連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第53回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第53回は、『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』(2017)のご紹介です。
舞台は1950年代のイタリア、トスカーナ地方にある、古城ロチョーザ城です。この屋敷に暮らす少年ジェイコブは母の死後、心を閉ざし言葉を発せなくなり、彼の看護師として住み込みでェレーナが雇われます。
やがて彼女は、屋敷の壁から不気味な”囁き声”が、聞こえるようになります。ヴェレーナはしだいに怪しい妄想にとり憑かれ、妖艶な女性へと変貌していきます。
そして、ジェイコブがはじめて言葉を発した時、“囁き声”の真実が明かされます。
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CONTENTS
映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』の作品情報
(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved
【公開】
2017年(アメリカ映画、イタリア映画)
【原題】
Voice from the Stone
【監督】
エリック・デニス・ハウエル
【原作】
シルヴィオ・ラフォ
【脚本】
アンドリュー・ショウ
【キャスト】
エミリア・クラーク、マートン・ソーカス、カテリーナ・ムリーノ、レモ・ジローネ、リザ・ガストーニ、エドワード・ジョージ・ドリング
【作品概要】
心を閉ざした少年との交流に挑む看護師を演じるのは、“世界でいちばん美しい顔”に選ばれたこともあり、『ラスト・クリスマス』(2019)、『エージェント・スミス』(2020)など、ラブロマンスからアクションまで、幅広く活躍中のエミリア・クラーク。
少年の父親役はオセアニア圏の映画やドラマで活躍し、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズにも出演したマートン・ソーカスが務めます。
本作はシルヴィオ・ラフォの小説「La Voce Della Pietra」の映画化で、ロケ地であるイタリアのトスカーナ、ラッツォの歴史的な建物や風景が、幻想的な効果を映像に与えており、美しいゴシック調のサスペンスホラーに仕上がりました。
映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』のあらすじとネタバレ
(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved
死の床に臥す母は息子のジェイコブを枕元に呼ぶと、彼に予言のような遺言を言います。自分の死後、新しい女性が現れること、彼女の愛情が感じられるはずだと・・・そうしたら、「あなたの言葉で、私をあなたの元へ戻してね」こう言うと、母は亡くなります。
ヴェレーナは天涯孤独の身の上で、病を抱えた子供専門の看護師です。看ていた子供が回復すると、次の子供の元へ雇われて行く、“別れ”が付きものの人生でした。
この日もヴェレーナは全快した少女の元を去り、ロチョーザ城で暮らす、言葉を失った少年の元に旅立ちました。
しかし、屋敷の使用人は怪訝そうな顔をします。城には言葉を失った少年ジェイコブと、彼の父クラウス、使用人のアレッシオが暮らしていました。
ヴェレーナは書斎に通されますが、クラウスは「募集しているのは“英語を話せる”看護師」だと言います。
ヴェレーナは母国はイギリスだと言い、以前の雇い主が書いた推薦状の束を渡して見せます。クラウスはそれを見ながら、“住み込み”が希望なのか訊ねます。
ヴェレーナは家族を知ることが、子供を理解する近道だと、自分の看護方針を伝えました。彼女は十分な教養は受けてきませんでしたが、実務で技能を磨いてきた看護師です。
ヴェレーナはジェイコブとのコミュニケーションは、“英語”がいいのか訊ねるとクラウスは、妻が息子に英語の取得を希望していたと伝えます。
そして、母親が病で亡くなってから話さなくなり、7カ月と16日間経ったと話します。部屋を案内させると席を立ったクラウスに、自信満々のヴェレーナはまず、ジェイコブに会いたいと願います。
別室で机に向かうジェイコブは、何にも興味を示さず、感情も失っていました。ヴェレーナが親し気に声をかけても、“無駄”だと父親は冷たく言います。
7カ月間、何人もの看護師が雇われ、最初は誰もが自信に満ちていたが、どんな手段を使ってもジェイコブは笑うことも、泣くこともすらしないとクラウスは言い、ヴェレーナにも期待をしていませんでした。
その晩、食事をとりながらもヴェレーナは、ジェイコブに話しかけます。彼は頑なに目も合わせず、答えることもなく中座してしまいます。
クラウスは話しかけることに、なんの意味があるのか聞きますが、ヴェレーナは答えなくても理解はしてると言います。
ジェイコブは父親の言う事には従順ですが、反抗するには話さなくてはならないから、黙ってしたがっているのだと説明し、ヴェレーナのことも態度で拒絶すると忠告します。
自室に戻ったジェイコブは壁に耳をあて、何かを聞こうと耳をすませています。
翌朝、ヴェレーナはジェイコブに自分の思った見解を話します。ジェイコブは話せないのではなく、“話さない”だけで頑なに貫いていると言います。
その一瞬も気の抜けない行動は、並大抵のことではないと関心します。そして、彼女はジェイコブよりも幼い頃に、両親を亡くしているから、その孤独感は理解できると話します。
ヴェレーナは窓から射す陽の光をみて、外で朝食をするためバケットサンドを作りますが、ジェイコブの姿が城のどこにも見当たらなくなりました。
