Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/10/03
Update

《最強ホラー映画監督》ルチオ・フルチおすすめランキンング1位は?隠れた名作スプラッターはグロとゾンビの祭典【増田健ホラーセレクション】

  • Writer :
  • 20231113

ショック!残酷!意味不明!ルチオ・フルチの怪作映画ベストランキング5選。

残酷描写で名高いゾンビ物など強烈なスプラッター映画を手がけ、今もホラー・ファンの心を掴んで放さなぬ人物、“ホラー映画のマエストロ”ルチオ・フルチ監督。


(C)キングレコード

今もSNS上で「ヤバい映画だ」「トンデモないものを見た」と話題のルチオ・フルチ監督作。しかしまだ見ていない、何を見て良いか判らない方も多いでしょう。

そんなフルチ監督作品の中から、独断と偏見で選ぶ代表作ベスト5選。おすすめの映画をランキング形式で紹介します。

【連載コラム】『増田健ホラーセレクション』一覧はこちら

ルチオ・フルチ監督のプロフィール


(C)キングレコード

“ゴア映画のゴットファーザー”と呼ばれた男

1927年イタリア・シチリア島メッシーナ生まれ。貧しいが信心深いカトリックで、反ファシストの母により育てられる。10代の頃に混乱するイタリアで、共産党と共に政治闘争に身を投じます。

世の中が落ち着くと勉学の道に進みますが、失恋を契機にローマの映画学校、イタリア国立映画実験センターに入ります。面接したミケランジェロ・アントニオーニやルキノ・ヴィスコンティに認められての入学でした。

その後コメディ映画で名高いステーノ監督の下で助監督を務め、彼の『人間と野獣と美徳』(1953)の脚本に参加。脚本家として活躍したフルチは、コメディ映画で監督デビューします。

コメディの分野で実績を積むフルチは、それに飽き足らず西部劇を撮り始めます。代表作はフランコ・ネロ主演の『真昼の用心棒』(1960)。この頃から激しい残酷描写を手がけるようになりました。

その後『幻想殺人』(1971)や『マッキラー』(1972)など“ジャッロ”と呼ばれる犯罪ミステリー映画、後にディズニーも映画化する文芸動物小説『白い牙』(1973)など、分野を越えたジャンルの職人監督として活躍します。

一方で周囲からカトリックで政治左派、頑固な皮肉屋と言われトラブルメーカーとされたフルチ。著名なイタリア人映画監督と同様に、相反する思想を内に秘めた結果かもしれません。

また1969年病魔に襲われた妻が2人の娘を残し自殺、自作『Beatrice Cenci』(1969)がカトリック教会から、『ザ・エロチシスト』(1972)が政治家から攻撃された影響が、彼の複雑な性格を作ったと考える者もいます。

ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』(1978)、特にイタリア人監督ダリオ・アルジェントが編集したバージョンが世界的に大ヒットすると、彼もゾンビ映画製作に参入します。

フルチ映画、特にゾンビ映画などのホラー映画は「唐突に残虐シーンが挿入」「破綻したストーリー」「その結果、オチが意味不明」だと、職人監督が観客ウケする要素を並べただけとする評は今でも有力です。それでも魅力的な作品ですが。

しかし彼の「自分は穏健なアナーキストで、ホラーはアナーキーなもの」との発言を信じるなら、映画の中の破綻や矛盾、展開の飛躍は意図して行ったことになります。

これはルチオ・フルチの自己弁護なのか、それともゆるぎない真実なのか。彼の性格と自作を誇る態度、そして自作が不当に評価されたと怒る態度を見る限り、後者と信じてよいでしょう。

反骨精神あふれる人物ですが、撮影現場では俳優・スタッフにブラックなジョークを飛ばし良好な関係を保ち、特殊効果に理解があり、(物語が破綻していても)手堅く映画を完成させる手腕が買われ、フルチはホラー映画を量産します。

しかし80年代の後半に入るとイタリアの映画製作環境は厳しくなり、フルチ自身の健康問題もあり彼の作品質は低下しました。

1996年、糖尿病の合併症で死去したフルチ。 日課のインシュリン注射を忘れたためですが、覚悟の自殺とも言われます。真偽は不明ですが、彼の複雑な性格が憶測を呼んだのでしょう。

