連載コラム「邦画特撮大全」第96章
今回の邦画特撮大全は、『仮面ライダーBLACK SUN』を紹介します。
2021年4月の「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見にて、映画『シン・仮面ライダー』やアニメーション作品『風都探偵』と共に製作の発表がなされた『仮面ライダーBLACK SUN』。原作者である石ノ森章太郎が最後に関わったテレビシリーズ『仮面ライダーBLACK』(1987~1988)のリブート作品です。
監督は『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』などで知られる白石和彌。本記事ではこれまでの白石和彌監督の作風から、『仮面ライダーBLACK』の作品の魅力と白石和彌監督の親和性、『仮面ライダーBLACK SUN』がどのような作品になるか推察していきます。
CONTENTS
『仮面ライダーBLACK SUN』の作品情報
【公開予定】
2022年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎
【監督】
白石和彌
【作品概要】
原作者・石ノ森章太郎が最後に関わったTVシリーズ『仮面ライダーBLACK』(1987~1988)のリブート企画。シリーズ全体の監督を務めるのは『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』と話題作を連作している白石和彌監督。
2022年春にプロジェクトが始動される予定です。
白石和彌監督のメッセージ・全文
仮面ライダーBLACKのリブートという、とんでもないプロジェクトに身震いしています。仮面ライダー50年の歴史の重さに押しつぶされないように才能の全てを注ぎ込みます。南光太郎と秋月信彦の二人の悲しみの物語が、日本のヒーロー史に新たな爪痕を残せるように頑張ります。
ご期待ください!
監督 白石和彌
そもそも『仮面ライダーBLACK』とは?
参考映像:『仮面ライダーBLACK』第01話(仮面ライダー50周年記念)
『仮面ライダースーパー1』(1980~1981)の終了後、6年ぶりに製作されたテレビシリーズがオリジナルの『仮面ライダーBLACK』です。原点回帰をコンセプトに掲げつつ、「メタルヒーローシリーズ」で蓄積されたノウハウを用いて新たな要素も導入して製作されたシリーズでした。
『宇宙刑事ギャバン』(1982)など独特の映像で知られる小林義明監督、『帰ってきたウルトラマン』をはじめ多くの特撮作品を手がけた脚本家・上原正三(初期で降板)など、仮面ライダーシリーズ初参加となるスタッフをメイン格の監督・脚本に招聘しています。
仮面ライダーBLACKの姿は「外骨格」と解釈され、従来の仮面ライダーよりスマートなシルエットとなっています。一方の敵怪人もこれまでのモチーフを抽象化した“タイツ怪人”ではなく、生々しいディテールのクリーチャー然とした怪人となっています。
同じ日食の日に生まれた南光太郎・秋月信彦の2人は、暗黒結社ゴルゴムによって“世紀王”に改造されてしまうことから物語は始まります。
脳改造前に辛うじて逃げ出した光太郎は、仮面ライダーBLACK(世紀王ブラックサン)に変身しゴルゴムと戦っていきます。一方の信彦は自我を失い、世紀王“シャドームーン”となってしまいます。そうして兄弟同然に育った二人の青年が、ゴルゴムもとい闇の世界の支配者“創世王”の座を巡って戦うことになります。
本作『仮面ライダーBLACK』は原作者・石ノ森章太郎が最後に関わったTVシリーズであり、石ノ森自身も漫画版を執筆。漫画版もゴルゴムに改造された南光太郎と秋月信彦の戦いがベースなのは同じですが、ニューヨークやロンドン、オーストラリアと実写ドラマでは難しい世界中を巡る物語となっています。
全体的に製作された1987年というバブルの時代の空気と、その繁栄の背後にある世界滅亡への兆し=終末観の色濃い作品が、オリジナルの『仮面ライダーBLACK』でした。
「究極のアウトロー」=仮面ライダーの混沌とした善悪
『仮面ライダーアマゾンズ』シーズン2予告編
これまでVシネマ『真・仮面ライダー序章』(1993)、映画『仮面ライダーTHE FIRST』(2005)、『仮面ライダーTHE NEXT』(2006)、ネットドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』(2016~2017)など、仮面ライダーシリーズの原点回帰/リブート企画は幾度と行われてきました。
しかし、そうした過去の企画と今回の『仮面ライダーBLACK SUN』とでの大きな違いこそが、やはり白石和彌監督の起用です。
前述の作品は辻理監督、長石多可男監督、田﨑竜太監督、石田秀範監督と、仮面ライダーシリーズに携わった経験のある監督たちでした。しかし白石和彌監督は、仮面ライダーのみならず東映のヒーロー・特撮作品を監督するのは本作が初。こうしたリブート企画に外部監督を招聘するのも、あまりない例なのです。
