ノー天気ガール2人が連続トラブルに巻き込まれる!?
2022年12月16日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開を迎えた『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』。
『ムーンライト』(2016)、『ミッドサマー』(2021)などの話題作を次々発表する「A24」が製作を手がけた作品です。
『ティーン・ビーチ・ムービー』のマイア・ミッチェルがアンジェラを演じ、『デス・ウィッシュ』のカミラ・モローネがジェシーを演じています。
俳優オーガスティン・フリッゼルが自身の実体験を基にシナリオを執筆し、初の長編映画に挑んだ作品でもある本作。リゾート旅行を計画する少女2人組が巻き込まれるトラブルの連鎖を描いたコメディを、ネタバレ有りでレビューします。
CONTENTS
映画『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Never Goin’ Back
【監督・脚本・編集】
オーガスティン・フリッゼル
【製作】
トビー・ハルブルックス、ジェームズ・M・ジョンストン、リズ・カーデナス
【製作総指揮】
イザイア・スモールマン、デヴィッド・ロウリー
【共同編集】
コートニー・ウェア
【キャスト】
マイア・ミッチェル、カミラ・モローネ、カイル・ムーニー、ジョエル・アレン、ケンダル・スミス、マシュー・ホルコム、アティーナ・フリッツェル、リズ・カーデナス
【作品概要】
Netflixで配信中の『愛しい人から最後の手紙』(2021)のオーガスティン・フリッゼル監督が、2018年に手がけた長編映画デビュー作。2018年のサウス・バイ・サウスウエスト映画祭で、ゲームチェンジャー賞にノミネートされました。
フリッゼルの自伝的要素を含んでおり、自ら脚本も執筆。仲良し少女2人組が、憧れのビーチリゾートでのバカンスを目指して奮闘する姿をコミカルに描きます。
『ムーンライト』、『ミッドサマー』のA24が製作し、フリッゼルの夫で『A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー』(2018)、『さらば愛しきアウトロー』(2019)の監督デヴィッド・ロウリーが製作総指揮を担当。
主演は、『ホット・サマー・ナイツ』(2018)のマイア・ミッチェルと『デス・ウィッシュ』(2018)のカミラ・モローネ。
映画『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』のあらすじとネタバレ
テキサス州ガーランドに暮らす、アンジェラとジェシーは、いつも一緒の仲良し2人組。
高校を中退した2人は、ジェシーの兄ダスティンとその友人ブランドンの4人で共同生活しており、ダイナーでバイトするも、毎月の家賃を払うのがやっとの状態でした。
そんな中アンジェラは、ジェシーの17歳の誕生日プレゼントとして、テキサスのガルベストンにあるビーチリゾートのバカンスを密かに計画し、家賃に充てるお金を旅費に使ってしまいます。家賃の支払いを1週間後に控えていたジェシーは戸惑うも、バイトのシフトをたくさん入れて補うことに。
一方、ダスティンは悪友トニーらとつるんで麻薬取引ビジネスを企て、大金を得ようと計画。ところが翌朝、そのトニーがいきなり部屋に押し入って、家財道具を奪い去ってしまいます。
駆け付けた警官の家宅捜査により、マリファナを吸っていたことがバレたアンジェラとジェシーは、留置場行きとなります。
48時間後、ダスティンが身元引受人となって出所した2人。迎えに来たダスティンの傍にはトニーがおり、家を襲ったのは誤解からだったと軽いノリで謝罪します。
留置場のトイレが汚いとして、用が足せずに3日も便秘になっていたジェシーは家のトイレに直行。ところがジェシーが稼いでいた家賃分のお金を、ダスティンが麻薬取引に使い込んで失敗していたため、水道も止められていました。
ジェシーの便通を良くしようとバイトに行く途中で寄ったスーパーでプレーンを試食し、ドリンククーラーで涼んでいた2人は、店内で振る舞いを注意してきた中年男と言い争いに。
