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Entry 2019/06/20
Update

『凪待ち』映画ロケ地リポ③。香取慎吾と白石和彌が想いを寄せた石巻・旧北上川で、今なお震災を伝える担い手たち|凪待つ地をたずね3

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『凪待つ地をたずね』第3回

映画『凪待ち』の背景、そして白石和彌監督と香取慎吾が映画を通して描こうとしたものを探るため、本作のロケ地である宮城県の各地を巡り、その地に生きる人々を取材

ロケ地に関する情報や実際に訪れたことで感じたもの、その地に生きる人々の声を連載コラム記事にてお届けしてゆきます。


©︎Cinemarche *2019年6月13日に塩釜水産物仲卸市場で開かれた『凪待ち』完成報告試写会での香取慎吾と白石和彌監督

第3回記事では、映画『凪待ち』の郁男役で香取慎吾が訪れたロケ地の「Common-Ship 橋通り」をはじめに紹介。

また、石巻の歴史や、東日本大震災で起きた事実を知ることができる石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館、絆の駅 石巻Newseeに展示されている石巻日日新聞をご紹介いたします。

【連載コラム】『凪待つ地をたずね』記事一覧はこちら

現地リポその6:Common-Ship 橋通り


©︎Cinemarche

かつての石巻を知ることができる場所へと訪れる前に、その付近にある『凪待ち』ロケ地を一ヶ所ご紹介させていただきます。

それが、「Common-Ship 橋通り」です。

ライブ・イベント用の広い屋外ステージ、市内でのクラブ・部活動の拠点となっている2部屋の部室。そして、昼食や夜の飲み会を楽しめる6軒の店舗で構成される施設であるこの場所。

亜弓(西田尚美)の娘・美波(恒松祐里)が母親と仲違いし家出をしてしまい、その後彼女を探すために郁男(香取慎吾)や亜弓が訪れ施設中を見て回る場面が撮影されました。

いなくなってしまった人間、それも家族を探し続ける二人。

その姿はどうしても、震災後に「いなくなってしまった人間」を探し続ける、残された人々の姿を連想してしまいます。

またCommon-Ship 橋通りが震災後にできた施設であり、津波による被害も大きかった旧北上川のすぐそばにあることからも、その連想はより説得味が増してゆきます。

そのような場所で、「人探し」の場面を描く。直接的な描写ではないものの、白石監督はその場面を通じて、震災後に起きた出来事を描こうとしたのは明らかでしょう。

Common-Ship 橋通りの詳細情報


©︎Cinemarche

【住所】
〒986-0822 宮城県石巻市中央2-8-9

【問合せ】
公式HPから問合せおよび部室利用予約ができます。

Common-Ship 橋通り公式HPはコチラから

現地リポその7:石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館


©︎Cinemarche

被災地・石巻を学べる場所


©︎Cinemarche

Common-Ship 橋通りでは、震災後に起きたかつての出来事を感じさせる場面が撮影されました。

そしてCommon-Ship 橋通りと同じく、旧北上川のすぐそばには、被災地・石巻で起きたかつての出来事を知ることができる場所があります。

その一つが、石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館です。

雄勝館、北上館、牡鹿館、そして中央館という4館で運営されている石巻市復興まちづくり情報交流館。

中央館では、被災地・石巻にまつわる情報を「過去」「現在」「未来」の三つの時間に分けて展示。「過去」では震災前の石巻の風景や歴史を、「現在」では被災直後の石巻を、「未来」では石巻の復興状況や街の将来像を再現した模型を主に展示しています。

中央館にある資料写真:東日本大震災後の2011年3月12日に石巻駅前を撮影


©︎Cinemarche

震災直後の石巻だけでなく、そもそも石巻がどのような場所だったのか、そして震災後にはどのように復興が進められていったのかと、映画『凪待ち』の舞台である被災地・石巻を知ることができる施設です。

