Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/10/04
Update

映画『ノー・ウェイ・アウト』ネタバレ結末あらすじと感想考察。ラストまでアメリカの社会問題とアステカ文明を織り交ぜた恐怖は続く|Netflix映画おすすめ58

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第58回

今回ご紹介するNetflix映画『ノー・ウェイ・アウト』は、イギリスのファンタジー作品に与えられる、オーガストダーレス賞(2015年)を受賞した、英国の作家アダム・ネヴィルのホラー小説が原作です。

故郷で長年、重い病を患った母を介護したアンバー は、母が他界したのをきっかけに自分の夢を実現させるために、アメリカのオハイオ州クリーブランドに不法入国します。

移民を低賃金で雇う縫製工場で働くことになったアンバーは、“格安家賃・女性限定”と書かれたアパートの広告をみつけ入居します。ところが住むようになると、悪夢を見るようになり、しだいに奇怪な音にも悩まされます……。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『ノー・ウェイ・アウト』の作品情報

(C)2021 Netflix

【公開】
2021年(イギリス映画)

【原題】
No One Gets Out Alive

【監督】
サンティアゴ・メンギーニ

【原作】
アダム・ネヴィル

【脚本】
ジョン・クローカー、フェルナンダ・コッペル

【キャスト】
クリスティーナ・ロドロ、マーク・メンチャカ、デビッド・フィグリオーリ、デビッド・バレーラ、モロンケ・アキノラ、

【作品概要】
主人公のアンバー役には、Netflixドラマ『エル・ヴァトー』(2017)で主要人物で出演した、クリスティーナ・ロドロが演じ、格安アパートのオーナー、レッド役には『ストーカー 3日目の逆襲』(2020)で、執拗な煽り運転から未亡人をストーキングする男役を演じた、マーク・メンチャカが務めます。

映画『ノー・ウェイ・アウト』のあらすじとネタバレ

(C)2021 Netflix

1963年、アーサー・ウェルズ教授はメキシコの遺跡にて、発掘調査をしていました。発掘現場では大量の頭蓋骨、生贄と思われる遺体が発見される中、深い竪穴の底から石でできた箱を発見します。

それから半世紀が過ぎ、とある古びたアパートで1人の若い女性が、家族あてに電話をかけていました。彼女は両親に黙って家を出てきたようでした。

彼女は頻繁に悪夢を見るようになったと話します。そして、黙って家を出たことを後悔しますが、新しい人生を諦めきれずにいました。

やがて、アパート内のあるドアノブがきしむ音を立てて動きます。ふと、何かの気配を感じると濡れた足跡と滴るしずく……、テレビと電話の受信が途切れると、背後から何かが彼女に襲いかかり、彼女の悲鳴だけが響き渡ります。

観測史上、記録的な寒さになった冬のクリーブランドに、着の身着のまま最低限の荷物だけを持った若い女性が、同じような身の上の人々と貨物のコンテナから出てきます。

不法にアメリカに入国したアンバーは移民を安い賃金で雇う、縫製工場で働き始めます。彼女は安モーテルを転々としていましたが、工場の掲示板に家賃が格安のアパートの広告をみつけ、さっそく内覧しに訪ねます。

ほとんど廃墟化しているアパートで、管理人のレッドは引き継いだばかりで修繕中だと、アンバーを最も安い部屋を案内し、“女性限定”でペットもたばこも禁止と説明しました。

レッドはアンバーにどこからきたのか訊ねると、“南の方”とだけ答えます。そして、定職はあるのかと聞かれ、あると答えます。すると、借りたいなら前金が必要だと言います。

アンバーはなけなしの現金から前家賃を払い、部屋を借りることにきめました。アパートにはフレイヤという、入居者がいたのでアンバーは少し安心し新生活をはじめます。

静まり返った部屋でアンバーはスマホに録音された、亡くなった母のメッセージを聞き、母との思い出の写真を見て寂しさを紛らわせます。

すると、床の換気口から誰かのすすり泣く声が聞こえてきます。アンバーが換気口を覗き込むと、階下はフレイヤの部屋で彼女は何かに怯えていました。

アンバーは病院にいる母とのことを思い出します。母はアンバーの黒い髪をなでながら、名残惜しく「まだいられる?」と聞き、「もちろん」とアンバーは答えます。

朝早く薄暗いうちにアンバーは部屋を出ます。ところが鍵をかける時、ドアノブに粉のようなものが付着していることに気がつきます。確認しようと照明をつけてみると、青緑色をした粉でした。

