Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/07/07
Update

『とら男』あらすじ感想と解説評価。金沢女性スイミングコーチ殺害事件の“真犯人を追う元刑事の姿”を活写|映画という星空を知るひとよ107

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第107回

刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る異色ミステリーの映画『とら男』。

時効となった未解決事件は実際に存在し、事件を解決できなかった無念の想いは、それを追っていた刑事の胸の奥にくすぶり続けます。

そんな執念にも似た刑事の‟やり残したこと”にスポットを当てて描かれた映画『とら男』。監督・脚本は、『堕ちる』(2016)の村山和也が務め、事件を担当した実際の刑事が主演を務めました。

映画『とら男』は2022年8月6日(土)ユーロスペースほか全国順次公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『とら男』の作品情報


(C)「とら男」製作委員会

【日本公開】
2022年(日本映画)

【監督・脚本・プロデユーサー】
村山和也

【出演】
西村虎男、加藤才紀子、緒方彩乃、河野朝哉、河野正明、長澤唯史、南一恵、吉田君子、中谷内修、深瀬新、安澄かえで、大塚友則、河原康二、石川まこ

【作品概要】
1992年に起きた金沢女性スイミングコーチ殺人事件が題材。実在する刑事歴30数年の元刑事が本人役として主演を務め、かつて自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る、セミドキュメンタリータッチの異色ミステリーです。

主人公のとら男役を元・石川県警特捜刑事の西村虎男、女子大生のかや子役を『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(2019)の加藤才紀子がそれぞれ演じます。

監督は『堕ちる』(2016)の村山和也。現実とフィクションの二重構造によって、闇に葬られた事件の謎と真実を世間に問いかける作品となっています。

映画『とら男』のあらすじ


(C)「とら男」製作委員会

東京から植物調査に金沢に来た女子大生・かや子は、おでん屋に立ち寄ったときにそこで吞んでいた元刑事のとら男と出会います。

実はとら男には、刑事として後悔にも似た大きな心残りがありました。

1992年に起きた、未解決の金沢女性スイミングコーチ殺人事件で、担当刑事のとら男は、犯人の目星をつけながらも逮捕に至ることができなかったのです。

その事件は、未解決のまま2007年に時効が成立。

そして事件から15年後、警察を退職したとら男は、事件のことが忘れられないまま孤独に暮らしていたのです。

とら男の話に興味を持ったかや子は、当時の事件について調査をスタートさせます。

まずは聞き込みからと当時の状況を知っていそうな人に事件について何か知っていることはないかと、行動を起こすのですが……。

映画『とら男』の感想と評価


(C)「とら男」製作委員会

誰もが多かれ少なかれ過去の出来事について「後悔」を持っているのではないでしょうか? 

社会人ともなれば、仕事で犯したミスや対人関係など、忘れようとしても忘れられない出来事に遭遇することがあります。

映画『とら男』は、そんな後悔を引き摺る元刑事が主人公となっています。

演じているのは実際に事件を担当していた刑事ご本人なので、隠そうとしても隠しようのない事件への思い入れが色濃く描かれています

そんな刑事の心残りを晴らそうと、主人公・とら男の手助けをして、再調査に乗り出すのは、女子大生のかや子。

にわか探偵のかや子の頑張りがどこまで実を結ぶのかと、注目は高まります。

また、未解決事件の犯人は本当に捕まるのでしょうか。犯人を追い詰める刑事ドラマのミステリー作品として、その結末は気になるところです。

けれども、事件の解決という結末よりもリアルに描き出されるのは、おでん屋で呑んだくれ、家庭農園をしている元刑事・とら男の「化石のような思い」

女子大生・かや子視線でストーリー展開する本作ですが、とら男の抱える‟刑事としての執念や後悔”がクローズアップされています。

本作では、時効を迎えても未解決事件はまだ終わっていないこと、また事件を追った刑事がどんな思いでいるのかということを鋭く描いています

まとめ


(C)「とら男」製作委員会

未解決事件の再調査に乗り出した元刑事を描く映画『とら男』をご紹介しました。

元刑事が本人役として主演を務めて、自身が捜査にあたった未解決事件の真相に迫る異色ミステリーです。

未解決事件が時効を迎えても、何の解決にもなりません

本作では、村山和也監督が事件に関わった人々の化石のような未解決事件への複雑な想いを描き出しました。

監督が本作で伝えたかったものとは何か……。鑑賞してみて初めてそれが分かることでしょう。

映画『とら男』は2022年8月6日(土)ユーロスペースほか全国順次公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


関連記事

連載コラム

映画AVP2エイリアンズVSプレデター|ネタバレ感想と考察評価。続編は前作ラストで体内に産みつけた新種両性の誕生| SFホラーの伝説エイリアン・シリーズを探る 第7回

連載コラム「SFホラーの伝説『エイリアン』を探る」第7回 SF映画の二大“モンスター”が激突する大ヒット映画の続編、今度の戦場は街中!? 『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』。 本作は映画『エイ …

連載コラム

『ミュンヘン 戦火燃ゆる前に』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。Netflixおすすめのサスペンス映画は“英独に別れた旧友”の絆|タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」6

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第6回 チェコ・スロバキアの領土をめぐる1938年のミュンヘン会談をイギリス政府官僚とドイツ外交官の視点から描く政治サスペンス『ミュン …

連載コラム

映画『マフィオサ』ネタバレ感想。溝口友作監督が東映プログラムピクチャー風で描いたアメリカン・マフィア|未体験ゾーンの映画たち2019見破録3

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第3回 様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」が2019年も実施さ …

連載コラム

Netflixドラマ『マインドハンター』あらすじネタバレと感想。デヴィッド・フィンチャーのプロジェクト解説|海外ドラマ絞りたて9

連載コラム「海外ドラマ絞りたて」第9回 「海外ドラマ絞りたて」は選りすぐりの海外ドラマをご紹介するコラム。たくさんのドラマがある中、どのドラマを見ようか迷っている読者の参考にして頂こうと企画したコラム …

連載コラム

『劇場』小説ネタバレと結末までのあらすじ。映画化原作の又吉直樹の第2弾は恋愛がモチーフ|永遠の未完成これ完成である15

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第15回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介する作品は、『劇場』です。小説デビュー作「火花」で芥川賞を受賞 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学