Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/09/29
Update

映画『わたしは金正男を殺してない』感想と考察評価。暗殺者に仕立てられた女たちが訴えたモノとは⁈|だからドキュメンタリー映画は面白い56

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第56回

全世界に衝撃を与えた暗殺事件に隠された悲劇

今回取り上げるのは、2020年10月10日(土)よりシアター・イメージフォーラム、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開の『わたしは金正男を殺してない』

2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起こった、北朝鮮の朝鮮労働党委員長・金正恩(キム・ジョンウン)の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)暗殺事件に隠された闇と真相に迫ります。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『わたしは金正男を殺してない』の作品情報

(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Assassins

【製作・監督】
ライアン・ホワイト

【製作】
ジェシカ・ハーグレーブ

【製作総指揮】
ダグ・ボック・クラーク、ダン・コーガン、ジェラリン・ホワイト・ドレイファス

【撮影】
ジョン・ベナム

【編集】
ヘレン・カーンズ

【作品概要】
2017年にマレーシアのクアラルンプール国際空港で起こった、金正男暗殺事件の闇と真相に迫ったドキュメンタリー。

監督は、アメリカで最も有名なセックス・セラピストに密着した『おしえて!ドクター・ルース』(2019)、聖職者による性犯罪の闇に切り込んだNetflixオリジナル・シリーズ「キーパーズ」(2017)で絶賛された気鋭のドキュメンタリー作家ライアン・ホワイト。

監督自ら、クアラルンプール、インドネシア、ベトナムで取材を敢行し、容疑者とされた2人の女性の過酷な現実や、驚愕の暗殺計画の全貌を解き明かしていきます。

製作国アメリカに先駆け、日本が世界最速公開となります。

映画『わたしは金正男を殺してない』のあらすじ

(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

2017年2月13日、大勢の利用者で賑わうマレーシア・クアラルンプール国際空港の出発ロビーで、北朝鮮の最高指導者、金正恩の異母兄である金正男が殺害される事件が発生。

全世界に衝撃を与えたこの事件ですが、さらに衝撃的だったのが、逮捕された容疑者が“暗殺者”のイメージからはあまりにもかけ離れた、若き2人の女性だったことでした。

彼女たちはプロの暗殺者なのか、それとも囮として仕立てられた殺人者なのか?

女性たちの家族や弁護人といった関係者たちの証言や、工作員とのSNSでのやり取りを交えつつ、謎のベールに覆われた事件の真相に迫ります。

スポンサーリンク

全世界に拡散された暗殺事件


(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

2017年2月13日、午前9時のクアラルンプール国際空港。

自動チェックイン機の列に並んでいた1人の恰幅の良い男性に、グレーのシャツを着た1人の女性が話しかけます。

それとほぼ間を置かずして、“L.O.L(爆笑)”とロゴが入ったTシャツ姿の別の女性が、背後から男に飛びつきました。

その瞬間、グレーの女性が男の顔に触れたかのように見えたかどうかハッキリと確認する間もなく、女性たちはそれぞれ来た方向と逆に向かい、その場を離れていきます。

その数分後に男は死亡し、彼の正体が北朝鮮の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記の長男、金正男だったことが判明。

死亡原因は、顔面から検出された猛毒の神経剤VXでした。

正男と女性たちのやり取りの一部始終を捉えていた空港内の監視カメラの映像は、またたく間にYoutubeなどで世界中に拡散。

ネット社会を象徴する事件として、記憶にとどめることとなったのです。

捨て駒にされた女たち

(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

容疑者として逮捕された2人の女性、インドネシア人のシティ・アイシャとベトナム人のドアン・ティ・フォンは、共に20代で面識も全くありませんでした。

それどころか2人は、自分たちがしたことは、日本のテレビ向けの“イタズラ動画”の撮影に出演したという認識だったのです。

彼女たちは、それぞれ別のルートで、撮影スタッフを騙る暗殺工作員から動画撮影の仕事を受け、イタズラを仕掛ける訓練をしたのち、事件当日に備えました。

(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

ベトナムの小さな農村から上京し、女優を目指しつつ接客やモデルの仕事をしていたドアンと、インドネシアの小さな村で育つも貧しい環境から脱しきれずにシングルマザーとなり、性風俗で日銭を稼ぐ生活を送っていたシティ。

