連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第133回
元ラジオディレクターの勅使川原昭が志駕晃というペンネームを使い執筆した小説『スマホを落としただけなのに』。
『このミステリーがすごい!』大賞の最終選考で惜しくも受賞を逃したこの作品は、後に隠し玉として刊行され話題となりました。
日本ではホラー映画の巨匠・中田秀夫によって続編も含めて2作の映像化が行われ、映画好きにも認知度の高い本作。
そして2023年、本作が韓国で映画化された『スマホを落としただけなのに』(2023)が「Netflix」で配信されました。
今回は韓国版の『スマホを落としただけなのに』を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『スマホを落としただけなのに』の作品情報
【配信】
2023年2月17日(韓国映画)
【原題】
스마트폰을 떨어뜨렸을 뿐인데
【監督】
キム・テジュン
【脚本】
キム・テジュン
【キャスト】
チョン・ウヒ、イム・シワン、キム・ヒウォン、パク・ホサン、キム・イェウォン、チョン・ジノ
【作品概要】
ドラマ『黄金の虹』への出演経験を持つキム・テジュンが日本の小説を映像化した作品。
主人公ミナを『哭声』(2017)に出演したチョン・ウヒが演じ、スマホを拾いミナを追い詰める「男」を『非常宣言』(2023)に出演したイム・シワンが演じました。
映画『スマホを落としただけなのに』のあらすじとネタバレ
7月9日、食品会社「美味蒟蒻」に勤めるイ・ナミは飲み会の帰りのバスでスマホを落としてしまい、そのバスに乗り合わせていた「男」がイ・ナミのスマホを拾いました。
ウィズコロナの時代が始まる中、「男」はナミのスマホにかかって来た電話に女性の合成音声を利用し出ると、ナミの友人ウンジュから「イ・ナミ」と言う名前を聞き出しました。
「男」はイ・ナミの名前でSNSの検索を行い、趣味や人となりを特定するとスマホの暗証番号の解除を試みようとしますが失敗。
その頃、森の中から惨殺された女性の死体が発見され、犯人の遺留品が木の栄養剤を除き全くないことから、刑事たちは事件が計画的な犯行であることを確信していました。
木の栄養剤が失踪した刑事ウ・ジマンの息子ウ・ジュニョンが利用していたものと同一のものであることから、ジマンはジュニョンを疑っていました。
「男」はわざと液晶を壊し、ナミにスマホの修理屋に預けたので店でスマホを受け取るようにと連絡します。
空きテナントだらけのビルの中にある修理屋で、受け取った自身のスマホの修理を依頼するナミは、修理依頼書にパスワードを記入しますがその店員こそが「男」であり、「男」は液晶を修理しつつ、自身のパソコンにナミのスマホを接続しスパイウェアを入れた上で返却。
ナミは仕事をしつつ父親スンウの経営するカフェの手伝いをする普段通りの日常に戻りますが、その日常も会話もすべて「男」によって監視されており、生活リズムや残高まで把握されていきます。
職場での働きが評価されナミは給料の増額が決まりますが、ナミ以外の従業員の給料は据え置きであることから、このことは秘密にするようにと社長から命じられます。
ジマンは事件の犯人がジュニョンであることに確信を持ち始め、失踪人捜査課の刑事に捜索を依頼し、ジュニョンがスマホの修理業を行っていることやその所在を突き止めていました。
ジュニョンの住む家に入ったジマンは、死体に塗られていたマニキュアや死んだ女性の写真を見つけ、ジュニョンが犯人であることを確信。
しかし、侵入者を警戒していたジュニョンに部屋に侵入したことが露見し姿を消されてしまいます。
ジュニョンは常連客かつネット上での中古品の取引相手として、ナミに偶然を装って接触し2人は中を深める一方で、スンウは常連客を装うジュニョンを訝しげに感じていました。
その日、ナミの家にウンジュが現れてしばらく一緒に住むことになり、ウンジュはナミが誘ったと言いますが、ナミにその覚えが全くありませんでした。
夜、スンウはジュニョンに襲撃を受け拉致されます。
翌日、アラームがオフになっていたことで仕事に遅刻したナミは焦ってタクシーで会社に向かいますが、車中でチャットアプリやSNSに見に覚えのない、会社を貶めるような自身の投稿が連投されていることに気づきます。
