連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第24回
様々なジャンルの映画を集めた劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田にて実施、一部作品は青山シアターにて、期間限定でオンライン上映されます。
昨年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第24回で紹介するのは、第1次世界大戦を舞台にした戦争映画『グレート・ウォー』。
ヨーロッパを戦火に包んだ、人類が初めて経験した総力戦が終わって、1世紀以上がたちました。あの戦争を新たな視点、新たな技術で描く映画も、続々登場しています。
その戦いに参戦したアメリカ軍に黒人部隊が存在していました。歴史に埋もれた秘話が今、映画となって登場します。
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CONTENTS
映画『グレート・ウォー』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Great War
【監督・脚本】
スティーブン・ルーク
【キャスト】
ロン・パールマン、ビリー・ゼイン、ベイツ・ワイルダー、ハイラム・A・マレー、アーロン・コートー
【作品概要】
第1次世界大戦の休戦協定発効間近、最前線で孤立した黒人部隊を救う任務に当たる男たちを描いた戦争映画。『米軍極秘部隊 ウォー・ピッグス』で原案・脚本・出演、『バルジ・ソルジャーズ』では監督・脚本・出演を務めている”戦争映画を隅々まで知る男”、スティーブン・ルークが監督・脚本を務めた作品です。
出演はギレルモ・デル・トロの監督の盟友ロン・パールマンに、『タイタニック』でレオナルド・ディカプリオの敵役を務めたビリー・ゼイン。TVドラマ『ブラザーフッド』他数々の映画に出演している、ベイツ・ワイルダーが出演しています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『グレート・ウォー』のあらすじとネタバレ
1918年11月、第1次世界大戦も連合国とドイツの休戦協定の発効が迫り、ついに終結の時を迎えようとしていました。しかし休戦時の領土獲得を狙い、各地で戦闘が続いていました…。
11月8日、アメリカ外征軍による攻勢で激戦が続くアルゴンヌの森。最前線の部隊の指揮官リバース大尉(ベイツ・ワイルダー)は、戦闘の記憶のフラッシュバックに苦しめられていました。その前にリチャードソン軍曹(アーロン・コートー)が現れ、大尉は我に返ります。
軍曹は敵の人数と機関銃の配置を報告します。戦線の彼らの隣では、黒人兵で編成された365連隊、通称「バッファロー部隊」が戦っていました。
戦闘訓練が不足していると、黒人部隊を偏見の目で見る米軍将兵も少なくありませんが、彼らを指揮する白人将校は、部下の黒人兵に信頼を寄せていました。
リバース大尉はリチャードソン軍曹と共に、敵の間近に迫ります。彼らは部下と共にドイツ軍陣地に突撃します。しかし敵の機関銃と防御砲火で、アメリカ兵は次々倒されます。度重なる戦闘で精神をすり減らし、恐怖に囚われ最前線で動けなくなるリバース大尉。
突然戦場に現れた黒人兵に殴られ、しっかりしろと励まされたリバース大尉。我に返った彼はリチャードソン軍曹に合流し、生き残った兵士を掌握します。
大尉に指揮された兵士は手榴弾で機関銃座を破壊し、ドイツ軍の塹壕に突入します。激しい白兵戦の末に塹壕の敵兵を倒し、部隊はドイツ軍の前線司令部を制圧しました。
ドイツ兵が米軍から奪った星条旗を見つけたオマリーら部下の兵士は、それを取返し我が物とします。リバース大尉の震えが止まない手を、リチャードソン軍曹は見て見ぬふりをします。大尉は軍曹とカーバー伍長に、陣地の確保と司令部への伝令を派遣を命じます。