参考映像:映画『凶悪』予告編
これまで『凶悪』(2013)、『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『孤狼の血』(2018)といった作品を手掛けて来た白石和彌監督ですが、監督の作風と『仮面ライダーBLACK』の持つ魅力とは親和性が非常に高いと考えられます。
実際に起きた殺人事件を題材にした『凶悪』、犯罪に手を染め転落していくエース警察官を描いた『日本で一番悪い奴ら』、ヤクザ以上にヤクザな刑事を描いた『孤狼の血』。白石和彌監督は現在の日本映画界でアウトローの世界を描き続けています。
よくよく考えると、仮面ライダーも“アウトロー”と言える存在ではないでしょうか。本来の意味の「法律を無視する無頼漢」というより「人間社会の規範の外にいる存在」と表現する方がいいかも知れません。
“仮面ライダー”とは、敵の手によって人間以上の力を手にしてしまったひとりの人間です。特に石ノ森章太郎の漫画版は1作目『仮面ライダー』、『仮面ライダーBLACK』ともに、大きな力ゆえに人間ではなくなってしまった主人公たちの葛藤に焦点を当てた作品となっています。彼ら仮面ライダーはヒーローではあるものの、人間の規範の外に出てしまった異形の存在であり、“アウトロー”と形容できる存在なのです。
参考映像:映画『孤狼の血』予告編
白石和彌監督の『孤狼の血』にて、役所広司演じる大上刑事は暴力や違法捜査なんでもありの刑事でした。暴力団との癒着をも疑われる大上ですが、実際の彼の行動原理は「一般市民を守る」の一点であり、清濁を併せ持つ姿勢は大上の手段でした。
この清濁併せ持ち、毒を以て毒を制す主人公の姿勢は、敵の手によって得た力を敵の打倒のため行使するという仮面ライダーシリーズのコンセプトと共通しています。
また『仮面ライダーBLACK』にて同じ日に敵によって改造されながら、自我を保ちヒーローとなった南光太郎/仮面ライダーBLACK、敵の幹部となってしまった秋月信彦/シャドームーン。ボタンの掛け違いによって「ヒーロー」と「敵幹部」となったこの2人は表裏一体、合わせ鏡の存在と言えます。ヒーローと敵を分けるのが運やほんの僅かな違いというのは非常にリアルですし、白石和彌作品で描かれる「転落していく者の人生」にも共通しています。
東映のコンテンツ事業部門担当・吉村文雄取締役は白石和彌監督を起用した理由を、南光太郎と秋月信彦の「兄弟同然に育った2人がライバル関係になって戦う」という2人の関係性にフォーカスした「悲しみ」のドラマ『仮面ライダーBLACK』を、『仮面ライダーBLACK SUN』という新しい作品として作り上げるためと語っています。
こうした単純な勧善懲悪の善悪二元論ではない要素をはらむ仮面ライダーシリーズで、なおかつオリジナルが人間の心の奥に迫る『仮面ライダーBLACK SUN』は白石和彌監督にピッタリの企画と言えるでしょう。
社会に潜む“悪”の存在
参考映像:映画『日本で一番悪い奴ら』予告編
仮面ライダーBLACKの敵組織である「暗黒結社ゴルゴム」。彼らの目的は文明社会の腐敗する時を待ち、人類を完全淘汰して怪人による世界を作り上げるというものでした。
TVシリーズには坂田龍三郎代議士、大宮コンツェルン会長・大宮幸一、黒松英臣教授、女優の月影ゆかりと、さまざまな分野の人間が社会に潜伏しゴルゴムに協力しています。
信彦の実父で光太郎の育ての父でありゴルゴムに協力する秋月総一朗は、石ノ森章太郎の萬画版では医療機器やコンピュータ機器を扱う大企業の社長として登場しています。このようにほとんどのゴルゴムの協力者は、社会に大きな影響力を持つ人間たちなのです。
白石和彌監督の『凶悪』では闇に隠れていた殺人事件が徐々に明かされていき、『日本で一番悪い奴ら』では本来正義を行うはずの警察官が裏で犯罪に手を染め、『孤狼の血』では社会のなかに巣食う暴力団、つまり社会の中に潜む闇の部分を丹念に描いていました。
社会の中にとてつもない闇や悪が潜んでいるという暗黒結社ゴルゴムは、白石和彌監督作品と共通しているでしょう。白石和彌監督の『仮面ライダーBLACK SUN』では、暗黒結社ゴルゴムが社会に潜むさまをより克明かつリアルに描写してくれるのではと思います。
まとめ
来年2022年春に始動する『仮面ライダーBLACK SUN』。まだまだ公開されている情報は少なく、配信なのか映画なのかどのようなメディア展開なのかも明言されていません。
しかし『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』と言った作品で、アウトローと社会の暗部を描いてきた白石和彌監督の手による新生『仮面ライダーBLACK』、『仮面ライダーBLACK SUN』は監督の作風とオリジナルの持つ魅力の親和性から非常に期待大と言えるでしょう。