Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/06/17
Update

映画『ムイト・プラゼール』あらすじ感想と評価解説。在留外国人の立場を言葉や表情で描き“未来へ”と綴る|銀幕の月光遊戯 78

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第78回

ブラジル人学校を訪問することになった国際交流部の部員たち。しかし、彼らを迎えたブラジル人学校の生徒たちの反応は思いもよらないものでした。

在留外国人と日本人の間に横たわる問題を朴正一監督がまっすぐに見つめた短編映画『ムイト・プラゼール』。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画際2020」の国内コンペティション短編部門で観客賞、「第18回うえだ城下町映画祭 自主制作映画コンテスト」では審査員賞(柘植靖司賞)を受賞するなど、国内外の映画祭で高く評価されている作品です。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『ムイト・プラゼール』の作品情報

【公開】
2021年公開(日本映画)

【監督】
朴正一

【キャスト】
鄭順栄、デボラ・バルボーザ・エグチ、藤井美音、ホドリゴ・サトウ、山崎悠稀、河邊一敏

【作品概要】
朴正一監督による31分の短編映画。日本人高校生が国際交流でブラジル人学校を訪問した際に起こる事柄から、在留外国人と日本人の間に横たわる問題を浮かび上がらせます。

「SKIPシティ国際Dシネマ映画際2020」の国内コンペティション短編部門で観客賞、「第18回うえだ城下町映画祭 自主制作映画コンテスト」では審査員賞(柘植靖司賞)を受賞したのをはじめ、「フィラデルフィア・アジアン・アメリカン映画祭2021」、「第21回TAMA NEW WAVE ある視点」に入選するなど、国内外の映画祭で高い評価を得ています。

映画『ムイト・プラゼール』のあらすじ

高校教師・金本は国際交流部の顧問を務めています。三年生が引退し、現在、部員は女性生徒2名だけ。金本は、どんなときでも、フランクに人と接することができる男子生徒、沼田を、次の交流先に連れて行くことにしました。

前回はインドネシアの高校生を自校に招きましたが、今回は茨城にある日系ブラジル人学校を訪問することが決まっていました。

一方、ブラジル人学校では、日本の高校に転入したはずのアマンダがイジメに遭い、再び、教室に戻って来たことで、クラスメイトたちの怒りが爆発していました。

度重なる日本人からの差別やイジメに耐えかねたブラジル人生徒たちは、怒りを持って金本たちと対峙します。

スポンサーリンク

映画『ムイト・プラゼール』の解説と感想

本作が「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2020」の国内コンペティション短編部門に入選した際、朴正一監督は、「日本では関心が薄いと思っていた移民問題を扱った私たちの作品が、この度ノミネートされたことに大変驚いております」というメッセージを寄せていました。

実際、メジャーな日本映画に目を向けてみると、日本社会に日本人しかいないかのような映画が量産されています。これはテレビドラマも同様です。

在留外国人数は2020年6月末の集計によると288万5,904人を数え、日本で働く外国人労働者数は2020年10月末の集計では172万4,328 人に登りますが、まるでそのような人々は存在しないかのようです。

映画『ムイト・プラゼール』では、国際交流部に所属する生徒と部の顧問が交わす会話の中で、高校生たちは、地元に多くのブラジル人が住んでいて、ブラジル人学校があることすら知らなかったことを明らかにしています。

この高校生の姿は、多くの日本人の姿の代名詞的なものとして見ることができるでしょう。日本は均質化した社会であると考え在日外国人の姿が見えていない、あるいは、互いにコミュニティの中で閉じてしまっている、そんな現実が現れています。

一方、国際交流部の高校生たちが訪ねようとしているブラジル人学校では、日本人や日本社会に対する怒りが教室を支配していました。

将来のことを考え、日本の学校に通い始めた一人のブラジル人女性生徒が日本人のクラスメイトからいじめを受け、教室に戻ってきたからです。こうした出来事は初めてのことではなく、彼女が転校していった際、誰もが危惧していたことでした。

