Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/09/21
Update

【ミッドナイトスワン解説】ライバル女子中学生りんの“わからない謎”をバレエ舞曲「アルレキナーダ」の意味真相から紐解く|映画という星空を知るひとよ25

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第25回

映画『ミッドナイトスワン』はトランスジェンダー・凪沙が親から愛を注がれずにいた少女・一果を預かることになり、次第に2人の間に一つの絆が生まれる物語

映画『ミッドナイトスワン』は、2020年9月25日(金)よりロードショーです。

主演に草彅剛を迎え、『下衆の愛』の内田英治監督が手掛けた作品。ヒロインはオーディションで選ばれた新人の服部樹咲。共演者に、真飛聖、水川あさみや田口トモロヲなど、個性豊かな実力派俳優陣も揃っています。

一心にバレエに打ち込む一果にできたはじめての友だち「りん」。一果とりんの宿命にも似た友情が、美しいバレエシーンを盛り上げていきます

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

スポンサーリンク

『ミッドナイトスワン』のあらすじ

(C)2020 Midnight Swan Film Partner

故郷・東広島を離れ、トランスジェンダーの悩みを抱えながらひたむきに生きる凪沙(草彅剛)。新宿のニューハーフショーのステージに立ち、酔客を相手に踊って接待をする毎日です。

ある日、田舎の母親から電話があり、育児放棄にあっていた親戚の中学3年生の少女・一果(服部樹咲)を短期間預かることになりました。

最低限度の決まりを持って凪沙と一果の共同生活は始まります。

凪沙は身体と心が一致しないトランスジェンダーの悩みを抱えています。自分のことで精一杯で、中学3年生の一果の孤独の中で生きてきた半生までわかってやれません。

一果はそんなとき、ふとしたきっかけでバレエ教室を覗き、その魅力に取りつかれました。

そこで知り合った少女・りん(上野鈴華)の協力のもと、怪しげなアルバイトをして、凪沙に内緒でバレエのレッスンに通い出しました。

次第にバレエの実力も上達していく一果ですが、その頃アルバイト先でトラブルをおこし、保護者である凪沙にバレエのレッスンのことがバレてしまいます。

「一果には才能があるからバレエを続けさせてあげてください」と言うバレエ教室の先生(真飛聖)に、凪沙は「そんなお金ないし、この子は短期間だけここにいるのよ」と言います。

