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Entry 2020/12/30
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『天国にちがいない』あらすじと感想評価レビュー。カンヌ映画祭二冠のエリアスレイマン監督のパレスチナへの思い

  • Writer :
  • 松平光冬

世界の混迷と人間の愛おしさをユーモアに描くエリア・スレイマン監督最新作

『D.I.』(2002)で、カンヌ国際映画祭で審査員賞および国際批評家連盟賞受賞を受賞した名匠エリア・スレイマン

「現代のチャップリンorジャック・タチ」と評されるスレイマン監督の新作となる『天国にちがいない』が、2021年01月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次ロードショーされます。

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映画『天国にちがいない』の作品情報


(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

【日本公開】
2021年(フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ合作映画)

【原題】
It Must Be Heaven

【監督・共同製作・脚本】
エリア・スレイマン

【製作】
エドアール・ウェイル、タナシス・カラタノス、マーティン・ハンペル

【撮影】
ソフィアン・エル・ファニ

【編集】
ベロニク・ランジュ

【キャスト】
エリア・スレイマン、タリク・コプティ、アリ・スリマン、ガエル・ガルシア・ベルナル

【作品概要】
『D.I.』、『時の彼方へ』(2009)のエリア・スレイマンが10年ぶりに手がけた長編映画。

過去作同様にスレイマン自身が出演を兼任し、故郷イスラエルのナザレからパリ、ニューヨークでロケを敢行。新作映画の企画を売り込もうとする映画監督が見つめる世界の混沌をユーモラスに描きます。

2019年の第72回カンヌ国際映画祭で特別賞と国際映画批評家連盟賞をダブル受賞し、第92回アカデミー賞国際長編映画賞ではパレスチナ代表に選出されました。

映画『天国にちがいない』のあらすじ


(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

映画監督のESは、新作の企画を売り込むために、故郷イスラエルのナザレから、パリ、ニューヨークへと旅に出ることに。

パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みを堪能すれば、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれるES。

ですが、肝心の映画企画を売り込もうとするも、「パレスチナ色が弱い」と断られてしまいます。

行く先々で、ナザレとは全く違う世界を目の当たりにしていたはずのESですが、思いがけず故郷との類似点を発見していき…。

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映画『天国にちがいない』の感想と評価


(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

現代のチャップリンが母国の社会情勢をアイロニーに描く

本作『天国にちがいない』は、『消えゆくものたちの年代記』(1996)、『D.I.』などを手がけてきたエリア・スレイマン監督の、長編4本目にして10年ぶりの新作となります。

キリストの故郷であるパレスチナ、ナザレに生まれるも、1948年のユダヤ人によるイスラエル建国宣言によって、強制的にイスラエル人となったスレイマン。

そうした複雑な経歴を持つ彼は、故郷パレスチナと統治国イスラエルの関係をテーマにした作品を発表。

『D.I.』ではイスラエル側とパレスチナ側に分かれて暮らすカップル(男性役をスレイマン本人が演じる)が、唯一会うことができる検問所の駐車場で繰り広げる騒動を描き、『時の彼方へ』(2009)では、イスラエルで生きるパレスチナ人家族を半自伝的に綴りました。

また、デビュー作の『消えゆくものたちの年代記』からセリフを多用しない演出をするのも特徴で、特に『D.I.』に至っては、かつてのサイレント映画のように、登場人物は一言も口を開きません。

パレスチナ問題や中東紛争を、言語に頼ることなくアイロニー(皮肉)を含んだユーモアで包む作風から、スレイマンが「現代のチャップリン、ジャック・タチ」と評されるのも納得できるかと思います。

“世界の縮図”パレスチナ

(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

スレイマン扮するナザレ在住の映画監督が、新作の企画を売り込もうとパリやニューヨークへと旅をする――過去作ではイスラエル、パレスチナから出ることのなかった舞台が、本作で初めて海外に渡ります。

しかし舞台は変われど、映し出されるのは、スレイマンならではなシーンの数々。

自宅の庭に勝手に入りレモンの収穫や剪定をする隣人に、レストランでは妹が頼んだ料理にクレームをつける妙な髭面の2人の男。

パリでは、トランクケースを持った日本人カップルから別人と間違われ、乗った地下鉄ではタトゥーを施した男に意味もなく凄まれる。

そしてニューヨークでも、パレスチナ人だと知った(本作で唯一スレイマンがセリフを発するシーン)タクシー運転手が、「イエス様の故郷だ!」と大喜びして運賃をタダにしてくれれば、セントラルパークでは天使のコスプレ姿の女性を捕まえようと悪戦苦闘する警官たちが…。

まるで『モンティ・パイソン』のようなシュールなコントが次々と繰り広げられますが、実はそれらすべてはスレイマンが実際に体験した事なのだとか。

一見、何の脈絡もないエピソードの羅列に思える監督の旅ですが、実はこれもまた過去作同様、スレイマンの“母国”イスラエルを描いています。

規則正しく動く者もいれば、腹の内が見えぬ者もいる。穏やかな街並みかと思えば、突如として無数の戦車が市街をパレードする。

パレスチナは複雑な事情を抱えた、抑圧と喧騒にまみれた国というイメージがあるが、いまや世界全体がそうなっているではないか――

本作は、強制的に母国を変えられてしまったスレイマンからの、パレスチナに無関心な人たちへのメッセージなのです。

まとめ


(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

タイトルの『天国にちがいない』には、「パレスチナ化」してしまったこの世には、天国と呼べる地はないというアイロニーが込められていると、スレイマンは語ります。

世界の混沌と人間の可笑しさを内包した新たなコメディ映画が誕生しました。

映画『天国にちがいない』は、2021年01月29日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで全国順次ロードショー

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