しかし人生末期のフルチは自作がようやく評価され、彼の作品に触れた若い観客から熱く支持されていました。

様々な意味で怖い映画を見たいあなたに、ルチオ・フルチおすすめ映画5本を紹介します。

第5位『未来帝国ローマ』(1984)

映画『未来帝国ローマ』の作品情報

【製作】
1984年(イタリア映画)

【原題】
I guerrieri dell’anno 2072 / ROME, 2072 A.D.THE NEW GLADIATORS

【監督・脚本】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
ジャレッド・マーティン、フレッド・ウィリアムソン、ハワード・ロス、クラウディオ・カッシネリ、エレノア・ゴールド、ハル・ヤマノウチ

【作品概要】
ルチオ・フルチのおすすめを選ぶなら、ゾンビ映画系から選ぶしかありません。しかし1本は他のジャンルから紹介したいもの。では残酷西部劇か?ジャッロ?迷った結果選んだのが、この愛すべき珍作です。

『ニューヨーク1997』(1981)に『マッドマックス2』(1981)など、近未来デストピアのバトル映画に触発され、これはヒットすると考えたイタリア映画人。

ブレードランナー』(1982)風の未来のローマで、バイクを操る剣闘士(グラデイエーター)の『ローラーボール』(1975)風デスゲームを描こう!日本から出場の死刑囚の名前はアキラ(大友克洋の漫画『AKIRA』は1982年連載開始)で決まり!

という闇鍋のような映画です。スケールの大きなSFアクションを目指したものの、チープなSFXと人体破壊描写に皆が困惑、フルチのゾンビ映画に熱狂したファンは失望します。

本作は以降のフルチの苦闘とイタリアB級映画の迷走を象徴する作品です。これ後どこかの裏山で撮ったような『マッドマックス』風アポカリプス(世紀末)バトル映画があふれると思うと、B級映画ファンなら本作に「よく頑張った!」と声をかけるでしょう。

映画『未来帝国ローマ』のあらすじ


(C)Regency Productions

2072年、ローマのテレビ局が視聴率獲得を狙い、世界各国の死刑囚が参加する殺人競技の放送を企てます。そのにライバル局の番組「Kill​​-Bike」のチャンピオン・ドレイク(ジャレッド・マーティン)を罠にかけ、犯罪者に仕立て上げ参加させました。

アドゥブル(フレッド・ウィリアムソン)らデスゲームの参加者たちと、サディスティクな特訓を受けるドレイク。テレビ局の職員サラ(エレノア・ゴールド)は、ドレイクを陥れた陰謀に気付きます。

放送で獲得した視聴者を通じ世界を動かすテレビ局の背後には、暴走したコンピューターシステムの存在がありました。ドレイクは自らを、人々を解放するために巨悪に挑みます。

未来のグラディエーターはバイクを操るデスゲームを生き残り、デストピアへの反乱を成功させるのか?壮大なスケールの物語は、紆余曲折の果てにクライマックスに突入する…。

音楽がカッコいい!『未来帝国ローマ』お薦めポイント

冒頭で『ブレードランナー』風の未来社会が登場!その後は…色々と残念な展開に突入します。

チープの極みの光学合成、レトロセンスの未来ファッション。脚本にルチオ・フルチが参加してますが、彼は本作のSF要素を理解しているのでしょうか?

おかげでクライマックスが全く盛り上がらず仕舞い。それでも本作をお薦めするのは、迫力と雑さが交差する、近未来グラディエーターのバイクバトルの痛快さ!

作り手の温もりが伝わってくる、低予算&体張ってる感がたまりません。そして全編に流れるリズ・オルトラーニの哀愁を漂うカッコいい音楽!

リズ・オルトラーニは『世界残酷物語』(1962)の名曲「モア」で知られる人物です。「モア」のヒットでハリウッドに進出、モンド映画から文芸映画まで、様々な映画音楽を手がけました。

またマカロニウェスタン『怒りの荒野』(1967)に提供した音楽は、クエンティン・タランティーノのお気に入りで、『キル・ビル Vol.1』(2003)や『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)に使用されています。

日本人なら気になる”アキラ”を演じたのはハル・ヤマノウチ。マイム演技でイタリアに活躍の場を見い出した人物で、現在はイタリアに帰化した人物です。

様々な活躍を続ける中で映画への出演も続け、近年は『ウルヴァリン: SAMURAI』(2013)に出演している、海外進出を果たした日本人俳優の先駆者の1人です。

デタラメ、チグハグ感があふれた、捨てがたい魅力を持つ愛すべき珍作『未来帝国ローマ』。ご覧になって気に入らなくとも、カッコいいテーマ曲は脳裏に焼き付くでしょう

第4位『墓地裏の家』(1981)