その夜、一果を1人にしたくないと、凪沙は自分の職場であるお店に連れて行きます。

ダンスショーの合間に、音楽に魅せられて1人で踊り出した一果。そのダンスを見て凪沙は圧倒されました。

なんとか一果にバレエを続けさせてやりたい……。

それは凪沙が初めて味わう、相手を愛おしいという気持ちでした。

凪沙の胸に母性ともいうべき気持ちが沸き起こり、生きる希望へと繋がっていきます。

一方では、一果にバレエを続けさせたくてアルバイトを紹介したりんもまた、自分のライバルとも親友ともいうべき一果にどんどん魅かれていきますが、ある日のこと…。

バレエのライバルである一果とりん

(C)2020 Midnight Swan Film Partner

バレリーナをめざす少女・一果がヒロインですから、『ミッドナイトスワン』では頻繁にバレエのレッスンの様子やコンクールの様子などが出てきます。

レッスン教室で一果と親しくなるバレエの上手な桑田りん。彼女の家はとても裕福です。

お金が湧いて出るという表現がぴったりな家庭に生まれ育ったりんは、親から何でも与えてもらって生活し、まるでお姫様のようで、一果とはまるで正反対でした。

りんの両親は、お金を注いだ分、りんに対して大きな期待も持っています。そんな両親のことがよくわかっているりんは、明るい笑顔の反面どこか興ざめしている少女でした。

一果に親しみを感じたのも、一果の持つ孤独感を敏感に察知し、自分と同類と思ったからかもしれません。 

自分とは境遇が違うと思いながらも、一果もまたりんに魅かれていきます。

りんがいたからこそ、一果はバレエを続けることができ、友だちと呼べるような心温まる交流も持てたのですから。

やがてバレエコンクールが近づき、一果はコンクールで踊る曲を、バレエ曲『アレルキナーダ』より 「コロンビーヌのバリエーション」と決めました。

理由あってコンクールに参加できなかったりんは、コンクールの一果の出場時間に合わせて、自分も一緒にこの曲を踊り出します。

一果の友だち桑田りんを演じているのは、服部樹咲と同じく新人の上野鈴華。温かな笑顔と爽やかな存在感は見るものをほっとさせる存在感があります。

上野鈴華は、明るく屈託のない演技で、まるで『アレルキナーダ』を地で行くかのようなりんを演じきっています。

スポンサーリンク

バレエ舞曲「アルレキナーダ」から読み解く

参考動画:コロンビーヌのヴァリエーション【アレルキナーダ】

ところで、『アルレキナーダ』というバレエですが、『ミッドナイトスワン』で用いられるバレエとして、とても深い意味のあるものでした。

『アルレキナーダ』はヒロイン・コロンビーヌとその恋人の物語です。

コロンビーヌと道化役者の男性は恋人同士でしたが、コロンビーヌの父は彼女をお金持ちと結婚させたがっていましたので、2人の中を裂こうと、父の計略が企てられます。

父の計略によって不幸に見舞われたコロンビーヌですが、女神が何でも願いがかなう宝の杖をコロンビーヌに与えると……、全ての不運が回避されて、みんなでハッピーになるというお話です。

『アルレキナーダ』という言葉には、道化師とかピエロといった意味も含まれているそうですから、このエピソードには、“人生におけるピエロ”という物悲しいイメージが浮かび上がります。

この曲を一果はコンクールで堂々と踊りますが、それと対比するように、全く違う場所で1人で踊るりん。

ここでも一果とりんの正反対の運命が顔を覗かせます。まるで、白鳥と黒鳥のように……。

『アルレキナーダ』をりんが踊ることで、一果と真逆の半生を送っているりんの苦悩も浮き彫りにされているのです。

まとめ

(C)2020 Midnight Swan Film Partner

『ミッドナイトスワン』は、トランスジェンダー・凪沙の苦しみと愛情を中心に描いています。

トランスジェンダーの凪沙の切実な一果への献身的な愛、一果の未来へ飛び立とうとする願いをはじめ、育児放棄しながらも一果を愛おしく思う実の母や、一果の才能を伸ばしたく熱心にレッスンをするバレエの先生などなど……。

登場人物一人ひとりの生き様が丁寧に描かれ、幾つも交錯する切ない人生ドラマにほろりとさせられる出来栄えです。

その中でも、人知れず『アルレキナーダ』を踊らざるを得なかった桑田りんの存在を忘れてはならないでしょう。

一果を子どもとして愛したい凪沙と実の母の親子の愛のカタチ。一方では、お金さえあれば子どもに何不自由のない暮らしを与えられると信じ切っているりんの親の愛のカタチと、親子の愛も様々……。

このように『ミッドナイトスワン』が描く親子愛は、とても奥の深いものがあります。カタチは違えど、子どもを想う気持ちは同じと思えますが、どんな愛のカタチが一番心に響いてくるでしょうか。

本作は親と子の愛の在り方についても大きな課題を投げかけています。

映画『ミッドナイトスワン』は、2020年9月25日(金)よりロードショーです。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら






関連記事

連載コラム

映画『クライマーズ』感想と考察評価。チョモランマに挑む中国登山隊の実話を描くアクションアドベンチャー|すべての映画はアクションから始まる21

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第21回 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はア …

連載コラム

鬼滅の刃2期 新キャラ玉壺・半天狗はアニメ声優の誰がCVを演じるか⁈【鬼滅の刃全集中の考察3】

新キャラクターはだれが演じる? キャスティングを大胆予想! 大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化・映像化について様々な考察していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。 前回記事の「吉原遊郭編」堕 …

連載コラム

チャドウィック・ボーズマン映画おすすめ5選!かっこいい黒人俳優が差別や悪習に立ち向かった軌跡|SF恐怖映画という名の観覧車118

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile118 2020年8月23日、「アベンジャーズ」シリーズへの出演で世界的に人気を集めた俳優、チャドウィック・ボーズマンが結腸癌によりこの世を去り …

連載コラム

シンエヴァンゲリオン考察ネタバレ|マリエンドの意味と正体“イスカリオテのマリア”という代母像を探る【終わりとシンの狭間で7】

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第7回 1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新 …

連載コラム

映画『迷子になった拳』感想評価と内容解説。ミャンマークーデターを予見した闘いの精神と葛藤そして希望|映画道シカミミ見聞録54

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第54回 こんにちは、森田です。 今回は、3月26日(金)より渋谷ホワイトシネクイント他で全国順次公開される映画『迷子になった拳』を紹介いたします。 ミャンマーの伝統 …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学