連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第58回
今回ご紹介するNetflix映画『ノー・ウェイ・アウト』は、イギリスのファンタジー作品に与えられる、オーガストダーレス賞(2015年)を受賞した、英国の作家アダム・ネヴィルのホラー小説が原作です。
故郷で長年、重い病を患った母を介護したアンバー は、母が他界したのをきっかけに自分の夢を実現させるために、アメリカのオハイオ州クリーブランドに不法入国します。
移民を低賃金で雇う縫製工場で働くことになったアンバーは、“格安家賃・女性限定”と書かれたアパートの広告をみつけ入居します。ところが住むようになると、悪夢を見るようになり、しだいに奇怪な音にも悩まされます……。
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映画『ノー・ウェイ・アウト』の作品情報
(C)2021 Netflix
【公開】
2021年(イギリス映画)
【原題】
No One Gets Out Alive
【監督】
サンティアゴ・メンギーニ
【原作】
アダム・ネヴィル
【脚本】
ジョン・クローカー、フェルナンダ・コッペル
【キャスト】
クリスティーナ・ロドロ、マーク・メンチャカ、デビッド・フィグリオーリ、デビッド・バレーラ、モロンケ・アキノラ、
【作品概要】
主人公のアンバー役には、Netflixドラマ『エル・ヴァトー』(2017)で主要人物で出演した、クリスティーナ・ロドロが演じ、格安アパートのオーナー、レッド役には『ストーカー 3日目の逆襲』(2020)で、執拗な煽り運転から未亡人をストーキングする男役を演じた、マーク・メンチャカが務めます。
映画『ノー・ウェイ・アウト』のあらすじとネタバレ
(C)2021 Netflix
1963年、アーサー・ウェルズ教授はメキシコの遺跡にて、発掘調査をしていました。発掘現場では大量の頭蓋骨、生贄と思われる遺体が発見される中、深い竪穴の底から石でできた箱を発見します。
それから半世紀が過ぎ、とある古びたアパートで1人の若い女性が、家族あてに電話をかけていました。彼女は両親に黙って家を出てきたようでした。
彼女は頻繁に悪夢を見るようになったと話します。そして、黙って家を出たことを後悔しますが、新しい人生を諦めきれずにいました。
やがて、アパート内のあるドアノブがきしむ音を立てて動きます。ふと、何かの気配を感じると濡れた足跡と滴るしずく……、テレビと電話の受信が途切れると、背後から何かが彼女に襲いかかり、彼女の悲鳴だけが響き渡ります。
観測史上、記録的な寒さになった冬のクリーブランドに、着の身着のまま最低限の荷物だけを持った若い女性が、同じような身の上の人々と貨物のコンテナから出てきます。
不法にアメリカに入国したアンバーは移民を安い賃金で雇う、縫製工場で働き始めます。彼女は安モーテルを転々としていましたが、工場の掲示板に家賃が格安のアパートの広告をみつけ、さっそく内覧しに訪ねます。
ほとんど廃墟化しているアパートで、管理人のレッドは引き継いだばかりで修繕中だと、アンバーを最も安い部屋を案内し、“女性限定”でペットもたばこも禁止と説明しました。
レッドはアンバーにどこからきたのか訊ねると、“南の方”とだけ答えます。そして、定職はあるのかと聞かれ、あると答えます。すると、借りたいなら前金が必要だと言います。
アンバーはなけなしの現金から前家賃を払い、部屋を借りることにきめました。アパートにはフレイヤという、入居者がいたのでアンバーは少し安心し新生活をはじめます。
静まり返った部屋でアンバーはスマホに録音された、亡くなった母のメッセージを聞き、母との思い出の写真を見て寂しさを紛らわせます。
すると、床の換気口から誰かのすすり泣く声が聞こえてきます。アンバーが換気口を覗き込むと、階下はフレイヤの部屋で彼女は何かに怯えていました。
アンバーは病院にいる母とのことを思い出します。母はアンバーの黒い髪をなでながら、名残惜しく「まだいられる?」と聞き、「もちろん」とアンバーは答えます。
朝早く薄暗いうちにアンバーは部屋を出ます。ところが鍵をかける時、ドアノブに粉のようなものが付着していることに気がつきます。確認しようと照明をつけてみると、青緑色をした粉でした。
階下へ降りたアンバーはフレイヤとばったり会い、自己紹介します。彼女はよそよそしい態度で、レッドのことをなじるよう言い捨て部屋に戻っていきます。