映画『墓地裏の家』の作品情報

【製作】
1981年(イタリア映画)

【原題】
Quella villa accanto al cimitero / THE HOUSE BY THE CEMETERY

【監督】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
カトリオーナ・マッコール、パオロ・マルコ、アニア・ピエローニ、ジョヴァンニ・デ・ナヴァ、ダグマー・ラッサンダー

【作品概要】
ここからはルチオ・フルチの悪名高いゾンビ映画を紹介していきます。ただし『墓地裏の家』は広い意味でゾンビ映画、正確にはマッドサイエンティスト映画、より正しくは意味不明ホラー、といったところでしょうか。

ジャック・ドゥミが監督し、フランスロケの日本映画(!)『ベルサイユのばら』(1978)でオスカルを演じたカトリオーナ・マッコール。彼女はその後フルチ映画に続々出演します。

今や彼女はフルチ映画のスクリームクイーン、と記憶する人が多いでしょう。墓地に囲まれた家に越した彼女とその家族は、恐ろしい…世にも醜悪な怪物に遭遇します。

映画『墓地裏の家』のあらすじ


(C)Fulvia Film

自殺を遂げた同僚の研究を引き継ごうと、歴史学者のノーマン(パオロ・マルコ)は妻のルーシー(カトリオーナ・マッコール)と共に、墓地に囲まれた家に越します。

しかし夫妻の幼い息子ボブは謎の少女メイから、この家に来るなと警告を受けます。少女の存在はボブにしか感じることが出来ません。

その屋敷にはかつて、おぞましい研究をしていた人物フロイトスタイン博士が住んでおり、博士は自殺したとされていました。

ボブは少女メイに、家のそばの墓地に案内されます。メアリー・フロイトスタインと刻まれた墓石の前で、少年に彼女はここに埋葬されていない、と告げるメイ。

屋敷に怪奇現象が起こり不穏なムードが漂う中、訪れた関係者は次々惨殺されます。犯人の正体は何者か。そして惨劇の後、想像を(斜め上に)越えたラストが訪れます。

フルチ版『パンズ・ラビリンス』!?『墓地裏の家』お薦めポイント

恐ろしくも汚い姿の怪人が登場!この怪人、どうしてこうなった?と尋ねたい顔をしています。

両親は屋敷の謎と怪奇に翻弄され、幼い息子は謎の少女から警告を受ける…この展開が『悪魔の棲む家』(1979)の流用、『シャイニング』(1980)のパクリと批判されます。

アイデアは頂いたでしょうが、コピーではありません。この批判を聞き流さず反論し、返す刀でスタンリー・キューブリックをこき下ろす…。これがルチオ・フルチという人物でした。

一方で彼は本作はヘンリー・ジェイムズの小説「ねじの回転』、それをジャック・クレイトン監督が映画化した『回転』(1961)からの引用と認めています。

ラストにはヘンリー・ジェイムズの文章の一節が紹介されます。多くの方が何?という気分になる本作をフルチは本作の出来事は、全て子供の想像力がもたらした可能性を示唆しています

つまりこの映画は、特にラストはギレルモ・デル・トロ監督の『パンズ・ラビリンス』(2006)と同じ、と解釈できるのです!

血沸き生首転がる、こんな汚い『パンズ・ラビリンス』があるか!とのお叱りはごもっともです。しかし『墓地裏の家』のストーリー上の破綻や飛躍を、意図したファンタジーと解釈すれば、納得できません?

