会は、そこで住まう人とともに問題解決に向き合ってきたのかもしれません。

その町自体が機能不全をしかねない現状を、愛してやまない町をモチーフに青柳拓監督は観客にメッセージを語った作品なのでしょう。

さて、映画『アマルコルド』では、豪華客船を町の住人が小舟を出して見物に行きますが、『ひいくんのあるく町』では、普段では人影も見えない町のメイン通りに花火大会を見る見物人が集います。それはそれは見事なまでに美しいものです。

青柳拓監督は大学に通っていた際に、ドキュメンタリー映画とは被写体である人物と精神的な情交を混える関係だと教えられたそうです。

卒業制作に掛けたひと夏の撮影期間に、青柳拓監督とそのスタッフは、過疎化した町で今なお残っていた、いくつかの視点や視線に見守られたロケ現場だったのでしょう。

若きドキュメンタリーゼミの学生たちが瞳を見開いて見たのは何だったのか?

ぜひ、あなたの目でお確かめください。

青柳拓監督のお話によると、日本映画大学の卒業制作で初めて一般的な映画と同様に劇場公開される作品だそうです。

今年新人監督としてデビューした快挙はオススメの1本ですよ!

5.まとめ

映画『ひいくんのあるく町』は2017年2月に行われた、第8回座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバルのコンペティション部門で入賞を果たして上映された作品です。

ドキュメンタリーの魅力と新たな可能性を発見する目的にマッチした映画といえるでしょう。

大学の卒業制作でありながらも、新しい才能を発掘された青柳拓監督。

そして、今作が評価されたことは、プロデューサー熊澤海透の才能でもあり、サブプロデューサーの植田朱里の活躍もあったのでしょう。

どこにでもある日本の故郷を映像に収めたカメラマン山野目光政、映画の影の語り部ともいえる編集の朝野未沙稀、町に住む人たちの声や町の呼吸する音を集めた録音の福田陽たち、若き才能にも大いにエールを贈りたいですね。

映画『ひいくんのあるく町』は9月2日(土)より、東京にあるポレポレ東中野にて公開。

その後、順次全国公開される予定。ぜひ、お見逃しなく!

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