Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/02/15
Update

『クラッシュ・オブ・ゴッド神と神』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。封神演義ファン必見の中国版マーベル映画を体感せよ|未体験ゾーンの映画たち2022見破録10

  • Writer :
  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第10回

映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。

傑作・珍作に怪作、神仙が躍動する世界を描く作品など、様々な映画を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破して紹介、古今東西から集結した映画を応援させていただきます。

第10回で紹介するのは、漫画やアニメでもお馴染み「封神演義」の世界を映画化した『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』

2021年まだ世界にコロナウィルス感染症の影響が残る中で、約8575億円の興行収入を記録し、世界最大の映画市場の実力を見せつけた中国映画界。

その売り上げの84%が国内映画というから驚きです。そんなメイド・イン・チャイナ映画の実力を証明するような、本格伝奇アクション映画を紹介します。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら

映画『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』の作品情報


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

【日本公開】
2022年(中国映画)

【原題】
封神榜 決戦万仙陣 / The First Myth Clash of Gods

【監督】
リー・ボオシュン

【キャスト】
リュウジュ・ジャン、ジュンジュン、サンムル・チャン、ポール・チェ、ヤンミン・ワン

【作品概要】
仙人や道士・妖怪が争いを繰り広げる、中国古典の神怪(神魔)小説を代表する作品「封神演義」の世界を、60億の製作費を投じて映画化した作品です。

監督は唐の詩人、李白を伝奇アクション映画の主人公にした『李白之天火燎原(Libai Hell-Fire)』(2019)のリー・ボオシュン。

『李白之天火燎原』のリュウジュ・ジャン、アイドルグループ”モーニング娘”に第8期留学生メンバーとして参加したジュンジュンらが出演。

『エボラ・シンドローム 悪魔の殺人ウィルス』(1996)や『インファナル・アフェアⅢ 終極無間』(2003)、『大樹は風を招く』(2016)に『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』(2017)と、多数の映画に出演のヤンミン・ワンも共演しています。

映画『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』のあらすじとネタバレ


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

古代中国。商(殷)の国の王・紂王は暴政の限りを尽くし、民は苦しんでいました。それを阻止しようと周の国の武王が立ち上がります。

武王を支えるのは賢臣・太公望こと姜子牙(ヤンミン・ワン)。彼は闡教という仙道に通じた道士でした。

彼は武王と共に兵を率い、険しい岩山の上にある祭壇・封神台で、封神榜を使い共に戦う闡教の神仙を呼ぶ儀式を行います。

武王と彼の忠実な女武将、邓婵玉(ジュンジュン)が兵たちと共に見守る中、儀式は順調に進むかに見えました。

しかし姜子牙の傍らに立つ、闡教の道士の武将、黄天化は儀式を見守る怪しい影に気付きます。儀式は妨害され、周囲に怪しい風が吹きます。

そして封神台に鬼神・魔礼海、魔礼青、魔礼紅、魔礼寿が現れます。4人の鬼神を従えるのは、黒点虎と共に現れた紂王に仕える道士、申公豹でした。

姜子牙の弟弟子である申公豹は、封神榜を奪いに現れたのです。黄天化が立ち向かいますが、申公豹と鬼神の力に歯が立ちません。

武王が率いる軍勢は、鬼神が操る巨象に蹴散らさせます。混乱する戦場に姜子牙に呼ばれて現れる、半人半鳥の神仙・雷震子。

姜子牙は申公豹が封神榜を我が物にして、儀式を行わぬように雷震子に封神台を破壊させます。そして姜子牙の身を邓婵玉と黄天化が守りました。

2人は申公豹に負かされますが、その危機を雷震子が救います。雷を操る雷震子は申公豹に付き従う黒点虎を打ち払います。

そして雷震子は申公豹に挑みますが、彼の術で錯乱します。制御できずに発した強烈な雷は武王や姜子牙、そして多くの味方の兵士を吹き飛ばしました。

その隙に姜子牙から封神榜を奪い、申公豹は姿を消します。黄天化に封神榜を取り戻さねばならぬ、と叫ぶ姜子牙。

人の姿に戻った雷震子は、自分が傷付け倒した兵士たちの前に立ち尽くし、大声で叫びます。

こうして封神榜を巡る、人と神仙を巻き込んだ激しい戦いの幕が上がります…。

多くの死者や負傷者を出した武王の陣営に、神仙の武将・楊戬(サンムル・チャン)が姿を現します。

(楊戬は顕聖二郎真君と呼ばれる、中国ではポピュラーな道教の神。「封神演義」だけでなく「西遊記」にも登場します)