階下へ降りたアンバーはフレイヤとばったり会い、自己紹介します。彼女はよそよそしい態度で、レッドのことをなじるよう言い捨て部屋に戻っていきます。

アンバーがアパートのドアを閉め出かけると、灯りの消えた上階の踊り場から、誰もいないはずの怪しい人影が下を見下ろしています。

以下、『ノー・ウェイ・アウト』ネタバレ・結末の記載がございます。『ノー・ウェイ・アウト』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2021 Netflix

縫製工場でのアンバーの仕事ぶりは良いとはいえず、工場長からのチェックは厳しいものでした。それでも同僚のキンシと仲良くなり働けています。

テレビでは不法就労者が検挙され、強制送還されているニュースが流れ、アンバーは気が気でありません。

そんな不安を払拭するには、IDが必要なアンバーはキンシの紹介で、偽造IDを受けとることになっていました。

ところがアンバーが希望していた、“テキサスのID”は3000ドルで、予算を2000ドルもオーバーします。キンシはオハイオのIDなら1000ドルにできると伝えますが、アンバーにはどうしてもテキサスのIDが必要でした。

母親の従弟ベトがクリーブランドに住んでいて、彼を頼って就職の推薦をしてもらい、その面接にアメリカ人を証明するIDが必要でした。

アンバーは母の介護のため大学進学をあきらめましたが、働きながら夜学に通い、経営学を学びたいとベトに語ります。

2人は初対面でしたが、ベトは献身的なアンバーに感心し、好意的に接してくれました。

アパートに帰ったアンバーは奥の方から物音がするのに気がつき、地下室の入り口にいきます。ドアは南京錠で施錠されていましたが、床にひっかき傷があり気にしました。

そこへレッドが声をかけます。アンバーは物音が聞こえただけ言い、前金を返金してもらえないか相談しますが、レッドは修繕費用に使ってしまったと断ります。

アンバーがIDの代金を捻出するにはどうするか考えていると、換気口から再び何か声が聞こえてきます。

心配したアンバーはフレイヤの部屋を訪ねますが、開いたドアから部屋を見ると彼女はいません。入口の柱には青緑の粉が付着していました。

その晩、アンバーは奇妙な夢をみます。母を見舞いにきていると、アンバーの髪をなでながら一緒にいて幸せか聞き、アンバーは「もちろん」と答えると母が「ねぇ、あれは何?」と、部屋の隅のテレビ台を指さします。

アンバーが振り返るとそこには、古くて奇妙な石の箱があり、前面の蓋を気味の悪い手がこじ開けようとしたところで、彼女は目を覚まします。

その日、アンバーは工場長に前借りの相談をしますが、日頃の仕事ぶりの悪さにとりあってくれません。

アンバーが箱詰め作業をしていると、蝶が紛れ込みアンバーの首元に止まり、手に変化すると彼女の肩を掴みます。その感覚にアンバーは驚きますが、背後には誰もいません。

その晩、アンバーはキンシとバーで飲みながら、身の上話とテキサスのIDが必要な理由を話します。叔父に就職をあっせんしてもらい、テキサス出身だと嘘をついたからです。

キンシはアンバーの苦労話に共感し、足りない分は貸してあげると申し出てくれ、アンバーはその言葉に感激して彼女にお金を託しました。

希望が見えてきたアンバーがアパートに帰ると、見知らぬ男が地下室のドアに、額を何度も打ちつけています。

アンバーは部屋に戻って着替えをしていると、足音が聞こえ部屋の前で止まります。足音の主はドアの外でブツブツ何かを唱えると、ドアを手の平で激しく叩き、青緑の粉を付けて去っていきました。

アンバーがキッチンへ行くとマリアとペトラという、新しい女性の住人が来ていました。2人も異国から不法に来た外国人です。

そこにレッドが部屋に案内すると現れます。アンバーは他にも男の人がいたと訴えると、レッドは兄のアンバーだと教えました。

しばらくすると彼女たちの部屋から、大音量の音楽が聞こえはじめると、アンバーは好奇心からレッドの書斎に入ってみます。

部屋には蝶や昆虫の標本、遺跡や幼い兄弟の写真があり、古いテープレコーダーもあります。アンバーがヘッドフォンを装着してみると……。

「儀式の生贄を捧げるのだ。その対象は年寄や子供、女性・・・彼女に捧げることで恩恵を授かるだろう」と流れてきます。

彼女が更に部屋を物色すると、数々の古い遺物や夫婦とみられる古い写真があり、男性の顔がペンで書き消されていました。

机の上に「初期の儀式」という本があり、中をめくると石棺の祀られた儀式台と、首のない遺体が描かれた絵もありました。

更にアンバーは夢で見た“石の箱”に似たものと、2人の人物が一緒に写る写真を見つけます。キャプチャーにアーサー&メアリー・ウェルズと書かれていました。

(C)2021 Netflix

翌朝、アンバーは工場でキンシが来るのを待ちます。しかし、彼女は就業時間がきても出勤しません。アンバーはキンシのスマホに何度も電話しますが、留守番電話になってしまいます。

