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Entry 2021/09/29
Update

『ビヨンド』ネタバレ結末あらすじと感想考察。ルチオ・フルチの最高映画No.1はラストシーンは感動するぞ⁈|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー57

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第57回

深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。

そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第57回は、現在も激ヤバ映画として話題となる『ビヨンド』

ゾンビ映画など「怖い」「グロい」、はっきり言えば「汚い」ゾンビ映画で有名な、イタリアのホラー映画界の巨匠、“流血のマエストロ”ことルチオ・フルチ

その悪名は新世代のホラーファンの間でも鳴り響き、彼の映画を見て育った若い映画監督たちが影響を受けた作品を続々誕生させています。

しかし彼の名と恐ろし気な噂ばかりが先行する中、どの作品を見て良いのか迷っている人もいるのではないでしょうか?

そこで自信を持ってお薦めできるフルチ映画の代表作、ホラー専門誌ファンゴリアが「あなたが今まで見たことの無い、101本の最高のホラー映画」の5番目に紹介し激しく推薦する、恐怖の1本を紹介します。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら

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映画『ビヨンド』の作品情報


(C)Fulvia Film

【公開】
1981年(イタリア映画)

【原題】
The Beyond / …E tu vivrai nel terrore! L’aldilà,

【監督・脚本】
ルチオ・フルチ

【キャスト】
カトリオーナ・マッコール、デヴィッド・ウォーベック、サラ・ケラー、アントニー・セイント=ジョン、ヴェロニカ・ラザール

【作品概要】
グロテスクなゾンビや無残な人体破壊…。凄惨な描写で知られ、そんなシーンを強引に挿入した結果、物語は右往左往する。そんな悪趣味スプラッター映画の偉大な職人監督として知られるルチオ・フルチ。

何やら変な展開になる映画も多いですが、それもまた愛すべき彼の作品の特徴。そんな彼の作品の中でも一番完成度が高いとされる(それでも何やら奇妙な映画ですが)、印象的なラストで有名な作品を紹介します。

主演はジャック・ドゥミが監督し、フランスでロケした日本映画(!)『ベルサイユのばら』(1978)のオスカル役カトリオーナ・マッコール。その後『地獄の門』(1980)、『墓地裏の家』(1981)に本作と、ルチオ・フルチ監督作品に出演し日本のファンを驚かせます。

『マーターズ』(2007)や『ゴーストランドの惨劇』(2018)で知られるフレンチ・ニューウェーブ・ホラーの監督、パスカル・ロジェは自身の長編監督デビュー作『MOTHER マザー』(2004)に、敬愛するスクリーム・クイーン、カトリオーナ・マッコールを起用しています。

なお、自作に出演するのが好きなフルチ監督は図書館の司書役で登場。彼の出演の後に虫嫌いの方なら逃げ出すシーンが登場しますから、ご注目下さい。

映画『ビヨンド』のあらすじとネタバレ


(C)キングレコード

1927年、ルイジアナにあるセブン・ドアーズ・ホテル。その36号室に呪われた書物「エイボンの書」を持つ画家、シュワイク(アントニー・セイント=ジョン)が滞在し、絵を描いていました。

ホテルにいた女性が「エイボンの書」を開き、その文言を読み上げます。その時ホテルの外に、たいまつや様々な凶器を持つ男たちが集まります。

地獄の光景を描いていたシュワイクの部屋に暴徒が押し入ります。お前は邪教徒だと告げられ、いきなり鎖で顔面を殴打されるシュワイク。

お前のせいでこの街、このホテルは呪われたと言い、男たちは画家を地下室に連れていきました。七つの恐ろしい関門は、七つの呪われた場所に隠されている、と「エイボンの書」を読む女。

このホテルは邪悪な扉の一つがある場所に建てられた、自分は皆を救う事ができると訴えるシュワイク。しかし男の1人が彼を鎖で打ち続け、肉は裂け血が吹き出ます。暴徒たちはシュワイクは、黒魔術をあやつる忌むべき人物と信じていました。

