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Entry 2021/09/12
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映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』ネタバレ結末感想とあらすじ考察。青いアイリスの花言葉とヴェレーナが“飲んだもの”|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー53

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第53回

深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。

そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第53回は、『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』(2017)のご紹介です。

舞台は1950年代のイタリア、トスカーナ地方にある、古城ロチョーザ城です。この屋敷に暮らす少年ジェイコブは母の死後、心を閉ざし言葉を発せなくなり、彼の看護師として住み込みでェレーナが雇われます。

やがて彼女は、屋敷の壁から不気味な”囁き声”が、聞こえるようになります。ヴェレーナはしだいに怪しい妄想にとり憑かれ、妖艶な女性へと変貌していきます。

そして、ジェイコブがはじめて言葉を発した時、“囁き声”の真実が明かされます。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』の作品情報

(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

【公開】
2017年(アメリカ映画、イタリア映画)

【原題】
Voice from the Stone

【監督】
エリック・デニス・ハウエル

【原作】
シルヴィオ・ラフォ

【脚本】
アンドリュー・ショウ

【キャスト】
エミリア・クラーク、マートン・ソーカス、カテリーナ・ムリーノ、レモ・ジローネ、リザ・ガストーニ、エドワード・ジョージ・ドリング

【作品概要】
心を閉ざした少年との交流に挑む看護師を演じるのは、“世界でいちばん美しい顔”に選ばれたこともあり、『ラスト・クリスマス』(2019)、『エージェント・スミス』(2020)など、ラブロマンスからアクションまで、幅広く活躍中のエミリア・クラーク。

少年の父親役はオセアニア圏の映画やドラマで活躍し、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズにも出演したマートン・ソーカスが務めます。

本作はシルヴィオ・ラフォの小説「La Voce Della Pietra」の映画化で、ロケ地であるイタリアのトスカーナ、ラッツォの歴史的な建物や風景が、幻想的な効果を映像に与えており、美しいゴシック調のサスペンスホラーに仕上がりました。

映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』のあらすじとネタバレ

(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

死の床に臥す母は息子のジェイコブを枕元に呼ぶと、彼に予言のような遺言を言います。自分の死後、新しい女性が現れること、彼女の愛情が感じられるはずだと・・・そうしたら、「あなたの言葉で、私をあなたの元へ戻してね」こう言うと、母は亡くなります。

ヴェレーナは天涯孤独の身の上で、病を抱えた子供専門の看護師です。看ていた子供が回復すると、次の子供の元へ雇われて行く、“別れ”が付きものの人生でした。

この日もヴェレーナは全快した少女の元を去り、ロチョーザ城で暮らす、言葉を失った少年の元に旅立ちました。

しかし、屋敷の使用人は怪訝そうな顔をします。城には言葉を失った少年ジェイコブと、彼の父クラウス、使用人のアレッシオが暮らしていました。

ヴェレーナは書斎に通されますが、クラウスは「募集しているのは“英語を話せる”看護師」だと言います。

ヴェレーナは母国はイギリスだと言い、以前の雇い主が書いた推薦状の束を渡して見せます。クラウスはそれを見ながら、“住み込み”が希望なのか訊ねます。

ヴェレーナは家族を知ることが、子供を理解する近道だと、自分の看護方針を伝えました。彼女は十分な教養は受けてきませんでしたが、実務で技能を磨いてきた看護師です。

ヴェレーナはジェイコブとのコミュニケーションは、“英語”がいいのか訊ねるとクラウスは、妻が息子に英語の取得を希望していたと伝えます。

そして、母親が病で亡くなってから話さなくなり、7カ月と16日間経ったと話します。部屋を案内させると席を立ったクラウスに、自信満々のヴェレーナはまず、ジェイコブに会いたいと願います。

