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Entry 2019/04/12
Update

映画『凪待ち』あらすじと感想レビュー。“香取慎吾という人物像”が白石和彌監督によって剥き出しになる

  • Writer :
  • 河合のび

2019年6月に公開される白石和彌×香取慎吾の映画『凪待ち』

宮城県石巻市を舞台に、人生につまずき零落れてしまった男の「喪失」と「再生」を描いた白石和彌の映画『凪待ち』。

『彼女がその名を知らない鳥たち』『孤狼の血』など数々の名作を世に打ち出し、日本映画界の第一線で活躍する監督の一人である白石和彌と、俳優・アーティストとその多才ぶりを見せつける香取慎吾が初のタッグで挑む、観客の魂を震わすヒューマンドラマです。

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映画『凪待ち』の作品情報

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
白石和彌

【脚本】
加藤正人

【キャスト】
香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー

【作品概要】
宮城県石巻市を舞台に、人生につまずき零落れてしまった男の喪失、そして再生に至るまでの道のりを描く。

監督は、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)『孤狼の血』(2018)など、現在の日本映画界を担う映画監督の一人である白石和彌。

主演は、『クソ野郎と美しき世界』(2018)など俳優活動のみならず、アーティストとしてもその才能を遺憾なく発揮している香取慎吾。恋人・亜弓(西田尚美)とその娘・美波(恒松裕里)と共に、母娘の故郷である宮城県石巻市で再出発しようとする主人公・郁男を演じます。

多感な少女・美波を演じるのは、『くちびるに歌を』(2015)『散歩する侵略者』(2017)の恒松祐里。

また郁男の恋人・亜弓を演じるのは、映画・テレビドラマと幅広い分野で活躍する女優の西田尚美。

そして、『止められるか、俺たちを』(2018)『麻雀放浪記2020』(2019)と白石監督作品の常連俳優である吉澤健と音尾琢真、『凶悪』(2013)『万引き家族』(2018)のリリー・フランキーなど、実力派俳優陣が脇を固めました。

映画『凪待ち』のあらすじ


©2018「凪待ち」FILM PARTNERS 

ギャンブル依存症を抱えながら、その人生をフラフラと過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)。

彼は恋人の亜弓(西田尚美)が故郷である石巻に戻ることをきっかけに、ギャンブルから足を洗い、石巻で働き暮らすことを決心します。

郁男は亜弓やその娘・美波(恒松祐里)と共に石巻にある家へと向かいますが、そこには末期ガンを宣告されてからも漁師の仕事を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)が暮らしていました。

亜弓は美容院を開業、郁男は近所に暮らしている小野寺(リリー・フランキー)から紹介された印刷工の仕事を、美波は地元の定時制の学校へと、三人の新たな生活が始まります。

しかしすぐに、郁男は仕事先の同僚に誘われたのがきっかけとなり、再びギャンブルに手を染めてしまいました。

やがて些細な揉め事から、美波は母である亜弓と衝突してしまい、家を出て行ってしまいます。

その後、夜になっても戻らない彼女を郁男と亜弓は探しに行くものの、二人はその車中で口論となってしまい、郁男は車から亜弓を降ろしてそのままどこかへと去ってしまいました。

そして、ある重大な事件が起こります…。

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「剥き出し」にされた香取慎吾

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映画『凪待ち』においてまず驚かされるのは、主演である香取慎吾の凄まじいまでの演技力です。

それはテレビなどによって植え付けられた「香取慎吾」に対する世間一般のイメージ、すなわち「香取慎吾」というキャラクターからは全くかけ離れたものあり、本作を鑑賞している最中にも「香取慎吾」という名を忘れてしまう程のものでした。

香取が本作で演じるのは、責任や罪を負うことを恐れ、フラフラと生きることしかできないギャンブル依存症の中年男。役柄そのものが「香取慎吾」というキャラクターからは考えられないものですが、香取はその役を見事に演じ切っています。

その変貌ぶりは、「香取慎吾」というキャラクターが白石監督によって「剥き出し」にされ、一人の演者、一人の人間としての香取慎吾がスクリーン上に出現したということ。

或いは香取自身が、自己に覆い被さっていた「香取慎吾」というキャラクターから解放されるために、本作での演技を通じて全力でもがき続けたということを証明しています。

それまでに築かれてきた「香取慎吾」というキャラクターを愛する方々にとって、その姿は驚きを超え、ショッキングでさえあるでしょう。

しかしながら、「香取慎吾」というキャラクターを引き剥がされ、一人の人間へと戻った香取慎吾を、スクリーン上で観られるということに対する価値は、計り知れないものでしょう。

そして、「香取慎吾」というキャラクターを知る人間であればある程、その機会は決して見逃してはならないものなのです。

『凪待ち』の舞台・宮城県石巻市

本作の舞台は、宮城県の石巻市となっています。

石巻市といえば、かつて2011年3月11日に発生した東日本大震災「3・11」において、津波によって壊滅的な被害を受けた地域の一つです。

劇中でも、建物の土台のみが残っている元・住宅地、新たに建てられた防波堤、重機が稼働している工事現場が点々と見受けられる町など、震災そして津波の傷跡が残る石巻市の風景が映し出されています。

さらに、亜弓の父で漁師である勝美の妻(亜弓の母)も、かつて津波によって亡くなっていることが劇中にて語られます。

妻が亡くなった後も、末期ガンを宣告されてからも、漁師として海に出続ける勝美。それは、震災を経てからも懸命に漁業を営み続け、「港町・石巻」で暮らし続ける人々の姿と重なります。

だからこそ、主人公・郁男に向けられた勝美の語りは、吉澤健の名演も相まって、重みと深みを纏うのでしょう。

震災を経た「港町・石巻」の姿。それは本作を語る上では避けては通れないものであり、注目すべきところの一つでもあるのです。

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「喪失」と「再生」の物語

主人公・郁男をはじめとする登場人物たちの「喪失」と「再生」の物語でもあります。

「喪失」と「再生」。その二つの言葉は、震災を経た「漁港・石巻」の姿、何よりも、そこで暮らす人々が経験する、余りにもありふれた人生模様そのものを表しています。

震災を経たとしても、変わらないものはある。それは、ありふれた悲しみ、ありふれた怒り、ありふれた喜びといった無数の感情で形作られる、ありふれた人生なのです。

この作品で「喪失」と「再生」という二つの言葉を介して、震災によって変わってしまった人々の人生、そして震災を経ても変わることなく続いてしまう、ありふれた人々のありふれた人生を、丁寧に、重ね合わせるようにして描いているのです。

では、主人公たちは何を「喪失」し、どのように「再生」してゆくのか。その道のりにおいて、どれ程の苦痛と代償を要するのか。

その答えもまたありふれたものなのかもしれませんが、それを知ること、或いはそれを知ろうとする勇気は、決して無意味なことではなく、登場人物たちのようにありふれた人生を送る観客たちにとっての生きる糧となるでしょう。

まとめ

「香取慎吾」というキャラクターから「一人の人間」となった主演・香取慎吾の演技

また震災を経た宮城県石巻市の風景

そして、震災によって深く傷ついた地にて綴られる、ありふれた「喪失」と「再生」の物語

それらを一本の映画の中で描き切ってしまった白石監督には、驚嘆の言葉しか出てきません。

映画『凪待ち』は2019年6月、TOHOシネマズ日比谷を皮切りに全国ロードショー!




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