Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/01/31
Update

映画『イルミナティ』感想レビュー評価。秘密結社誕生の意味と知られざる“光”の実像|シニンは映画に生かされて26

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第26回

2021年2月5日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、新宿シネマカリテ他にて全国ロードショー公開予定の映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』。

オカルト・都市伝説界隈では知る人ぞ知る謎多き秘密結社「イルミナティ」の創設秘話とその実像に迫ったドキュメンタリー作品です。

「人類の幸福」のために18世紀後半のドイツにて創設されたイルミナティ。

創設者アダム・ヴァイスハウプトらはなぜ、「秘密結社」を必要としたのか。そしてなぜ、イルミナティは「世界を操る闇の秘密結社」として現代に至るまで噂されるようになったのか。その真実が本作にて明らかになります。

【連載コラム】『シニンは映画に生かされて』記事一覧はこちら

映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』の作品情報


(C)Praetorian Motion Pictures

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
Illuminated

【監督・原案】
ジョニー・ロイヤル

【製作総指揮】
エンジェル・ロイヤル、ジョセフ・ウェイジズ

【キャスト】
ジョニー・ロイヤル、ジョセフ・ウェイジズ、ジェイムズ・チスカニック、チャーリー・ギリエン、アダム・ケンデル

【作品概要】
数々の小説・映画作品で描かれてきた謎の秘密結社「イルミナティ」の知られざる実像と真実に迫った映画史上初のドキュメンタリー作品。

フリーメイソン研究家としても知られる映像作家ジョニー・ロイヤルが監督を務め、「人類最大のタブー」とさえ噂されるイルミナティの創設の歴史と真実の全貌を明らかにしていく。

映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』のあらすじ


(C)Praetorian Motion Pictures

ダン・ブラウン原作のベストセラー小説をトム・ハンクス主演で映画化した『天使と悪魔』、スタンリー・キューブリック監督の遺作となった『アイズ ワイド シャット』など、数々のフィクション作品で描かれてきた謎多き秘密結社「イルミナティ」。

1776年ドイツでの創設以来、世界の政治や経済だけでなく、文化や芸術をも陰で操り、様々な謀略を実践して全世界の支配を目指してきたといわれるその結社の実態は、絶対的な箝口令と闇の掟によって、これまで明らかにされたことはなかった。

本作は貴重な資料の数々に基づく詳細な調査、イルミナティの正体を知る人物たちの証言によって、イルミナティのその歴史と真実の全貌を明らかにしていきます……。

映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』の感想と評価


(C)Praetorian Motion Pictures

秘密結社イルミナティの真の物語

本作の冒頭にて、タイトルクレジットとして映し出される『Illuminated』という原題。それに添えられているのが、「THE TRUE STORY OF THE ILLUMINATI」という副題です。

その「イルミナティの真の物語」という言葉通り、現代社会にて今もなお「世界を操る闇の秘密結社」と人々の間で噂され続けている「イルミナティ」がいかにして創設され、いかにして解散へと至ったのかに迫った「真の物語」が、映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』なのです。


(C)Praetorian Motion Pictures

ドイツ・バイエルン州のインゴルシュタット大学にて、教授職を務め教会法の講義も行っていた法学者アダム・ヴァイスハウプト。彼は1776年、限られた学生たちと共に「人類を幸せにする」という目的のために「イルミナティ」を創設しました。

先んじて活動を行っていた友愛結社「フリーメイソン」を参考にした、位階律の採用と道徳律の厳守。映画の作中でも詳細に紹介されている、暗号・合図・合言葉を用いた徹底された秘密主義。そして、当時のカトリック教会による封建制と思想支配からの解放を目指す啓蒙運動を、ドイツのみならずヨーロッパ全土へと拡げるべく行われた数々の暗躍。それはまさしく、当時の社会・政治制度に対する「叛逆」の活動だったといえます。

しかしヴァイスハウプトがやがて辿り着いた「死」と「神」の認識論、「自由と平等」を掲げたイルミナティの理念に基づくユートピア思想は、「“欲望の抑制”と“理性と宗教の融合”による人類の魂の解放と自由の獲得」「教育による人類の向上」というイルミナティの創設理念に沿う一方で、ヴァイスハウプトのあまりにも「人間的な面」と忘れ難かった「愛」が反映されていました。

イルミナティの活動を発展させてゆく中でも、欲望の抑制と理性の徹底は重視し続けていたヴァイスハウプトは、なぜ自らの「人間的な面」と「愛」を捨て切れなかったのか。作中にて語られるその理由と原因を知るだけでも、イルミナティの「“世界を操る闇の秘密結社”ではない面」を感じとれるはずです。