別室で机に向かうジェイコブは、何にも興味を示さず、感情も失っていました。ヴェレーナが親し気に声をかけても、“無駄”だと父親は冷たく言います。

7カ月間、何人もの看護師が雇われ、最初は誰もが自信に満ちていたが、どんな手段を使ってもジェイコブは笑うことも、泣くこともすらしないとクラウスは言い、ヴェレーナにも期待をしていませんでした。

その晩、食事をとりながらもヴェレーナは、ジェイコブに話しかけます。彼は頑なに目も合わせず、答えることもなく中座してしまいます。

クラウスは話しかけることに、なんの意味があるのか聞きますが、ヴェレーナは答えなくても理解はしてると言います。

ジェイコブは父親の言う事には従順ですが、反抗するには話さなくてはならないから、黙ってしたがっているのだと説明し、ヴェレーナのことも態度で拒絶すると忠告します。

自室に戻ったジェイコブは壁に耳をあて、何かを聞こうと耳をすませています。

翌朝、ヴェレーナはジェイコブに自分の思った見解を話します。ジェイコブは話せないのではなく、“話さない”だけで頑なに貫いていると言います。

その一瞬も気の抜けない行動は、並大抵のことではないと関心します。そして、彼女はジェイコブよりも幼い頃に、両親を亡くしているから、その孤独感は理解できると話します。

ヴェレーナは窓から射す陽の光をみて、外で朝食をするためバケットサンドを作りますが、ジェイコブの姿が城のどこにも見当たらなくなりました。

アレッシオに聞いても“もう見失った”と、協力的ではありません。彼女は城中を探し回ります。広間のピアノに皿を置き奥の部屋まで探します。

母親の主寝室そして、狩りで射止めた獲物の剥製がある部屋、その先は鍵で閉ざされた扉があります。ヴェレーナはその部屋には入らず、戻ろうとした時、もう1つの扉に気がつき入ってみます。

そこにはリリアと名乗る、老女が暖炉の前で椅子に腰かけていました。リリアはヴェレーナが新しい看護師だとわかり、彼女を歓迎すると言います。

広間に戻るとバケットサンドはなくなっていました。そこにクラウスがやってきて、ジェイコブについて見解を聞きます。

彼女はジェイコブの苦しみを理解しなければならないと言います。そして広間に飾られた大きな額の女性の写真を指して、ジェイコブの母親か訊ね名前を聞きます。

クラウスは妻の名はマルヴィーナで、世界的に有名なピアニストだったと話します。そして、写真は亡くなる半年前に撮ったものだと教えます。

マルヴィーナは演奏会から戻るとすぐ発熱し、しだいに高熱になり体力も美貌も奪われていきました。クラウスは治療法を探しに奔走し、リリアとジェイコブが片時も離れず看病しました。

ジェイコブはピアノの才能を母親から受け継いでいると言います。ジェイコブは強い意思で話すことを“拒絶”し、感情を抑えることで起きてしまったことを戻し、母親を甦らせたいと考えているのではと見解を示します。

以下、『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』ネタバレ・結末の記載がございます。『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