アンバーがアパートのドアを閉め出かけると、灯りの消えた上階の踊り場から、誰もいないはずの怪しい人影が下を見下ろしています。
映画『ノー・ウェイ・アウト』の感想と評価
(C)2021 Netflix
アステカ神話の女神「イッパパロトル」
冒頭シーンからすでにメキシコの“マヤ文明”や“アステカ文明”などを連想させました。まさに本作に出てくる怪物は「アステカ神話」に出てくる女神、“イツパパロトル”がモデルとなっているようです。
イツパパロトルとは「黒曜石の蝶」という意味で、“蝶”や“蛾”に属する女神です。炎や光に反応し、飛び込んでいく習性からから、自己犠牲を象徴し「戦いの女神」ともいわれます。
一般に骸骨の姿に、背には石刃を並べた剣の羽根をつけ、ジャガーの鉤爪を持っているといわれています。本編でそれを思わせる剣が登場しますが、まさに「黒曜石」の石刃を並べた剣です。
アステカでは出産で死んだ女性の魂が悪魔化すると、“シワテテオ”と呼ばれます。シワテテオには運勢を知る上で重要とされる、書簡トレセーナから捧げられました。そのトレセーナの1つ「1の家」を司っているのがイツパパロトルです。
しかし、シワテテオという魂の化身は、太陽が沈んだ十字路に現れ子供をさらったり、病気の発作や狂気を引きおこすと、恐れられていたため、この作品に出てくる化け物はシワテテオであろうと考えられます。
石の箱から見えた、赤ん坊くらいの白骨体は死産した子供と見れます。石の箱を発見したアーサーは狂気し生贄を捧げ、最後には妻メアリーをも生贄にしたのでしょう。
ベッカーとレッドの兄弟はその様子を見てしまい、ベッカーが父アーサーを生贄にしたとすれば、病気がちだった健康が回復したことを“恩恵”と思ってしまったこと、行動がエスカレートしていく狂気も納得できます。
嘘と裏切りが生む恩恵という名の「代償」
アンバーは母の死をきっかけに、アメリカに夢を求めてきたのでしょうか? 彼女の母が亡霊となって現れたのは、娘への恨めしさがあったからとも考えられます。
母の手ひとつでアンバーが育てられていたら、母もまた苦労の末に病になったと思われます。その苦労に対してアンバーは心から感謝していたのかが疑問です。
工場の社長からも「感謝が足りない」と指摘され、レッドからも同様のことをいわれます。つまり、アンバーは意外と自分中心に物事を考えがちで、周りがよく見えていないということです。
例えばもし、介護に疲れ母を殺害し逃亡するために、アメリカへ来たとしたら、強制送還されることも恐怖でしかないはずです。
面識のない親戚の好意を利用して騙すことも平気です。しかしそれは、キンシの裏切りや職場からの解雇という形で報いをうけます。
また、アンバーの運勢をアステカ暦と重ねるとしたら、自分を「選ばれし者」と思っていたベッカーが、アンバーを導くための「代償」にすぎなかったのではないでしょうか……。
イツパパロトルは女神であり、シワテテオも悲しい女性の魂です。儀式の犠牲となった女性たちの魂を守る女神としては、失うものが何も無いアンバーこそが本当の「選ばれし者」と見るのが妥当です。
アンバーが女戦士のごとく剣を振るって、ベッカーやレッドを倒し自由になった“恩恵”は、イツパパロトルの守護といえます。そして、その“代償”はイツパパロトルやシワテテオのしもべ……。
まとめ
(C)2021 Netflix
Netflix映画『ノー・ウェイ・アウト』は、不法移民の不正雇用が問題となっている、アメリカならではの情勢とメキシコのアステカ文明にあった、“人身御供”の儀式による“恩恵”に人の心が憑りつかれ、悲劇を生むというストーリでした。
人は自分の欲望を満たすためなら、人を騙したり貶めたりすることもあります。しかし、古代の人身供養には神々に「雨乞い」や「豊穣」を祈願する意味も込められていました。
また、メキシコ人にとって太陽は絶対的な存在で、太陽が消滅する終末信仰の延長に、人身供養が行われていました。つまり、個人的な欲望のために生贄の儀式はありません。
むしろ、子を失った母の悲しみや、国とために戦った戦士の魂を慰める、女神を欺く人間の愚かさを示した作品だったといえます。
舞台が冬になると日照時間が短く、太陽の日射しがありがたいと感じさせる、クリーブランドだったことにも意味があったのでしょう。つまり、「ありがたみ」感謝を失った人の末路は、悲惨だと思わせた作品でした。





