アレッシオに聞いても“もう見失った”と、協力的ではありません。彼女は城中を探し回ります。広間のピアノに皿を置き奥の部屋まで探します。
母親の主寝室そして、狩りで射止めた獲物の剥製がある部屋、その先は鍵で閉ざされた扉があります。ヴェレーナはその部屋には入らず、戻ろうとした時、もう1つの扉に気がつき入ってみます。
そこにはリリアと名乗る、老女が暖炉の前で椅子に腰かけていました。リリアはヴェレーナが新しい看護師だとわかり、彼女を歓迎すると言います。
広間に戻るとバケットサンドはなくなっていました。そこにクラウスがやってきて、ジェイコブについて見解を聞きます。
彼女はジェイコブの苦しみを理解しなければならないと言います。そして広間に飾られた大きな額の女性の写真を指して、ジェイコブの母親か訊ね名前を聞きます。
クラウスは妻の名はマルヴィーナで、世界的に有名なピアニストだったと話します。そして、写真は亡くなる半年前に撮ったものだと教えます。
マルヴィーナは演奏会から戻るとすぐ発熱し、しだいに高熱になり体力も美貌も奪われていきました。クラウスは治療法を探しに奔走し、リリアとジェイコブが片時も離れず看病しました。
ジェイコブはピアノの才能を母親から受け継いでいると言います。ジェイコブは強い意思で話すことを“拒絶”し、感情を抑えることで起きてしまったことを戻し、母親を甦らせたいと考えているのではと見解を示します。
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映画『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』の感想と評価
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美しき城主、マルヴィーナが不慮の病で亡くなり、残された夫と“話さない”息子はその残影に苦悩していました。
マルヴィーナの心残りはジェイコブの存在です。死の淵にいたマルヴィーナは彼に復活を誓いますが、それはジェイコブの認めた女性に「ママが恋しい」とささやくことが合図でした。
思えば彼にふさわしい継母選びをしていたのが、リリアだったのでしょう。看護師達の素性やマルヴィーナの服に合うかをさぐり、その面影により近い人物が現れるのを待っていたのです。
そして、何よりもジェイコブのことをどのくらい愛し、“守ろうという意志”があるのかが鍵でした。
一見、ヴェレーナがジェイコブに真の愛情を示し、継母となったラストを迎えますが、ピアノを弾いたことのないヴェレーナが、ジェイコブと連弾しようとしたシーンで、実はマルヴィーナが憑依したとわかります。
ヴェレーナの顔を見て「この女性は誰?」と思っているのは、すでに彼女の体を乗っ取ったマルヴィーナの声でした。
「青いアイリス」の花言葉から読み取る
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劇中に出てきたマルヴィーナの好きな青い花は“アイリス”だと推察します。青いアイリスの花言葉は「強い希望」「知識と賢さ」です。
マルヴィーナの生きてきた人生、凛とした人柄を象徴しているともとれますが、自分亡き後、ジェイコブのそばに戻るという、「強い希望」や「意志」を意味しています。
また、アイリス全般の花言葉に「信頼」という意味もあります。アレッシオがヴェレーナの部屋に青いアイリスの花を活けたのは、彼女に「信頼」の証や「希望」を示したと捉えることもできました。
マルヴィーナの看病をしたのはリリアでしたが、彼女は救うことができずに絶望しました。それゆえにリリアのヴェレーナへの“希望”も大きかったはずです。
ヴェレーナが飲んだものはナニ?
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「青いアイリス」の花言葉に「知識と賢さ」がありますが、アレッシオがその象徴です。
劇中、養蜂をしているアレッシオが登場しますが、彼は蜂が分泌するプロポリスなのどの知識もあったと考えられます。
プロポリスは紀元前から抗菌作用がある物質として、薬としても用いられていました。例えばエジプトのミイラ造りの過程で、防腐剤としても使用されています。
プロポリスが古代ローマで「天然の抗生物質」として用いられていたと、アレッシオが知っていたら、それを希釈しヴェレーナに飲ませたのでしょう。
代々、城に従事してきたアレッシオは、ジェイコブを次の城主として、自分の知恵と知識をジェイコブに伝授していました。
また、彼が心身共に健やかに育つことも強く願ったはずです。そのためにはヴェレーナの病を治す使命も感じたでしょう。
ですから、マルヴィーナの看病では出る幕のなかったアレッシオは、知っている限りの知識と知恵で、ヴェレーナを助けようと試みたのでしょう。
まとめ
(C)2016 VOICE FROM THE STONE PRODUCTIONS, LLC All Rights Reserved
『ボイス・フロム・ザ・ダークネス』は愛する息子を残し死んだ母の想い、長年仕えてきた使用人などの一族への愛情が思惑となり、孤独な人生を生きた女性を、“城の守護者”として迎え入れた物語でした。
おどろおどろしいシーンはありませんが、強い信念は石をも貫き、愛する者の元へと帰るという・・・ある意味、人の念の怖ろしさを見た気持ちになります。
過去の記憶や人格を失い、マルヴィーナの入れ物となったヴェレーナですが、孤独な人生から脱却できたことは、彼女にとっては幸せな等価交換でした。
本作はジャンルがホラーでありながら、強引な展開でハッピーエンドにつなげるわけではなく、登場人物たちの思惑が全て解消され、丸く収まるラストは、斬新かつ後味の美しい作品といえるでしょう。
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