戦場には多くの敵味方の死体が横たわっていました。その中には黒人兵の姿もありました。
11月9日。フランスのショーモンにある司令部で、モリソン大佐(ビリー・ゼイン)は365連隊の黒人兵小隊が、アルゴンヌ戦線で行方不明になったとの報告を受けていました。
黒人部隊は最前線を進み過ぎて孤立したのです。その側面には第77師団、通称「自由の女神師団」がいました。直ちに米外征軍最高司令官、パーシング将軍(ロン・パールマン)に事態を報告するモリソン大佐。
パーシング将軍は黒人部隊の活躍を高く評価していました。一方でまもなく休戦だというのに、領土を巡り最後まで死闘を続ける独仏両軍の戦闘に、米軍部隊が巻き込まれ死傷者が増える事態を憂慮していました。
モリソン大佐の報告を受けた将軍は、休戦協定発効までに土地を奪還しようと、孤立した黒人部隊にドイツ軍が攻め寄せてくると判断します。
米本国で権利と真の自由を獲得するために、ヨーロッパで戦っている黒人兵たちを、パーシング将軍はリンカーン大統領の言葉を引用して讃えます。将軍は最前線の丘の上で支援もなく戦っている黒人部隊を、必ず無事救出する必要があるとモリソン大佐に伝えます。
前線の司令部をリバース大尉は訪れていました。司令部の将校は使える兵士をすべて前線に送った結果、訓練や装備の不足で多くの死傷者が出たと嘆いています。そこで365連隊の、孤立した黒人部隊の救出を命じられるリバース大尉。
大尉は部下には黒人が苦手な者もいる、と断りますがこれは命令だと言われ従います。彼はリチャードソン軍曹と与えられた任務について検討します。2人はドイツ兵が潜む前線を突破し、黒人兵を連れ戻す任務であれば、少人数で向かうべきとの結論に達します。
2人とカーバー伍長、兵士のピンチェリ、オマリー、クインそしてカルディーニが救出に向かうことになりました。そして道案内を頼むべく、孤立した部隊の場所を知る黒人部隊の二等兵ケイン(ハイラム・A・マレー)を探します。
ケインを探し出しますが、その黒人部隊の白人将校はリバース合に、能力に劣る黒人兵が目障りでお荷物だと、これ見よがしに言い捨てます。同期の友人、ロバーツ大尉が黒人部隊を指揮しているリバースに、その言葉は不当に思われました。道案内の命令に喜んで従うケイン二等兵。
リバースの部下の白人兵は、黒人兵のケインが加わると知り動揺しますが、任務を果たすまでの一時的な処置と説明され、大尉の命令に納得しました。こうして部隊は出発します。
部隊は森の中を進み、最前線で両軍兵士の負傷者を世話する、赤十字の野戦病院に到着しました。看護婦・クレイボーンにここは危険だと言い、後方に下がるよう告げるリバース大尉。しかし彼女ら赤十字の職員は、務めを果たすためこの地で負傷兵の看護を続けます。
この先の丘の上に部隊がいるというケイン。孤立した部隊の生死に関係なく、任務を果たそうとリバース大尉は部下に告げます。しかし部下の白人兵は、ケインに差別的な態度をとります。それは黒人への偏見だけでなく、休戦間際に危険な任務を与えられた怒りもありました。
目の前に家が現れます。部下に警戒を命じる大尉。そこにドイツ兵がいて、機関銃で射撃をしてきます。リチャードソン軍曹と部下の兵士、そして黒人兵のケインも勇敢に行動します。
すると別方向からドイツ兵を攻撃する部隊が現れ、敵は排除されました。現れた部隊は「バッファロー部隊」が派遣した偵察部隊でした。彼らとの接触を喜び、孤立した部隊への道案内を頼むリバース大尉。
その頃司令部のモリソン大佐は、ついにドイツ側が休戦協定に署名したと将軍に伝えていました。休戦の発行は11月11日の午前11時。休戦の条件を読み上げ喜ぶ大佐ですが、パーシング将軍は休戦までの残る時間、領土を巡り独仏が最後まで争う事態を危惧していました。