地下室の壁に太釘で磔にした画家に、暴徒たちは煮立った生石灰でしょうか、それを彼に浴びせかけました。悲鳴を上げたシュワイクの顔は溶けて崩れていきます。

開かれた地獄に通じる門からこの世に悪が侵入する、と「エイボンの書」に記された言葉を読んだ女の目の前で、邪悪な書物から炎が立ち上ります…。

1981年、ルイジアナ。ニューヨークに住むライザ・メリル(カトリオーナ・マッコール)は、閉鎖されたセブン・ドアーズ・ホテルを相続していました。彼女は朽ち果てたホテルを改装し、営業を再開しようと試みていました。

現場監督のマーティンと改装中のホテルを見て回るライザ。しかし外壁を塗装していた職人のラリーが、建物の中にいた何かに驚き転落、負傷します。

出血したラリーは目を見た、彼女の目を見たとうわ言を叫びます。ようやく地元の医師ジョン・マッケイブ(デヴィッド・ウォーベック)が到着し、彼を病院に搬送しました。

マーティンはホテルの床に落ちていた不気味な絵を見つけました。その時、呼び出しベルが鳴ります。それは36号室からと気付くライザ。

ホテルに現れた配管工のジョーに、ライザは地下室が水浸しだと言いました。地下室に降りると彼女を手助けするマーサ(ヴェロニカ・ラザール)が現れ、水に浸かった地下室に作業用通路を作ったと説明します。

地下室の奥に着いたジョーは、壁をつらぬくパイプから水漏れしていると気付きます。パイプ付近の壁を崩し、その中に入るジョー。そこはシュワイクが磔にされた場所でした。

外出し必要なものを調達しようとライザは、使用人のアーサーに仕事を言いつけ車に乗ります。そして配管工のジョーは、地下室の壁に水が吹き出す崩れかけた場所を見つけます。

いきなり崩れた壁から手が現れジョーの顔面を掴みます。その手に目玉をえぐり出され、悲鳴を上げるジョー。

果てしなく続く一本道を車で走るライザは、道の真ん中に立つ女に気付き車を停めます。それは犬を連れた女でした。

女の瞳は白色です。彼女の連れた犬は盲導犬でしょうか。車を降りた彼女にライザか、と名を訊ねた女はエミリー(サラ・ケラー)と名乗ります。

その頃ジョーを探しに地下室に降りたマーサは、何者かの足音を聞きました。アーサーかと声をかけますが、返事はありません。

自分を知る女エミリーを車で送ったライザは、彼女の屋敷に招かれました。ホテルの地下室ではマーサが、変わり果てた姿の配管工のジョーと、水中から浮かび上がった古い死体を見つけていました。

エミリーはライザにホテルを手放すよう警告します。ピアノの奏でるエミリーに理由を尋ねても、信じて下さいとしか答えません。早くこの地を離れろと彼女に忠告するエミリー。

病院のモルグ(死体安置所)に送られたジョーの遺体は、解剖され縫合されていました。そこには同じ場所で見つかった古い死体も運び込まれていました。マッケイブの同僚ハリス医師が驚くほど状態の死体はシュワイクでしょうか。

病院から車で退勤したマッケイブは、買い物を済ませて車で帰るライザを見かけます。モルグではハリス医師は、疑問を覚え古い死体の脳波を測定していました。

ハリスは呼び出されモルグから出ます。すると死体につながれた脳波計は反応を示します。そしてモルグにはジョーの妻と娘ジルが現れます。廊下にジルを待たせ、モルグに入るジョーの妻。