楊戬は姜子牙が俗世の人間の争いに、神仙を巻き込んだと黄天化に抗議します。楊戬に申公豹がもたらした惨劇を見せ、理解を求める黄天化。

申公豹に奪われた封神榜を取り返す必要を理解する楊戬ですが、俗世の仙人たちの力も借りて戦うと言う黄天化に、楊戬は人間の力を軽んじる態度を見せました。

火と風を放つ車輪、風火二輪に乗り自在に空を飛ぶ哪吒(リュウジュ・ジャン)も俗界に現れます。

(哪吒は道教の少年神で、中国仏教やヒンドゥー教にも現れます。この神も「西遊記」に登場し、日本のサブカルチャーでは「ナタク」の名で有名)

人の子である哪吒を祀る廟は、哪吒の父・李靖将軍が信仰を禁じたため荒れ果てていました。彼に民衆のために戦って欲しいと告げる姜子牙。

一方商の紂王は戦争や政治に関心を持たず、傾国の美女・妲己を寵愛する自堕落な生活に耽っていました。

雷震子は力を暴走させた自分が、多くの人々を傷付けた記憶に苦しんでいました。邓婵玉に厳しく迫られても、戦から逃げようとする雷震子。

申公豹は密かに、神仙界と俗界の支配者になろうと目論む、闡教と対立する仙道・截教の教主、通天教主(ポール・チェ)の元を訪れます。

封神榜を使って通天教主とその配下の封印を解き、彼の野望に協力する。その見返りに人の世界、俗界の支配者にしてもらう、それが申公豹の企みでした。

通天教主の災いを呼ぶ術で、武王陣営の兵士は次々疫病に倒れます。仲間の死を嘆き悲しむ兵の前で、非情にも疫病を防ごうと屍を焼き払う楊戬。

邓婵玉は神仙が本当に共に戦ってくれるのかと、武王に疑問を口にします。姜子牙の策に従い、神や仙人の力を借りて商の紂王を倒し、民に平穏をもたらすのが私の使命だ、と告げる武王。

姜子牙の元に共に戦う武将や神仙が集まりました。神仙が軍議に参加することに反対する邓婵玉を抑え、姜子牙は皆に申公豹はかつての夏の国の都、今は荒廃した斟鄩城にいると説明します。

今から500年前、商の前に中国を支配した夏王朝の傑王が暴政を働いた時、商の湯王と宰相・伊尹が天命を受け封神榜を使い、この地で傑王を倒したと語る姜子牙。

今まさに封印を破る儀式を行うに相応しい時期だ、と言葉を続けます。そして斟鄩城では申公豹が、封神榜の力を解放する儀式を行っていました。

楊戬と雷震子がその場所に現れます。しかし術を用いてたやすく雷震子を人の姿に戻した申公豹。

斬りかかる楊戬と互角に渡り合う申公豹は、雷震子を傷付けようとして駆け付けた哪吒に阻止されます。降伏しろと告げた哪吒を、申公豹はあざ笑います。

儀式は完了し神仙が降臨するはずでした。しかし何も現れず、封神榜に何も記されていないと気付く申公豹。その隙に哪吒は彼を倒しました。

すると地中から神仙の1人、土行孫が現れます。自在に地中を進むことが出来る土行孫は、意のままに操れる縄・捆仙縄を武器にする神仙です。

捆仙縄で申公豹を捕らえると姿を消す土行孫。はた迷惑な儀式をしたと申公豹を責めますが、追いついた哪吒と争いになりました。

そこに楊戬と、まともに変身できない雷震子もやって来ます。神仙と俗界の戦いよりも、金銀財宝にしか興味が無い土行孫と揉めますが、ともかく申公豹を捕らえた楊戬たち。

こうして申公豹は、姜子牙との前に引き出されます。顔をそろえた神仙たちに、封神榜の封印を解いて人々のために働いても、仙人たちを誰一人救う事にはならないとうそぶく申公豹。