第3位『地獄の門』

映画『地獄の門』の作品情報

【製作】
1980年(イタリア映画)

【原題】
PAURA NELLA CITTA DEI MORTI VIVENTI / THE GATES OF HELL

【監督・脚本】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
クリストファー・ジョージ、カトリオーナ・マッコール、ジャネット・アグレン、カルロ・デ・メイヨ、アントネッラ・インテルレンギ、ダニエラ・ドリア、ミケーレ・ソアヴィ

【作品概要】
グロテスク、残酷、悪趣味のオンパレード。3位から1位までは誰もが認める、ルチオ・フルチ3大傑作。極悪描写好きなら本作を第1位にするでしょう。

グロ耐性が強い方でもこれは勘弁…なシーンもあります。『死霊のはらわた』(1981)や『ブレインデッド』(1992)のように、コメディに逃げればスプラッター描写は愉快ですが、ド真剣にネチっこく見せるのがフルチ流。

トンデモないものを吐き出す(…)恋人を目撃する男を演じているのは、後に『アクエリアス』(1986)や『デモンズ3』(1989)を監督するミケーレ・ソアヴィ。ダリオ・アルジェントの愛弟子で映画に出たがる人物ですが、おそらく本作が一番酷い役でしょう。

映画『地獄の門』のあらすじ


(C)Dania Film Medusa Distribuzione National Cinematografica

クトゥルフ神話に登場する町の名と同じ、ダンウィッチで神父が自殺するビジョンを目撃した霊媒師のメアリー(カトリオーナ・マッコール)。恐怖で倒れた彼女は死んだと思われ、生きたまま埋葬されるも新聞記者のピーター(クリストファー・ジョージ)に助け出されます。

神父の自殺という背徳行為の後に、ダンウィッチでは奇怪な事件が起こります。神父の死が地獄の門を開き、この世に邪悪があふれ出たのでしょうか。

これはエノクの書に予言された事態であり、聖なる日までに地獄の門を閉めねば、この世は冥界とつながるとメアリーは知り、ピーターと共にダンウィッチに向かいます。

幽鬼と化した神父に住人は次々無惨に殺害され、ゾンビとなり新たな犠牲者を生み出します。超常現象が襲い来る中、メアリーは地獄の門を閉じることが出来るのでしょうか…。

最凶最悪のグロ描写!『地獄の門』お薦めポイント

グロ耐性・悪趣味耐性の無い方は鑑賞禁止、多少はある方も要注意の問題作です。一般に”胸クソ映画”と呼ばれるものは不快感で精神にダメージを与えますが、本作のダメージは胃に来る、と警告しておきます。

公開時ファンが大歓迎し、評論家からは総攻撃された本作。残酷シーンを批判する意見に対し、自分はホラーよりファンタスティクに興味がある、『地獄の門』はホラー場面より、その前の緊張状態が重要と説明するフルチ。

私は暴力を煽っていない。観客は暴力シーンに影響されるどころか、自身の暴力性を浄化し恐怖感から解放されるのだ、と言葉を続けています。

彼の発言を全面的に受け入れれば、フルチを孤高の映像作家と讃えるべきです。が、本作の取って付けたラストシーンを、彼は編集者のアイデアと説明しています。

このラスト採用の理由には諸説あり、監督の思いつきだ、編集者がフィルムをダメにした結果だ、などの説があります。フルチ監督の発言は、責任感に欠ける態度と判断すべきでしょう。

様々な英題を持つ本作。元々は『ゾンビ』の原題「Dawn of the Dead」、その前作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)に紛らわしい、「Twilight of the Dead」のタイトルでアメリカにセールスするつもりでした。

当然関係者からの抗議でタイトルは撤回されます。彼の責任では無いですが、ともかくフルチはこんなノリで映画を売る世界の住人だ、と理解した上で彼の話を聞くべきでしょう。

意味不明にも多量のウジが出演者に飛んでくる…飛ぶのはハエだろ!との指摘はともかく、撮影でウジまみれにされた俳優のイタズラなのか、愛用のパイプにウジが詰めらフルチ激怒、という撮影舞台裏エピソードが残っています。

犯人は主演のクリストファー・ジョージ?との説があります。現場ではトラブル話の少ないフルチも、その性格からスター然と振る舞う俳優との相性は悪く、こんなウワサが流れたのでしょう。

なんとも複雑な人間、ルチオ・フルチ。それでも本作の神父の自殺という設定は、彼の妻の死やカトリック教会との対立を考えると…意味深です。

第2位『サンゲリア』

映画『サンゲリア』の作品情報

【製作】
1979年(イタリア映画)

【原題】
ZOMBIES 2 / ZOMBIE

【監督】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
イアン・マカロック、ティサ・ファロー、リチャード・ジョンソン、オルガ・カルラトス、アウレッタ・ゲイ、アル・クライヴァー、ステファニア・ダマリオ