彼女は夫の遺体に用意した服を着せました。しかしモルグで何かを目撃したジョーの妻は悲鳴を上げます。そしてガラス瓶の容器から、液体が独りでに噴きこぼれます。

母親の悲鳴を聞いてジルはモルグに入りました。彼女が見たのは古い死体と父の遺体、そして床に倒れた母の体でした。

意識のない母の顔に、台に置かれ倒れたガラス瓶からこぼれた液体がかかります。それは硫酸でしょうか。母の顔を溶かし流れ出た液体が、ジルの足元に迫ります。

液体から逃れようとモルグの扉を開けたジルですが、中には彼女に迫る動く死体・ゾンビがいました。悲鳴を上げるジル。

同じ頃ライザはマッケイブ医師に誘われ、食事を共にしていました。ジョンにニューヨークで何をしていたか聞かれ、様々な職に就いたが失敗続きだったと彼女は答えます。

金持ちの叔父が死んだと知らされ、古いホテルを相続したと彼女は説明します。ホテルの経営の成功が、自分に与えられた最後のチャンスと打ち明けるライザ。

完成したら宿泊すると応じるマッケイブ。しかしその日は先になりそうです。使用人のマーサとアーサーは頼りにならない、と彼女はこぼします。

なら解雇すれば良いと語るマッケイブ。しかし使用人2人はホテルを辞めさせられない契約です。彼はそれを聞き妙な話だと感じます。そこに病院から惨劇の連絡が入りました。

父と母の葬儀に参列する娘ジル。墓地にはそれを見守るエミリーの姿がありました。葬儀が終わりジルが目を開くと、瞳は白くなっていました。

ホテルの地下室はまだ水が溢れていました。館内を回っていたライザは呼びかけられ驚きます。いつの間にかホテルにいたエミリーは、なぜ警告に従い去らないのかと彼女に告げます。

彼女はライザにホテルの過去を話しました。60年前、このホテルの人々は姿を消した。そして36号室にいた画家シュワイクは、7つの地獄に通じる門を開ける鍵を持っていたと語るエミリー。

何かの存在を感じた彼女は立ち上がります。ライザは誰もいないと教えますが、エミリーが絵に触れた時、部屋から呼び出しベルが鳴ります。それは36号室からです。

絵はシュワイクの残した、不気味な地獄を描いたものです。地獄の門の鍵を見つけた男、シュワイクが帰ってきた。36号室に入るなと叫ぶエミリー。

幽霊など信じないライザは、ベルの音は故障と言いホテルは自分が継承すると告げました。しかしシュワイクの絵に触れたエミリーの手は、いつの間にか失血しています。エミリーは悲鳴を上げ走って立ち去り、後にライザだけが残されます。

翌朝、ライザは閉ざされていた36号室に入ります。ほこりが積もるその部屋に「エイボンの書」がありました。クローゼットの扉が独りでに開きますが、異常はありません。

気を取り直したライザは、突然悲鳴を上げました。彼女が目にしたのは、壁に磔にされ朽ち果てたシュワイクの死骸でした。

雷鳴が響く中、彼女は1階へと逃げ出します。外に逃げようとすると玄関の扉に、何者かの人影が映っていました…。

以下、『ビヨンド』ネタバレ・結末の記載がございます。『ビヨンド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)キングレコード

