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映画『甘露』『Shall We Love You?』あらすじ感想評価。田中晴菜監督が短編作品で問う“幸せのかたち”とは|大阪アジアン映画祭2023見聞録3

  • Writer :
  • 星野しげみ

田中晴菜監督の短編『甘露』『Shall We Love You?』は第18回大阪アジアン映画祭「インディ・フォーラム部門」にて特集上映!

「大阪発。日本全国、そしてアジアへ!」をテーマに、アジア各地の優れた映画を世界または日本の他都市に先駆けて上映・紹介する大阪アジアン映画祭

ついに18回目を迎える本映画祭は、2023年3月10日(金)〜19日(日)で開催されます。

斬新で挑戦的な作品を紹介する「インディ・フォーラム部門」で上映される『甘露』『Shall We Love You?』。監督は、あいち国際女性映画祭の短編部門グランプリ受賞作『いきうつし』で知られる田中晴菜です。

国内外の映画祭で高い評価を受ける田中監督の短編『甘露』と『Shall We Love You?』2作をご紹介いたします。

【連載コラム】「大阪アジアン映画祭2023見聞録」記事一覧はこちら

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映画『甘露』


(C)OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL, All Rights Reserved.

映画『甘露』の作品情報

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本・編集・スチール】
田中晴菜

【撮影・録音・整音】
中島浩一

【カラリスト】
曽根真弘

【音楽】
蓑地理一

【キャスト】
岡慶悟、田中一平

映画『甘露』のあらすじ

亡くなった祖父が営んでいた駄菓子屋を取り壊すことになりました。

遺品整理をする大吾のもとに、滅多に実家にも現れなかった弟の蒼馬が帰ってきました。

2人で部屋の上り口に腰かけて昔話をします。

昔祖父の目を盗んでよく食べていた‟甘露”というお菓子で話は大盛り上がり。

そして、蒼馬が幼い頃、祖父に渡したという‟何か”を探しに行くのですが、そのうちに姿を消してしまい……。

映画『甘露』の見どころ


(C)OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL, All Rights Reserved.

駄菓子屋の祖父との思い出を語る兄弟。話題は昔よく食べたお菓子に移ります。

兄の大吾に弟の蒼馬は、よく食べて祖父に叱られたという‟甘露”というお菓子の話をします。

その時、祖父から‟甘露”には天から与えられる甘い不老不死の霊薬という意味があると言われたと言います。

幼い蒼馬に‟甘露”の食べ過ぎだと注意する祖父。その時、蒼馬は子どもらしい発想の‟何か”を祖父に渡しました。

祖父が亡くなって久しぶりに兄弟が揃った時、‟何か”の話は重要な意味をもちます。

田中監督は幼い蒼馬が渡した‟何か”のエピソードに作品のタイトルを匂わせます。子どもらしいその思い付きが可笑しくて、ついクスリとなるでしょう

また、兄・大吾が本作では奇妙な体験をします。これは、2021年に池袋シネマ・ロサにて上映された『いきうつし/ぬけがら 田中晴菜監督特集上映』の『ぬけがら』にも共通する体験でした。

田中監督の「失われるもの」または「失われたもの」へ向ける眼差しに注目した作品は、白昼夢を観ているような不思議な感覚を与えてくれます。

その類のひとつといえる本作『甘露』は、祖父との心温まる思い出を不思議なタッチで描いた秀逸な短編でした。

映画『Shall We Love You?』


(C)OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL, All Rights Reserved.

映画『Shall We Love You?』の作品情報

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
田中晴菜

【撮影・録音・整音】
中島浩一

【カラリスト・スチール】
曽根真弘

【音楽】
蓑地理一

【キャスト】
森川色、今城沙耶、西田奈未

映画『Shall We Love You?』のあらすじ

放課後、高校の体育館の隅に集まる演劇部の真琴、悠、芽依。

オスカー・ワイルド作『The Happy Prince(幸福な王子)』を翻訳、舞台化しようとしています。

彼女たちは台本の読み合わせをしながら、‟幸せ”とは何か考えます。

映画『Shall We Love You?』の見どころ


(C)OSAKA ASIAN FILM FESTIVAL, All Rights Reserved.

第17回札幌国際短編映画祭2022ジャパン・パノラマ部門選出の本作。

アイルランド出身の文人オスカー・ワイルドによる子ども向けの短編小説『The Happy Prince(幸福な王子)』を、舞台化しようとする3人の女子高生のお話です。

まずは題材となる小説のタイトルから議論が始まります。『幸福な王子』なのか『幸福の王子』なのかと。

訳し方の違いなのでしょうが、2通りあることに気が付き、それでも『幸福な王子』とする方が多いから、こっちじゃないかということになりました。

小説では、身動きのできない銅像の王子が、自由に飛べる燕に町に住む貧しい人々に自分の金箔をはがして届けてほしいと頼みます。

王子のことが大好きな燕は、南の国へ帰ることを延期して王子に頼まれるまま、王子の身体の一部の貴金属をはがして貧しい人々に与えていきます。最後には寒さに弱い燕は王子の側で息を引き取ります。

燕を使って人々に幸せを与えることができた王子は、自分で幸福感を得ることができました。それはとても「幸福な王子」と思え、これは‟幸せ”と呼べるのでしょう。

また、王子のことが好きな燕は、王子が‟幸せ”そのものでした。幸福のシンボルは王子で、燕は好きな人の役にたてて幸せだったのでしょう。

劇中では、3人の女子高生たちが現代的なセンスで、小説『The Happy Prince(幸福な王子)』の「幸せ」を紐解いていきます

舞台のセリフもピタリと決まる、息のあった3人の読み合わせが印象に残ることでしょう。

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まとめ

大阪アジアン映画祭で上映される短編『甘露』『Shall We Love You?』2作をご紹介しました。

2作品の監督は、あいち国際女性映画祭・短編部門でグランプリを受賞した短編『いきうつし』をはじめ、国内外の映画祭にて作品が高く評価されている田中晴菜。

『甘露』『Shall We Love You?』の2作の短編映画の中でも、「幸せとは何か?」をさりげなく問いかけています。 

『甘露』『Shall We Love You?』は第18回大阪アジアン映画祭にて、2023年3月11日(土)13時00分〜/3月16日(木)に大阪中之島美術館で上映!

【連載コラム】「大阪アジアン映画祭2023見聞録」記事一覧はこちら


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