【作品概要】
ゾンビ』の世界的大ヒット直後に作られた作品。徹底した人体破壊、グロテスクな描写をネチっこく見せ話題となった、フルチ映画を代表する作品。

主演はパンデミック後の終末世界を描き、後に『生存者たち』(2008~)としてリメイクされるイギリスのドラマ、『Survivors』(1975~)で人気を得たイアン・マカロック。

共演はミア・フォローの妹ティサ・ファロー。B級映画を中心に出演し活動期間の短い彼女ですが、本作と共に今もホラー映画ファンに記憶される女優です。

墓地に眠る古い死体がゾンビになるシーンに、「ゾンビ化できる死体の賞味期限はいつ?」とか、90分枠でテレビ放送時”ゾンビとサメの格闘シーン”がカット、「そんなシーンあった、いや無かった!」などの論争を、ゾンビ映画にハマった当時の若者に引き起こした作品です。

某飲料メーカーを思い浮かべる邦題は、配給会社東宝東和がカクテル”サングリア”の語感から付けたもの。劇場公開時に本作に登場するゾンビを”サング”と呼び、『ゾンビ』との差別化を図り宣伝したのも面白い話です。

映画『サンゲリア』のあらすじ


(C)Variety Film
ニューヨークに漂着したヨットを調べていた警察官が、現れた腐乱死体のような男に噛まれ死亡します。新聞記者のピーター(イアン・マカロック)は事件の取材を始めました。

ヨットの持ち主の娘アン(ティサ・ファロー)と共に、彼女の父が姿を消したカリブ海のマトゥール島に向かうピーター。その島は、現地の人々から忌み嫌われる呪われた島でした。

到着した彼らは島の医師メナード(リチャード・ジョンソン)から、蔓延する奇病について知らされます。それは死者を復活させ、ゾンビ化した死者は生者を襲いその肉を喰らうのです。

ピーターたちもゾンビに襲われます。逃亡する彼らの前で、墓地に眠る朽ち果てた死者たちが次々蘇ります。グロテスクな姿で迫るゾンビたち。

必死の思いで島を脱出したピーターとアン。彼らは恐るべき事実を知らされます…。

ゾンビ映画2トップの1つ!『サンゲリア』お薦めポイント

低予算映画ながら徹底したグロ描写で、世界的大ヒットを遂げた『サンゲリア』。”汚い”ソンビの姿は今も人気で、ゾンビファンならフルチ3大傑作の中で、本作をNo.1に選ぶでしょう。

特殊メイクを担当したジャンネット・デ・ロッシの、「死体が生き返るなら、腐ってるよね!」を徹底した描写は衝撃的。フルチもこの出来に大満足で、彼と仕事を続けることになります。

本作は『ゾンビ』人気にあやかりプロデューサーが企画した作品で、予定された監督が降板しフルチを起用します。これが後に彼が“ホラー映画のマエストロ”呼ばれるきっかけでした。

設定としては”ゾンビ化感染症”のお話。しかしどう感染したか、墓地から現れるゾンビの描写はオカルト風。そして気持ち悪いシーンにヌード、サメとゾンビの水中バトルを詰め込みます。

シャークネード』(2013)のスタッフ・出演者が手掛けた『ゾンビ津波』(2019)は『サンゲリア』へのオマージュに満ちた作品で、サメVSゾンビシーンの登場も検討されるも断念、代わりに劇中にフルチの名を頂いたロックバンドが登場します。

さて、本作には様々なタイトルがありますが、原題・英題は『ゾンビ』の続編どころか、同じものを匂わすものです。『ゾンビ』を再編集し世界でヒットさせたダリオ・アルジェントは抗議しました。

これに「何がパクリだ!ゾンビの設定なんて、以前からあっただろう!」とフルチが噛みつきます。雇われ監督の立場でも、自作への抗議や批判に猛然と立ち向かうのがフルチ流です。

当時のイタリアのB級映画界はヒット作があれば2匹目どころが、3・4・5~10匹目位のドジョウを狙うのが当たり前の世界。その中で自作の評価にこだわるフルチは異色の存在でした。

サスペリア』(1977)などダリオ・アルジェント作品と比較される事が多いフルチは、この一件で彼と決定的に対立します

ホラー映画界のビックネーム2人の対立劇、フルチがアルジェントを嫌ったと言うより、フルチの反骨精神が激しく反応した結果と見るべきです。

ともあれ80年代前半のゾンビ映画は『ゾンビ』と『サンゲリア』が2トップの存在でした。この2本を頂点に様々なゾンビ映画が作られ、スプラッター映画ブームが巻き起こります。