そしてここで運良くお会いできたのが、中央館にて館長兼ナビゲーターを務めているリチャード・ハルバーシュタットさんです。

元々は石巻専修大学で教鞭を執られていたリチャードさん。東日本大震災が発生した当時は、大学の研究室にいました。


©︎Cinemarche

長く日本で暮らしてきたこともあり地震自体には慣れていたものの、これまで経験したことのなかった大地震に恐怖したそうです。

被災後は友人が経営する石巻グランドホテルへと避難。しばらくの間リチャードさんはそこで避難所生活を送りました。

2011年3月17日、リチャードさんのもとに福島県での原発事故の影響を懸念したイギリス大使館から帰国勧告が届きます。

新聞でも活動が報道されたリチャードさん(日刊スポーツ 2011年3月27日掲載)


©︎Cinemarche

リチャードさんは悩みましたが、イギリスから訪れた自身を温かく迎え入れその「輪」の中に加えてくれたこと、「ここで石巻の友人たちを残して帰国してしまったら、自分が自分を許せなくなる」と感じたことから、石巻に残ることを決断しました。

その後は大学にて教員を務めながらも、石巻での復興支援活動を継続。やがて石巻市から交流情報館での仕事を勧められ、ナビゲーター、そして中央館・館長として働くことになりました。

現在、石巻の人々の中でも震災の記憶が少なからず薄まりつつあり、それは石巻以外の地で暮らす人々はなおさらであると語るリチャードさん。

被災直後の石巻を知る人間の一人である彼の姿は、被災地・石巻で起きたかつての出来事を伝える担い手として活動する姿でもありました。

石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館の詳細情報

陽気なトークを交えて石巻のことを語ってくれたリチャードさん、そして震災当時に押し寄せた津波の高さが情報館の外壁に記されています。


©︎Cinemarche

【住所】
〒986-0823 宮城県石巻市中央2−8−11

【電話】
0225-98-4425

【開館時間】
9:30〜18:00

【休館日】
火曜日(休日の際には、その翌日)
12月30日から翌年1月2日まで

現地リポその8:絆の駅 石巻Newsee・石巻日日新聞


©︎Cinemarche

また石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館から少し歩くと辿り着けるのが、「絆の駅 石巻Newsee(ニューゼ)」です。

石巻の地元紙・石巻日日新聞社の創刊100周年の記念して創設された「絆の駅」。その一階部分が、石巻日日新聞社の歴史を学べ、東日本震災時の報道写真を見られる博物館「石巻Newsee」となっています。

そして石巻Newseeで最も有名な展示物が、震災直後に石巻日日新聞社の手で発行された「壁新聞」。

津波の浸水被害によって新聞発行用の輪転機が使えない中、それでも「いま起きていることを住民に伝えなければ、新聞社としての存在意義がない」「紙とペンさえあれば新聞は作れる」と思いから発行されたものです。

施設内の壁に展示された壁新聞には震災による被害状況のみならず、避難所情報、物資供給や炊き出しの実施場所、電気等ライフラインの復旧状況、そして何よりも、地元の多くの被災者たちを励ます言葉が載っていました。

自らも被災し、身動きの取れない中でも記者たちは何とか連絡手段を入手し、各地の情報を新聞社へと報告。それらをまとめ上げて発行された壁新聞は、情報を伝えるという使命を担う一メディアとして、最も情報と希望を欲する状況下にある人々へとそれら送り続けたのです。

メディアの使命。それは石巻日日新聞社の人々が発行した壁新聞のみならず、映画もまたその担い手であります。

映画『凪待ち』のロケ現場で指揮をとる白石和彌監督


©2018「凪待ち」FILM PARTNERS

映画『凪待ち』は2018年、震災の起きた2011年から7年後の石巻でロケ撮影を行いました。

白石和彌監督はCinemarcheのインタビュー取材で次のように述べています。

「東北にいた人たちはもちろん、日本国民みんなが傷つき被災したという思いがあり、作家として、どこかのタイミングで向き合わなければならないという思いがずっとありました。

