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Entry 2019/03/13
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ホラー映画『コンジアム』あらすじと感想レビュー。韓国の心霊スポットへ観客を没入させる演出力|SF恐怖映画という名の観覧車40

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile040

2012年、アメリカのニュースチャンネルが世界各地を調査し発表した「世界七大禁断の地」。

世界が注目するこの発表で、日本からは「軍艦島」と「青木ヶ原樹海」の2つが選出され話題となりましたが、韓国から選出された「最恐」とも呼ばれる心霊スポットは「禁断の地」の風格すら感じるものとして、多くの噂が飛び交っています。

そんな訳で今回は、実在する心霊スポットを舞台にした新感覚ホラー映画『コンジアム』(2019)をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『コンジアム』の作品情報


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.

【原題】
곤지암

【日本公開】
2019年(韓国映画)

【監督】
チョン・ボムシク

【キャスト】
イ・スンウク、ウィ・ハジュン、パク・ジヒョン、パク・ソンフン、オ・アヨン

映画『コンジアム』のあらすじ


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韓国の北西部に位置する京畿道広州市。

ここには「昆地岩(コンジアム)精神病院」と呼ばれる廃墟が存在します。

恐怖動画の検証や噂話の収集、心霊スポットの実地検証を生配信する「ホラータイムス」のハジュン(イ・スンウク)は、足を踏み入れた人間が次々と失踪するいわくつきのスポットである「コンジアム」の実地検証を生配信し、大金を得ることを目論みますが…。

最恐の心霊スポット


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.

開院から僅か数年で閉院した「南陽精神病院」。

閉院した真の理由は定かではありませんが、この病院には「入院患者が次々と怪死した」、「院長が自死」、「オーナーは行方不明」などの様々な噂が飛び交ったため、次のオーナーが着くこともなく廃墟となりました。

現在、地名を取り「昆地岩精神病院」と呼ばれるようになったこの廃墟は「肝試しをした若者がその後に自殺した」などの「都市伝説」が残る最恐の「心霊スポット」になっています。

肝試しの変化と『コンジアム』


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一昔前の「肝試し」と言えば、仲間同士で「心霊スポット」に足を運び、「怖い怖い」と怯えながら歩き回り、後日の話しの種にするようなものでした。

しかし、時代が変わり、誰でも手軽に動画を撮影できるようになると、「Youtube」等の動画サイトに「肝試し」動画をアップロードすることが流行り始め、様々な動画投稿者が心霊スポットに足を運んでは動画を投稿し、鑑賞する側は自宅に居ながら「肝試し」が出来る手ごろな時代となりました。

本作の舞台となる「コンジアム」も本国でその存在が話題となって以降、遊び半分で足を踏み入れようとする若者が多く、Youtubeにも多くの動画がアップロードされています。

劇中の動画配信者ハジュンもその1人であり、コンジアムの全容解明と謳いながら、その目的は動画の再生数の上昇に伴う大金の入手。

あまりにも足を踏み入れる人が多く、近隣住民が迷惑をしているとの苦言も多いコンジアム。

違法な動画配信者が、近隣住民ではなくコンジアムの「住民」に襲われます。

後ろ盾がなくとも独自のアイデアで多くの人に娯楽を提供できる動画配信者。

しかし、その一方で一部の配信者による「迷惑行為」も年々エスカレートしています。

しっかりとした手続きを行わず廃墟に踏み入ることは犯罪であり、彼等がどのような目に合おうとも結局は「自業自得」であると言う過激なアンチテーゼが根幹に流れているとすら感じられました。

進化する恐怖演出


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本国の韓国で観客動員数が歴代2位となった至極のホラー『コンジアム』。

この作品で使われている演出の多くは、かつてのホラー映画でも使われてきた一般的なものではありますが、その1つ1つが時代に合わせ磨き上げられたものとなっていました。

今コラムではその中でも特に「POV」と「寒暖差」に焦点を絞り、検証していこうと思います。

「POV」演出と手振れ問題

参考映像:『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)予告編

「POV」とは「主観ショット」などと呼ばれ、ビデオカメラや本人の目からの視点から映画を描写することで、映画への没入感を増幅させる演出です。

全編を「一人称視点」で描いた新世代アクション映画『ハードコア』(2015)では、まるで自身がアクションを行っているかのような新感覚の映画性が絶賛されました。

そして、「ホラー」と「POV」での併せ技として忘れてはいけない映画が『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)。

魔女の伝説の残る森を撮影するために森に訪れた3人の大学生が、「何か」に襲われる作品として高い評価と売り上げを記録したこの作品は、事前情報の出し方を含め「リアルさ」をとことん追求していました。

一方で、リアルさを演出するために「ハンドカメラ」で撮影された『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』等は、手振れによる「画面酔い」を感じる人が多く、誰にでも観ていただける作品とは言い難いものとなっていました。

しかし、本作『コンジアム』では主人公たちの目的が「動画配信」であるため、物語の全編の映像は従来の手で持つハンドカメラではなく、首や身体全体で固定するカメラでの撮影。

そのため、劇中では手振れによる画面酔いをほとんど感じないにも関わらず、「POV」演出の特徴である没入感は、実在の「心霊スポット」であると言う点とあわせ、極限まで高まっていました。

恐怖の「寒暖差」


(C)2018 showbox and HIVE MEDIA CORP ALL RIGHTS RESERVED.

本作で物語への没入感を最大に高めている要素は恐怖の「寒暖差」にあります。

いくら実在の「心霊スポット」と言えども、長時間描写され続けると集中力が落ち、同時に没入感も損なわれてしまいます。

ですが、本作では敢えて序盤に、「コンジアム」へと向かう若者たちのアクティビティや食事シーンを丁寧に描写することによって、「コンジアム」の禍々しさを際立たせることに成功していました。

ホラー動画配信チャンネル「ホラータイムス」の主催者でありながら超常現象を信じていないハジュンですが、画面越しに観ている鑑賞者は「コンジアム」に足を踏み入れた瞬間から尋常ではない雰囲気を味わうことになります。

「ただ暗いから」や「そういう雰囲気にしているだけ」と言う生半可な言葉で誤魔化すことの出来ない空間演出は、前述した「静」と「動」の使い分けから生まれています。

まとめ


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実物の戦車を使い「リアリティ」を極限まで引き出した戦争映画『フューリー』(2014)のように、『コンジアム』は巧みな演出で実在の「心霊スポット」への「没入感」を際立たせています。

そんな韓国ホラー映画『コンジアム』は2019年3月23日(土)より劇場公開開始。

春雨が降り、徐々に気温が上がっていき少しの暑さも感じ始めた今日この頃だからこそ、本物の「恐怖」を感じ取ることの出来る『コンジアム』を劇場でご覧になってみてはいかがでしょうか。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile041では、「SF」と「ホラー」、双方のジャンルで人気の有名キャラクターがぶつかり合う「VS」映画の歴史を振り返ってみたいと思います。

3月20日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら




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