第1位『ビヨンド』

映画『ビヨンド』の作品情報

【製作】
1981年(イタリア映画)

【原題】
…E tu vivrai nel terrore! L’aldilà, / The Beyond

【監督・脚本】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
カトリオーナ・マッコール、デヴィッド・ウォーベック、サラ・ケラー、アントニー・セイント=ジョン、ヴェロニカ・ラザール

【作品概要】
フルチ3大傑作の中で雰囲気のある映画、そして映像作家・フルチのスタイルを愛する人は本作をNo.1に選ぶでしょう。ホラー専門誌ファンゴリアが「あなたが今まで見たことの無い、101本の最高のホラー映画」に選び、まだ見ぬ人に推薦する作品です。

広い意味ではゾンビ映画ですが、コズミックホラーでもある本作。ゴシックホラーの雰囲気に、当時ブームのスプラッター描写をたっぷり詰め込んだ、実に味わいある作品です。

ストーリー上の破綻はフルチ自身も認めています。しかし「自分はカトリックなのに天国が想像できない。しかし、地獄は思い描いてしまう」と語った、フルチが描く本作のラストシーンは、とてつもなく印象的です。

フルチの人生、彼の熱く激しい性格をふまえて見れば更に感動的な映画『ビヨンド』。それでいて意味不明過ぎて困惑する、残酷シーンのオンパレードがたまらぬ作品です。

映画『ビヨンド』のあらすじ


(C)Fulvia Film

ルイジアナにある閉鎖されたホテル。そこはかつて、呪われた書物「エイボンの書」を持つ画家が忌むべき異端者とされ、虐殺された過去を持っていました。

現代。そのホテルの相続したライザ(カトリオーナ・マッコール)は改修工事を行いますが、その最中に謎の死を遂げる犠牲者が出ます。

地元の医師マッケイブ(デヴィッド・ウォーベック)の助けを借り、ホテルの再開を目指すライザの前に真っ白な瞳を持つ謎の女性、エミリー(サラ・ケラー)が現れます。

彼女に立ち去れと警告するエミリー。マッケイブはホテルが忌むべき場所だと気付きます。理不尽な怪異に襲われた彼らは、最後に何を目撃するのでしょうか。

悪趣味、意味不明の果てに感動!『ビヨンド』お薦めポイント

物語は筋立てて語るられるべき、全てのシーンには意味があるべきと考える几帳面な方には、悪夢のような映画かもしれません。意味不明な残酷シーンが続々登場、「どうしてこうなった!」とツッコミ所は満載です。

主人公の前に現れる者も現実か幽霊なんだか、ゾンビなんだか良くわかりません。しかし一つ一つが印象的で奇怪な絵画やホラー漫画の一コマと受け取れば、全てはゴシックホラーを構成するものと理解できます。

見る者に不安を与える絵画は、疑惑の象徴だと語っているルチオ・フルチ。疑惑こそがホラーの核心にあるもの、と力説しています。

自作の矛盾や展開の飛躍は想像力が生んだもので、観客も想像力は働かせ楽しんでいると語るフルチ。『ビヨンド』に対するストーリーの破綻を批判する意見には、本作はビジュアルを連ねたフィルムだ、と理解すべきだと説明していました。

この言葉を意識して本作を見ると、日常が異界に侵食され、最後に主人公らが異界に飲み込まれる姿は、ホラー作品でお馴染みクトルゥフ神話の世界そのものです

これをフルチが計算し尽くしたシュールな世界だ!と考える者もいれば、職人監督がアイデアを適当につないだだけと考える者もおり、今も意見は分かれています。

そのどちらであっても今もホラーファンを魅了する力を持ち、混沌とした内容が本作を世界的カルト映画の地位に押し上げます

本作の初期コンセプト脚本は3ページでした。フルチはスプラッター映画での成功を背景に、自分のアイデアを次々盛り込みます。英語を喋る俳優に彼はイタリア語で指示(イタリアB級映画ではよくある事)、自分のイメージを映像化していきます。

こうして完成した『ビヨンド』はいい加減な映画、それとも監督のビジュアルを具現化した映画の、どちらと思いますか?

