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Entry 2020/06/26
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映画『一度も撃ってません』感想考察と評価レビュー。阪本順治監督×石橋蓮司で描くハードボイルドコメディ|映画という星空を知るひとよ2

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第2回

『一度も撃ってません』は、『半世界』『エルネスト』の阪本順治監督、『野獣死すべし』『探偵物語』の丸山昇一脚本によるハードボイルドコメディ。18年ぶりの映画主演となる石橋蓮司が、冴えない小説家と伝説の殺し屋という2つの顔をもつ主人公を演じています。

映画『一度も撃ってません』は2020年7月3日(金)全国ロードショー

石橋の妻役に大楠道代、旧友役に岸部一徳と桃井かおりという日本映画界を支えるベテラン俳優陣が顔をそろえています。成熟期を超えた大人の夢を追う生き方を「こだわり」か「悪あがき」かと問いかけられる映画です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『一度も撃ってません』の作品情報

(C)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
阪本順治

【脚本】
丸山昇一

【キャスト】
石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、新崎人生、井上真央、柄本明、寛一郎、前田亜季、渋川清彦、小野武彦、柄本佑、濱田マリ、堀部圭亮、原田麻由

【作品概要】
『半世界』(2019)『エルネスト』(2017)の阪本順治監督、『野獣死すべし』(1980)テレビドラマ『探偵物語』(1979)の丸山昇一脚本によるハードボイルドコメディ。18年ぶりの映画主演となる石橋蓮司が、冴えない小説家と伝説の殺し屋という2つの顔をもつ主人公を演じています。石橋のほか、大楠道代、岸部一徳、桃井かおりと日本映画界を支える主役級のベテラン俳優陣が顔をそろえ、さらには、柄本佑、寛一郎など「令和」を担う若き俳優たちも共演しています。

映画『一度も撃ってません』のあらすじ

(C)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

ある夏、駐車場で一人の男が射殺され、現場の死体に黒づくめの男が近寄り、死体の状況をカメラに収めて逃走しました。

その冬のこと。原稿が全く採用されない時代遅れの作家市川進(石橋蓮司)は、とてものんびりした日々を過ごしていました。しかし、彼は一旦仕事部屋にこもると、死体の写真を見ながら小説の創作活動に励んでいたのです。

彼はハードボイルド風の作品を書き続けています。そして、旧友のヤメ検の石田和行(岸部一徳)から依頼を請け負う、伝説の殺し屋・サイレントキラーというもう一つの顔も持っていました。

トレンチコートにブラックハット、サングラススタイルで夜になると、バー『Y』に出没。石田や元ミュージカル界の歌姫ひかる(桃井かおり)と共に酒を酌み交わし、情報交換をしています。

サイレントキラーといっても、市川自身はもっぱら狙う標的の行動をリサーチするだけで、実際の殺しは今西友也が行っていました。

そんな市川の書く小説は、ハードボイルド作家北方謙三の二番煎じもの。これでは売れないと思う市川全盛期の担当者である編集者の児玉(佐藤浩市)は、自分の定年退職をきっかけにして、新人の五木(寛一郎)を後任にしました。

引き合わせのとき、市川と五木は小説をめぐって持論を交わします。あくまで状況にこだわる市川と、人物や背景などを加えたストーリーを求める五木。

昭和世代と令和世代の感覚の違いを市川も悟りますが、相変わらず自分のスタイルを崩そうとしません。

ある日、石田が中国系のヒットマンから命を狙われ、市川にも身の危険が迫りました。慌てる市川はますます怪しい行動に出ます。

夫・市川の行動に不信を抱いた妻の弥生(大楠道代) は、夫の浮気を疑って市川の立ち回り先を調べ始めるように。

一方、市川はヒットマンを返り討ちにするため今西を探しますが、見つけた今西は酔って仕事ができない状態です。今西はあてに出来ないと悟った市川は、ある決断をしました。

そんな頃、市川行きつけのバー『Y』に現れた弥生は、市川と旧知の女性・玉淀ひかるに夫との仲を問い詰めていました。

そこにやってきたヒットマン。そして一度も人を撃ったことがない殺し屋・市川が『Y』に入って来ます……。

映画『一度も撃ってません』感想と評価

(C)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

映画『一度も撃ってません』の主人公は、売れない作家の市川。御年74歳の市川は、より緊迫感のあるハードボイルド小説を書くために、殺し屋・御前零児を名乗り、ヒットマン気分で夜な夜な町に繰り出していました。

