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Entry 2019/05/22
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韓国映画『神と共に 第一章:罪と罰』あらすじ解説と考察。死後の世界の「仏教的宗教観」の楽しみ方とは|SF恐怖映画という名の観覧車50

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile050

ゾンビ映画の定番や基礎を丁寧に踏襲しつつ、移動する密室と言う斬新な設定を活かしきった韓国映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)。

そんな全世界で大ヒットした『新感染 ファイナル・エクスプレス』の興行成績を上回る韓国映画が今年、遂に日本に上陸します。

今回は仏教の死生観を分かりやすく描いた韓国産ファンタジー映画『神と共に 第一章 罪と罰』(2019)を、「宗教観」に視点を当てご紹介していこうと思います。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『神と共に 第一章 罪と罰』の作品情報


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

【日本公開】
2019年

【原題】
Along with the Gods: The Two Worlds

【監督】
キム・ヨンファ

【キャスト】
チャ・テヒョン、ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、イ・ジョンジェ、D.O.、キム・ドンウク

映画『神と共に 第一章 罪と罰』のあらすじ


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

正義感が強く、誰よりも勤勉に生きてきた消防士のジャホン(チャ・テヒョン)はある日、火災現場から少女を助け命を落とします。

お金に困る母と弟を残しこの世を去ってしまったことを受け入れられないジャホンのもとに、冥界からの使者ヘウォンメク(チュ・ジフン)とドクチュン(キム・ヒャンギ)が現れます。

彼等は、尊き行いで死亡したジャホンを「貴人」として迎え、これからジャホンが迎えることになる7つの裁判でジャホンの弁護を担当すると語りますが…。

「輪廻転生」と「死後の世界」


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

主人公の死から始まる本作は「仏教」の宗教観が色濃く出た作品であり、物語も「仏教」の世界観に準じて進んでいきます。

しかし、宗教観の濃い映画にありがちな「分かりにくさ」や「宗教の押し売り」のような雰囲気は一切なく、あくまでもエンターテインメント作品として分かりやすく楽しめる作品となっていました。

この項では、本作の基盤とも言える仏教の中から「輪廻転生」と「死後の世界」を、他作品の紹介を交えながら詳しく解説していきます。

仏教における「輪廻転生」


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

人は死後どうなるのか。

この問いは生前には誰も答えに到達に到達することのない、究極の問いであると言われています。

仏教においては、全ての生命は死後に生前の行いに沿った生命に転生すると考えられており、全ての生命の意思は循環しているとされています。

『神と共に 第一章 罪と罰』の主人公ジャホンが受けることになる7つの裁判は、この「転生先」を決めるための裁判であり、生前に犯した罪によってその転生先は「地獄」にもなりえます。

では、私たちは人生の中でどう生きていけば良いのでしょうか。

例えば、坂本龍一が音楽を手掛け、キアヌ・リーヴスが釈迦を演じた『リトル・ブッダ』(1993)では仏教における「宗教観」及び「輪廻転生」が詳しく描かれ、「どう生きるべきなのか」の「仏教的答え」を垣間見ることが出来ます。

「死後の世界」を描いた作品


(C)2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

仏教の宗教観においては「輪廻転生」の考えがあり、いかなる人間においても生前の行為によって転生するため、その先が「地獄」であってもそれは次の人生であり、正確に言えば「死後の世界」は存在しません。

強いて言えば、『神と共に』で描かれる7回に渡る「裁判」を受ける場所こそが「死後の世界」と言えるものであり、本作ではファンタジーチックに描かれながらも仏教的な「死後の世界」がおとぎ話のように楽しむことが出来ます。

このように宗教における「死後の世界」は様々な映画で描かれており、映画を鑑賞するだけでその宗教のことを少し知ることが出来るのも映画鑑賞の楽しみの一つと言えます。

ピクサーの長編アニメ『リメンバー・ミー』(2018)ではメキシコにおける「死後の世界」、そして先日続編の製作が示唆されたキアヌ・リーヴス主演映画『コンスタンティン』(2005)ではキリスト教における「死後の世界」が描かれ、宗教ごとに全く異なる世界観に歴史の面白味を感じます。

裁判×ファンタジー×ヒューマンドラマの織り成す魅力


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

他人を守るために死亡したジャホンの「転生」を巡り、「死後の世界」で行われる7つの裁判を描いた本作。

仏教における裁判は非常に厳しく、他の生物に対する殺生はおろか、他人に対し「嘘」をついた過去すら咎められ「地獄」に落ちてしまうことがあります。

「地獄」に落ちても再び転生の機会は与えられるのですが、前述の通り裁判は非常に厳しく、全くのお咎め無しで転生することは困難を極めます。

それは、誰よりも勤勉に生きてきたジャホンでもあっても同じことで、他者を慈しみ率先して厄介ごとを引き受けてきた彼であっても、「とある過去の過ち」が彼の道を暗くしていきます。

何としても有罪を勝ち取りたい検察側と、ジャホンを無罪とし良い転生を迎えられるように導こうとする使者のカンニムたち弁護団。

そんな宗教観を交えたファンタジー法廷劇としての面白さもさることながら、徐々に明かされる主人公ジャホンの「葛藤」や「想い」と言ったヒューマンドラマ要素も強く、死後の後悔を減らすため生前に成すべきことについて考えたくなります。

まとめ


(C)2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved.

本作の後編に当たる『神と共に 第二章 因と縁』(2019)は、「仏教」の教えの1つである「因果論」を想わせる邦題。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』で印象的な役を演じたマ・ドンソクの登場も確定しており、活躍に期待が高まります。

日本の文化としても根強く残る「仏教」の世界。

そんな仏教の宗教観を軽く知ると言った面でも、純粋にエンターテインメント作品としての楽しむと言った面でも、双方でオススメ出来る本作。

前編に当たる『神と共に 第一章 罪と罰』は5月24日より全国劇場で公開されます。

大迫力で描かれる「死後の世界」をぜひ大スクリーンで楽しんでください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile051では、NETFLIXが放つ「〇〇したら即死」系映画最新作『ザ・サイレンス 闇のハンター』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

5月29日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

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