特に深い考えもなく気楽な気分でブラジル人学校を訪問する日本人生徒と、これまでの様々な差別やいじめ行為などへの憤りで感情が爆発してしまったブラジル人の生徒たち。

序盤の日本の高校生たちのやり取りでは主に固定カメラが使われていましたが、舞台がブラジル人学校になるとカメラは手持ちに変わり、生徒一人ひとりに接近してその表情や仕草をアップで捉えています。日本人生徒とブラジル人生徒たちの対面は息詰まるような緊張感に包まれます。

そんな中、国際交流部の顧問の金本は、自身の経験を披露し、少しでもブラジル人生徒たちの気持ちに近づこうとします。ここで観客は彼女が訪問日前日に、自宅で真剣な眼差しをしていたカットを思い出すことになるでしょう。彼女が、この訪問を実りのあるものにしようと真摯に考えていたことがわかります。

一方で、彼女が在日コリアンであることを明かすという映画の構成は、マジョリティが差別を差別として認識すらしていない、この国の構造をさらに浮かび上がらせているといえるかもしれません。

ただし、本作の趣旨は批判や糾弾ではありません。映画は在留外国人の置かれた立場や境遇を明らかにし、一人一人の言葉や表情を丁寧に綴り、彼ら、彼女たちの未来へと思いを馳せます。それらは観る者に確かなメッセージとして伝わってきます。

また、若い人々がいとも簡単に壁を超えて行ける姿も描かれ、未来への一筋の可能性が示されています。

まとめ

劇中のブラジル人学校の生徒たちは、全員が実際のブラジル人学校の卒業生と在校生たちによって演じられています。

演技経験のない彼らですが、素晴らしい存在感を見せ、観る者に、それぞれの心情を突きつけてきます。

また、高校教師・金本を演じる鄭順栄をはじめ、日本の高校生を演じた俳優たちも、多彩な表情で、生き生きとした演技を見せています。

「Muito Prazer」とは、ポルトガル語で「はじめまして」という意味の言葉です。映画を見終えた時、このタイトルがより感慨深く、心に染みてくることでしょう。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

関連記事

連載コラム

講義【映画と哲学】第2講「悲劇的な行為について:アリストテレスの詩学から映画を見る」

講義「映画と哲学」第2講 日本映画大学准教授である田辺秋守氏によるインタネット講義「映画と哲学」。 第2講でも、クシシュトフ・キェシロフスキ監督の名作『デカローグ』(1989~90)を題材に、「悲劇的 …

連載コラム

韓国映画Be With You~いま、会いにゆきます|感想レビュー。梅雨の季節に舞い降りた優しい奇跡の愛の物語|コリアンムービーおすすめ指南9

市川拓司のベストセラー小説を新たに韓国で映画化 映画『Be With You~いま、会いにゆきます』は、『ただ君だけ』、『王の運命(さだめ)歴史を変えた八日間』のソ・ジソブと『私の頭の中の消しゴム』、 …

連載コラム

韓国映画イケメン俳優の男同士の熱い絆を観る!『ミッドナイトランナー』から『名もなき野良犬の輪舞』まで|コリアンムービーおすすめ指南2

連載コラム「コリアンムービーおすすめ指南」第2回 韓国映画について縦横無尽に語ることをコンセプトにした本連載もようやく2回目。 月に一度の更新となりますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。 …

連載コラム

映画『エクソシスト ビギニング』ネタバレあらすじ感想と評価解説。魔人パズズと妻の魔人ラマシュトゥとは ⁈|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー28

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第28回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

『あまねき旋律(しらべ)』インド・ナガランドの自然と音楽を堪能する|映画と美流百科9

連載コラム「映画と美流百科」第9回 今回 取り上げる映画は、インドの山間部にある村々で古くから受け継がれてきた“歌”を追った音楽ドキュメンタリー『あまねき旋律(しらべ)』です。 この作品はインド東北部 …

U-NEXT
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学