報酬目当てに協力した土行孫は、共に行動すればさらに宝物が手に入ると仲間に加わりました。姜子牙は商の紂王を操る妲己には、何か狙いがあると説明します。

妲己と申公豹の狙いは、万仙陣を用意し六魂幡の術と封神榜を使い、天界に通じる門、通天門を開いて通天教主と、彼の截教を信仰する配下を俗界に呼び出すことだ。

これが実行されれば商の紂王に逆らう者は一掃され、民は暴政に苦しみ続けると語る姜子牙。

通天教主の強大な力を知る一同は驚愕します。土行孫は封神榜を持って逃げ出そうとして、姜子牙にたしなめられます。

哪吒は申公豹の力の源である杖を、破壊しようと試みますが無理でした。そこで強引に雷震子の力を取り戻そうと振る舞い、楊戬の怒りを買いました。

楊戬と哪吒は対立し、雷震子は自信を喪失していました。武王の命で民のために働く邓婵玉と、姜子牙の忠実な弟子の黄天化は、名誉より私欲でしか動かぬ神仙の土行孫を軽蔑します。

封神榜を巡る争いが神仙に災いをもたらすと悟った楊戬たちと、商王朝と申公豹の野望を阻止し、民を救いたいと望む姜子牙と邓婵玉の意見も衝突しました。

武王と姜子牙は俗世で仙術を学んでいる人々、仙人にも周の軍勢への参加を呼びかけていましたが、一行に参集する気配がありません。

悪に挑もうと集まった、神と人との信頼は崩れようとしていました。そんな周の武王の陣営に、何者かの影が迫りつつありました…。

以下、『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』のネタバレ・結末の記載がございます。『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

不信感から英雄たちが互いに武器を向け、一触触発の事態になった時、土行孫が外の怪しい気配に気づきます。

武王の陣営を鬼神が操る巨象が襲撃します。申公豹に従う鬼神が商の兵士と共に襲撃したのです。動揺する兵を率いて反撃する黄天化。

対立していた神仙と、武王に忠実な女武将・邓婵玉も敵に立ち向かい、雷震子は怒りから化身します。

周の民を虐殺する敵兵の前に哪吒が立ちふさがり、姜子牙も術を使って応戦しました。

土行孫は申公豹の牢に駆け付けますが、杖を手に入れ力を取り戻した申公豹に捕らえられます。そこに黄天化が現れます。

武王は無論、商王朝が滅亡しても興味がないとうそぶく申公豹。人間の力を見せると打ちかかったものの、申公豹に倒された黄天化。

敵を次々倒す楊戬と姜子牙の前に、武王を人質にした鬼神が現れます。やむなく姜子牙は、武王の身柄と引き換えに封神榜を渡しました。

申公豹は自分につき従う黒点虎を呼ぶと、その背に乗り去りました。鬼神たちも姿を消し、自分を守って死んだ黄天化のために泣く土行孫。

武王は姜子牙や邓婵玉、そして神仙たちと共に、黄天化や亡くなった兵や民の亡骸を火葬にします。

平和な世を築く信念を抱いて、多くの人間が理想に殉じた事実に心打たれる楊戬と哪吒。

しかし封神榜を手に入れた申公豹は、截教の教主・通天教主を俗界に降臨させる儀式を行い、通天門を開こうとしていました。

人間の姿に戻り浜辺に倒れていた雷震子は、自らの武器で体を貫き、迷いを断ち切って新たな力を得ます。

神仙も武将も戦いを決意し、武王の前に集まります。姜子牙は武王に兵を集め、一気に商を討ち申公豹の野望を阻止しようと献策しました。

哪吒は単身で申公豹の儀式を阻止しようとします。神の身である哪吒に術は通じませんが、申公豹は姿を消して儀式を続けます。

天に上る光を見た姜子牙は、万仙陣で六魂幡の術が発動したと悟ります。通天門が開けばこの世は終わる、と武王に告げる姜子牙。

通天教主が力を発すると、俗界の都に地震が起き人々は逃げ惑います。通天教主に仕える截教の神仙が降臨し、術を使い都にバリアを張り巡らします。

バリアに触れた人間は砕け散ます。都は包囲され人々はその中に閉じ込められました。力を発揮してもバリアは破れぬと悟る闡教の神仙たち。

天から巨大な龍魚が現れ街を破壊します。単身空を飛ぶ龍魚に挑む哪吒を、土行孫は捆仙縄を投げて、そして空に駆け上がった邓婵玉が援護します。楊戬と復活した雷震子の力で龍魚は倒されました。