業を煮やしアンバーは工場長にキンシがどこにいるのか訪ねます。すると彼はキンシが突然仕事を辞めると、メールで連絡をよこしたと告げました。

アンバーは工場長にキンシの住所を聞きますが、会社の規則違反になると教えません。焦ったアンバーは、彼を侮辱することを言ってしまい、解雇されてしまいます。

アンバーはキンシの裏切りで持ち金を全て奪われた上に、仕事も失い途方に暮れながらアパートに戻ります。

彼女がシャワーを浴びていた時、今度は排水口から女性の悲鳴と共に“助けて!”と聞こえ、シャワーカーテンの向こうに人影を見ますが、カーテンを開けると誰もいません。

慌ててシャワー室を出ると、レッドと鉢合わせをします。レッドは前金の件は新しい居住者が入ったから、明日には返金できると言います。

アンバーはその晩も悪夢で目が覚めます。そして、部屋のドアが開いていることに気づき、廊下の外を見ると白い服を着た人の姿を見ます。

その姿が消えると走ってくる足音と濡れた足跡が床に現れ、“メアリー”に助けを乞う女性と「あなたを捧げないと、アーサーからひどい目に合う・・・」と言って、もみ合う姿が浮かび出ました。

今度はすすり泣く声が聞こえてきて、アンバーは声のする方に向うと、地下室の入り口でうずくまって泣く女性がいました。

しかし、突然ドアが開くと何者かの手が、彼女の足を掴み地下へと引きずり込んでしまいます。

異常な現象を目の当たりにしたアンバーは、アパートにはいられないと荷物をまとめながら、ベトに迎えに来てほしいと電話をしました。

ところがベトは街を出ていて遠く離れていると断ります。アンバーは自分の嘘を正直に話し助けを乞い、ベトは行けるようにすると言って電話を切ります。

アンバーはとにかくアパートを出るため、レッドに前金の返金を求めにオフィスへ行くと、ベッカーが出てきて伝えておくと言いドアを閉めます。

ベトからの連絡を待つ間、寒さが厳しく外にいては凍えてしまうため、宿を探しますがお金のないアンバーは街中をさまようだけです。

彼女は街外れのダイナーからレッドに電話をし、前金の返金を求めました。ところが現れたレッドは、現金はアパートにあると戻ることになります。

レッドは現金は彼女の部屋にあると言います。アンバーは部屋に行きますが、それはレッドの嘘で現金はありません。

レッドはアパートの異変について話し始めます。もともと考古学者の両親のもので、掘り出したものを保管するための家でした。

父親は奇妙なものばかりを集め始め、頭がおかしくなると母親を殺したと言います。アンバーは現金を諦め出て行こうとしますが、レッドは行く手を阻み、酒を飲むようすすめます。

そこにベッカーが入ってきて、儀式めいたことをすると無理矢理アンバーに酒を飲ませました。

2人が何を企んでいるのかわかりませんが、アンバーは身の危険を感じ、部屋に鍵をかけ閉じこもります。

しばらくするとあとから入居した、危険を感じたマリアとペトラが部屋を訪ねてきて、一緒に逃げようと言います。

3人はレッドとベッカーが眠るのを待ちますが、アンバーは居眠りをして母の亡霊の夢をみます。次の瞬間、マリアとペトラに呼び起こされると、2人は連れ出されるところでした。

アンバーも激しく抵抗していると、ベトが迎えに来てくれました。しかし、対応に出たレッドはそんな女性はいないと追い帰そうとします。

ベトは玄関先に置いてあったアンバーの荷物に気がつき、アンバーも窓ガラスを割って助けを求めます。

ベトはアンバーの監禁されている部屋まで辿り着きますが、ドアの前でベッカーに捕まり撲殺されました。そして、アンバーは兄弟の部屋へ連れていかれます。

ベッカーとレッドは両親と離れて暮らしていましたが、病気がちのベッカーの医療費が支払えず、父親を頼って家に帰ると、“あの箱”と儀式の犠牲になった女性、母親が殺されるのを見てしまいました。