昭和世代の夫婦像

作家は小説を書くのに情報収集に走ったり、体験を描くために様々なことにチャレンジしたりと、目に見えない苦労があるようです。

特に市川という男の場合は……。表と裏、家庭と社会での二つ顔を持ち、そのギャップがかなり笑えます。

昼は教師を定年退職した妻の年金で食べさせてもらっている冴えない男の市川。秘密にしている‟夜の顔”のせいもあり、妻には頭が上がりません。

毎朝妻が作る“しじみの味噌汁”をもう飽きたという感じで食べ、妻の外出をかいがいしく見送っています。

自宅の仕事部屋のドアには侵入者の有無がすぐわかるような仕掛けをし、一人になると芝居の小道具で使われた拳銃片手に執筆活動に没頭。

そして夜になると、トレードマークの殺し屋スタイルでバーを転々と。もちろん懐には拳銃を持っているのですが……。何しろカッコだけの殺し屋で、“一度も撃ってません”。果たして、どうなることやら。

そこまでしてハードボイルドの小説を書かなければならないのでしょうかと、疑問もわきますが、勤勉な仕事人が多かった昭和世代の男市川だからこそ、仕事に対するこだわりは揺るぎないものだったのでしょう。

そんな市川を陰ながら今も変わりなく支えているのは、妻である弥生です。若い頃に比べて稼ぎが断然少なくなった市川を、何だかんだと言いながらも、毎朝のお味噌汁も手抜きせず、彼の身の回りをきちんと世話するあたり、こちらもまた紛れもなく昭和時代の女性です。

このように、本作には昭和世代を代表する夫婦の老後の姿がコミカルに描かれています。作家や殺し屋という特殊な職業を持つ市川と浮気を疑いながらも夫につくす妻に、同年代の方はいつしか親近感を持つことでしょう。

昭和と令和を代表する芝居合戦

(C)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

『一度も撃ってません』では、主役を演じる石橋蓮司や大楠道代をはじめ、岸部一徳や桃井かおりといった「昭和」を代表するような豪華なベテラン俳優陣が勢揃いしています。

そこに、「令和」を担う世代として柄本佑や、寛一郎が加わりました。特に寛一郎は、実父の佐藤浩市との初共演を果たしています。

寛一郎の役処は、佐藤浩市演じる編集長・児玉の部下・五木。定年間際の児玉が市川担当を五木に申し送ります。社会での新旧交代を描いていますが、実生活での世代交代も想像できます。

五木は、相手が上司であろうがお得意様の作家であろうがお構いなしに、自分の意見を真っ向から述べるという怖いモノ知らずの若者です。

本作では、ハードボイルドの二番煎じ的小説を書く市川に対して、五木が持論をたたきかける場面がありました。

70年代のロマンを引きずる市川を、令和の現代を生きる五木が大声で貶めるという設定なのですが、正面にどっかと居座る大ベテラン・石橋を前に、寛一郎はなかなか勢いが出なかったそうです。

しかし流石に若者です。本番では、見事に昭和の大物俳優のオーラをぶっ飛ばし、銃撃戦ならぬ舌戦を撃破します。このあたりの演技の闘いをお見逃しなく。

まとめ

(C)2019「一度も撃ってません」フィルムパートナーズ

映画『一度も撃ってません』は、タイトルからは、ハードボイルドなアクション映画を想像できます。しかしその中身は、殺し屋に扮する作家が主人公のハードボイルドならぬ、ハートボイルドなコメディです。

市川は74歳という年齢で、今なお「昭和」ロマンを携えている男という設定。元検事の石田や忘れられた歌姫のひかるといった友人たちもまた然りで、過去にこだわって生きています。

人生最期の「こだわり」は、果たして“かっこいい”といえるのでしょうか、それとも“悪あがき”なのでしょうか。

彼らの生き方が滑稽に見える反面、好きなように生き抜く姿勢に羨望の思いがこみ上げてくることは、間違いないでしょう。

映画『一度も撃ってません』は2020年7月3日(金)全国ロードショー。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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