ナミの投稿によって会社の信用は失墜し、経営に深刻なダメージが入ったことでナミは会社をクビになってしまいます。
乗っ取りを確信したナミはウンジュと警察に通報しますが、警察はナミが自分自身で投稿したと取り合いませんでした。
その頃、ジュニョンの家で目を覚ましたスンウは、ジュニョンに娘に手を出さないように懇願しますが、ジュニョンはスマホを拾ってから3日でここまで出来たと言うと、スマホに依存する現代人は簡単に操ることが出来るから、辞めることなんか出来ないと言います。
警察が取り合ってくれないので、ナミとウンジュはナミが名刺を貰っていたデジタル保安官のジュニョンに連絡を取り、スマホの調査を依頼。
するとジュニョンはスマホにスパイウェアが入っていたと報告し、ナミに同居しているウンジュへ嫌疑を向けさせ、2人は仲違いすることになりました。
その頃、山中から7人もの女性の他殺体が発見され、警察は本格的な捜査に乗り出し始めます。
ジマンはジュニョンのスマホの修理屋に捜査課の刑事と駆けつけると、そこには最初の死体と合わせ、山中で見つかった7人の女性の手がかりがあり、被害者たちがこの修理屋に訪れていたことが発覚。
ジュニョンは被害者のみをこの店に引き込んでおり、ジマンはまだ発見されていない「イ・ナミ」の名前を見つけ出し彼女がまだ生きている可能性を感じますが、ジュニョンの確実な逮捕のために公開捜査を控えようとします。
そこへ、全てがスマホを起点に起きていることに勘づいたナミが警察を引き連れ現れ、ジマンはナミが生きていることに安堵すると同時にジュニョンの正体を「殺人犯」ではなく「盗撮犯」と偽ることで囮にしようと考えます。
信じていたジュニョンに裏切られたことや友人を裏切ったことに怒るナミは、真相を知らないフリをしてジュニョンを家に誘き出す計画を実行に移します。
映画『スマホを落としただけなのに』の感想と評価
韓国映画「らしさ」のあるさらなる恐怖
スマホを落としてしまうという、珍しくもないちょっとしたミスが「連続殺人鬼」に狙われるきっかけとなってしまう恐怖を描いた小説『スマホを落としただけなのに』。
暇があればスマホを弄る現代人は、自分の持つ情報のほぼ全てをスマホを通して共有し利用しているため、スマホを悪意を持った他者に奪われるだけで、その人の全てが露見してしまう危険性を内包しています。
原作や日本映画版で描かれた全てを知られる恐怖は韓国版でも健在ではありますが、原作とも日本映画版とも全く異なったのは「連続殺人鬼」の犯人像でした。
原作では共通した特徴を持つ女性を次々と殺害した「連続殺人鬼」は幼少期にネグレクトを受けており、母親に似た面影を持つ女性に執着し殺害していたという背景がありました。
しかし、本作の「連続殺人鬼」は素性が全く明かされないばかりか、殺人対象すら「スマホを落とした人間」という曖昧なものでした。
本作の「連続殺人鬼」は理解の及ばないモンスターそのものであり、『犯罪都市 THE ROUNDUP』(2022)で描かれたように、韓国映画が得意とする分からないことへの恐怖に満ちた作品となっていました。
原作や日本映画版とも全く異なる「驚き」
日本映画版では「連続殺人鬼」のビジュアルは途中まで伏せられており、物語の中に登場する人物が終盤になり「連続殺人犯」であったことが明かされます。
主人公と「連続殺人鬼」の接触の流れとしては本作も同様の展開を辿りますが、本作では「連続殺人鬼」はビジュアルはおろか名前までが視聴者には序盤から明かされていました。
それなら、原作や日本映画版のような「驚き」はないのかと思い鑑賞が進んでいくと、中盤に物語の根底を覆すような展開が披露されます。
本作は原作も日本映画版もどちらを知っていても十分に驚くことの出来る、サスペンス映画としても秀逸な作品となっていました。
まとめ
登場人物の有無や設定など大きな変更はあるものの、落としたスマホを「連続殺人鬼」が拾うという流れに変更のない韓国映画版『スマホを落としただけなのに』。
日本ではマイナンバーや健康保険証すらスマホに紐づけ始め、小説が刊行された5年前よりさらにスマホの持つ個人情報の割合は増えています。
本作はスマホの持つ危険性を警鐘する目的としても、また原作も日本映画版を知っていても驚くことの出来る秀逸なサスペンス映画としてもオススメしたい作品です。