円陣を組んで身構える神仙と武将たち。しかし通天教主は俗界に截教に従う神魔兵を送り込みます。

万仙陣と六魂幡の術を破って通天門を閉じ、1人でも多くの人々を救おうと楊戬は仲間それぞれに指示を下します。こうして神と神の戦いが始まりました。

申公豹は降臨した通天教主に、これでは自分が支配する人間界が滅びると抗議します。お前は滅びた下界を得るが良い、とうそぶく通天教主。

通天教主を止めようと挑んだ申公豹は、まったく歯がたちません。彼の率いる4人の鬼神も土に返され、申公豹は黒点虎に乗り逃げ出します。

通天教主に従う截教の神魔兵は続々降臨し、人々を殺害し始めます。その圧倒的な数の前に神仙も苦戦しました、

すると今まで在野に潜んでいた多くの仙人たちが、危機を知り現れます。力を合わせて立ち向かう彼らの姿を見て、民衆も武器を手に立ち上がります。

仙人たちと共に楊戬と雷震子は神魔兵と商の兵に反撃し、黒点虎に気付いて申公豹を追った邓婵玉と土行孫。

申公豹は術で邓婵玉を倒しますが、民衆の手で捕えられ袋叩きにされます。

雷震子の雷で黒点虎も負かされ、民衆と共に黄天化の仇、と申公豹を火あぶりにしようとする邓婵玉。

慌てた申公豹は、通天門を閉じ截教の教主・通天教主を封じる方法を教えると訴えました。

申公豹は六魂幡の術を破る力を授けた杖を邓婵玉に渡し、自分に仕える黒点虎に彼女を乗せ、万仙陣に向かわせます。

彼女が使命を果たせば、また自分にチャンスが巡ってくる、などと都合の良いことを叫ぶ申公豹は、名も無き庶民に殴り倒されました。

万仙陣に現れた邓婵玉は、神魔兵を相手に苦戦します。そこに女相手に卑怯だと叫んで現れ、加勢した土行孫。

天上から俗世の凡人たちを抹殺すると宣言する通天教主に、楊戬・哪吒・雷震子が力を合わせて挑みますがかないません。

天上でも、万仙陣でも死闘が繰り広げられます。封神榜に文字が記され、通天門を開く術は完成しようとしていました。

邓婵玉は申公豹から渡された杖で封神榜を突き、六魂幡の術を中断させます。それに気付き哪吒を倒して墜落させ、万仙陣に降り立つ通天教主。

通天教主は邓婵玉と土行孫を屈服させ、駆け付けた楊戬と雷震子も圧倒的な力で倒します。

改めて封神榜を開き、通天門を完成させようと術を再開した通天教主。しかし復活した哪吒が阻止しました。

哪吒の背後には多数の仙人たちがいます。その力を封じようと全力で立ち向かう通天教主。

その隙に楊戬と雷震子と土行孫は得意の術で通天教主で挑み、封神榜を閉じようと邓婵玉は歩み出します。

哪吒は輝く球体を宙に作り、在野の仙人たちはそれに念を送ります。力をため込んだ球体から光線を通天教主に浴びせる哪吒。

倒された截教の神魔兵たちの救いを求める声に襲われ、混乱する通天教主。その隙に邓婵玉は杖で封神榜を突き、閉じることに成功しました。

六魂幡の術は中断し通天門は閉じ始め、神魔兵は灰になりました。門が完全に閉じる瞬間、天界へ逃亡する通天教主。

都を覆った黒雲は晴れ、俗界を滅ぼす野望は阻止されました。人々に大英雄と讃えられた哪吒は、彼らも同じだと告げました。

現れた楊戬・雷震子・邓婵玉・土行孫も、民衆が大英雄と叫ぶ歓呼の声に迎え入れられます。

武王と太公望=姜子牙が率いる軍勢が都にやって来ました。哪吒が奪い返した封神榜を姜子牙に差し出すと、配下の兵と共に深く拝礼する武王。

一方の紂王は群臣に見棄てられ、1人嘆き叫びます。その姿を眺めていた妲己は、術を使い王宮に火を放ちました。

捕らえらても口の減らない申公豹を、楊戬たちは封神榜の力で冥界に送ります。

こうして武王によって商(殷)の紂王は倒され、新たに周の時代がやって来ました。平和な世は始まったばかりですが、神仙たちは去って行きました。

また世が乱れたらどうなると問う武王に、姜子牙は答えます。彼らは必ず帰ってきます。それが彼らとの、友としての約束です…。