ヴェレーナはアレッシオと狩りに出かけたジェイコブを森の道でみつけます。その手には射止めた兎がありました。

夕食時、調理された兎の頭部がヴェレーナにだされます。ジェイコブは彼女の反応を見ますが、それにナイフを入れて食べます。

ヴェレーナは過去に仕えてきた、屋敷のことを面白おかしく話します。ジェイコブは無表情のまま無視しますが、クラウスはヴェレーナに対して心を打ち解け始めます。

クラウスは屋敷について、マルヴィーナの一族が1200年間代々暮していて、自分は客人のようなものだと話します。

そして、アレッシオも代々屋敷に仕え、女性は家の中を切り盛りし、男性は採石場で働いて富を築いてきたと説明します。

ところが採石場は水没してしまい、石を切り出す仕事はなくなります。幸いマルヴィーナには、ピアニストとしての仕事がありました。

クラウスはジェイコブが採石場跡の湖で泳ぐことを教えます。ジェイコブは嫌な顔をしますが、ヴェレーナは翌日、彼についていきました。

アレッシオは岸で火を灯したランプを立てた柱に掛けると、ヴェレーナは何の意味が聞き、彼は採石場で命を落とした、労働者達を忘れないための弔いの灯だと語ります。

ヴェレーナはマルヴィーナが使っていたドレッサーで、髪の毛をとこうとしていると、リリアが自分にやらせてほしいと現れます。

リリアはヴェレーナの髪をとかしながら、マルヴィーナが生きている時には毎晩、ブラッシングしていたと話します。彼女はマルヴィーナの乳母でした。

マルヴィーナは14歳の時から演奏会にでかけ、リリアはどこに行くにも一緒だったと語り、彼女のことは他の誰よりもよく知り、愛していたと言います。

ヴェレーナは髪をとかれながら、リリアの話しに眠気を誘われ、部屋に戻り洗面所へ行くと、鏡に血の残る兎の毛皮が掛けられ、驚いた彼女はジェイコブの仕業かと部屋に行きます。

ところが彼は毛布にくるまりうずくまって、部屋の壁にもたれていました。ヴェレーナがその毛布をはぎとると、ジェイコブは泣きながら、朽ちた壁に耳をあてています。

ヴェレーナがジェイコブに触れようとした時、彼はそれを拒絶し部屋を飛び出します。パニック状態のジェイコブをクラウスが捕り抑えます。

翌朝、クラウスは耳をあてているのは壁だけでなく、庭や採石場でも同じことをしていると話します。母親の声が聴こえるらしいと伝えます。ヴェレーナは先に知らせてほしかったと困惑します。

そして、ジェイコブの症状は深刻で、聞こえているのは幻聴だと判断し、専門医の診断をうけるよう勧め、自分の範ちゅうではないと訴えます。クラウスは今までの看護師と同じだと言うと、辞めるかどうかの判断を彼女に委ねました。

ヴェレーナは城の外に出て考え迷い、ふと城の塔の上を見上げると、縁の上に立つジェイコブの姿がありました。

それを見たヴェレーナは驚き塔の上まで駆け上がりますが、そこにジェイコブの姿はなく、恐る恐る淵に上がり下をのぞき込みますが、落下した形跡はなく、背後に誰かの気配を感じ、振り向くとそこにはジェイコブが佇んでいました。

ヴェレーナは淵から降りると、ジェイコブの頬を撫でながら、彼から離れるわけにはいかないと告げます。

そして、ジェイコブが聞こえている声は真実だが、それは自分の心の声で、現実と空想の違いだと諭と、自分は敵ではなく心配なだけだと言うと、ジェイコブはおもむろに立ち上がり、歩き出すと敷地内にある小さな建物に入ります。

そばにいたアレッシオにこの場所が何なのか訊ねると、一族の墓地だと教えてくれます。そして、中に入ってみるよう促し、マルヴィーナの墓まで案内します。

ジェイコブは母の墓碑に耳をくっつけ、声を聞こうとします。ヴェレーナが戻るよう声をかけると、アレッシオは「話しをしなければ聞こえる」と言いますが、彼女は聞こえないと否定します。

彼女はベッドに入ったジェイコブに、一緒に聞いてみようと壁に耳をあてます。壁の奥からは排水の音や外の風の音、風で揺れる滑車の音など、いろいろ聞こえてくると言います。