ライザの前に現れたのはマッケイブ医師でした。思わず彼に抱きつくライザ。

彼女はマッケイブと共に36号室に入りますが何もありません。シュワイクの死骸を見た壁には、磔にしたかのように太い釘が刺さっていました。

確かに見たというライザに、ただの古びた釘だと告げるマッケイブ。エミリーから話を聞かされ想像力をかき立てられたのかも、と彼女は口にします。

医師は近所に住む盲目の女性、エミリーなど知りません。机の上にあった「エイボンの書」は消えていました。

ホテル改装工事の現場監督、マーティンは様々な提案をライザにします。彼と街を歩くライザは、古書店のウィンドウに「エイボンの書」を見つけます。

驚いて店に入るライザ。しかし彼女が手にしたのは別の書物です。彼女の振る舞いはマーティンの目にも異常に見えました。

彼女と別れたマーティンは、ホテル建築時の設計資料を探そうと図書館を訪れます。ハジゴに乗り書棚から書物を探していると、突如雷鳴が響き転落するマーティン。

身動きできないマーティンの体に何匹ものタランチュラがはい上がり、彼の顔面を喰い荒らします。彼が絶命する中、セブン・ドアーズ・ホテルの図面は消えていきました。

一方マッケイブ医師はエミリーの屋敷を訪れますが、そこは閉ざされた古い空き家です。家の中で蜘蛛の巣に覆われた「エイボンの書」を見つけて読むマッケイブ。

同じ頃ホテルの36号室に清掃に入った使用人のマーサは、浴槽に黒く濁った水が溜まっていると気付きます。

彼女はそこを洗おうとしますが、澱んだ水の中からゾンビのような男が姿を現します。それは埋葬されたはずの、ホテルの地下室で死んだジョーでしょうか。

ゾンビは彼女の顔を掴むと、その後頭部を壁に刺さった釘に突き刺します…。

怪しい風が吹く中、ライザはホテルに戻りました。マッケイブ医師は「エイボンの書」を手に病院のモルグに向かいます。

医師はホテルで発見された古い死体を調べます。腕には釘を刺された痕と、奇妙なマークの入れ墨があります。それは「エイボンの書」に記されたマークと同じでした。

エミリーは盲導犬と共に屋敷に帰っていました。しかしピアノが独りでに鳴ります。周囲に誰かいると悟るエミリー。

彼女の周囲にはジョーたち死んだ人間が、ゾンビのように立っていました。シュワイクが自分を連れ戻しに来たと悟ったエミリーは、立ち去れと叫びます。

戻りたくない、と叫んだ彼女は盲導犬をゾンビにけしかけます。やがて周囲は静かになりました。

犬は殺され、死者たちの同類になったのでしょうか。犬に喉を喰い破られ悲鳴を上げるエミリー。

マッケイブはホテルに電話をかけますが、誰も出ません。ライザは地下室で使用人のアーサーを探していました。そして水の中から現れたアーサーに襲われるライザ。

彼女は1階に逃れると、36号室からの呼び出しベルが響きます。悲鳴を上げた彼女の前に現れたのは、身を案じ駆け付けたマッケイブでした。

アーサーは死んでいたのに…と言いかけたライザを制するマッケイブ医師。彼はエミリーの屋敷は50年間放置され、誰もいないと告げました。

彼はライザにアーサーを見た場所、地下室に案内させます。「エイボンの書」を読んだマッケイブは、改めて彼女に何者かと訊ねます。

「エイボンの書」に、ここが地獄につながる7つの門の一つと記してあったと告げるマッケイブ医師。

突然地下室に雷鳴が響き、2人に血がしたたり落ちます。地下室は崩れ始め、2人は1階に逃れました。

ホテルから逃げるライザとマッケイブ。画家シュワイクの遺した地獄の絵から、血が流れ出します。「お前は闇の海に直面する…」との言葉が響きます。

死者たちの影が浮かぶホテルから逃げた2人。人気のない夜の道を、マッケイブは自分の勤める病院に車を走らせます。

病院にも人の姿はありません。同僚のハリス医師を探すマッケイブは護身用の銃を掴み電話をかけますが、どこにも通じません。

ライザはいつの間にか、自分の両手から血が流れていると気付きます。突然ガラスを破り彼女に襲いかかるゾンビたち。

医師はゾンビに発砲します。病院の廊下に歩く死者が無数にいました。ゾンビに発砲しライザを逃がすマッケイブ。

彼は一室に立てこもります。ライザが逃げた先はモルグでした。そこにうずくまる少女ジルを見つけ、抱きしめるライザですが、開かれたジルの瞳は白色でした。

マッケイブの部屋に解剖用の刃物を持ったハリス医師が現れます。マッケイブが窓を破るため銃で撃つと、飛び散ったガラス片がハリスを顔面を襲います。

部屋を出たマッケイブがエレベーターの扉を開くと、そこにライザとジルがいました。3人は脱出を試みますが、エレベータを出た先にもゾンビの群れがいました。

死者に襲われつつ3人は進みます。そしてマッケイブが開いた扉から、画家シュワイクの死骸が現れます。銃弾を浴びながらもゆっくり迫るシュワイクのゾンビ。

突然白い目を見開いたジルがライザに襲いかかります。気付いた医師は少女の頭部に発砲します。

追い詰められたマッケイブは、銃を棄てライザと共に地下室に逃れます。しかしそこは、セブン・ドアーズ・ホテルの地下と同じ場所でした。

ありえない、信じられないとつぶやく2人に、ゾンビたちのうめき声が迫ります。やむなく妖しい光の方へ進むライザとマッケイブ。

地下室の壁の穴をくぐり抜けた先に、無数の骸が横たわる荒涼とした大地が広がっていました。それは画家シュワイクが描いた絵そのものでした。

2人が振り返ると通ってきた道はありません。ただ死者たちの世界が広がっています。ここが生きる者の世界のはるか彼方にある、死者の世界(The Beyond)でしょうか。