兄弟は気の狂った父親を始末しますが、今度はベッカーが箱に憑りつかれ、儀式を行うようになるとその恩恵を受け、健康を取り戻していったと話します。

レッドは家を出て行きたかったが、世話になった兄を見捨てることができず、手伝うようになりました。話しを聞いたアンバーはレッドに一緒に家を出ようと誘います。

しかし、レッドはベッカーの呪縛からは解かれることはなく、アンバーも地下へと運ばれると、途中で犠牲になったと思われる女性たちの亡霊を見ます。

地下室には先に連れて行かれた、マリアが頭部のない遺体となっていて、そのあとにアンバーが祭壇に繋がれます。

夢に出てきた石の箱が祀られ、ベッカーはその蓋を開けると部屋を去ります。アンバーは拘束を解こうと暴れていると死んだと思われたベトが助けにきます。

彼と力を合わせて別の扉を突破しますが、目の前は暗闇でベトの姿はありません。暗がりの先に見えてきたものは母のいた病室です。

夢の中で何度も見たアンバーと母の会話です。アンバーは祭壇で眠り、夢との狭間にいました。箱の中から這い出る化け物が迫っています。

箱から這い出た化け物は、身体に羽のような物をまとい、顔はドクロのようでした。手だと思っていたものは、足で顔の下に腕が伸びています。

化け物はアンバーの首に手をかけますが、病室の母もアンバーの首に手をかけ「一緒にいてほしい。あと少しだけ」と言います。

アンバーは母に「イヤ!もう無理」といい、襲いかかる母に反撃をして力づくで押さえつけました。

その瞬間、目の覚めたアンバーは拘束が解かれ、化け物は箱の中へと退散していきます。蓋のすき間からは、小さな白骨遺体と蛾の群れが見えました。

アンバーはその蓋を閉め地下を抜け出し、書斎にいくと飾られていた、奇妙な形の剣を持って最上階へ向います。途中で部屋の前のベトの遺体を見ます。

ベッカーは部屋の外に気配と異変に気がつき、ドアの外を確認するようレッドに指示します。ドアの影に隠れていたアンバーは、剣でレッドを殴打し気絶させベッカーを攻撃します。

アンバーは逆襲され足の骨を折られます。部屋にいたペトラが反撃してアンバーは助かりますが、ペトラも最上階から1階のホールへ落とされ死亡します。

再び襲いかかるベッカーにアンバーは、剣に装飾された小さな金属の刃で、ベッカーの頸動脈を切り、剣で頭部を殴打して絶命させました。

アンバーはベッカーやレッドの犠牲になった、ベトとペトラの遺体を見て怒りがこみあげてきます。そして、力をふり絞ってまだ、息のあるレッドを地下室の祭壇へと運びました。

アンバーは石の中の化け物が、レッドの頭部を咬みちぎるのを見て、地下室をあとにします。

朝日の差し込む玄関前に辿り着いたアンバーは、何ともいえない恍惚感がして、折れた足首は元に戻り完治し、身体中に力がみなぎるのを感じます。

アンバーが地下室への入口を振り返ると無数の蝶が舞い、自分の手元にも1匹飛んできました。すると、彼女の顔は何かが憑りついたように、血管が浮き出始めます。

スポンサーリンク

映画『ノー・ウェイ・アウト』の感想と評価

(C)2021 Netflix

アステカ神話の女神「イッパパロトル」

冒頭シーンからすでにメキシコの“マヤ文明”や“アステカ文明”などを連想させました。まさに本作に出てくる怪物は「アステカ神話」に出てくる女神、“イツパパロトル”がモデルとなっているようです。

イツパパロトルとは「黒曜石の蝶」という意味で、“蝶”や“蛾”に属する女神です。炎や光に反応し、飛び込んでいく習性からから、自己犠牲を象徴し「戦いの女神」ともいわれます。

一般に骸骨の姿に、背には石刃を並べた剣の羽根をつけ、ジャガーの鉤爪を持っているといわれています。本編でそれを思わせる剣が登場しますが、まさに「黒曜石」の石刃を並べた剣です。

アステカでは出産で死んだ女性の魂が悪魔化すると、“シワテテオ”と呼ばれます。シワテテオには運勢を知る上で重要とされる、書簡トレセーナから捧げられました。そのトレセーナの1つ「1の家」を司っているのがイツパパロトルです。

しかし、シワテテオという魂の化身は、太陽が沈んだ十字路に現れ子供をさらったり、病気の発作や狂気を引きおこすと、恐れられていたため、この作品に出てくる化け物はシワテテオであろうと考えられます。

石の箱から見えた、赤ん坊くらいの白骨体は死産した子供と見れます。石の箱を発見したアーサーは狂気し生贄を捧げ、最後には妻メアリーをも生贄にしたのでしょう。

ベッカーとレッドの兄弟はその様子を見てしまい、ベッカーが父アーサーを生贄にしたとすれば、病気がちだった健康が回復したことを“恩恵”と思ってしまったこと、行動がエスカレートしていく狂気も納得できます。

