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Entry 2019/03/04
Update

『THE GUILTYギルティ』ネタバレ感想と考察。音声のみで展開される異色サスペンス作品の妙味|サスペンスの神様の鼓動11

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

前回のコラムで、次回は『フロントランナー』をご紹介すると告知しましたが、現在サスペンスの話題作が目白押しとなっており、急遽予定を変更させていただきました。

『フロントランナー』は、また時期を見て、ご紹介させていただきます。

今回取り上げる作品は、電話の音声だけで物語が進行する、予測不能の展開が魅力のサスペンス映画『THE GUILTY ギルティ』です。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『THE GUILTY ギルティ』のあらすじ


(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
緊急通報指令室のオペレーターとして働く警察官のアスガー。

彼は、現場で働いていた警察官でしたが、自身が過去に犯した失態により、現在は緊急通報指令室で働いています。

仕事に魅力を感じていないアスガーですが、緊急通報指令室での仕事はこの日が最後、翌日から始まる裁判を経て、現場に復職する予定でした。

アスガーは、緊急通報指令室にかかってくる、麻薬中毒者や強盗被害者からの電話を、面倒臭そうに受け流します。

全く仕事に身が入らない様子のアスガーに、ある女性からの通報が入ります。

イーベンと名乗る女性は、どうやら誘拐されているようで、子供に電話をかけるふりをして、緊急通報指令室へ連絡をしてきました。

尋常ではない事態に、アスガーも本腰を入れて女性を救出しようとします。

アスガーは、イーベンの身元を探る為に、イーベンの自宅へ連絡します。

自宅には、マチルデと名乗る6歳の女の子と、赤ん坊のオリバー2人が留守番をしていました。

マチルデは、イーベンと別居している父親が、突然家に押し入り、オリバーの部屋で大声を出して暴れた後に、イーベンを連れ去ったとアスガーに伝えます。

アスガーは、マチルデの話からイーベンの夫、ミケルを割り出し、再び連絡してきたイーベンから、車の特徴を聞き出します。

アスガーは、北シェラン司令室と連絡を取り合い、現場にパトカーを急行させ、イーベンを保護させようとします。

ですが、パトカーは違う車を追跡してしまい、ミケルに逃げられてしまいます。

アスガーは更に捜査してもらう事を望みますが、北シェラン司令室のオペーレーターは、マニュアル通りの対応をするのみ。

アスガーの勤務時間は残り15分となりましたが、イーベンを救出する事を決意し、1人で別室に移動します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『THE GUILTY ギルティ』ネタバレ・結末の記載がございます。『THE GUILTY ギルティ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
アスガーは相棒の警察官、ラシッドに連絡し、ミケルの家を捜査する事を依頼します。