出口を求め駆け出したライザとマッケイブの瞳は、いつの間にか白くなっていました。

「お前は闇の海に直面する…」との言葉が響きます。果てしない地獄の荒野に立ち尽くす2人の姿は、やがて消えていきました…。

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映画『ビヨンド』の感想と評価


(C)キングレコード

どうですか、ルチオ・フルチのホラー映画の中で、最高の完成度を誇るカルトホラーを見た感想は?素晴らしいでしょう!

どうやってあの液体は顔にかかった?蜘蛛はどっから沸いて出た?なぜ窓を撃ち、そのガラスの破片が顔に刺さるの?あのゾンビは物理的に存在するのか幽霊なんだか、はっきりしろ!

とツッこみ所は満載ですが、「ルチオ・フルチの映画の中で」最高の完成度ですから納得して下さい。他の作品は?…ご想像に任せます。これこそ彼の映画の魅力と、ホラー映画ファンはご存じでしょう。

グロテスクな悪趣味シーンを強引に挿入し、キャラクターの設定がブレている印象がありますが、それでも映画のメインストーリーは破綻せず、ラストシーンには感動すら覚えます。

そして全編を通して流れる、フルチ監督作『サンゲリア』(1979)のメインテーマで有名なファビオ・フリッツィの物悲しく美しい音楽が、この映画に確固たるムードと世界観を与えます。

フルチ映画とのコラボで知られるファビオ・フリッツィは、彼とは家族のように付き合い、その友情と彼が与えてくれた若いファンからの支持に、心から感謝していると語っていました。

意味不明?それとも本格コズミックホラー?


(C)キングレコード

本作には重要なアイテムとして「エイボンの書」が登場します。ホラーに詳しくない方もご存じ、クトゥルフ神話作品に登場するヤバい架空の書物です。

1933年に小説に登場して以来、クトゥルフ神話作品に度々登場し、そこから発展したゲームでも凶悪アイテムとして扱われているのが「エイボンの書」です。

ルチオ・フルチ監督作『地獄の門』にも、クトゥルフ神話でお馴染みの町「ダンウィッチ」が登場します。サム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1981)にクトゥルフ神話の最凶アイテム「ネクロノミコン(死者の書)」が登場するのと同様のオマージュでしょうか。

しかし多くの作品のストーリーが破綻している、ウケを狙い無理やり残酷シーンを挿入しただけと、多くの人が信じるフルチ作品だけに、クトゥルフ神話アイテムも単に拝借しただけかもしれません。

ルチオ・フルチはグロ描写のホラーで成功し、それを作り続けただけだ。それはエロチック作品で実績を重ね、『カリギュラ』(1980)で成功し、その後ひたすらエロ映画を作ったイタリアの職人監督ティント・ブラスと似た人物だ、とする意見もあります。

このいい加減さこそフルチ作品の魅力と受け取るファンもいれば、この破綻や展開の飛躍は、監督が計算したものと分析する評論家もいます。

助監督・脚本家として経歴をスタートさせ、コメデイ映画・西部劇・犯罪映画(ジャッロ)、ホラー映画にSFファンタジーとジャンルを渡り歩いたフルチは、周囲からはカトリックで政治的左派、そして頑固な皮肉屋と思われていました。

そんな彼の性格は、病魔に襲われ2人の娘を残し自殺した妻や、自作『Beatrice Cenci』(1969)がカトリック教会から、『ザ・エロチシスト』(1972)が政治家から攻撃された影響から生まれたと語る者もいます。これらは彼がホラー映画を手掛ける以前、1970年前後の出来事です。

自らを穏健なアナーキストと称し、ホラーとはアナーキーであり、私は極限までそれを描いてみせたと語り、自分はカトリックなのに天国は想像できない、しかし地獄を思い描いてしまうと説明しているフルチ。

彼は自作品に登場する矛盾や飛躍を、映画作家として誇るべき要素と意識しているようです。この言葉を真実だと受け取りますか?それとも職人監督の自己弁護と受け取りますか?