そして「バッファロー部隊」は最前線で孤立したままです。自分の”ブラック・シャック″のあだ名を知っているか、と大佐に訊ねるパーシング将軍。彼はかつて黒人部隊、第10騎兵連隊を率いて活躍し、このあだ名で広く知られていました。
黒人兵の勇敢さを知り信頼を寄せている将軍。しかし休戦までに土地を取り戻そうと、ドイツ軍は孤立した「バッファロー部隊」に全力で攻め寄せるでしょう。パーシング将軍は何としても、彼らを救いたいと考えていました。
映画『グレート・ウォー』の感想と評価
アメリカ史の黒人部隊秘話を描いた作品
孤立した兵士を救いに行くお話に、”なに、この『プライベート・ライアン』みたいな映画?”と思った方。その感想間違いないですが、改めて映画の背景を説明しましょう。
1917年に第1次世界大戦に参戦したアメリカ。そのヨーロッパ派遣軍総司令官になったのが、ロン・パールマン演じるパーシング将軍です。
アメリカに長らく人種差別が残るのは周知の事実ですが、問題を抱えながらも早期から黒人兵は、米軍の一員として活躍しています。南北戦争での姿は、デンゼル・ワシントンの出世作となった映画、『グローリー』などで描かれています。
南北戦争後、縮小された米軍は改めていくつかの黒人部隊を編成します。その一つが第10騎兵連隊で、対インディアン戦争で活躍することになります。様々な説がありますが、黒人兵の縮れた髪を見たインディアンが、彼らを”バッファローのような縮れた毛を持つ戦士=バッファロー・ソルジャー”と呼び、その名が一般にも広まったと言われています。
対インディアン戦争の時代に、第10騎兵連隊を指揮した将校の1人が後のパーシング将軍。黒人兵を指揮し活躍した実績から、映画で紹介された”ブラック・シャック″のあだ名で、広く呼ばれるようになります。
様々な経歴とエピソードを持つパーシング将軍は、第1次世界大戦中の黒人部隊の扱いについて、多くの議論を呼んでいる人物です。しかし映画が黒人兵の理解する指揮官として描いた背景には、このような歴史的事実があります。
対インディアン戦争の活躍から黒人兵は”バッファロー・ソルジャー″、第10騎兵連隊は「バッファロー部隊」と呼ばれるようになります。やがてその名は米軍の黒人兵、黒人部隊全体を示す言葉となりました。
第1次世界大戦のエピソードを元に創作された物語
第1次世界大戦への参戦で、急速に巨大化した米陸軍。黒人兵部隊も増強され、映画に登場する365連隊が所属する、”バッファロー・ソルジャー″の通称を与えられた黒人部隊、第92師団が編制されます。
こうしてヨーロッパに派遣された第92歩兵師団ですが、内部に人種差別が存在する米軍は、その扱いに苦慮した結果、当初は後方での労役に使用されることになります。するとその待遇に黒人兵は不平を漏らし反発し、その反抗的な態度に白人将校はさらに侮蔑的な扱いを行う、という悪循環に陥った時期もありました。
それでも戦闘訓練を受けた第92歩兵師団は、1918年9月末に開始され終戦まで続く、ムーズ・アルゴンヌ攻勢、通称”アルゴンヌ森の戦い”に投入され活躍します。この戦いに投入された部隊の1つが、リバース大尉の部隊が所属する、通称「自由の女神師団」こと第77師団です。
参考映像:『The Lost Battalion』(1919年)
第77師団は左右をフランス軍と、第92師団を含む米軍に守られ前進しますが、10月2日に一部の部隊が前線でドイツ軍に包囲され、孤立する事態が発生します。孤立した部隊は”Lost Battalion″(失われた大隊)と呼ばれ、その救出に激しい戦闘が繰り広げられます。
多くの犠牲を出しながらも、包囲された部隊はドイツ軍の攻撃に耐え、8日に部隊は救出されました。このエピソードは米国でも大々的に報じられ、翌年にはこの戦いの生存者も出演したサイレント映画、『The Lost Battalion』が作られ公開されています。