印象的なラストは、フルチが本作の脚本チームと最初に相談した時に出た言葉、我々の世界の向こう側=「ビヨンド(Beyond)」から生まれたものです。

本作は死者の世界(The Beyond)に至る道を、地獄絵図を並べて描いた絵巻物と解釈し、そして彼の人生と複雑な性格を踏まえれば、彼の内面を映像化した傑作と受け取るべき作品です。

どうか本作の気持ち悪いシーンに残酷シーン、何なのアレ?と沸き起こる疑問を乗り越え、壮大なラストシーンにたどり着いて下さい。

まとめ


(C)キングレコード

1980年前後のホラー映画のヒットで大成功を収めたルチオ・フルチ。同時にその内容は世界中で非難され、俗悪映画と扱われカットされるなど散々な目にも遭いました。

世界的に映画産業が衰退する時期ですが、イタリアはビデオ市場向けのB級映画製作に沸き、フルチには仕事が次々舞い込みます。

しかしその環境で作られた映画は即席乱造の2番煎じばかり。やがて観客に飽きられ、イタリア映画産業の衰退は一気に加速します。この時期フルチは糖尿病で体調が悪化、周囲にそれを隠して監督を続けますが、彼の作品質は低下しました。

1994年、ローマのファンタスティック映画祭でフルチに会ったダリオ・アルジェントは、想像以上に衰えた彼の姿を見て驚きます。そして彼にカムバックの機会を与えたいと動きます。

2人は和解し、アルジェント製作でガストン・ルルー原作の「肉の蝋人形」をフルチが監督することになり、彼は脚本を執筆します。しかし映画化を前に彼は1996年に亡くなります。

脚本はセルジオ・スティヴァレッティ監督作『肉の蝋人形』(1997)として映画化されました。

それでも、ルチオ・フルチは幸せでした。ビデオが普及し彼の作品は世界中で鑑賞され、フランスを中心に映像作家としての評価が高まり、世界中の若いホラー映画ファンが彼を支持する時代が到来したのです。

死の2ヶ月前、ニューヨークのファンゴリア主催のホラーコンベンションに参加したフルチはファンに囲まれ、自分がアメリカで熱く支持されていたと知り驚きます。若きファンを前に感極まり、彼らに「お前たちは最高のファンだ!」と叫んだ話もあります。

生前「自分の結末は判らない。しかし誰かの記憶に残る限り、私は生き続けるのだろう」と語っているルチオ・フルチ。

その言葉通り彼は今も、彼の作品を目撃した新たな観客の記憶に刻まれ、今後も生き続けていくのでしょう。

【連載コラム】『増田健ホラーセレクション』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

映画『DRONEドローン』あらすじネタバレと感想。ゾンビーバーの次は殺人マシーンと化したトンデモ飛行物体|未体験ゾーンの映画たち2020見破録37

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第37回 「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第37回で紹介するのは、殺人マシーンと化したドローンが人を襲うホラー映画『DRONE ドローン』。 …

連載コラム

日活ロマンポルノ『手』あらすじ感想と評価解説。金子大地と福永朱梨で松居大悟監督が描くリアルな20代の男女の恋愛|映画という星空を知るひとよ111

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第111回 1971年に製作を開始した「日活ロマンポルノ」。 2021年11月20日で生誕50周年を迎え、記念のプロジェクト「ROMAN PORNO NOW」で …

連載コラム

映画『シング・ア・ソング!笑顔を咲かす歌声』あらすじ感想と評価解説。実話からピーター・カッタネオ監督が描く‟軍人の妻たち”の本音|映画という星空を知るひとよ96

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第96回 愛する人の帰還を待つ“軍人の妻”たちが合唱団を結成。全英で話題騒然となった実話から生まれた感動の物語『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』。 時 …

連載コラム

映画『エクスペリメント・アット・セントレオナルズ女子刑務所』ネタバレ感想と考察評価。ゾンビVS女囚人のプリズンバトルが勃発!|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録15

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第15回 世界のあらゆる国の、隠れた名作から怪作・珍品映画まで紹介する、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第 …

連載コラム

鬼滅の刃名言/名シーンまとめ|柱合会議/蝶屋敷での炭治郎の成長×無惨の例の会議を紹介【鬼滅の刃全集中の考察13】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第13回 大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。 今回は「柱合会議・蝶屋敷編」 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学