連載コラム『光の国からシンは来る?』第17回
1966年に放送され、2021年現在まで人々に愛され続けてきた特撮テレビドラマ『空想特撮シリーズ ウルトラマン』(以下『ウルトラマン』)をリブートした「空想特撮映画」こと『シン・ウルトラマン』。
2022年5月13日に劇場公開を迎えた本作ですが、ついに同年の11月18日、Amazon Prime Videoでの独占配信を迎えました。
今回は、「外星人であるザラブとメフィラスがなぜ“夜”に出現したのか?」についてピックアップ。
「原作」にあたる『ウルトラマン』における侵略宇宙人の恐怖演出に言及しながらも、『シン・ウルトラマン』におけるザラブとメフィラスが「夜」という闇をい意識的に活用する理由を解説・考察していきます。
CONTENTS
映画『シン・ウルトラマン』の作品情報
【日本公開】
2022年(日本映画)
【監督】
樋口真嗣
【脚本・総監修】
庵野秀明
【製作】
塚越隆行、市川南
【音楽】
鷺巣詩郎
【キャスト】
斎藤工、長澤まさみ、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、西島秀俊、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏
映画『シン・ウルトラマン』外星人と「夜」を解説・考察!
ザラブとメフィラスはなぜ「夜」に出現?
『シン・ウルトラマン』に登場した外星人の中でも、ザラブとメフィラスはなぜ、「夜」に出現したのか。
それはシンプルな疑問ではありますが、「侵略する宇宙人」という存在が描かれた創作物の多くにも通じる重要な問いともいえるでしょう。
映画前半部、仕事を切り上げメンバーが皆帰りの支度をしつつあった禍特対本部・専従班室に、大停電と電子機器のシステム障害を起こしながら姿を出現したザラブ。その出現した時間はおそらく「夜」であることが推察されます。また「にせウルトラマン」に化けて破壊活動を行った時間帯も、作中の2回ともに「夜」でした。
のちに姿を現したメフィラスも、ベーターボックスの受領式典に出席し時間帯は昼間であったものの、巨大化した浅見を日中の丸の内に出現させた際には「声」だけで禍特対のメンバーと接触。初めてその姿を見せたのは、巨大化した浅見の拘束を終えた「夜」の禍特対・移動用コンテナラボの中でした。
「夜=闇=宇宙」からの使者を描くというオマージュ
「夜」という言葉を聞いた時、人間は何をイメージするのか。その問いに対して、「闇」と答える方は多いのではないでしょうか。
人間にとって最も身近な闇である夜。それは、太陽光が差さなくなった際に本当の姿を現す「宇宙」という闇の別名でもあります。人間にとって夜とは、「宇宙」という闇を突きつけられる時間であり、自分たちが闇という存在とそれがもたらす恐怖を消し去ることはできないと自覚させられる時間であるといえるでしょう。
宇宙という闇の彼方から現れた、地球人類に害をなす者たち……「闇からの凶兆の使者」ともいうべき宇宙人の出現と、それらの出現が地球人類であれば誰にも起こり得る恐怖であることを創作物を通じて描く時、身近にある恐怖の闇として人々に認識されている「夜」を演出の中で用いるのは、もはや自然な発想といって過言ではないはずです。
その「夜」と「宇宙人」を結びつけた闇の恐怖の演出は、バルタン星人登場回の第2話「侵略者を撃て」(放送回としては「2話」であるものの、制作・脚本ナンバー上では「1話」とされている本回は、『ウルトラマン』のエピソードの中で最初にクランク・インされた回でもある)をはじめ、『シン・ウルトラマン』の原作にあたる『ウルトラマン』でも用いられています。
『シン・ウルトラマン』でも「夜」と「宇宙人」を結びつけた闇の恐怖の演出が行われたのも、『ウルトラマン』第18話「遊星から来た兄弟」にてザラブ星人が初登場したのが夜の東京であったという設定の踏襲と同時に、『ウルトラマン』という作品の“始まり”のエピソードともいえる「侵略者を撃て」でも用いられた「闇からの凶兆の使者」の演出そのものへのオマージュも重ねられていたのかもしれません。
「夜」と「闇」を演出に用いる外星人たち
そもそも『シン・ウルトラマン』に登場するザラブとメフィラスは、「夜」という闇を自己演出の一環として意識的に利用していることも作中の描写から推察できます。
ザラブの場合は上記の通り、禍特対への初出現、「にせウルトラマン」に化けての2回の破壊活動をすべて「夜」に実行。前者は自身が紛れもなく「外星人」であると禍特対メンバーに強く印象付けることで、その後に控える外星人・各国間の交渉をより効率よくするため、後者はウルトラマンが「宇宙という闇の彼方から現れた、地球人類に害をなす者たち」……悪しき外星人と演出するためだったと想像できます。
また「にせウルトラマン」による破壊活動の報せを聞き、ウルトラマンへの不信感が高まった総理大臣らの前に出現した際には、総理大臣らが立つ付近を停電させ暗闇の状態に陥らせた上で、ザラブ自身が立つ位置のみは照明を点けたままに。
それはウルトラマンの対応に迷う総理大臣の心理を停電による「闇」の状態で表すことで意識させ、その上で自身の周囲のみに光が差す姿を見せることで「自身の提案という“光”だけが、現在の“闇”の状態から抜け出せる」と同時に意識させるという、シンプルながら非常に効率的な演出といえます。そして、その演出の威力をより効果的に発揮できるのが「夜」という環境だったのです。
しかし映画後半部にて、メフィラスはザラブによる工作について「禍威獣同様に“現地調達”した一部に過ぎなかった」と語っています。メフィラスとザラブがどのような接触していたのかは想像しかできない「闇の中」ではありますが、『シン・ウルトラマン』におけるザラブの夜及び闇の演出も、もしかするとメフィラスの対地球人類・外交戦術に関する入れ知恵の一つだったのかもしれません。
まとめ/ゾーフィもまた「闇からの使者」
夜という闇による演出を通じて、『ウルトラマン』第2話「侵略者を撃て」にて用いられた侵略宇宙人の恐怖演出そのものへのオマージュも含まれていたと思われる、『シン・ウルトラマン』における「闇からの凶兆の使者」としての外星人ザラブとメフィラス。
一方で、彼らと同じく地球人類にとっての「外星人」であるはずのゾーフィは映画後半部にて、山中で眠る神永の遺体を見つめる神永……の姿を借りているウルトラマンの前に出現しますが、木々から漏れる太陽の光を背負い現れるその姿は、「光の星からの新たな使者」という設定に納得させられる映像となっています。
しかしながら、地球にとっては「光の星」もまた宇宙という未知の闇の一部に過ぎません。そしてゾーフィがウルトラマンに勧告したのは地球及び人類の「廃棄処分」の決定であることからも、彼の出現は地球にとっての「凶兆」には変わりありません。
本作におけるゾーフィもまた、地球人類にとってはザラブ・メフィラスと同様に「闇からの凶兆の使者」であり、彼が山中で見せた光に満ちた神々しい姿は、「光の星からの新たな使者」の映像としての説得力と同時に、それを皮肉るかのような演出として機能しているのでしょう。
ただ、凶兆は時に吉兆へと転ずることもあるといわれています。ゾーフィの出現という凶兆もまた、のちのゼットンの打倒作戦を通じて築かれる「人間とウルトラマンの“自立”した関係性」を呼び寄せた吉兆であるとも考えられるはずです。