Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/05/25
Update

【ネタバレ】シンウルトラマン|ゾフィーが“敵ゾーフィ”となった意味は?ゼットン/ザラブとの関係が暴露する“ウルトラマン愛ゆえの疑心”【光の国からシンは来る?13】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『光の国からシンは来る?』第13回

1966年に放送され2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)をリブートした「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』。

2022年5月13日(金)に劇場公開を迎えたのち、同年11月18日からはAmazon Prime Videoでの独占配信が開始されました。

本記事では、多くの特撮ファンがその登場自体は予想できていたものの、「宇宙の秩序を乱す可能性が生じた地球を“廃棄”処分すべく、《天体制圧用最終兵器ゼットン》を起動させた光の星の使者」という予想外の形での登場となったゾフィー/ゾーフィをピックアップ。

「ゾーフィ」という呼称の元ネタ、テレビドラマ『ウルトラマン』でのゾフィーとザラブ星人の意外なつながりに触れた上で、『シン・ウルトラマン』におけるゾーフィの設定・描写の真意を考察・解説していきます。

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

映画『シン・ウルトラマン』の作品情報


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督】
樋口真嗣

【企画・脚本】
庵野秀明

【製作】
塚越隆行、市川南

【音楽】
鷺巣詩郎

【キャスト】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏

映画『シン・ウルトラマン』ゾフィー/ゾーフィ考察・解説


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

ゾフィーの予想を大きく裏切った登場

テレビドラマ『ウルトラマン』の最終回「さらばウルトラマン」の終盤に登場したゾフィー。ゼットン星人の侵略用生体兵器・宇宙恐竜ゼットンに敗北し瀕死へ陥りながらも、自身の過ちにより融合せざるを得なかったハヤタの蘇生を優先してほしいというウルトラマンの願いを「自身が所有していた二つの“命”をそれぞれに分け与える」という予想外の荒業で解決し、ウルトラマンを連れ帰りました。

最終回ならびに『ウルトラマン』の物語のキーパーソンであることから、多くのファンが『シン・ウルトラマン』にも登場することを予想していたゾフィー。

しかし予想自体は的中したものの、シン・ウルトラマン』でのゾフィーは「ゾーフィ」と呼称され、「地球の新たな監視者にして裁定者」宇宙の秩序を乱す可能性が生じた地球の存在を“廃棄”処分すべく、《天体制圧用最終兵器ゼットン》を起動させた光の星の使者」というあまりに予想外な形での登場となりました。

「ゾーフィ」というウルトラマンと似て非なる者


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

マルチバース世界上に存在する先進国ならぬ“先進星”間での、地球人類という兵器転用可能な資源をめぐる戦争と混乱を避けるという目的のもと、未開の星である地球とそこに住まう人類を太陽系ごと“廃棄”しようとする「ゾーフィ」。

その秩序への厳格さは、光の国の使者が「正義の味方」でも「地球または人類の味方」でもなく、あくまでも「宇宙の秩序を守る者」として存在していることを痛感させられます。

コラム第12回のゼットン特集回でも触れた通り、「ゾーフィ」という呼称は「かつてゼットン星人が“宇宙人ゾーフィ”の名で紹介されてしまった児童誌での誤植」が元ネタとされています。

同じ光の星の使者にも関わらず、「他者のために自らの命を絶った神永を理解したい」という理由から、光の星で禁じられている人類との融合へ至ったリピア=「ウルトラマン」と対比的に描かれるゾーフィ。それはゾフィーを誤植内における「ウルトラマンそっくりに変身する」という設定を基に、あえて「ウルトラマンと限りなく似て非なる者」として描きたかった結果かもしれません。

光の星の使者も、ザラブと同じ「外星人」


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

また『ウルトラマン』最終回の撮影で用いられたゾフィーのスーツですが、その胴体部分には『シン・ウルトラマン』にも登場し、ウルトラマンの最初期スーツ「Aタイプ」を改造する形で作られた「にせウルトラマン」のスーツを再改造したものが使用されていました。

ザラブ星人が擬態した「にせウルトラマン」と、『ウルトラマン』において「撮影用スーツの改造元」というメタ的なつながりがあったゾフィー。その関係性が『シン・ウルトラマン』でも踏襲された結果が、映画におけるザラブとゾーフィの「外星人」というつながりです。

ザラブは「地球人類の殲滅」を目論み地球で暗躍するのに対し、ゾーフィは「宇宙の秩序を守る」という目的のもと行動します。しかしその目的の果てにゾーフィがたどり着く行動は「地球とそこに住まう人類、周辺の太陽系の廃棄」であり、その行動がもたらすのはザラブが目指す「地球人類の殲滅」と同じ、あるいはそれ以上に恐ろしい結果です。

