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Entry 2019/02/20
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映画ボウリング・フォー・コロンバイン|ネタバレ感想と解説。マイケル・ムーアが銃社会をアポなしで斬る!|だからドキュメンタリー映画は面白い8

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第8回

なぜアメリカでは銃撃事件が多発する?なぜアメリカ人は銃を持つ?

『だからドキュメンタリー映画は面白い』第8回は、2003年公開の『ボウリング・フォー・コロンバイン』をピックアップ。

アポなし突撃取材でアメリカ社会に鋭く切り込む、ドキュメンタリー監督のマイケル・ムーアが、銃犯罪が多発するアメリカの背景をひも解きます。

1999年のコロンバイン高校銃乱射事件犯人の同級生から、ついには、当時の全米ライフル協会(NRA)会長にして俳優のチャールトン・ヘストンにまで突撃します。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』の作品情報


©2002 ICONOLATRY PRODUCTIONS INC. AND VIF BABELSBERGER FILMPRODUKTION GmbH & Co.ZWEITE KG

【公開】
2003年(カナダ・アメリカ合作映画)

【原題】
Bowling for Columbine

【監督】
マイケル・ムーア

【キャスト】
マイケル・ムーア、チャールトン・ヘストン、マット・ストーン、マリリン・マンソン、ジョージ・W・ブッシュ

【作品概要】
著作『アホでマヌケなアメリカ白人』が全米ベストセラーとなった、マイケル・ムーア。

アメリカで最も影響力を持つジャーナリストとも称される彼が、1999年4月に発生した、コロンバイン高校銃乱射事件を入口に、アメリカ銃社会を斬ります。

本作はアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を筆頭に、多数の映画賞を獲得。

カンヌ国際映画祭では、この作品のために「55周年記念特別賞」を新設するほどの影響をもたらしました。

映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』のあらすじ


©2002 ICONOLATRY PRODUCTIONS INC. AND VIF BABELSBERGER FILMPRODUKTION GmbH & Co.ZWEITE KG

1999年4月20日、アメリカ・コロラド州コロンバイン。

朝からボウリングに興じた二人の高校生は、プレイを楽しんだその足で、自身が通っていたコロンバイン高校へ向かいます。

そして彼らは校内で銃を乱射し、計13人を射殺したのち、自殺。

この痛ましい事件に衝撃を受けたのは、『ロジャー&ミー』(1989)のドキュメンタリー監督、マイケル・ムーアでした。

ムーアは、アメリカが銃社会となっていった歴史的背景を検証しつつ、事件が起こるに至った経緯や関連人物達へのインタビューを敢行。

インタビューを受けた人物としては、コロンバイン市民や、犯人がファンだったと伝えられた歌手のマリリン・マンソン、テレビアニメ『サウスパーク』の制作者マット・ストーンなど。

さらにムーアは、事件の犯人が銃弾を購入したショッピングスーパーのKマートに、犯人に撃たれ、一生車椅子生活を余儀なくされた生徒を連れて、アポなしで乗り込むのでした。

ムーアの執拗なまでの「いやがらせ」に根負けしたKマートは、ついに全店で銃弾の販売を中止します。

やがてムーアは、銃器製造業者や銃愛好家たちで構成される団体「全米ライフル協会」に矛先を向けていき…。

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アポなし取材ジャーナリストのマイケル・ムーア

本作の監督マイケル・ムーアは、1954年にミシガン州フリントに生まれます。

住民の大半が自動車メーカーのGM(ゼネラル・モーターズ)で働くフリントで育ったムーアは、ジャーナリストになったのちの1989年、地元GM工場の閉鎖により失業者が増大したことを題材にしたドキュメンタリー映画『ロジャー&ミー』でデビュー。

この作品で、当時のGMの経営者のロジャー・B・スミスにアポなし取材を行い、ここから、大資本家や腐敗した政治家たちに突撃していくスタイルを確立しました。

本作『ボウリング・フォー・コロンバイン』で世界の映画賞を総なめにして以降は、『華氏911』(2004)、『シッコ』(2007)、『キャピタリズム〜マネーは踊る〜』(2009年)、『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』(2015)と、センセーショナルなドキュメンタリー作品を次々と発表しています。

銃撃事件が起こった原因はどこに?

