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Entry 2023/03/15
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映画『ユー&ミー&ミー』あらすじ感想と評価解説。Y2K前夜のタイで双子姉妹は“私たちの終わり”を知る|大阪アジアン映画祭2023見聞録5

  • Writer :
  • 西川ちょり

第18回大阪アジアン映画祭・コンペティション部門作品『ユー&ミー&ミー』!

「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマに、アジア各地の優れた映画を世界または日本の他都市に先駆けて上映・紹介する大阪アジアン映画祭。

2023年には第18回を迎えた同映画祭は、3月10日(金)〜19日(日)の10日間にわたって、16の国・地域の合計51作品(うち世界初上映15作、海外初上映8作、アジア初上映2作、日本初上映20作)が上映されます。

今回はタイのワンウェーウ・ホンウィワット&ウェーウワン・ホンウィワット監督の青春映画『ユー&ミー&ミー』をご紹介します。

映画、テレビを舞台に多くのエンターテインメント作品を生みだしてきたタイの「GDH」による製作作品です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら

映画『ユー&ミー&ミー』の作品情報


(C)2023 GDH 559 Co., Ltd. All Rights Reserved.

【日本公開】
2023年(タイ映画)

【原題】
You&Me&Me

【監督・脚本】
ワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワット

【キャスト】
ティティヤー・ジラポーンシン、アンソニー・ブイサレート

【作品概要】
ユーとミーという一卵性双生児の姉妹を主人公に、いつも“二人で一人”のような存在だった姉妹がそれぞれ成長していく姿を、淡い初恋の感情とともに描き出したタイの青春映画。

映画・テレビ作品で多くのエンターテインメント作品を生みだしてきたタイの「GDH」による製作作品で、タイ本国では2023年1月にロードショー公開された。

映画『ユー&ミー&ミー』のあらすじ

時代は1999年。Y2K問題(2000年になるとコンピューターが誤作動し様々な問題が起こると言われていた)が世間を騒がせている中、一卵性双生児の姉妹である中学生のミーとユーは、仲良く楽しい日々を送っていました。

双子であることはメリットがいっぱい。ほくろがある方がミーで、ない方がユーですが、入れ替わっても気づかれることはありません。

姉妹は生まれてこの方、どんなことでもシェアし、まさに一心同体となって過ごしてきました。ただ、両親の喧嘩が絶えないことだけが悩みの種でした。

ある日、ユーが数学の追試を受けることになり、数学の得意なミーがユーになりすまして教室に行くと、鉛筆を忘れたことに気がつきます。

このままでは試験が受けられないと慌てていると、マークという少年が鉛筆を二つに折って貸してくれました。彼も先生にナイフを借りて鉛筆を削り、試験を受けることができましたが、マークはリスクを負ってまでも助けてくれたのです。

ところがせっかく知り合ったのに、マークは家庭の事情で学校を辞めてしまい、すぐに会えなくなってしまいました。

ミーとユーの両親はさらにひどい喧嘩を繰り返すようになり、姉妹は夏休みの間、母に連れられて母の実家があるナコーンパノムという自然溢れる町で過ごすことになりました。

おばあちゃんの家でタイの弦楽器・ピンを見つけ、習うことにしたユー。ところが彼女は、ピンの教室でマークと出会います。マイクは両親の離婚を機に母の実家があるこの地に引っ越し、学校には通わずに教室の手伝いをしていたのです。

二人はお互い心惹かれ、付き合い始めますが……。

映画『ユー&ミー&ミー』の感想と評価

序盤は双子の姉妹が映画を一人分の料金で観るために手段を講じたり、数学の追試を入れ替わって受けるといった、まるで児童小説や少女漫画のようなかわいらしくも微笑ましいエピソードが展開されていきます。

1999年という時代のファッションや世相も再現され、懐かしい雰囲気を漂わせている本作。と同時に、近年では「Y2Kファッション(2000年代に流行したファッションスタイル)」が世界的に注目されているなど、レトロだけれどトレンドでもあるというタイムリーさも、本作の大きな強みとなっています。

ちなみに作中、二人が楽し気にカメラに向かって歌って踊る場面があるのですが、この楽曲もタイの当時の流行歌なのかもしれません。

まるでアイドル映画のようでもあり、楽しいガールズムービーといった雰囲気で物語は進行していきますが、いつも一心同体で過ごし、なんでもシェアしてきた二人が、シェアできないものに初めて出会います。

戸惑い、葛藤を覚える二人。彼女たちは自身のアイデンティティについて考え始めます。その過程で、序盤には個性が感じられなかった二人のそれぞれの個性が見え始め、画面から思春期の少女たちの揺れる感情が伝わってきます。

本作で長編映画監督デビューを果たしたワンウェーウ・ホンウィワット、ウェーウワン・ホンウィワットの両監督は双子であり、そのことからも作品に対する説得力を感じられます

また少女たちのパーソナルな物語は「Y2K問題」を背景にすることで、また別の問題を浮上させます。

ニュースでは「コンピューターの誤作動により、核爆弾が発射されるかもしれない」という報道がなされています。ここで彼女たちが認識するのは、かの「ノストラダムスの大予言」とも結びついた“自分たちの世界の終わり”、つまり“身近な死”です。

かわいらしいガールズ・ムービーと思いきや、そこには多くのテーマを内包されており、個人の内面の混乱と社会(家族も含む)の混乱が連動して描かれているのです。

まとめ

本作のキャストクレジットに名前が2人分しかないのをみて、勘のいい方はすでにお気づきかと思いますが、ミーとユーはティティヤ・ジラポーンシルプが一人二役で演じています

これにはすっかり驚かされます。ティティヤ・ジラポーンシルプの演技力の素晴らしさはもちろんのこと、まったく不自然に見えない画を作り上げる技術力にも感服させられます。

第18回大阪アジアン映画祭にて、映画『ユー&ミー&ミー』は2023年3月16日(木)/ABCホールにて2回目の上映が行われます。なお同回にはゲストとして、ワンウェーウ・ホンウィワット&ウェーワン・ホンウィワット両監督も登壇予定です!

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら



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