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『火だるま槐多よ』あらすじ感想と評価解説。大正時代の鬼才画家・村山槐多を独創的に佐藤寿保監督が描く|映画という星空を知るひとよ182

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第182回

「村山槐多って知ってますか?」。こんな街頭インタビューで始まるピンク映画出身の佐藤寿保監督作品『火だるま槐多よ』。

22歳で夭逝した大正時代の画家・村山槐多の作品に魅せられた現代の若者たちが、槐多の作品を独自の解釈で再生させていく姿を描いたエンターテインメントです。

映画『火だるま槐多よ』は、2023年12月23日(土)〜1月12日(金)新宿K’s Cinemaにて公開他全国順次公開

本作では、画家・村山槐多の作品も数多く紹介されています。タイトルは、槐多の友人・高村光太郎が槐多のことを詩にし、その中の「強くて悲しい火だるま槐多」という1行からつけられました。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『火だるま槐多よ』の作品情報


(C)2023 Stance Company / Shibuya Production

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督】
佐藤寿保

【脚本】
夢野史郎

【撮影】
御木茂則

【キャスト】
遊屋慎太郎、佐藤里穂、工藤景、涼田麗乃、八田拳、佐月絵美、佐野史郎

【作品概要】
『火だるま槐多よ』は、‟ピンク四天王”と称される佐藤寿保監督が、槐多の代表作である‟尿する裸僧”から彼の感性に感銘を受け、現代人の眠っている潜在意識を呼び起こし感応させると、本作の制作を決意した作品です。

脚本は『乱歩地獄 / 芋虫』(2005)『眼球の夢』(2016)などでタッグを組んだ夢野史郎が担当。槐多の死後、友人たちの熱望によりデスマスクがとられた事実なども盛り込みました。

主演に『佐々木、イン、マイマイン』(2020)などの遊屋慎太郎、ヒロインは『背中』(2022)で映画初主演を飾った佐藤里穂。パフォーマンス集団に工藤景、涼田麗乃、八田拳、佐月絵美らが集結。田中飄、佐野史郎というベテラン勢が脇を固めます。

映画『火だるま槐多よ』のあらすじ


(C)2023 Stance Company / Shibuya Production

大正時代の画家・村山槐多の「尿する裸僧」という絵画に魅入られた法月薊(のりづき・あざみ)が、街頭で道行く人々に「村山槐多を知っていますか?」とインタビューしていました。

すると、「私がカイタだ」と答える謎の男に出会います。その男、槌宮朔(つちみや・さく)は、特殊な音域を聴き取る力がありました。ある日、過去から村山槐多が語り掛ける声を聴き、度重なる槐多の声に神経を侵食されます。そしてついに彼は、自らが槐多だと思いこむようになっていたのです。

朔が加工する音は、朔と同様に特殊な能力を持つ者にしか聴きとれません。その音に感応したのは、それぞれ予知能力、透視能力、念写能力、念動力を有する若者4人のパフォーマンス集団でした。

彼らは、その能力ゆえに家族や世間から異分子扱いされ、ある研究施設で‟普通の人”に近づくよう実験台にされていました。ですがある日、施設を脱走して街頭でパフォーマンスを繰り広げていました。

研究所の職員である亜納芯(あのう・しん)は、彼らの一部始終を観察しています。

朔がノイズを発信する改造車を作った廃車工場の男・式部鋭(しきぶ・さとし)は、自分を実験材料にした父親を殺そうとした朔の怒りを閉じ込めるために朔のデスマスクを作っていました。

薊は、それは何故か村山槐多に似ていたと知り……。

映画『火だるま槐多よ』の感想と評価


(C)2023 Stance Company / Shibuya Production

本作は、22 歳で夭逝した天才画家であり詩人の村山槐多(1896 – 1919)の作品に取り憑かれた若者たちが、槐多の作品を彼ら独自の解釈で表現し再生させる物語です。モチーフはもちろん、村山槐多!

ピンク映画出身で‟ピンク四天王”と称される佐藤寿保監督が、槐多の代表作である‟尿する裸僧”から彼の感性に感銘を受けて本作を作成しました。

‟尿する裸僧”は映画の中でもたびたび登場し、その作品に魅せられた若者たちがどんどんと槐多化していきます。

槐多の作品は、‟尿する裸僧”以外にも出てきますが、どれをとっても自分の存在をアピールするかのような力強さ、生き生きとした生命力に満ち溢れています。

また、槐多はガランス(朱赤色)が好きで、まるで自分の血をしぼり出すように、ガランスを作品の中にあざやかに使いまくっています。

これが村山槐多作品の魅力であり、他には見られないような激情型の槐多の感性が、観る人を作品の虜にするのかも知れません

タイトルの『火だるま槐多よ』は、槐多の友人で詩人であり彫刻家でもある高村光太郎(1883年〜1956年)が彼について書いた詩の一行「強くて悲しい火だるま槐多」からつけられたと言います。

この詩は、情熱に溢れ、憑りつかれたように絵を描き続けた槐多のことを、光太郎が「強くて悲しい火だるま槐多」と表現したものです。

火だるまのような激しい情熱で描いた槐多の作品もいくつか登場します。村山槐多を知る人も初めての人も、妖しげかつ不思議な生命力に満ち溢れたその世界観を存分に味わえることでしょう。

まとめ


(C)2023 Stance Company / Shibuya Production

22歳で病死した村山槐多の作品に魅せられた現代の若者たちが、自らのオリジナルティで槐多の作品を再生していく物語『火だるま槐多よ』をご紹介しました。

槐多の個性的な絵画に潜むのは、気持ちの赴くままに生きた破天荒とも言える彼の激しい感性です。そんな槐多に魅かれるのは、どんな生き方をめざす若者たちなのでしょうか。

どうか劇場で、槐多の作品とその感性を体感してみてください。

映画『火だるま槐多よ』は、2023年12月23日(土)〜1月12日(金)新宿K’s Cinemaにて公開他全国順次公開

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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