『ボウリング・フォー・コロンバイン』では、コロンバイン高校で10代の若者が銃を乱射した事件を発端に、アメリカの銃社会を追及。

「彼らが事件に至ったのは過激な音楽やゲームのせいだ」と、保守派たちがメディアをやり玉に上げます。

本作ではその一例として、「犯人は反キリスト思想を持つ歌手マリリン・マンソンの影響を受けていたから犯行に及んだ」という保守派の声を挙げます。

コロンバイン事件の風評被害を受け、コンサートが相次いで中止に追い込まれたマンソンに、ムーアはインタビューを敢行。

ステージ上では過激なパフォーマンスを繰り広げることで知られるマンソン。

しかしインタビューでは、「俺を犯人に仕立て上げれば、メディアにとって都合が良い」、「今のアメリカ社会は、政府とマスコミが恐怖と消費を煽る仕組みになっている」と、理路整然に語るのが印象的です。

さらに、「彼ら(犯人)の言いたかったことを聞けば良かったのかもしれないが、誰一人としてそれをやらなかったのでは」とも付け加えます。

のちに、犯人はマンソンのファンではなかった上に、2人とも学校ではいじめられっ子だったことが明らかになっています。

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なぜアメリカでは銃犯罪が多いのか


©2002 ICONOLATRY PRODUCTIONS INC. AND VIF BABELSBERGER FILMPRODUKTION GmbH & Co.ZWEITE KG

本作の冒頭、ムーアは地元ミシガン州の、預金口座を開設する特典としてライフル銃を貰える銀行を訪れます。

銃社会で暮らしていない我々日本人からすれば驚きしかありませんが、ムーアはあっさりと銃を取得します。

また、カナダはアメリカより銃の所持率が高いのに、逆に銃犯罪がアメリカよりはるかに少ない理由を、やはりムーア自らが現地に赴いて検証。

ムーアが取った手段は、いきなり一般家庭のドアを無断で開けるというもの。

これがアメリカなら、不審者として銃を向けられてもおかしくないですが、カナダでは全くそうなりません。

それどころか、カナダでは家にカギをかけない家庭が多いことが分かります。

過去に強盗に入られた経験があるのに、その後もカギをかけていないというカナダ人は、「カギをかけるということは、まるで自分自身が囚人になった気分になるから嫌だ」と、その理由を語ります。

つまり、アメリカ人は他国民よりも相手への猜疑心や、「襲われるのではないか」という恐怖心が強いことから、つい銃を握ってしまう――「なぜアメリカ人はいつも怯えているのか」と語るカナダ人の言葉が響きます。

検証方法そのものはユーモアですが、一方で銃が簡単に入手できるというアメリカの現実と、銃の普及自体が事件発生の本質ではないことを、ムーアは指摘します。

いかなるテーマであっても、ユーモア的視点を必ず盛り込み、かつ戦慄を与えるマイケル・ムーア作品の特徴がここにあります。

次にマイケル・ムーアが噛みついたのは…

作品の終盤で、ムーアは俳優にして当時のNRA会長だったチャールトン・ヘストンの自宅を突撃します。

コロンバイン事件直後に、現場に近いデンバーでNRA主催の銃の展示即売会を強行したヘストンが、「私から銃を取り上げるなら私を殺せ」と演説した真意を問うためです。

「ある物」を持参したムーアの質問に、次第に口をつぐんでしまうヘストンは、ついにインタビューを中断して去ってしまいます。

2002年10月に本作がアメリカで公開された約半年後に、ヘストンはNRA会長を辞任。

件の演説がデンバーでの発言ではないため、「悪意のある編集をした」などの批判もあるものの、本作は見事にアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。

しかしながら、授賞式に登壇したムーアは、受賞スピーチで当時の大統領ジョージ・W・ブッシュを「恥を知れ!」と非難します。

この時点でムーアは、新たに噛みつくターゲットを絞っていたのです。

参考映像:アカデミー賞授賞式でのマイケル・ムーア

その後も、アメリカ社会の矛盾や病理を暴く作品を発表し続けるムーア。

『ボウリング・フォー・コロンバイン』で提示したアメリカ銃社会は、規制されるどころか、ドナルド・トランプの大統領就任によってエスカレートしている感があります。

そのトランプの再選阻止を目論み、ムーアが仕掛けた時限爆弾が『華氏119』(2018)です。

『華氏119』では、トランプ政権誕生に至った背景を、ムーアの地元フリントで発生した水道汚染問題と絡めて追います。

トランプに噛みついたムーアの時限爆弾は、2020年の再選時に爆発するのか、それとも不発となってしまうのか?

今後の成り行きが気になります。

参考映像:『華氏119』予告

次回の「だからドキュメンタリー映画は面白い」は…


(C)Zapruder Pictures 2017

次回は、日本では2019年3月8日に公開の『サッドヒルを掘り返せ』を紹介。

クリント・イーストウッド主演のマカロニ・ウエスタン『続・夕陽のガンマン』(1967)のロケ地復元という、一大プロジェクトに密着します。

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