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Entry 2020/02/28
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『ロングデイズ・ジャーニー』感想とレビュー評価。映画監督ビー・ガンが記憶の迷宮を描く【この夜の涯てへ】|銀幕の月光遊戯 55

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第55回

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』が2020年2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開されます。

2015年の『凱里ブルース』で一躍時代の寵児となったビー・ガン監督が3年の歳月をかけ完成。

その大胆で革新的な映像手法が「ウォン・カーウァイの再来」、「タルコフスキーやデヴィッド・リンチを彷彿させる」と世界中で大きな反響を巻き起こしました。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の作品情報


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

【日本公開】
2020年(中国・フランス合作映画)

【原題】
Long Day‘s Journey into Night(地球最后的夜晩)

【監督】
ビー・ガン

【キャスト】
タン・ウェイ、ホアン・ジェ、シルヴィア・チャン、チェン・ヨンゾン、リー・ホンチー

【作品概要】
2015年に『凱里ブルース』で彗星のごとく現れたビー・ガン監督の第二作。前半80分を過ぎたところで3Dとなり、その後の60分間、ワンシークエンスショット映像が続きます。

中国本土で記録的な大ヒットとなり、アメリカでもロングランヒットを記録。

カンヌ国際映画ある視点部門正式上映、ICS(インターナショナル・シネフィル・ソサイエティ)カンヌ2018《特別賞》を受賞。

台湾・金馬奨では、撮影、音楽、音響賞の三部門で受賞。東京フィルメックス・学生審査員賞を受賞しました。

映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のあらすじ


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

父親の死をきっかけに12年ぶりに故郷の凱里(かいり)に帰ってきたルオ・ホンウ。

彼は幼馴染の白猫のことを回想します。借金だらけだった白猫はある時、彼のところにりんごを送ってきました。それをヅヲという男のところに持っていく約束でしたが、離婚したばかりのルオはそのことを忘れ、思い出した時にはりんごは腐っていました。

りんごを片付けていると、中から拳銃が出てきました。以来、ルオはその拳銃を所持しています。

白猫は殺され、ヅヲという男は姿をくらましていました。

ルオは、自分を捨てて養蜂家の男と駆け落ちした母のことを思います。昔、はちみつをとってきては食べさせてくれた優しかった母親。その母親が名付けたレストランの時計の中に古い写真が隠されていました。

なによりも彼の心を惑わせる一人の女のイメージ。彼女はワン・チーウェンと名乗りましたが、それは香港の有名女優の名でした。

ルオは女の面影を追って旅にでますが、現実と夢と記憶が交差するミステリアスな世界が待ち受けていました…。

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映画『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の感想と評価


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

3D映画への変容と60分間のワンシークエンスショット

ビーガン監督は1989年、中国の南西部に位置する貴州省凱里(かいり)市で生まれました。2015年の長編劇映画監督デビュー作品『凱里ブルース』は、ロカルノ国際映画祭で最優秀エマージング監督賞、最優秀初長編賞を受賞したほか、ヴェネチア国際映画祭、リスボン・エストリアル映画祭など数多くの映画祭で大きな反響を巻き起こしました。

2018年、本作『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』を発表。カンヌ国際映画【ある視点部門】にて正式上映され、ICS(インターナショナル・シネフィル・ソサイエティ)カンヌ2018《特別賞》を受賞。

台湾・金馬奨、東京フィルメックスなどで数多くの賞を受賞しています。この2作で若くして中国映画を代表する監督として国際的にその名前を刻むこととなりました

『凱里ブルース』は、ダンマイでの41分に渡るオールワンテイクや、ロングショットを多用した独特の映像美学の中に、人間の記憶、生と死を浮かび上がらせたロードムービーでしたが、『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』ではさらに、その美学が推し進められています。

過去と現在、記憶と現実が、交錯する世界が80分続いたあと、主人公が映画館に入り、3D映画のメガネをかけます。そこから映画は突然3D映画へと変容するのです。この変則的な上映形態だけでも驚きですが、この終盤の3Dでの60分がワンシークエンスショットで撮られているのです。

『凱里ブルース』でもカメラが突然被写体を映すのを捨てて走り出し近道をしてみせたり、誰よりも早く屋上へと駆け上がって行ったりというアクティブな動きに驚かされましたが、本作は、空を飛びさえし、祭りが行われている町全体を鮮やかに浮遊してみせます。

撮影には、ヤオ・ハンギ、ダーヴィッド・シザレ、ドン・ジンソンという3人の撮影監督があたっています。3人がどのような役割で参加したのかは定かではありませんが、ビー・ガンの美学を見事にフィルムに焼き付けることに成功しています。

