Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/12/03
Update

映画『ニューイヤー・ブルース』あらすじ感想と評価解説。4組のカップルの群像劇を親近感溢れる姿でクリスマスから年越しまでを描く|コリアンムービーおすすめ指南27

  • Writer :
  • 西川ちょり

映画『ニューイヤー・ブルース』は2021年12月10日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開!

ある4組のカップルの、クリスマスから年越しまでの1週間を描く韓国映画『ニューイヤー・ブルース』。

婚約、結婚、離婚、新たな出会い……。人生のターニング・ポイントが訪れた男女四組の物語がホリデーシーズンのきらびやかな雰囲気の中、テンポよく綴られていきます。

ドラマ『賢い医師生活」の名演が記憶に新しいユ・ヨンソク、ドラマ『シークレット・ガーデン』のユ・インナ、『死体が消えた夜』のキム・ガンウ、『エクストリーム・ジョブ』のイ・ドンフィら、豪華俳優が共演。

監督を務めたのは『結婚前夜~マリッジブルー~』などのロマンチックな作品で知られるホン・ジヨン。韓国版『ラブ・アクチュアリー』との呼び声も高い、多幸感溢れる最高のロマンチック・コメディーに仕上がっています。

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

映画『ニューイヤー・ブルース』の作品情報


(C)2021 ACEMAKER MOVIEWORKS & SOO FILM All Rights Reserved.

【日本公開】
2021年公開(韓国映画)

【原題】
새해전야(英題:NEW YEAR BLUES)

【監督】
ホン・ジヨン

【キャスト】
キム・ガンウ、ユ・インナ、ユ・ヨンソク、イ・ヨニ(ヨンヒ)、イ・ドンフィ、チェン・ドゥリン、ヨム・ヘラン、チェ・スヨン、ユ・テオ、イェ・スジョン、イ・ジュンヒョク。チョ・ハンチョル、アン・セハ、ソン・サンウン

【作品概要】
クリスマスから年明けまでの7日間。幸せになりたい4組のカップルに訪れた人生のターニングポイントを描いたロマンチック・コメディー。

ドラマ『賢い医師生活」のユ・ヨンソク、ドラマ『シークレット・ガーデン』のユ・インナ、映画『死体が消えた夜』のキム・ガンウ、映画『エクストリーム・ジョブ』のイ・ドンフィら、豪華俳優が共演し、『結婚前夜~マリッジブルー~』のホン・ジヨンが監督を務めました。

映画『ニューイヤー・ブルース』のあらすじ


(C)2021 ACEMAKER MOVIEWORKS & SOO FILM All Rights Reserved.

パラスノーボード国家代表のレファン(ユ・テオ)は、長年付き合っている恋人の園芸師オウォルにプロポーズします。

スノーボーダーとしての活動をアシストしてくれるエージェントもつき、順風満帆に見えましたが、2人を障害者と健常者の恋という型にはめようとする周囲のせいで、次第にすれ違いが生じ始めます。

姉と2人暮らしをしている旅行会社のオーナー、ヨンチャンは、中国人のヤオリンと婚約しています。中国式の風習に戸惑いながらも幸せいっぱい。ところが信頼していた部下に会社の金を持ち逃げされるという事件が起こります。

窮地に陥ったヨンチャンですが、そのことをヤオリンに告げることができず、2人の間に微妙な亀裂が入り始めます。

離婚して4年になるベテラン刑事ジホは、離婚訴訟中のリハビリトレーナー ・ヒョヨンの身辺保護を担当することになりました。ヒョヨンの夫が接近禁止命令を無視するためです。

もともと強力班に属していたジホはこの仕事に乗り気ではありませんでしたが、常にそばにいるうちに2人の間にほのかな情愛が生まれてきます。

スキー場スタッフのジナは長らく付き合った彼氏から突然別れを告げられてしまいます。傷心旅行でアルゼンチンにやってきたジナはそこでワイン配達員として働く韓国人のジェホンと偶然知り合い……。

年越しまで残すところ一週間。彼らは今より幸せになることができるのでしょうか!?

映画『ニューイヤー・ブルース』感想と評価


(C)2021 ACEMAKER MOVIEWORKS & SOO FILM All Rights Reserved.

親近感溢れる群像劇

映画は冒頭、パラスノーボードの国際大会の模様を大胆なカメラワークでとらえ、溌剌とした雰囲気でスタートします。

好タイムを記録しトップに躍り出た韓国人選手レファンがゴールで待つ恋人にプロポーズするというロマンチックなシーンが一転、長年の恋愛関係に終止符を打とうとする別のカップルの姿に取って代わります。

男性から一方的にふられた女性・ジナは「悔しい~」と背中を向けた男性に体当たりにいきますが、電話がかかってきた男性は急に体勢を変え、ジナは雪の上に転がってしまいます。

その瞬間をカメラは俯瞰でとらえ笑いを誘いますが、これは後ほどまた反復されることになります。

四組のカップルは、知り合いでもなく接点もない他人同士。年齢も境遇もバラバラです。でも本作は四組の男女の恋愛模様を別々に描くオムニバス映画ではありません。

8人の男女にはそれぞれ家族や仕事の同僚がいて、それぞれが少しずつ繋がっていたり、すれ違っていたりするのです。

それもごくごく自然な調子で、無理矢理な感じはいっさいありません。誰がどこでどのように繋がっているのかということが、だんだん楽しみになってくるほどです。

また、一組のカップルのシーンから別のカップルのエピソードに移る場合も、同じシチュエーションを重ねるなど、巧みな編集をしています。

ふられた女性はアルゼンチンに飛び、冬の厳しい寒さのソウルとはまったく違う光景が展開しますが(イグアスの滝の映像の壮麗なこと!)、全体から浮くことなく、同じ空の下で繋がっている人間模様として楽しむことができます。

ロマンチックな作品で定評のあるホン・ジヨン監督は、8人とその周辺の人々をテキパキとテンポよくさばきながら、親近感溢れる群像劇を作り上げました。

『建築学概論』などの作品で知られるイ・ジスのポップでメロウな劇伴が、映像とよく調和し、爽やかな高揚感をもたらします。

クリスマスから新年までの恋愛喜劇


(C)2021 ACEMAKER MOVIEWORKS & SOO FILM All Rights Reserved.

