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映画『北風アウトサイダー』あらすじ感想と評価解説。崔哲浩が在日朝鮮人兄妹の絆を描く|銀幕の月光遊戯 86

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第86回

映画『北風アウトサイダー』は2022年2月11日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次ロードショー!

劇団野良犬弾の主宰者で俳優の崔哲浩が自身の半生を基に監督・脚本・主演を務めた映画『北風アウトサイダー』。

大阪・生野の在日コリアンが多く暮らす町を舞台に、偏見や貧困といった厳しい状況に直面しながらも困難に立ち向かっていく一家の姿を、圧倒的な熱量で描いたヒューマンドラマです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『北風アウトサイダー』の作品情報


(C)2021 ワールドムービーアソシエイション

【公開】
2022年公開(日本映画)

【監督・脚本・プロデューサー】
崔哲浩

【キャスト】
崔哲浩、櫂作真帆、伊藤航、上田和光、浦川奈津子、遠藤綱幸、佐野いずみ、新宮里奈、梅津翔、田中あいみ、秋宮はるか、千賀多佳乃、福本翔、玉木惣一郎、松田俊大、杉浦豪、大原広基、並樹史朗、岡崎二朗、許秀哲、及川欽之典、森本姫愛、菊地玲緒、黒田焦子、藤代麻美、永田もえ、永倉大輔、松浦健城、竜崎祐優識

【作品概要】
劇団野良犬弾の主宰者で俳優の崔哲浩が自らの半生を基に脚本を作成し、監督・主役を務めたヒューマンドラマ。

大阪・生野にある在日コリアンのコミュニティを舞台に、偏見や貧困など厳しい状況の中でも励まし合って生きる家族の姿を描いています。

映画『北風アウトサイダー』のあらすじ


(C)2021 ワールドムービーアソシエイション

大阪市生野区にある在日コリアンが多く暮らす町で、ある一家のオモニ(オカン)の葬儀が行われていました。

15年前に失踪した長男・ヨンギが現れるのではないかと兄妹は期待していましたが、ヨンギは最後まで姿を見せませんでした。

オモニが始めた店「オモニ食堂」は妹のミョンヒを始めとした女性陣が切り盛りしていましたが、積もりに積もった借金があり、兄妹たちはその返済に頭を抱えていました。

そんな中、突然ヨンギが帰ってきます。変わり果てた長男に困惑する兄妹たち。

しっかりものの次男のチョロは、ヨンギを店で働かせると兄弟に告げますが、ミョンヒは溜まりに溜まった気持ちを吐き出さずにはいられません。

様々な人の想いがすれ違うなかで、兄妹は次第に絆を取り戻していきますが……。

映画『北風アウトサイダー』の解説と感想


(C)2021 ワールドムービーアソシエイション

全編に流れる圧倒的な熱量

劇団野良犬弾の主宰者で俳優の崔哲浩が、自らの体験を元に脚本を書き、監督・プロデューサー・主演を務めた本作は、大阪は生野に住む在日コリアン一家の濃密な物語です。

映画は主役の兄妹や彼らを取り巻くコミュニティの精神的支柱であったであろうオモニの葬式の場面から始まります。

親族が一つの部屋に集まる中で、兄妹やそのパートナーなど多数の人々の関係が巧みに紹介され、一族が抱える事情や、それぞれの個性溢れる性格が浮かび上がってきます。

一つのフレームに多くの人間がひしめき合う様は冒頭だけではなく全編に渡っていて、カメラはその多くを引きの映像で捉えています。

結婚式や抗争などの群衆シーンは勿論のこと、「オモニ食堂」の一場面で、フレームの手前や奥、あるいは右手や左手で、人々がまったく違った動きをしているようなものも一例として上げることができるでしょう。

それは人々が、それぞれの事情と意思で動いている証拠で、リアリティ溢れる空気感を生み出しています。

崔哲浩監督は、このように大勢の人間をエネルギッシュに映像に落とし込みながら、登場人物一人ひとりの心情を、時にシリアスに、時にユーモラスに綴っていきます。

回想シーンも折り込まれ、オモニの生前の姿や、兄弟たちの少年、青年時代が語られます。

オモニの心の美しさに胸打たれていると、彼女も決して聖人ではなく、失言もするし重い傷を背負っていたらしいことが示唆され、1人の女性の人間味溢れた生涯がクローズアップされます。

子どもたちやその友人の中にはアウトサイダーとして生きざるをえない者もいて、また、シビアなお金の問題も浮上し、家族にとっては悩みや心配が耐えません。しかしそんな困難な日々を、彼ら彼女たちは逞しく生き延びていきます。

深い愛情でつながった人々の明るく逞しい生き様が、役者たちの活力に満ちた演技によって、圧倒的な熱量を持って観る者に迫って来ます

困難に立ち向かう強さ


(C)2021 ワールドムービーアソシエイション

櫂作真帆扮する妹のミョンヒの言葉が時折、ナレーションとして挟まれますが、その中の「私たちはただ普通に暮らしていきたいだけなのに、外部の出来事で人生が大きく左右され、壁がたちはだかる」という台詞があります。

その言葉はまさに本作のキーワードとも呼ぶべきものでしょう。拉致問題など、彼らの生活の外で起こる社会問題が直接彼らの生活を直撃します。これは世界中の移民やその二世、三世、四世たちが味わっている事柄といってもいいかもしれません。

また、朝鮮大学に進学するか、日本の大学に進学するかと揺れ動く子どもに近づき、彼女の意思や家族の意思をないがしろにして民族の血脈を問答無用に踏襲させようとする団体なども登場し、驚かされます。

さらに日本人の友人が突然彼らを「在日」というくくりで拒否するショッキングなシーンもあります。

「朝鮮人も日本人もみんな人間だから、仲良くできる時代が必ず来る」という生前のオモニの言葉が、気の遠くなるような、雲を掴むようなものにも思える瞬間ですが、それでもここに登場する人々は、その言葉を楽観的に内包し、前を向いて生きているように見えます。

中でも女性たちの強さが印象的で、結婚式の新郎と新婦がスピーチするときの対比には思わず笑ってしまいました。

上映時間は150分と長尺ですが、長さをまったく感じさせない、見ごたえある作品に仕上がっています。

まとめ


(C)2021 ワールドムービーアソシエイション

崔哲浩監督は本作を作るにあたって「人間とは?」、「愛とは?」、「時代の継承」、「血脈」という4つのテーマを設けたと語っています。

ある在日コリアンの家族の波乱に満ちた人生が描かれる中、そのテーマにあるように、観る者はさまざまな問題を思い知らされ、動揺や共感といった、多様な感情を覚えるでしょう。

ひとりひとりの人間をしっかりと描きながら、活劇としての要素もあり、エンターティンメントとしても楽しめる一作となっています。

映画『北風アウトサイダー』は2022年2月11日(金)よりシネマート新宿他にて全国順次ロードショー!

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