女優として名を馳せたい、田舎の親に仕送りをしたい、それぞれの理由から動画撮影に参加したのに、気づいたら暗殺計画の捨て駒にさせられた女たち。

本作の監督兼プロデューサーであるライアン・ホワイトは、時代の潮流や俗社会に身を置く女性を被写体としたドキュメンタリーを多く手がけてきました。

『愛しのフリーダ』(2013)では、ザ・ビートルズの秘書を務め、時にはスタッフとして、時には母親的存在として彼らを支え続けたフリーダ・ケリーに密着。

『おしえて!ドクター・ルース』では、ホロコーストの生存者にしてアメリカで最も有名なセックスセラピストが辿ってきた、長きにわたる男性社会への抗いを収めています。

本作もまた、図らずも独裁国家の謀略に搾取されてしまった2人の女性の、声なき叫びの記録となっています。

参考動画:『愛しのフリーダ』(2013)

スポンサーリンク

暗闇に包まれた事件に差す一つの光

(C)2020 Backstory, LLC. All Rights Reserved.

独裁者の異母兄だった男が、白昼の空港で若き女性に毒殺され、裏で暗躍していたとされる者たちも相次いで消息不明に。

そんな創作サスペンス小説のようなお話が、金正男暗殺事件として現実となったのです。

事件の首謀者と目される北朝鮮のトップの金正恩は、最大の敵国だったアメリカのトランプ大統領との積極外交に応じる一方で、緊張と緩和で韓国に揺さぶりをかけ続けるなど、その動向は依然として掴めません。

真犯人が分からぬまま、完全に闇に葬られる形となった暗殺事件ですが、ドアンとシティへの非難は止むことはありません。

本作プロデューサーのジェシカ・ハーグレーブは言います。

この作品を観た人に、わたしたちはニュースの見出しの先にあるものを知ろうとするべきだ、さらに掘り下げて理解するべきだ、と気づいてもらえたら嬉しい。

ラストで示される彼女たちが得たものこそ、ニュースの見出しの先にあるものであり、本作唯一の“光”なのです。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

『THE GUILTYギルティ』ネタバレ感想と考察。音声のみで展開される異色サスペンス作品の妙味|サスペンスの神様の鼓動11

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 前回のコラムで、次回は『フロントランナー』をご紹介すると …

連載コラム

都市伝説の怖い真相をSF映画から考察。トトロからスピルバーグやディズニー作品まで | SF恐怖映画という名の観覧車22

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile022 「これは私の友達の友達から聞いた話しなんだけど……」。 そんな言葉から始まる「都市伝説」を、皆さんも人生の中で何回か聞いたことがあるはず …

連載コラム

映画『ドリームプラン』あらすじ感想と評価解説。ウィル・スミスがテニス世界チャンピオン姉妹の父を演じる感動のヒューマン作品|映画という星空を知るひとよ87

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第87回 映画『ドリームプラン』は、2022年2月23日(水・祝)より全国ロードショー。 『ドリームプラン』は、最強のテニスプレイヤーと称されるビーナス&セリー …

連載コラム

映画『エイリアン2』ネタバレあらすじと結末までの感想解説。クイーンを登場させ“強くなる女性”をテーマにしたジェームズキャメロンの演出|SFホラーの伝説エイリアン・シリーズを探る 第2回

連載コラム「SFホラーの伝説『エイリアン』を探る」第2回 人間が倒すことがてきなかった完全生物“エイリアン”が、今度は集団でやってくる!?悪夢のモンスターホラーをスケールアップして描き、シリーズの存在 …

連載コラム

映画『クイーンズ・オブ・フィールド』あらすじ感想と解説評価。サッカーを通じてユーモアたっぷりに社会における男女のあり方を描く|銀幕の月光遊戯 71

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第71回 解散の危機にひんした伝統ある町のサッカーチームを救うため、立ち上がった女性たちの奮闘を描くフランス映画『クイーンズ・オブ・フィールド』が、2021年3月19日より …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学