映画『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』の感想と評価


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

古代中国史では、神話・伝説の時代に続いて夏王朝が誕生し、次いで登場したのが商(殷)王朝。それが周王朝に変わったのは紀元前12~11世紀頃と言われています。

商最後の皇帝・紂王(帝辛)は妲己を寵愛し、”酒池肉林”の言葉で知られる放蕩三昧にふけり、暴政の限りを尽くしました。

その紂王に挑んだのが周の武王。人材を望んだ彼はある日、釣りをしている老人に出会いその才能を知り、重臣として登用します。この呂尚こそ”太公望”と呼ばれる賢人でした。

太公望の力を借り、紂王打倒に立ち上がる武王に諸侯も従い、ついに商王朝が滅びるという話、大昔の事でどこまで真実でどこまで伝説やら、確かめようがありません。

しかし”酒池肉林”の言葉や”太公望”の名、そして傾国の美女・妲己の名は中国はむろん、日本でも有名です。

平安末期に上皇の寵愛を集め、武士が台頭する戦乱の原因を生んだ伝説の美女、玉藻前の前世は妲己、その正体は”九尾の狐”というお話は、妖怪ファンならずともご存じでしょう。

日本でもこの商(殷)代末期の、殷周革命の時代を舞台にした様々な物語は、昔から文学や芸能の世界の題材になっています。

その原典は中国で誕生した、殷周革命の際に仙人や道士、妖怪が人界と仙界で戦いを繰り広げたという伝説、民間伝承でした。

この伝説は中国では宗教文化・民間信仰、そして文化・芸能に大きな影響を与えています。やがてこの物語は、明の時代に「封神演義」という小説として完成します。

封神演義の世界を大胆にアレンジ


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

中国の歴史の中で語り継がれた「封神演義」の世界。”太公望”=呂尚は姜子牙という名の、闡教という仙道の道士に姿を変えました。

闡教は人間出身の仙人・道士が信奉する仙道で、対する通天教主は動物・植物など森羅万象の様々な物が、神仙となり信奉する截教の教主です。

人間界の殷周革命を機に闡教と截教の神仙が争う。この闘争には戦死する運命を持つ365名の仙ならざる仙、人ならざる人を神に封じる、天帝の狙いがありました。

この365名の神となる者のリストを記した巻物が”封神榜”、この天帝が望む封神を達成し、商を倒し周王朝の天下を作る使命を負ったのが姜子牙です。

以上の説明について来て頂けましたか?マンガやアニメやゲームで「封神演義」をご存じの方には、お馴染みの設定だったかもしれません。

この物語は、同じ未体験ゾーンの映画たち2022上映作『超 西遊記』で解説した「西遊記」と同じく、スケールの大きなファンタジー小説として、ほぼ同時代に成立しました。

科挙の合格を目指す書生などが活躍した文化的に豊かな時代に、今風に言えばオタクたちが加筆・二次創作を加えた果てに誕生したのが「封神演義」。

史実伝奇ごちゃまぜの多くの登場人物が活躍する、とんでもない情報量を持つ痛快な物語になるわけです。

本作で活躍するヒーローたちも、古来より民間で信仰される神様もいれば、数奇な運命で超人的能力を得た者、努力して仙道を極めた者もいます。

これは神様や人間がヒーローとして共闘する、まさにマーベルコミックのキャラクターと同じでは?そんな視点で描いたのが、紹介した作品『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』です。

中国古典の英雄たちはマーベルヒーロー?


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

戦場のリーダー格、楊戬はキャ○テン・アメリカ的な立ち位置です。でも額からビームを出すのは、ヴィ○ョンの姿に似ています。空飛ぶ哪吒は少年版のアイ○ンマンでしょうか?