さて紹介してきたように、第1次世界大戦=”The Great War”における、黒人部隊やパーシング将軍、そして”アルゴンヌ森の戦い”の様々なエピソードを交え、創作されたのが本作『グレート・ウォー』だと、ご理解頂けたでしょうか。
“戦争映画男”スティーブン・ルークが描いた力作ですが…
近年新たな資料の発掘やCG技術の進歩、撮影に使用できるレプリカの製作といった背景から、各国で新たな戦争映画が製作されています。アメリカでも低予算の戦争映画が、数多く制作される状況がやってきました。
こういった映画で、製作・監督・脚本、更に出演と大活躍しているのがスティーブン・ルーク。本作は彼の戦争映画に対する熱意が詰まった作品、と言って間違いありません。
近年続々生まれるこの手のアメリカ製戦争映画が、小規模の部隊による攻防や、戦車対戦車といった局地的な戦いを描いた、いわゆるB級映画の体裁をとっている事情も、製作の規模や環境を考えると大いに理解できます。
その中で本作は第1次大戦を舞台に、米軍最高司令部まで描いた大作。空には当時の複葉戦闘機が飛ぶ再現度…ですが、前線の戦闘シーンは少人数同志の攻防で描かれます。
このチグハグ感がツッコミ所のようで、戦争映画ファンから厳しい声が寄せられています。ロケ地は当然ヨーロッパではなくミネソタ州。エキストラの1人が所有する土地で、映画のロケやサバイバルゲームに使用される場所です。第2次世界大戦のアジア各地の戦場を、日本国内でロケしたような違和感を、アメリカの方なら感じるのかもしれません。
クライマックスはまるでCGシーンでは大人数なのに、役者シーンになると寂しくなる、最近の大河ドラマの合戦シーンを思わせる、小さな規模での白兵戦。製作環境から考えると止むを得ない、脚本は上手く設定していると、ここは広い心で許してあげましょう。
まとめ
最近量産される小規模戦争映画で活躍する、スティーブン・ルークが手掛けた映画『グレート・ウォー』。さすがこのジャンルで活躍する男、脚本には歴史・戦争マニアが喜ぶ様々なエピソードが含まれていますが、製作規模から考えると、少々欲張り過ぎた感があるのも事実です。
本作のエキストラはロケ地・ミネソタ州の、第2次世界大戦などの軍装ファンの有志が多数参加しています。映画には彼らが持ち寄った装備や武器、ユニフォームが登場しています。
映画には小銃、ブローニングM1918自動小銃だけでなく、フランス製のショーシャ軽機関銃や塹壕戦用のショットガン、迷彩したヘルメットに旧式の防弾チョッキなど、マニアが喜ぶアイテムも数々登場します。これらの品々も、エキストラに参加した方の自慢の逸品でしょうか。
そんな製作の舞台裏を想像すると、何か憎めない感もある本作。戦争映画ファン・戦史ファンなら、史実とは異なっていても、映画の背景にあるこだわりに注目して下さい。
黒人兵の「バッファロー部隊」である第92師団は、第2次世界大戦ではイタリア戦線で活躍、その姿はスパイク・リー監督の映画、『セントアンナの奇跡』で描かれています。併せてご覧下さい。
しかし本作で一番”差別”が感じられるのは、白人兵と黒人兵の間ではありません。ロン・パールマンとビリー・ゼインと、それ以外の出演者にある越え難い壁。この2人のシーンだけ、カリフォルニアで別撮りでした。これは昔から変わらぬ映画の宿命、どうにも仕方ありません…。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第25回はデストピアで孤児たちと共に戦う女戦士を描いた映画『ジェシカ』を紹介いたします。
お楽しみに。
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