『ビヨンド』に描かれた地獄は、キリスト教的な価値観よりクトゥルフ神話の世界、コズミックホラー的な人知を超えた異界を感じさせます。

これはフルチの内面を映像化した世界ではないでしょうか。多くのフルチ映画の壊れっぷりを愛する私ですが、本作のラストには深い感動を覚えます。

奇怪な世界を創り上げたスタッフたち

参考映像:『ザ・ヴォイド』(2016)

本作はルイジアナでロケが行われた後、ローマのスタジオで特殊効果を要するシーンが撮影されます。CGの無い時代、印象的なラストシーンは背景にホリゾントがある、サウンドステージで撮影されました。

低予算ながら工夫と技術の力で、荒涼とした死者の世界は描かれました。このラストシーンに代表する『ビヨンド』の映像世界は、後の多くのホラー映画監督に影響を与えました。

『ファーザーズ・デイ 野獣のはらわた』(2011)のジェレミー・ギレスピーと『サイコ・ゴアマン』(2020)のスティーブン・コスタンスキが共同監督した、80年代B級映画愛がつまった『ザ・ヴォイド』(2016)という映画があります。

様々なホラー映画の要素を見せ、最後はコズミックホラーに突入するこの作品のラストは将に『ビヨンド』へのオマージュ。ホラー映画を愛する人にぜひ見て欲しい作品です。

ルチオ・フルチ映画を支えたのは、イタリア版ハリウッド、チネチッタの美術スタッフです。映画産業が衰退する中、彼らの働きが当時のイタリアB級映画に一定の品質を与えていました。

80年代の後半に入るとイタリアB級映画の製作環境はさらに悪化、彼らが実力を発揮する場は失われていきます。この時期フルチの健康状態悪化もあり、彼の映画の質は低下します。

そんなフルチ映画を支えたスタッフの1人がジャンネット・デ・ロッシ。本作や『サンゲリア』、『墓地裏の家』の特殊メイクを担当した人物です。

その後ハリウッドに進出し『キング・オブ・デストロイヤー コナンpart2』(1984)や『ランボー3 怒りのアフガン』(1988)に参加、そしてフランスで、アレクサンドル・アジャ監督の出世作『ハイテンション』(2003)の特殊メイクを担当します。

『ビヨンド』には重要なモチーフとして絵が登場します。見る者の思考や感情をかき立てる絵こそ、疑惑の象徴だと語るフルチ監督。

彼の美術的なこだわり、それはグロテスク趣味など「汚い」描写に本領が発揮されますが、それには支えてくれるスタッフの存在が不可欠でした。

まとめ


(C)キングレコード

ルチオ・フルチらしい残酷描写と、納得しかねる展開を交えつつ、ラストシーンの映像の力に圧倒されるカルトホラー映画『ビヨンド』、ぜひ見て下さい。グロ耐性の低い方は…そもそもこの記事を読んでないでしょう。

残酷描写と言えば彼は、『サンゲリア』の有名シーンでお馴染みの、「目」への攻撃が大好きです。特に『ビヨンド』には何度も登場する、本当に悪趣味で困った映画監督です。

フルチ監督は「目」を責める描写は、芸術家ダリ(とルイス・ブュニエルの映画『アンダルシアの犬』(1928)から)の引用だと認めています。

シュルレアリストにとって「目」は重要と語り、自作における「目」の欠落は論理の喪失、つまり良識を否定すると同時に、完全なる自由を獲得する意味があると説明するフルチ。

『ビヨンド』のラストの主人公たちのあの目。それはバットエンドであると同時に、彼らが人間的な感覚の恐怖から、人間社会の俗世から完全に解放された事実を意味しています。

ラストシーンに怖さ・寂しさ・絶望と共に、どこか荘厳な印象を感じた方は、職人監督そして1人の人間としてもがき苦しんだ、ルチオ・フルチのメッセージを受け取ったのかもしれません。

【連載コラム】「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら






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