Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/03/04
Update

第91回米国アカデミー賞リポート【2019年アカデミー賞…見事だが味気なかった】FILMINK-vol.3

  • Writer :
  • FILMINK

FILMINK-vol.3「The 2019 Oscars…Admirably Worthy But Undeniably Dull」

オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。

Cinemarcheが提携をしている「FILMINK」ピックアップの第3回は、2019年の米国アカデミー賞を映画評論家エリン・フリーが書いたレポートをご紹介します。

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

司会不在の2019年のアカデミー賞

本年度のアカデミー賞にいなかったものといえば司会者ですが、さらに残念だったのは、ちょっとした面白さや本物のユーモアがなかったこと。

公式の司会者の欠如、新たな映画上映の媒体としてNetflixの出現、ハリウッドでの女性の権利の向上、メキシコとトランプ大統領の間に存在する壁、コマーシャル中に幾つかの受賞を行うという提案…。

コメディのジャンルで主に活躍する女優ティナ・フェイ、マーヤ・ルドルフ、エイミー・ポーラーは、アカデミー賞につきまとってきた論争をちょっぴりナンセンスに、ユーモアたっぷりのジョークで取り上げました。

彼女らは「女性たちは助け合っている」と強調。

これは、“ファッションの専門家”たちがハリウッド女優たちのドレスを手ひどく批判する時に明確になると思われました。

しかしながらイントロにはそれほど悪意は含まれておらず、一生傷を残すようなジョークも飛ばない、安全を守った差し障りのない式でした。


©︎FILMINK QUEEN’S BRIAN MAY AND ADAM LAMBERT.

アカデミー賞は、伝説的なアイコンQueenとアダム・ランバートによる熱狂的なパフォーマンスで幕を開けました。

拳を振り上げて興奮するアリソン・ジャネイ、頭を振って楽しむジェニファー・ロペス、そして危険なくらい思いっきり興奮するハビエル・バルデム。

Queenとアダム・ランバートのパフォーマンスは近年のアカデミー賞のオープニングの中でも、爆発的に素晴らしかったです。

フレディ・マーキュリーの伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』は複数の賞にノミネートされましたが作品賞の受賞はならず。

賞に値しないと非難している批評家やコメンテーターの姿もありますが、『ボヘミアン・ラプソディ』は明らかに“ハリウッド・コミュニティ”でヒットしています。

新しい時代に入ろうとしているハリウッド

今回のオスカーではアフリカ系アメリカ人の女優レジーナ・キング、ルース・E・カーター、ハナー・ビーチラーがそれぞれ最優秀助演女優賞、衣装デザイン賞、美術賞を受賞し、情熱を込めたスピーチを行いました。

『ブラックパンサー』のキャストたちをはじめとして、賞のプレゼンターも多様性を反映。

想像力を刺激するセリーナ・ウィリアムズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのメンバーであるトム・モレロ、キーガン=マイケル・キー、トレバー・ノア(彼は『ブラックパンサー』紹介時にメル・ギブソンのジョークを飛ばしました)、ミシェール・ヨー、ファレル・ウィリアムス(ショートパンツとソックス姿!)、そして公民権(civil rights)のリーダーであるジョン・ルイスが作品賞、最優秀アニメーション賞等のアナウンスをしました。

ジェイソン・モモアとヘレン・ミレンは共にピンクのスーツとドレスを纏ってプレゼンテーションを行いました。

正直なところ、ユーモアとお腹を抱えるような笑いは今年のオスカーでは薄かったんですが、そんな中でオークワフィナの「さて次のアワードは?最優秀短編アニメーション賞?あら、彼らは私たちにすごいものを渡してくれたわ」というユーモアは大変際立ちました。

そして『ウェインズ・ワールド』のマイク・マイヤーズとダナ・カーヴィの再会(「俺たちには価値がない!」)も印象深いシーンです。

『クリード』のマイケル・B・ジョーダンとテッサ・トンプソンも最優秀作曲賞のプレゼンターを務め、“黒人は泳げない”というステレオタイプについて話し、会場の笑いを誘いました。


©︎FILMINK SPIKE LEE…LOVIN’ IT

エモーショナルで真情にあふれ、全ての人々の意見が認められ、そして活かされることに焦点を当てる。

そして勿論社会を意識してのスピーチが2019年度の風潮でした。

『グリーン・ブック』で最優秀助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは自身の祖母に感謝を示し、最優秀外国語映画賞を受賞した『ROMA/ローマ』の監督であるアルフォンソ・キュアロンは「私は外国語の映画を見て育ちました。『ジョーズ』や『市民ケーン』、『ゴッドファーザー』や『勝手にしやがれ』などを」と語りました。

キュアロン監督は国際映画の“新しい波”について語る前に、クロード・シャブロルの言葉を引用しています。

「波ではなく、ただ海があるだけ。私たちは皆その海の一部なのです」。

スパイク・リーは『ブラック・クランズマン』が脚色賞を受賞した時、大興奮で壇上へ上がって奴隷の歴史や自身の祖母のことを語り、「正しいことをしよう」と呼びかけました。

包括的とは言い切れませんが、スパイク・リーはアフリカ系アメリカ人の映画を作り終えたいま、何だって出来るでしょう。


©︎FILMINK LADY GAGA AND BRADLEY COOPER PERFORM “SHALLOW”.