緑色の映画


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

映画の序盤、「グリーンブック」について、ある女が口にします。愛について描かれた本らしく、持ち主(それもまた盗み出したものなのですが)の女は、それを大切な人に贈ると公言していたといいます。

それにならっていえば、『ロングデイズ・ジャーニー』も「緑色の映画」と呼ぶことができるでしょう。なんといっても、ワン・チーウェンという女の美しく輝く緑色のドレス姿にはすっかり目を奪われてしまいます。

狭いトンネルを緑色のドレスを来た女が歩き、その後ろをゆるゆると一台の車がついていくショットは、目も眩むような美に満ちています。そこに流れるどこか不穏で危険な空気はその光景をより神話化させます。

この女は、男たちからからたびたび前髪を引っ張られるという乱暴な振る舞いを受け、弱い犠牲者のようにも見えますが、新しい男ができるたびに前の男を殺害させているのではないかという疑惑のあるファム・ファタール的な影を帯びています。

緑色の服の女ということで、海外の批評家たちはこぞってヒッチコックの『めまい』のキム・ノヴァクを引き合いに出したというのもうなずけます(一人二役としても共通します)。

主人公の過去を探す旅はまるで探偵のようでもあり、亜熱帯気候の凱里という町がフィルム・ノワールの舞台として、雨と湿気に包まれながら、煙草の煙のように禍々しく立ち上がってきます。

前述のトンネルのシーンでは雨が弾けて、ライトによる色彩が滲み、まるでフイルムが焼けるシーンをみるかのような錯覚さえ呼び起こします。

映画と記憶について


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

前半の80分、主人公は自身の過去の女性を探し、記憶を手繰り寄せようとします。男は何度か映画館にその身をうずめますが、次のようなセリフをはいています。

「映画と記憶の最大の違いは映画は虚構で、場面をつないで作っているが、記憶は眼前にふいに現れる」

記憶をたどって、本作は過去と現在をいったりきたりします。白猫という友人の若き姿や、ヅオという男が子供として登場して唐突にルオと卓球で勝負したりもします。こうした人物は、突如何の前触れもなく現れるため、それが誰か、判然としませんし、観ているものは、その人間関係を完全に把握しようとすればするほど混乱に陥っていきます。

つまり、ビー・ガンはわざわざ映画と記憶の違いを述べておいて、その上で「記憶の映画」を撮ろうとしたのではないか?

先ほどの映画と記憶に関する言葉が発せられる時、緑色の服の女は、室内を右手にゆるゆると移動しており、向こうにはサッカーをしている親子連れが見えています。女はほんの少し、サッカーの真似事をするように蹴る素振りをして見せます。

のちに3Dパートになった際、緑の女から赤い女に変容した女は、路上に転がったりんごを蹴ります。これも1つの記憶の現れといえるのではないでしょうか。

記憶を映画化すること、映画を記憶化すること、記憶の曖昧さを映像化すること、映像の鮮明さを逆にあやふやにすること、そのようなことがこの作品で試みられたのではないか?とさえ思われるほど、本作は驚きに満ちています。

3Dになってからの世界は、もはや、一個人の記憶や夢の範疇にはおさまらない迷宮の世界です。甘い記憶が現実を侵食し、女が逃げおおせるために行かなくてはならないと語った「宇宙」に、家も映画も回転しながらつながっていくのです。

まとめ


(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

主人公のルオ・ホンウを演じているのは、スタンリー・クワンの『長恨歌』などで知られる俳優、ホアン・ジェです。

彼が追い求める女性ワン・チーウェンと、彼女にそっくりな女、カイチンの二役を、アン・リー監督の『ラスト・コーション/色・戒』で一躍スターへと駆け上ったタン・ウェイが演じています。

白猫の母親と赤毛の“イカレ女”には、台湾を代表する国際女優であり、監督としても知られるシルヴィア・チャンが扮しています。

ビー・ガンの実の叔父で『凱里ブルース』で主演を務めたチェン・ヨンゾンがギャングのヅヲ役を演じている他、白猫の子供時代を演じている少年はビー・ガンの異父兄弟だそうです。

照明では、ウォン・カーウァイ作品でおなじみの香港のウォン・チーミンが参加していることにも注目です。

ビー・ガン監督の『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、2020年2月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開されます。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)上西雄大

2020年3月14日(土)より渋谷ユーロスペース他にて全国順次公開される日本映画『ひとくず』を取り上げる予定です。

お楽しみに。

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