男を罵倒してスーパーを出た2人はドラッグ仲間のポールと出会い、バイトの制服を洗濯させてもらおうとそのままドラッグパーティーへと向かいます。ところがそこでマリファナ入りクッキーを誤って食べてしまいます。
ハイ状態でフラフラになりながらダイナーに着いた2人でしたが、当然ながら仕事にならず、店長からついにクビを宣告されるのでした。
映画『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』の感想と評価
ティーンエイジャーの暗黒時代を自ら映画化
本作『Never Goin’ Back/ネバー・ゴーイン・バック』は、監督と脚本を務めたオーガスティン・フリッゼルの長編映画デビュー作です。
テキサス州ダラスで育ったフリッゼルは、15歳で両親に捨てられ、毎月の家賃を稼ぐのもままならない極貧生活を友人と一緒に送ってきたそう。やがて成人し女優となった彼女は、夫である映画監督のデヴィッド・ロウリーの影響で映画制作に着手するように。
短編映画制作を何本か経て、暗黒の10代をコメディに転換しようと本作を企画。主人公のアンジェラとジェシーに降りかかる出来事の大半は、自身の実体験がベースになっています。
ちなみに本作で注目を浴びたフリッゼルは、長編第2作の『愛しい人から最後の手紙』では打って変わって、1通の手紙を通した現代と過去の恋愛を描くロマンスを発表しています。
ダメ人間でも楽しく生きていく
高校を中退したアンジェラとジェシーは、ダイナーでバイトする日々を送っています。これといった夢も目的もなかった2人は、ジェシーの誕生日にリゾート地でのバカンスを計画。そのため、旅費に充ててしまった家賃代を稼ごうとします。
『スタンド・バイ・ミー』(1986)のように、「何かしらの目的を果たそうとするティーンエイジャーたちが、“トラブル=社会の現実”と向き合うことで大人に成長していく」というのが、ティーンムービーの醍醐味。
本作もその系譜にありますが、ちょっと違うのは、アンジェラとジェシーが終始ダメ人間で一向に成長しないという点です。
違法行為もなんのそのだし、交わす会話も下品。行く先々でトラブルに見舞われるも悲観することなく、「とにかく2人で楽しく生きていければいい」と、その場の成り行きとテンションで乗り越えていきます。
観ているこちらが頭を抱えたくなるほど、登場人物の大半がダメ人間だらけな本作で、唯一真っ当な人間といえるのがダイナーの店長。彼は人生の先輩として2人に忠告します。
「君たちはメチャクチャだが、底抜けに明るいのが救いだ。ただ一つだけ言っておくが私のようにはなるな。人生を楽しめ」……しかし、マリファナ入りクッキーを食べてハイ状態になった2人の耳には届きません。
「2人がトラブルから学び成長する」という描写を意図的に外したというフリッゼル監督ですが、劇中で登場する彼女たちにモラルを問う男が実は……という件からも、「良識派ぶる人間ほど裏で何やってるか分かったもんじゃない」ともいうべき監督のカウンターパンチな視点を感じます。
少女たちが明らかに友情以上の感情で結びついているあたりも、ダイバーシティ(多様化)が叫ばれる現代を反映。監督も影響を受けたと公言する『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)がティーンエイジャーのブロマンス・ムービーなら、本作はその女性版となるロマンシス(「ロマンス」と「シスターフッド」の造語)・ムービーといったところでしょうか。
参考映像:『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007)
まとめ
『スタンド・バイ・ミー』『スーパーバッド 童貞ウォーズ』にもあったティーンムービーに欠かせないゲロ描写を抑えているあたりも、流石といえましょう。
体からいろんなものを排出する少女たちですが、涙だけは出さない。この先の将来は分からないけど、今は2人で楽しく生きていく……。
教訓めいたメッセージもありませんし、ラストの顛末は賛否分かれるでしょうが、とにかくポジティブな気分になれるティーンムービーです。