変身し能力を暴走させる雷震子は明らかにハ○ク、ですがマイティ・○ーのように雷を操ります。

人間属性が強めの邓婵玉はブ○ック・ウィドウ、黄天化はホー○アイ的な立ち位置でしょうか。

コミカルな役回りで縄を操る土行孫はス○イダーマン、でも身長的にはピーター・ディンクレイジが演じたキャラクター…それは無いですね。

超人たちのまとめ役、姜子牙はXー○ンの、プ○フェッサーXでしょうか…と、当てはめる作業が非常に楽しい作品です。

勝手に妄想するな!、と怒られそうですが、本作は『アベンジャーズ』(2012)のプロットそのもので、類似シーンも多数存在します。ならば申公豹は役回りから○キで確定ですね。

そしてどこかで目撃したような、ヒーロー集合ドヤ顔シーンまでありますから、思わず笑ってしまいました。

ハリウッドの大作マーベル映画を意識し、その映像世界を「封神演義」を題材に、同等の映画として完成させたのが『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』です。

まとめ


(C) IMAGE(Beijing) Cultural Media Co.,Ltd., ZhuHai handu Film and television Investment Co., Ltd. All Rights Reserved. Distributed by iQIYI,INC.

現在多数の中国古典を題材にした、伝奇・ファンタジー映画が作られる中国映画界。

その中でも、とりわけマーベル映画を意識し、多くの製作費を投入して誕生した作品が『クラッシュ・オブ・ゴッド 神と神』です。

その意気とスケールには圧倒されますが、「さすがにマーベル映画に似せ過ぎでは?」という声も多数上がったのも事実。

中国の観客もハリウッド映画の再現ではなく、独自性を持つ自国の大作映画を望んでいるように思われます。世界一の映画大国となった、中国映画界のエンタメ作品はそこまで成長し、成熟を遂げたのでしょう。

そもそもマーベル作品的世界観をもつ物語を、92分で描くのは何とも豪快。「封神演義」の改変ダイジェスト版、といった映画です。

知らない人には怒涛の展開、あらすじ紹介ではそんな部分を理解して頂けるよう心掛けましたが…いかがでしょうか?

映画化にあたり、各キャラクターは原典より人間的属性が強まり、共感しやすい葛藤を持つ存在に改変され、馴染みやすい物語になっています。

封神榜を始め、登場する様々なアイテムも設定を変え、初見の方にも理解しやすい存在になりました。

一方で中国で人気の神様・哪吒の描き方や、原典でも色々描かれている土行孫をこう描き、邓婵玉との関係性はこんな形でストーリーに組み込んだ…など、中国文化や「封神演義」ファンなら興味の尽きない作品です。

でもやはり、一番楽しい鑑賞法はマーベル映画と比較して、ツッコミを入れながらご覧になることでしょう。

そして笑っている間に、「あれ、マーベル・シネマティック・ユニバースの世界って、中国の古典小説の中に存在してる」「それは昔、オタクな人たちが作り上げた物語だ」、と気付かせてくれる映画です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…


(C)2019 FULL TIME STUDIO – CINEFRANCE STUDIOS – EQUITIME – WTFILMS

次回の第11回は細くて狭い、謎の殺人迷路から脱出なるか!SF不条理ワンシチュエーション映画『TUBE チューブ 死の脱出』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら






増田健(映画屋のジョン)プロフィール

1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。

今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn

関連記事

連載コラム

『マチネの終わりに』映画と原作の違いをネタバレ考察。4つのキーポイントを徹底解説|永遠の未完成これ完成である1

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第1回 こんにちは、もりのちこです。 小説や漫画を原作にした映画化の魅力は、「一粒で2度美味しい」。異なる表現である文字と映像をストーリーを通して、「一石二鳥」 …

連載コラム

『クリード過去の逆襲』あらすじ感想と評価解説。“クリード3”でマイケルBジョーダンは“ロッキーの魂”を最後に受け継ぐ|映画という星空を知るひとよ149

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第149回 2023年5月26日(金)に全国ロードショーを迎える映画『クリード 過去の逆襲』。ボクシング映画の名作『ロッキー』に登場した世界ヘビー級チャンピオン …

連載コラム

SF映画おすすめ『アノンANON』ネタバレ感想。近未来のテクノロジー社会をスタイリッシュに風刺|未体験ゾーンの映画たち2019見破録5

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第5回 様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施さ …

連載コラム

SF映画おすすめランキング!2010年代の隠れた名作ベスト5選【糸魚川悟セレクション】|SF恐怖映画という名の観覧車106

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile106 今回のコラムでは遠藤麻衣子監督による最新映画『TOKYO TELEPATH 2020』(2020)をご紹介予定でしたが、予定を変更させて …

連載コラム

女優リリー・ジェームズへのインタビュー【シンデレラ・ストーリー】FILMINK-vol.33

FILMINK-vol.33「Lily James: A Cinderella Story」 オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学