歪められたイルミナティの「光」


(C)Praetorian Motion Pictures

その一方で、作中ではイルミナティが生み出してしまったあまりにも皮肉な世界の「現状」も描かれています。それが、「Illuminati(ラテン語:光に照らされた者、啓明、啓蒙)」という名を冠したはずの秘密結社による「闇の陰謀」に囚われ続ける人々の光景です。

自己と世界をより正確な形で認識する方法と知識を伝えるという「光」をもって、無明の闇に包まれた人々を照らし出す……文字通り人々の「啓明」を目的としていたイルミナティに対し、人々はあくまでも「秘密結社」という言葉から連想される「闇」にしか目を向けませんでした。そしてイルミナティが「秘密」とすることで権力者の弾圧から死守しようとした「光」さえも、「闇の中に秘められたもの」程度にしか認識しませんでした。

その結果、イルミナティの「光」は屈折されその実像を歪められた挙句、「闇」の中へと消え、結社は2021年現在も噂され続ける「世界を操る闇の秘密結社」という「闇」と化してしまったのです。

映画作中でも、イルミナティを研究し続けてきた歴史家やオカルティスト、18世紀から数百年の時を経た今も存在し、イルミナティ同様に「あらゆる陰謀の首謀者」と囁かれ続けるフリーメイソンの会員たちが「イルミナティが図らずも生み出してしまった“闇”」を語っています。

しかし彼らは同時に、今もなお残り続けているイルミナティの「光」についても言及しています。果たしてイルミナティの「光」はどのような形で現在の世界、そこで暮らす人々を照らし続けているのか。それは本作を観ることで明らかになります。

まとめ


(C)Praetorian Motion Pictures

謎の秘密結社イルミナティの知られざる実像と真実に迫った映画史上初のドキュメンタリー作品である『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』。本作は、その実像と真実を「闇」の中に追われてしまったイルミナティがかつて掲げた「光」にクローズアップしています。

「陰謀」を信じる人々の誤解によって「闇」に飲み込まれてしまったイルミナティを、「映画」という「光」をもって照らし出すことでその実像と真実を明らかにする。それはイルミナティが、そして映画『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』が「Illuminati(光に照らされた者、啓明、啓蒙)」であることの証でもあります。

光に照らし出され、イルミナティの姿を包んでいた闇が晴れた時、人々はヴァイスハウプトをはじめ「啓蒙」を必要とする時代を生きた者たちの気高い意志と覚悟を知ることができるはずです。

次回の『シニンは映画に生かされて』は……


(C)2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

次回の『シニンは映画に生かされて』では、2021年3月5日(金)より劇場公開予定の映画『野球少女』をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『シニンは映画に生かされて』記事一覧はこちら







編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

関連記事

連載コラム

韓国映画『不倫する理由』ネタバレあらすじ感想と結末考察。男女の性愛とエロスを切なくも滑稽に活写|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー51

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第51回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

映画『ヴァーチャルウォー』ネタバレ結末感想とあらすじ解説。SFアクションで現実と仮想のどちらで生きるのか選択を迫られる|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー49

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第49回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

映画『河童の女』感想評価と内容考察レビュー。結末で描かれた意味をテレンスマリック監督の『地獄の逃避行(1973)』との比較から読む|映画道シカミミ見聞録49

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第49回 こんにちは、森田です。 今回は7月11日(土)より新宿K’s cinemaほかでロードショー公開予定の映画『河童の女』を紹介いたします。 ここで …

連載コラム

『ふたりのマエストロ』あらすじ感想と評価解説。コーダ あいのうたの製作陣が贈る最新作は“音楽にかける父と息子の絆”|映画という星空を知るひとよ163

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第163回 指揮者の父子が仕事の依頼間違いをきっかけに、互いの心と向きあう姿を描くヒューマンドラマ『ふたりのマエストロ』。 ある日父に長年の夢だった仕事の依頼が …

連載コラム

【ネタバレ】シン・ウルトラマン考察解説|ザラブこと“にせウルトラマン”が横須賀を襲った意味と“外星人”の表象とは【光の国からシンは来る?11】

連載コラム「光の国からシンは来る?」第11回 2016年に公開され大ヒットを記録した『シン・ゴジラ』(2016)を手がけた庵野秀明・樋口真嗣が再びタッグを組み制作した新たな「シン」映画。 それが、19 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学