嘘と裏切りが生む恩恵という名の「代償」

アンバーは母の死をきっかけに、アメリカに夢を求めてきたのでしょうか? 彼女の母が亡霊となって現れたのは、娘への恨めしさがあったからとも考えられます。

母の手ひとつでアンバーが育てられていたら、母もまた苦労の末に病になったと思われます。その苦労に対してアンバーは心から感謝していたのかが疑問です。

工場の社長からも「感謝が足りない」と指摘され、レッドからも同様のことをいわれます。つまり、アンバーは意外と自分中心に物事を考えがちで、周りがよく見えていないということです。

例えばもし、介護に疲れ母を殺害し逃亡するために、アメリカへ来たとしたら、強制送還されることも恐怖でしかないはずです。

面識のない親戚の好意を利用して騙すことも平気です。しかしそれは、キンシの裏切りや職場からの解雇という形で報いをうけます。

また、アンバーの運勢をアステカ暦と重ねるとしたら、自分を「選ばれし者」と思っていたベッカーが、アンバーを導くための「代償」にすぎなかったのではないでしょうか……。

イツパパロトルは女神であり、シワテテオも悲しい女性の魂です。儀式の犠牲となった女性たちの魂を守る女神としては、失うものが何も無いアンバーこそが本当の「選ばれし者」と見るのが妥当です。

アンバーが女戦士のごとく剣を振るって、ベッカーやレッドを倒し自由になった“恩恵”は、イツパパロトルの守護といえます。そして、その“代償”はイツパパロトルやシワテテオのしもべ……。

まとめ

(C)2021 Netflix

Netflix映画『ノー・ウェイ・アウト』は、不法移民の不正雇用が問題となっている、アメリカならではの情勢とメキシコのアステカ文明にあった、“人身御供”の儀式による“恩恵”に人の心が憑りつかれ、悲劇を生むというストーリでした。

人は自分の欲望を満たすためなら、人を騙したり貶めたりすることもあります。しかし、古代の人身供養には神々に「雨乞い」や「豊穣」を祈願する意味も込められていました。

また、メキシコ人にとって太陽は絶対的な存在で、太陽が消滅する終末信仰の延長に、人身供養が行われていました。つまり、個人的な欲望のために生贄の儀式はありません。

むしろ、子を失った母の悲しみや、国とために戦った戦士の魂を慰める、女神を欺く人間の愚かさを示した作品だったといえます。

舞台が冬になると日照時間が短く、太陽の日射しがありがたいと感じさせる、クリーブランドだったことにも意味があったのでしょう。つまり、「ありがたみ」感謝を失った人の末路は、悲惨だと思わせた作品でした。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

映画『愛について書く』あらすじ感想と解説レビュー。脚本家の“お仕事映画”としての愉しみ|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録8

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『愛について書く』 2020年3月15日(日)、第15回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。コロナウイルス感染の拡大に伴い、イベントや、舞台挨拶な …

連載コラム

【音楽がおすすめの映画】2020年ランキングベスト5:印象的な音色でさらに作品の虜になるセレクション《シネマダイバー:西川ちょり選》

2020年の映画おすすめランキングベスト5  選者:シネマダイバー西川ちょり 新型コロナウイルスの感染拡大により、映画業界も大きな影響を受けた一年でした。 上映延期、中止、映画館の休業など混乱を極めま …

連載コラム

映画『闇はささやく』ネタバレあらすじ感想と結末の解説。原作を基にしたラストには同じ悲劇だけが繰り返される|Netflix映画おすすめ36

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第36回 今回ご紹介するNetflix映画『闇はささやく』は、アメリカの小説家、エリザベス・ブランデージの小説、『All Things Ce …

連載コラム

『嘘はフィクサーのはじまり』あらすじと感想レビュー。ユダヤ社会の欲望と友情の物語|銀幕の月光遊戯2

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第2回 こんにちは、西川ちょりです。 これから封切られる新作映画をいち早く取り上げ、皆様の「観るべきリスト」に加えていただくことを目指す本連載も今回で2回目。 今回取り上げ …

連載コラム

映画『ポラロイド』感想と評価。ラース・クレヴバーグ監督が紡ぐ上映中止となった正統派ホラー|SF恐怖映画という名の観覧車57

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile057 伝説的なスラッシャー映画の最新作『ハロウィン』(2019)や、全世界で人気を持つホラー小説「IT」の再映画化第2弾など、往年の名作映画の …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学