本作はクリスマスから新年を迎える7日間という時期を舞台にしています。

なにかと忙しいこの時期。街は華やかに彩られ、新年への期待に溢れています。今年こそはと望みながら、結局叶えられなかった後悔の念と来年こそはという希望が交錯する季節です。

不安と希望に揺れ動く四組の男女の人間模様が、この特別な季節とシンクロするように、コミカルにかつロマンチックに描かれていきます。

劇中、一組のカップルが食事をしているときに、店内に映し出されている映画は、ロザリンド・ラッセル、ケイリー・グラント主演の『ヒズ・ガール・フライデー』です。1940年に制作されたハワード・ホークス監督のスクリューボール・コメディーの傑作に本作は目配せしてみせます。

スクリューボール・コメディーを「性別の区別や身分の上下を超越したパワフルな恋愛喜劇」と一言で定義することは少々乱暴かもしれませんが、本作に登場する男女も、性別の違いや上下関係に囚われていません。

女性たちは皆、仕事を持っていて独立しており、対等な立場として、守られるだけでなく自分自身も愛する人を守り、何事も互いに分かち合い、協力し合って危機を乗り越えようとしています。そこにはこんなふうに生きられればという作りての願いがこめられています。

周囲の旧態依然とした価値観や、異文化への戸惑い、相手に対する遠慮などが、それぞれの関係を揺らしますが、それらをどのように乗り超えていくのかが、大きな見どころです。

洒落た展開の中に、温かな思いやりの心が溢れ、なんとも優しい気持ちにさせられる愛すべき作品と言えるでしょう。

まとめ


(C)2021 ACEMAKER MOVIEWORKS & SOO FILM All Rights Reserved.

ドラマ『賢い医師生活』でも優しく暖かな医師を演じていたユ・ヨンソクが、アルゼンチンでワイン配達をしている青年に扮しているのを始め、ドラマ『シークレット・ガーデン』のユ・インナ、ホン・ジヨン監督の2013年の作品『結婚前夜 マリッジブルー』にも出演しているキム・ガンウ、イ・ヨニ、映画『エクストリーム・ジョブ』のイ・ドンフィ等、錚々たる俳優が出演しています。

イ・ドンフィ扮する旅行会社オーナーの婚約者には中国の新星チェン・ドゥーリンが、パラスノーボードの国家代表選手には『LETO-レトー』の国際派俳優ユ・テオが分するなど国際色も豊か。

また、イ・ドンフィの姉を演じたヨム・ヘランが、コメディエンヌぶりを遺憾なく発揮し、実にいい味を出しています。彼女が使用する翻訳機も思わぬ活躍を見せてくれます。

映画『ニューイヤー・ブルース』は2021年12月10日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開!

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『陰陽師: とこしえの夢』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。夢枕獏の原作小説を中国の実写化で豪華絢爛なアクションに仕立てる|Netflix映画おすすめ18

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第18回 人の“執念”や“欲”とは格も恐ろしく、古ではそれらを糧とし成長する蛇が“禍蛇”という妖魔となり、世の中に悪影響を及ぼす存在として忌 …

連載コラム

映画『ブラックスワン』ネタバレ解説。ラストに向かう悪夢の先はハッピーエンド|偏愛洋画劇場12

連載コラム「偏愛洋画劇場」第12幕 今回の連載は様々な話題を呼んだサイコ・スリラー映画『ブラック・スワン』(2010)です。 監督は低予算ながら斬新な映像とアイディアで数々の賞を受賞した『π』(199 …

連載コラム

韓国映画『PHANTOMユリョンと呼ばれたスパイ』あらすじ感想と評価解説。韓流スパイアクションをイ・ヘヨン監督×ソル・ギョングらで躍動的に活写する|映画という星空を知るひとよ177

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第177回 1933年、日本統治下の京城では抗日組織「黒色団」のスパイ“ユリョン”が暗躍していました。朝鮮総督の暗殺を企てる“ユリョン”と日本警備隊長たちとの熾 …

連載コラム

『フィンセント・ファン・ゴッホ:新たなる視点』感想と評価。画家の知られざる人生とは|映画と美流百科14

連載コラム「映画と美流百科」第14回 こんにちは、篠原です。 毎回、新作映画を取り上げ、その映画で扱われているカルチャーも紹介している本コラムですが、第1回目で取り上げたのが芸術家の人生と作品を約90 …

連載コラム

映画『響HIBIKI』感想と考察。平手の演じた鮎喰響はAI作家である|映画道シカミミ見聞録15

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第15回 (C)2018 映画「響 HIBIKI」製作委員会 (C)柳本光晴/小学館 こんにちは、森田です。 秋分の日を迎えれば、さまざまな“秋”がやってきますね。 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学