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Entry 2022/05/19
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『神は見返りを求める』あらすじ感想と解説評価。ムロツヨシ×岸井ゆきのが魅せる、見返りを求める男と恩を仇で返す女の行く末|山田あゆみのあしたも映画日和3

  • Writer :
  • 山田あゆみ

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第3回

今回ご紹介する映画は、2022年6月24日(金)公開の『神は見返りを求める』です。

本作は、『ヒメアノ~ル』(2016)『空白』(2021)の吉田恵輔監督の最新作です。主演はムロツヨシ、岸井ゆきの。

底辺YouTuberのゆりちゃんと、見返りを求めず彼女に協力する会社員の田母神の関係が、とあることから激変し思いもよらない後味を残す怪作となっています。

それでは、本作の見どころについて解説していきます。

連載コラム『山田あゆみのあしたも映画日和』記事一覧はこちら

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映画『神は見返りを求める』の作品情報


(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

【公開】
2022年

【監督・脚本】
吉田恵輔

【キャスト】
ムロツヨシ、岸井ゆきの、若葉竜也、吉村海人、淡梨、栁俊太郎、田村健太郎、中山求一郎、廣瀬祐樹、下川恭平、前原滉

【作品情報】
主演を務めるムロツヨシは、これまで話題の映画・舞台・ドラマなどに出演を重ね、ついに昨年『マイ・ダディ』で映画初主演を果たした。

今作は待望の2作目の主演作品となると同時に、本作を手がける吉田恵輔監督作品への出演も『ヒメアノ~ル』(2016)に続き2作目となります。

唯一無二のキャラクターで熱烈な支持を集めるムロツヨシが、本作ではこれまでのイメージとは全く異なる狂気を見せます。共演は、主演映画『愛がなんだ』(2018)で話題を集め、今年は『やがて海へと届く』、『大河への道』、『ケイコ、目を澄ませて』と相次ぐ公開作品が続き、幅広い役柄を演じ分け、その高い演技力と柔軟性から今映画界で引っ張りだこの女優、岸井ゆきの。

本作では、明るく一生懸命なYouTuberとしての側面と、欲と憎悪に満ちた女性としての側面を見事に演じ分けています。

そして、田母神と同じイベント会社に務める後輩・梅川役には若葉竜也、有名YouTuber・チョレイ役に吉村界人、同じく有名YouTuber・カビゴン役に淡梨、新進気鋭のデザイナー・村上役に柳俊太郎、と若手急上昇中の若手俳優陣が総出演!それぞれがクセの強い業界人を好演。

映画『神は見返りを求める』のあらすじ

主人公・イベント会社に勤める田母神(ムロツヨシ)は、合コンでYouTuber・ゆりちゃん(岸井ゆきの)に出会います。

田母神は、再生回数に悩む彼女を不憫に思い、まるで「神」の様に見返りを求めず、ゆりちゃんのYouTubeチャンネルを手伝うようになります。 

アクセス数がなかなか上がらないながらも、前向きに頑張り、お互い良きパートナーになっていきます。

そんなある日、ゆりちゃんは、田母神の同僚・梅川(若葉竜也)の紹介で、人気YouTuber(吉村界人・淡梨)と知り合い、彼らとの“体当たり系”コラボ動画により、突然バズってしまいました。

イケメンデザイナー・村上アレン(柳俊太郎)とも知り合い、瞬く間に人気YouTuberの仲間入りをしたゆりちゃん。

一方、田母神は一生懸命手伝ってくれるが、動画の作りがダサい。良い人だけど、センスがない……。

恋が始まる予感が一転、物語は“豹変”しますーー!

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映画『神は見返りを求める』感想と評価


(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

YouTuberを通して現代を生きる人々の黒い感情と、愛おしい感情を痛いほどに生々しく描いた本作

リアリティのある恐ろしさと、どこか笑いを誘う皮肉さの絶妙なバランスで物語は進みます。終盤にかけて急展開することで、最後には思いもよらない後味を残す、まさに怪作です。

感情の深淵を覗く吉田恵輔監督


(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

物語は、底辺YouTuberゆりちゃん(岸井ゆきの)のチャンネル運営を、イベント会社社員の田母神(ムロツヨシ)が手伝うことで絆を深めていくところから始まります。

決して見返りを求めず、ゆりちゃんのために尽くす田母神と、素直に感謝するゆりちゃんの純粋さは、ラブストーリーのはじまりを予感させる微笑ましさ。

まさかこの後、2人の関係が激変するとは思いもしませんでした……。

ネット社会の現代において人間関係がもつれるとどのように泥沼化していくのか、胸やけがするほど悲惨に描いています。

思わず目を覆いたくなる人間の黒い感情が渦巻く様は、吉田恵輔監督の手腕が光ります。

登場人物たちの苦悩や葛藤という点では、不運な事故で死んだ女子中学生の父親と、娘の死に関与した青年を描いた『空白』(2021)が共通しています。

また、感情のぶつかり合いというのは、兄弟、姉妹の切っても切れない関係を描いた『犬猿』(2018)で見られた熱量の高さが思い起こされます。

人間関係のエグみの強い感情の深淵と、そこに垣間見える白黒つけられない人間の本質に迫る、吉田監督の真骨頂を堪能できる一作となっています。

YouTuberの自由と責任


(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

本作は、YouTuberという職業にフォーカスすることで、今の世を必死に生きる人の懸命さと愚かさを映し出していました

YouTuberは常に視聴者の反応や「登録者数」「閲覧数」など数値化された評価基準に向き合い続ける仕事です。

特に本作で登場するエンタメ系YouTuberにとっては、視聴者に飽きられないよう、あの手この手でアイデアを出して動画を作り、プライドや恥を捨て去ることが求められます。

それが愚かに見えようと、本人たちにとっては至極真剣。そして報われるかどうかは誰にも分りません。そんなYouTuberの苦悩にも触れる内容になっています。

誰でも成功する可能性がある中で、誹謗中傷などのリスクも付き物という世界で勝負するYouTuberたちは何を思うのか。

そして、SNSなどを通して他者からの評価を気にするというのは、YouTuberに限らず言えることでしょう。

周りからの評価を気にする現代人に、自分らしい生き方や心の在りかについて改めて問われているように感じました。

まとめ


(C)2022「神は見返りを求める」製作委員会

憎悪が渦巻く攻防戦の中に不思議と可笑しみが生まれるシーンがいくつかありました。そのバランスを絶妙に保っていたのが、田母神を演じたムロツヨシの存在です。

情けなくも紳士であり、真面目な性格だけれども裏目に出てしまう、そんな不運な男を見事に演じ切っています。

思わず笑ってしまうところもあれば、ぞくっとしてしまったり、最後までこの田母神というキャラクターの考えることや言動を、追いかけたくて仕方がなくなります

ぜひ、優しく平凡な田母神に起きる変化、そして田母神にとっての「見返り」とは何を指すのか、という点に注目して観てください

『神は見返りを求める』は2022年6月24日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国順次公開

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山田あゆみのプロフィール

1988年長崎県出身。2011年関西大学政策創造学部卒業。2018年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを計13回開催中。『カランコエの花』『フランシス・ハ』などを上映。

好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を観る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中(@AyumiSand)。

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