ジェイコブは何かを期待するように、ヴェレーナの顔をみつめますが、彼女はその音が様々な想像力を広げてくれるが、その中には母の声はないと諭します。

ある朝、中庭にいたクラウスがヴェレーナに声をかけ、城壁に猫の姿が彫られた部分を指して、城を守る魔除けとして猫が葬られていると教えます。

自分のやり方に迷うヴェレーナは、リリアに胸の内をあかします。髪の毛をときながらリリアは、ジェイコブは一族の未来であり、彼の心配だけしてくれればいいと言います。

リリアは「その時が来れば、あの子は必ず口を開く」と、その時を待つよう言いますが、ヴェレーナはもう十分に待ったと、諦めかけています。

リリアがジェイコブが話すようになったら、どうするのか訊ねるとヴェレーナは次の場所へいくと話しすと、リリアは彼女が天涯孤独であることを悟ります。

ヴェレーナは墓地の壁に耳をあてている夢を見ます。アレッシオに導かれるようにマルヴィーナの墓碑へ向うと、クラウスの話していた“猫の生贄”の話しが蘇りました。

朝目が覚め窓の外に目をやると、クラウスがアトリエの前で、ジェイコブと水入らずの姿があります。アトリエに来たヴェレーナは、クラウスの作品の数々を見ます。

中にはマルヴィーナをモデルにした彫刻作品があり、クラウスは飽きっぽい彼女を最悪であり、最高のモデルだったと思いを馳せます。

何カ月も手つかずの作品も布で覆われあります。仕上げることのできなかった、妻の彫刻でした。ヴェレーナは制作を再開すれば、ジェイコブにも変化が現れるかもと提案をします。

ヴェレーナとジェイコブは採石場に行き、ジェイコブは湖の中の岩に耳をあて、ヴェレーナはその頂点の岩場に耳をあててみます。そこからは鼓動のような音を感じました。

帰り道、ジェイコブは脇道に入って行きます。ヴェレーナが追いかけるとそこには、彼の秘密基地がありました。ジェイコブは木の上の枝に座り、ヴェレーナを見下ろします。

ヴェレーナは縄はしごで登り、飛び出た枝でスカートをひっかけ破きながら、彼女はジェイコブの隣りに座ると、そこには“マルヴィーナ”と名前が刻まれていました。

(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

ヴェレーナがリリアの部屋を訪ねると彼女はいません。ヴェレーナはふと、鍵のかかった部屋が気になり、再び行ってみると今度は扉が開いています。

殺風景な部屋にはベッドが置かれ、看病のための用具やタオルなどがあり、リリアもその部屋にいました。マルヴィーナが最期を迎えた部屋だと教えます。

リリアが破れたスカートに気がつき指摘すると、針と糸を借りに来たと言います。するとリリアは名案があると、マルヴィーナの部屋のクローゼットの前にいきました。

リリアは中から服を出し、ヴェレーナに着てみるよう促すと一旦は断りますが、促されるがままに着てみることにします。すると服はあつらえたように、ヴェレーナにぴったりでした。

しかし、そこにクラウスが通りかかり、すぐに着替えるよう言われ、ヴェレーナは従おうとしますが、クラウスは彼女の容姿をみて考えを変え、着たままでいいと許可します。

ヴェレーナは美しい服に身を包んだ自分に見惚れ、ジェイコブは塔の上で何かを思い、アレッシオとリリアは礼拝堂で祈ります。そして、クラウスは放置していた、彫刻に向き合おうとしていました。

夕食後、書斎にいるクラウスはヴェレーナを呼びだし、ヴェレーナが妻に似ていることに気がつき、頼みたいことができたと言います。ヴェレーナはモデルのことだと察しますが、断っても仕事には影響しないといわれ、悩みつつ頼みに応じようと決めます。

裸になったヴェレーナはモデルとして自分に陶酔し、クラウスのノミで石を彫る芸術家の姿に、惹かれしだいに彼に抱かれる妄想に浸り始めます。

寝室に戻って眠っても、ヴェレーナは夢の中で悶えます。ふと誰かが、“連れてきて”とささやく声で目が覚め、マルヴィーナが病に伏した部屋に導かれます。部屋の片隅で壁に耳をあてているジェイコブがいました。