スターとして近ごろ翳りを見せていたレディー・ガガ。

ですが努力と挑戦を続ける姿勢が絶賛され、特にブラッドリー・クーパーと共に披露した、歌曲賞受賞の『シャロウ』のパフォーマンスはセンセーショナルという他なく、感動的で贅沢すぎるほどでした。

バーブラ・ストライサンドがステージに上がり『ブラック・クランズマン』を紹介。

そのとき彼女は、スパイク・リーについてツイッターで投稿したことと、スパイクとしょっちゅう連絡を取っていることを明かしました。

「私たちは二人ともブルックリン出身です。それに二人とも帽子が大好き。」

そのうち、スパイクはまた新たなプロジェクトを始めるかもしれませんね。

スポンサーリンク

オスカーに大きな意外性なし


©︎FILMINK BEST ACTOR WINNER RAMI MALEK.

今年のオスカーに大きな意外性はありませんでした。

ラミ・マレック、マハーシャラ・アリ、アルフォンソ・キュアロン、音響編集賞には『ボヘミアン・ラプソディ』、美術賞には『ブラックパンサー』と、人々が大好きな作品たちが賞を獲得。

しかし『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズが『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンに敗れ、主演女優賞を逃したのは大きな衝撃でした。

「こんなことはもう二度と起こらないでしょう」と陽気に自虐混じりのジョークを飛ばすコールマン。

家にいる子ども達に向かってオスカーを掲げてから、グレン・クローズの長年のファンであることを述べ、「まさかオスカーを獲得するなんて、考えてもみませんでした。」と語りました。

そしてもちろん『グリーン・ブック』が最優秀作品賞を受賞したことはしばらく議論になるでしょう。

人々の意見を真っ二つに分けたこの選出は、長らく記憶に残りそうです。

しかしさらに驚いたのは、フィリムクリップの放映も、コミカルなセットも(ベン・スティラーがアバターの仮装で登場した時を覚えていますか?)、エンターテイメント性も、記憶に残るような特別なものも、映画史として残りそうなものも、過去の出来事による肩書きだけの賞(アーヴィング・タルバーグ賞のような)への格下げも見られなかったこと。

プロデューサーたちは政治的に不適切な事柄が入り込むことや、誰かが映画のクリップに関して不適切な発言をすることを恐れたのかもしれません。

多様性を反映したセレモニー


©︎FILMINK THE TEAM BEHIND BEST FILM WINNER GREEN BOOK.

批評家たちはオスカーが長すぎることにずっと不満を洩らしていましたが、短いセレモニーを作るための省略は、興奮とそれぞれの特色を奪いました。

確かに短いセレモニーも楽しく、精神的に傷付けるような言動もありませんでしたが、制作そのものに愛情と細やかさがあったとはいえません。

それはプレゼンターたちと受賞者たち、真心と魂をセレモニーに捧げる人々に任されていただけ。

一方で、以前までの批判、特にハッシュタグ“Oscars So White(オスカーは真っ白だ)”に対するプロデューサーたちの対処は賞賛に値します。

今年のセレモニーが多様性を反映したものだったこと、包括的だったことには誰も疑問を投げかけないでしょう。

FILMINK【The 2019 Oscars…Admirably Worthy But Undeniably Dull
written by Erin Free

英文記事/Erin Free
翻訳/Moeka Kotaki
監修/natsuko yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au

本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です

【連載レビュー】『FILMINK:list』記事一覧はこちら




Category : 連載コラム

Tags :

関連記事

連載コラム

映画『ふたりのJ・T・リロイ』あらすじと感想レビュー。ベストセラー作家の裏の裏や、海外の出版業界の様子が垣間見られる|銀幕の月光遊戯 53

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第53回 映画『ふたりのJ・T・リロイ ベストセラー作家の裏の裏』が2020年2月14日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国公開されます。 2000年代の半ば、アメリカ文 …

連載コラム

映画『ファストフード店の住人たち』あらすじと感想レビュー。アーロン・クォックの新たな一面を描く|TIFF2019リポート13

第32回東京国際映画祭・アジアの未来『ファストフード店の住人たち』 2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの1 …

連載コラム

映画『VS狂犬』感想と考察評価レビュー。シッチェス映画祭2020ファンタスティックセレクションからウイルスによって凶暴化した介護犬と戦う少女|SF恐怖映画という名の観覧車126

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile126 サバイバルにおいて生死の境を分けるのは知識の有無であると言われています。 しかし、時に知識の力を遥かに凌駕するのは本人の「生きる意志」。 …

連載コラム

映画『凱里ブルース』感想レビューと考察解説。過去と現実と夢が混在するビーガン監督のトリッキーな世界|銀幕の月光遊戯 58

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第58回 映画『凱里ブルース』は2020年6月6日(土)より、シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定! 『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』で …

連載コラム

映画『許された子どもたち』感想評価と元ネタ考察。少年犯罪事件の現状に警鐘を鳴らす作品|銀幕の月光遊戯 61

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第61回 映画『許された子どもたち』は、2020年6月1日(月)より、渋谷・ユーロスペース、テアトル梅田ほかにて全国順次公開されます。 『先生を流産させる会』『ミスミソウ』 …

U-NEXT
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【Cinemarche】今週のおすすめ映画情報
凱里(かいり)ブルース|2020年6月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国順次ロードショー予定!
映画『異端の鳥』2020年10月9日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開
映画『朝が来る』2020年10月23日(金)より全国公開
ドラマ『そして、ユリコは一人になった』
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
国内ドラマ情報サイトDRAMAP