「その目的の性質は違えども、地球にもたらされる悲劇的な結果は同じ」……ウルトラマンことリピアと同じ光の星の民だが、結局はザラブと同じ「外星人」であることを描くために、『シン・ウルトラマン』製作陣はゾフィーと縁あるザラブ星人を映画にも登場させ、ゼットン星人の情報の誤植とはいえ“ウルトラマンそっくりに変身できる宇宙人”として紹介されたゾフィーの別側面……「ゾーフィ」の設定をあえて使用したのでしょう。

まとめ/ウルトラマンの「アンチテーゼ」に答える者


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

『ウルトラマン』最終回の撮影におけるスーツ事情、そして児童誌での誤植という原作ネタを通じて、ゾフィーを「ウルトラマンと限りなく似て非なる外星人・ゾーフィ」として描写し、人間と融合してまで地球とそこに住まう人類を理解しようとする“ウルトラマン”ことリピアの外星人としての特異性を強調した『シン・ウルトラマン』。

またゾフィーが「ゾーフィ」として登場した理由には、これまで「ウルトラマン」というシリーズ作品が常に描き続けてきた、ウルトラマンを愛する人々が常に抱える「疑心」と、「ウルトラマン」という名を冠する作品として対峙しなくてはならなかったというのも、含まれているのかもしれません。

それが、「もしウルトラマンが、“地球と人類の敵”だったら?」あるいは「もしウルトラマンが、地球と人類を見限ったら?」という、誰もが一度は抱いたことのある疑心です。

映画の作中エピソードの元ネタにあたる、『ウルトラマン』のザラブ星人&にせウルトラマン登場回「遊星から来た兄弟」も、ウルトラマンに対し人類が常に抱えている疑心が、ウルトラマンと同じ「宇宙人」であるザラブ星人によって白日の下に晒されたエピソードと捉えることもできます。

シン・ウルトラマン』でその疑心をも描こうとしたのは、レヴィ=ストロース『野生の思考』に則れば「地球の人類の平和のために戦う地球外生命体」という象徴を担う記号であるウルトラマンの存在意義を改めて再解釈・再認識する上で、ウルトラマンを愛する人々の疑心が生み出す“イフ(If)”の世界=「ウルトラマンが人類の味方ではない世界」という、ウルトラマンが担う象徴へのアンチテーゼを観客に再提示したかったためではないでしょうか。


(C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

「人間でありウルトラマンでもある」「人間でもウルトラマンでもない」という境界線の狭間に立つ……誰よりも「人間とウルトラマンの自立した関係性」の当事者である神永新二/ウルトラマンが、アンチテーゼの先にあるジンテーゼを見出そうとするという物語

特別ビジュアルの画像からも垣間見えるように、それが『シン・ウルトラマン』の側面の一つなのでしょう。

次回の『光の国からシンは来る?』もお楽しみに!

【連載コラム】『光の国からシンは来る?』記事一覧はこちら

編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介









関連記事

連載コラム

Netflix映画『プロジェクトパワー』ネタバレ感想と考察評価。”超能力”によってスーパーヒーローと麻薬捜査の魅力を引き出す|SF恐怖映画という名の観覧車116

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile116 「バットマン」や「スーパーマン」、そして近年では「アベンジャーズ」シリーズなど漫画の中だけでなく映画界でも長年、超能力を持った「ヒーロー …

連載コラム

映画『ドント・ゴー・ダウン』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。SFタイムスリップに遭遇した特殊部隊の運命|未体験ゾーンの映画たち2020見破録40

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第40回 「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第40回で紹介するのは、戦場から抜け出せなくなった特殊部隊を描くアクションホラー映画『ドント・ゴー …

連載コラム

映画「パージ」シリーズの評価と考察。スリラーにおさまらないSF映画としての社会風刺とは|SF恐怖映画という名の観覧車15

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile015 “SF”映画では社会に対する風刺を強く描いた作品が多く、技術の進歩に対し技術を使う社会や人間への疑心が浮き彫りになるジャンルと言えます。 …

連載コラム

映画『東京自転車節』感想評価とレビュー解説。青柳拓監督が“新しい日常”を生き抜くために駆け回る路上労働ドキュメンタリー|映画という星空を知るひとよ69

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第69回 映画『東京自転車節』は、実家の家族の反対を押し切り、東京で友人の家に泊まりながら自転車配達をする青柳拓をありのまま撮影したドキュメンタリー映画です。 …

連載コラム

『ソウルメイト』あらすじ感想と評価解説。韓国映画の“怪物新人女優”キム・ダミによる《切ない心温まる友情物語》|映画という星空を知るひとよ191

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第191回 映画『ソウルメイト』は、ミン・ヨングン監督が2016年の『ソウルメイト 七月と安生』を韓国・済州島に舞台を移して新たに映画化した作品です。 幼い頃か …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学