彼はヴェレーナに気がつくと立ち上がり、壁に耳をあててみるよう促します。するとそこから「ジェイコブ・・・私はここにいるわ」とささやく、女性の声が聞こえてきました。

驚くヴェレーナはジェイコブの顔をみつめます。彼の訴えたかったことが、本当だと知ったヴェレーナはジェイコブを「私が守ってあげる。約束するわ」と抱擁しました。

マルヴィーナの写真の前で、ジェイコブとクラウスの世話を任せてほしいと願います。それ以来、クラウスは創作に意欲が戻り、ヴェレーナとジェイコブの仲も縮まりました。その様子を見ていたアレッシオも、彼女に信頼が芽生えはじめます。

しかし、クラウスは彫刻の仕上がりが近づくにつれ、その顔がマルヴィーナなのか、ヴェレーナなのか苦悩し始めます。

苦悩を払拭するかのように、クラウスはジェイコブの状況について進捗を訊ねます。ヴェレーナはすでにジェイコブの母親の気分になり、クラウスの世話もマルヴィーナが望んでいると、声が聞こえたことを話します。

クラウスはそれを聞いたとたん我に返り、ジェイコブを回復させられないばかりか、ヴェレーナ自身が病んでいると失望し、彼女を拒絶しはじめてしまいます。

動揺したヴェレーナは追い出されてしまうことを恐れ、壁に向かってマルヴィーナにどうしたらよいか、聞きますが壁は何も答えてくれません。

焦るヴェレーナはジェイコブを連れ出し、マルヴィーナの墓前に行くと、一緒に彼女を解放してあげようと言いますが、ジェイコブは拒否してその場を逃げ出します。

湖に入ろうとするジェイコブをヴェレーナは引き戻し、常軌を異した表情で「あなたが話してくれないと、私は追い出されてしまう」と苛立ち、彼の頬を叩いてしまいました。

我に返ったヴェレーナは、取り返しのつかないことをしてしまったと、うなだれそのまま湖岸で一夜を明かし、発熱してしまいました。

彼女はフラフラになりながらも城に戻ると、荷物をまとめ城をでようとします。クラウスがジェイコブをはじめ全員が、マルヴィーナの呪縛に囚われすぎていたと引き止めます。

それでもヴェレーナは、マルヴィーナと同じ病気にされたと怯え、リリアはどこにいるのか訊ねます。しかし、クラウスはリリアはマルヴィーナの後を追って、採石場の湖に身を投げて亡くなったと言います。

その話しを聞いたヴェレーナは降りしきる雨の中、逃げるように出て行きますが、途中で倒れアレッシオに城まで運ばれていきます。

ヴェレーナはマルヴィーナが最後を迎えた部屋に寝かされ、アレッシオが調合した薬を飲まされます。クラウスは医者を呼びに行き、ベッドの傍らにはジェイコブが歩み寄ります。マルヴィーナが死の淵にいた状況そのものでした。

高熱で意識がもうろうとなる中、窓辺にはリリアが「その時が来れば、あの子は口を開く」とつぶやきます。

ヴェレーナは生きたまま葬られ、隣りにマルヴィーナも横たわっている夢を見ます。マルヴィーナはヴェレーナの顔、身体に手をかざすとそのまま目を閉じ消えました。

霧がたちこめる朝、日が昇り霧が晴れるころ、ヴェレーナは目を覚まします。彼女の傍らにはクラウスがいて、気分はどうか語りかけます。

ヴェレーナはジェイコブを気にかけると、クラウスはジェイコブのいる庭に連れていきました。ジェイコブはヴェレーナを見ると歩み寄り、自分から彼女を抱擁し「ママが恋しい」と言葉を発しました。

ヴェレーナは過去の自分を捨て、クラウスの妻そしてジェイコブの母になります。ピアノの前に座るその姿はまるで、マルヴィーナのように優雅でジェイコブを隣りに座るよう促します。