ラシッドは、翌日の裁判で証言するプレッシャーから、酷く酔っ払った様子でした。

そこへ、マチルデから連絡があり、警察官が家に来た事をアスガーに伝えます。

電話を代わった警察官の証言から、マチルデが血まみれである事が分かります。

アスガーは、警察官に家の中の様子を見るよう指示を出しますが、突如、警察官が悲鳴を上げます。

寝室では、寝ているはずの赤ん坊、オリバーが死亡していました。

それも、体を真っ二つに切り裂かれた状態で。

ミケルは過去に家庭内暴力を犯しており、警察にデータが残っていました。

アスガーはミケルに連絡し、オリバーを殺害した事への誹謗中傷を浴びせますが、ミケルに一方的に電話を切られてしまいます。

アスガーは、ミケルの自宅に到着したラシッドからの連絡を受けます。

「ミケルはイーベンを何処に連れて行くのか?」が気になったアスガーは、ミケルの自宅に届いた配達物の中から、住所が北シェランになっている書類をラシッドに探させます。

ラシッドとの会話を終えたアスガーに、イーベンから電話が入ります。

アスガーはイーベンを逃がす為に、車のサイドブレーキを引いて急停止させて、脱出する事を提案します。

アスガーに従いサイドブレーキを引くイーベン。

その瞬間、激しい衝突音が鳴り電話が切れます。

イーベンを心配するアスガー、そこへイーベンからの連絡が入ります。

脱出に失敗したイーベンは、ミケルに車の荷台へ閉じ込められてしまいました。

ですが、ミケルはレンガ職人。

荷台の中にはレンガが置いてあり、アスガーは荷台の扉が開いた瞬間に、ミケルをレンガで殴打する事を、イーベンに指示します。

怯えるイーベンを、アスガーは辛抱強く支えようとし、次第にイーベンもアスガーに心を開くようになりました。

そして、オリバーを心配するイーベンは、アスガーに告げます。

「泣き止まないイーベンのお腹を裂いて、中から蛇を取り出した」

突きつけられた真実に、アスガーはショックを受けます。

そして、荷台の扉を開いたミケルが、イーベンにレンガで殴られる音が響き、通話が終了します。

ショックから立ち直れないアスガーは、ラシッドからの電話を受けます。

ミケルの自宅の配達物から、ミケルが向かっていたのは精神病院である事が判明しました。

アスガーはラシッドへ、感謝を伝えて電話を切ります。

ミケルへ連絡したアスガーは、イーベンが何処かに逃げた事を伝えられます。

自身のミスを責めるアスガー、そこへイーベンから連絡が入ります。

イーベンは、陸橋に立っており、飛び降り自殺を図ろうとしていました。

アスガーはイーベンを説得し、自身が19歳の少年を正当防衛に見せかけて射殺した事を告げます。

そして、その時は人生に絶望していた事も。

イーベンは飛び降りますが、アスガーによって、イーベンの居場所を知った警察官に救助され、保護されます。

イーベンが助かった事を知ったアスガーは、静かに席を立ち、何処かへ連絡をします。

サスペンスを構築する要素①「音声のみで展開するストーリー」


(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
『THE GUILTY ギルティ』最大の特徴は、メインの登場人物は主人公のアスガーのみで、アスガーと緊急指令室に連絡をしてくる通報者との会話のみで、物語が展開していく事です。

電話相手との音声による会話のみで、ストーリーが進むという展開は、電話をしてきた人物の実態がつかめない事で、不安感を煽る効果があり、サスペンス作品で意外と多い手法です。

『THE GUILTY ギルティ』が優れているのは、会話のみで展開が二転三転していく点で、全ては受話器の先での出来事であり、アスガーと観客は「何が起きているか?」を頭で想像して組み立てるしかありません。

こちらが想像した事を、覆すような急展開が次々と起きる為、作中のアスガーと同じように、電話先の相手の話に引き込まれるようなります。

サスペンスを構築する要素②「リンクする上映時間と劇中時間」


(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
『THE GUILTY ギルティ』は、ワンシチュエーションのサスペンスとなっており、緊急指令室の中でストーリーが展開します。

また、大きく時間が経過する事が無い為、物語の発生から終わりまで劇中で経過する時間は、『THE GUILTY ギルティ』の上映時間とリンクします。

これにより、蓄積されるアスガーの精神的疲労や不安感を、観客も実際の時間経過とリンクして感じる効果を生んでいます。

そして、精神的に疲弊しきったアスガーが、イーベンから告げられる事実。

これにより、精神的にどん底へ突き落される瞬間を、観客はアスガーと共に体験する事になります。

サスペンスを構築する要素③「アスガーが緊急指令室にいる理由」


(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S/
『THE GUILTY ギルティ』は、イーベンの誘拐事件を如何に解決するか?が、物語の主軸となりますが、同時に「アスガーが何故、緊急指令室にいるか?」という謎も用意されています。

アスガーが自らのミスにより、緊急指令室で嫌々仕事をしている事は、冒頭から分かりますが、何をしたかは最後まで語られません。

ラストに、イーベンを説得する際にそれは語られますが、まるで自らの過ちと内面に向き合い、懺悔をしているかのようでもあります。

それは、会話のみでのコミュニケーションという、視覚での情報が機能しない状況で、ごまかしが利かないからこそ、自らをさらけ出すしかなかったという事でしょう。

緊急指令室での仕事の重要性に、アスガーが気付いた瞬間でもあります。

クライマックスで、それまで1人で事件を追っていたアスガーは、他の仲間と連携を取るようになります。

ここでも、心境の変化が伝わりますね。

音声による会話のみで展開される、シンプルな映画『THE GUILTY ギルティ』は、人の命に関わる警察官という職務と、自らの内面に向き合ったアスガーが、精神的な成長を遂げる、シンプルなテーマの作品となっています。

映画『THE GUILTY ギルティ』まとめ


(C)2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S/
真夜中に発生した誘拐事件の、孤独な救出劇を描いた本作。

一連の事件の中で、アスガーは、人命に関わる自らの職務の重要性に改めて気づき、精神的な成長を遂げます。

特筆したいのは、本作は上映時間と同じ、1時間30分足らずの出来事を描いている点です。

キッカケさえ掴めば、人は短時間で、劇的に成長できるというメッセージを感じます。

ただ、その為には、無意味に感じる事でも、全力で取り組む気持ちが大切という事ですね。

本作のラストで、アスガーが電話をした相手ですが、これは作品の会話の中にヒントが隠されており、その人物に電話をしたという行動も、アスガーの内面の変化を象徴する、印象的なラストシーンになっています。

電話の相手は誰なのか?アスガーと同じように、劇中の会話を聞き逃さないで下さいね。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…


失踪した女性の捜索を通して、さまざまな秘密が浮かび上がるサスペンス映画『シンプル・フェイバー』を、ご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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