震災から8年という時間が経ち、みんなが忘れそうな頃だからこそ、映画の役割として3.11を描きたいという気持ちになりました。」

映画『凪待ち』は復興の進められてきた被災地・石巻をどのように捉え、どのように観客へと伝えるのか。それもまた、映画『凪待ち』鑑賞時における注目すべきポイントです。

絆の駅 石巻Newseeの詳細情報

【住所】
〒986-0823 宮城県石巻市中央2-8-2

【電話】
0225-98-7323

【開館時間】
10:00〜18:00

【休館日】
月曜日

石巻日日新聞の公式サイトはこちら→

まとめ

石巻日日新聞・2011年3月16日号外号


©︎Cinemarche

Common-Ship 橋通りで撮影された場面から、映画『凪待ち』は復興に伴う被災地・石巻の変わりゆく風景だけでなく、震災後に石巻とそこに住む人々が経験した出来事も間接的に描いていることが分かりました。

また、当時の出来事を公共の施設として伝えようとする石巻市復興まちづくり情報交流館・中央館、震災直後に新聞というメディアとして伝えようとした石巻日日新聞社の壁新聞を通じて、映画もメディアの一つであり、映画『凪待ち』は被災地・石巻を二つの面から伝えようとするメディアであると理解できました。

今回の記事ではロケ地巡りを少し離れ、被災地・石巻にかつて起きた出来事を知ることをメインに取材を行いましたが、その甲斐もあり、白石和彌監督と主演・香取慎吾をはじめとするスタッフ・キャスト陣の描く本作の見方の一つを知ることができました。それは、石巻に来なくては決して分らなかったことでもあります。

この記事を読まれたあなたも、『凪待ち』撮影の地・宮城県に訪ねてみませんか?

【情報】
現在、映画『凪待ち』の公開日に向けて、石巻市役所・観光課では、『凪待ち』のロケ地巡りマップを作成中です!
石巻市公式ホームページはコチラから→

取材協力:せんだい・宮城フィルムコミッション
【住所】宮城県仙台市青葉区一番町3丁目3-20 東日本不動産仙台一番町ビル6階(公益財団法人 仙台観光国際協会内)
【電話】022-393-841

次回の『凪待つ地をたずね』は…


©︎Cinemarche

第4回では、再び石巻市内のロケ地巡りを開始。変わりゆく石巻の風景を一望できる日和山公園をはじめ、映画『凪待ち』ロケ地の南浜地区、日和大橋を巡ります。

また石巻市役所の職員であり、これまで石巻市内のロケ地を案内してくださった秦野真樹さんに、復興が進められる被災地・石巻についてお聞きします。

決して遠くはない地に凪が訪れることを祈りながら、今後の記事をお待ちください。(続く)

【連載コラム】『凪待つ地をたずね』記事一覧はこちら

映画『凪待ち』は、2019年6月28日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー!

映画『凪待ち』のあらすじ

ギャンブル依存症を抱えながら、その人生をフラフラと過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)。

彼は恋人の亜弓(西田尚美)が故郷である石巻に戻ることをきっかけに、ギャンブルから足を洗い、石巻で働き暮らすことを決心します。

郁男は亜弓やその娘・美波(恒松祐里)と共に石巻にある家へと向かいますが、そこには末期ガンを宣告されてからも漁師の仕事を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)が暮らしていました。

郁男は小野寺(リリー・フランキー)の紹介で印刷工の仕事を。亜弓は美容院を開業。美波は定時制の学校へ。それぞれが、石巻で新たな生活をスタートさせました。

けれども、郁男は仕事先の同僚に誘われたのがきっかけとなり、再びギャンブルに、それも違法なギャンブルに手を染めてしまいました。

やがて些細な揉め事から、美波は亜弓と衝突してしまい、家を出て行ってしまいます。

その後、夜になっても戻らない彼女を郁男と亜弓は探しに行くものの、二人はその車中で口論となってしまい、郁男は車から亜弓を降ろしてそのままどこかへと去ってしまいました。

そして、ある重大な事件が起こります…。




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