そして、マルヴィーナが生前していたように、ジェイコブと連弾をしようとしたヴェレーナの指には、マルヴィーナが愛用していた指輪が輝いています・・・。

映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』の感想と評価


(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

美しき城主、マルヴィーナが不慮の病で亡くなり、残された夫と“話さない”息子はその残影に苦悩していました。

マルヴィーナの心残りはジェイコブの存在です。死の淵にいたマルヴィーナは彼に復活を誓いますが、それはジェイコブの認めた女性に「ママが恋しい」とささやくことが合図でした。

思えば彼にふさわしい継母選びをしていたのが、リリアだったのでしょう。看護師達の素性やマルヴィーナの服に合うかをさぐり、その面影により近い人物が現れるのを待っていたのです。

そして、何よりもジェイコブのことをどのくらい愛し、“守ろうという意志”があるのかが鍵でした。

一見、ヴェレーナがジェイコブに真の愛情を示し、継母となったラストを迎えますが、ピアノを弾いたことのないヴェレーナが、ジェイコブと連弾しようとしたシーンで、実はマルヴィーナが憑依したとわかります。

ヴェレーナの顔を見て「この女性は誰?」と思っているのは、すでに彼女の体を乗っ取ったマルヴィーナの声でした。

「青いアイリス」の花言葉から読み取る


(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

劇中に出てきたマルヴィーナの好きな青い花は“アイリス”だと推察します。青いアイリスの花言葉は「強い希望」「知識と賢さ」です。

マルヴィーナの生きてきた人生、凛とした人柄を象徴しているともとれますが、自分亡き後、ジェイコブのそばに戻るという、「強い希望」や「意志」を意味しています。

また、アイリス全般の花言葉に「信頼」という意味もあります。アレッシオがヴェレーナの部屋に青いアイリスの花を活けたのは、彼女に「信頼」の証や「希望」を示したと捉えることもできました。

マルヴィーナの看病をしたのはリリアでしたが、彼女は救うことができずに絶望しました。それゆえにリリアのヴェレーナへの“希望”も大きかったはずです。

ヴェレーナが飲んだものはナニ?


(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

「青いアイリス」の花言葉に「知識と賢さ」がありますが、アレッシオがその象徴です。

劇中、養蜂をしているアレッシオが登場しますが、彼は蜂が分泌するプロポリスなのどの知識もあったと考えられます。

プロポリスは紀元前から抗菌作用がある物質として、薬としても用いられていました。例えばエジプトのミイラ造りの過程で、防腐剤としても使用されています。

プロポリスが古代ローマで「天然の抗生物質」として用いられていたと、アレッシオが知っていたら、それを希釈しヴェレーナに飲ませたのでしょう。

代々、城に従事してきたアレッシオは、ジェイコブを次の城主として、自分の知恵と知識をジェイコブに伝授していました。

また、彼が心身共に健やかに育つことも強く願ったはずです。そのためにはヴェレーナの病を治す使命も感じたでしょう。

ですから、マルヴィーナの看病では出る幕のなかったアレッシオは、知っている限りの知識と知恵で、ヴェレーナを助けようと試みたのでしょう。

まとめ


(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved

『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』は愛する息子を残し死んだ母の想い、長年仕えてきた使用人などの一族への愛情が思惑となり、孤独な人生を生きた女性を、“城の守護者”として迎え入れた物語でした。

おどろおどろしいシーンはありませんが、強い信念は石をも貫き、愛する者の元へと帰るという・・・ある意味、人の念の怖ろしさを見た気持ちになります。

過去の記憶や人格を失い、マルヴィーナの入れ物となったヴェレーナですが、孤独な人生から脱却できたことは、彼女にとっては幸せな等価交換でした。

本作はジャンルがホラーでありながら、強引な展開でハッピーエンドにつなげるわけではなく、登場人物たちの思惑が全て解消され、丸く収まるラストは、斬新かつ後味の美しい作品といえるでしょう。

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