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Entry 2018/09/15
Update

劇場版「フリクリ」感想と考察。セカイ系をふりかえる|映画道シカミミ見聞録14

  • Writer :
  • 森田悠介

連作コラム「映画道シカミミ見聞録」第14回


(C)2018 Production I.G/東宝

こんにちは、森田です。

今回は当サイト「今週おすすめ映画!」で一推しされている劇場版「フリクリ オルタナ」の考察に踏みこんでみます。

本作はハチャメチャな展開、自由な作風をもつアニメーションとしておもしろいだけでなく、公開中の他の映画『SUNNY強い気持ち・強い愛』や『銀魂2 掟は破るためにこそある』とも共通項をもっているため、現在の邦画シーンを読み解くうえでうってつけの映画となっています。

なお、総監督は日本映画大学の母体、横浜放送映画専門学院の卒業生である本広克行さんが担当。

ではさっそく、劇場版「フリクリ」とそれにまつわる物語にせまっていきましょう。

【連載コラム】『映画道シカミミ見聞録』記事一覧はこちら

劇場版「フリクリ オルタナ」のあらすじ(上村泰監督 2018)

2000年から2001年に全6巻のOVAとして発表された「フリクリ」が、劇場版となって帰ってきました。

筋という筋はほとんどなく、大枠としてはアナーキーな宇宙人、ハルハラ・ハル子(声:新谷真弓)が地球に住まう普通の生徒とドタバタを繰り広げていきます。

前作のOVAでは小学6年生の男子と、本作の劇場版では女子高生のグループに接近し、いろいろとちょっかいを出すのです。

その行動の目的は、一応、“地球を守るため”にみえます。

いずれの世界も、謎のメカに襲われ、地球が“巨大なアイロン”でまっ平らにされる危機に瀕しています。

後述しますが、いわゆる「日常の私」が「世界の運命」に直結する「セカイ系」の流れをくんでいるといえ、それはOVAを『新世紀エヴァンゲリオン』のガイナックスが制作し、本作にもそのスタッフが関わっていることからもうかがえます。

各話の“日常”とテーマ

まず彼女らの日常を観察してみましょう。

劇場版では、仲良しグループの4人(カナ、ペッツ、ヒジリー、モッさん)がそれぞれ主役となる回があり、オムニバスに近い形式で進行します。

具体的には「フラメモ」「トナブリ」「フルコレ」「ピタパト」「フリステ」「フルフラ」の6つのパートから構成。

彼女たちの「日常」には、ひとり一人が抱えている「問題」が反映されているのです。

『フリクリ オルタナ』パンフレット

上村泰監督は、「フリクリ」のおもしろさを「主人公の心情がちゃんと描かれていたところ」に感じたとし、「僕が監督する『フリクリ』でも、そこは最初からピックアップしたいと思っていた」とパンフレットに寄せています。

「中高生ぐらいの時期って、何かモヤモヤしたものを社会人よりも抱えている感じがするんです。自分の可能性を信じていいか迷っているし、とりあえず大学に行くのが正解みたいな空気もある。それに対してカナたちが何を考えて、どう行動するのか。(…)アニメだからこそ人間をリアルに描きたいという思いは、監督になってからずっと持ち続けていることでもあるんです」

「リアルさ」の追求は、彼女たちの「表と裏」の性格によくあらわれています。

カナはこれといった特徴はないものの、友だち思いの優しさは人一倍にあります。

でもそれは同調圧力に弱いといえ、周囲も内心は「うざい」と感じている様子です。

「ピタパト」では「恋の前に自分を見つけなくてははじまらない」と自覚し、男子生徒の告白を断ります。

ヒジリーは美人で、いつも大人っぽい雰囲気を漂わせています。

しかし、年上の彼氏にいいように弄ばれ、「トナブリ」では「大人とは決して大人ぶらないこと」を学びました。

モッさんは大食い女子、おちゃらけたムードメーカーといった感じです。

そのかげでは、服飾デザイナーになる夢を抱き、学費のため身を粉にしてバイトをし、他人の協力も受け入れません。「フリコレ」では、「自助には共助も必要であること」を知ります。

ペッツは物静かで、グループきってのツッコミ役でもあります。

一方で、じつは政府要人の家庭に生まれ、友人たちを置き去りにして火星への移住を決めてしまうのです。

そこでカナは痛感します。

自分が生きる日常、仲良くつるむ友人、つまり本当に大切なものは、壊れてから気づくのだと。

その「痛み」から、ハル子が待ち望んでいた「武器」が生まれ、巨大アイロンと立ちむかう決意をします。

ハル子はしてやったりと、カナに呼びかけるのでした。

「叫べ、17歳!!」

『SUNNY強い気持ち・強い愛』 兄が熱中するエヴァンゲリオン

「自分は何者か?」という謎が世界全体の謎として描かれたり、不安定な少年少女の心を「終わらない日常」のなかに映したりする世界観のルーツは、言うまでもなく庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)でしょう。

『SUNNY強い気持ち・強い愛』(大根仁監督、2018)では、阪神淡路大震災で被災して東京に引っ越してきた広瀬すずの家族が紹介されますが、お兄さんがテレビにかじりついて観ていたのは、まさしく『エヴァ』でした。

彼は“引きこもり”らしく、家族から「はやく働け」とコミカルにうながされる一幕も。

懐メロや当時のカルチャーが話題を呼んでいる本作ですが、1995年を契機にし、コギャル化していく妹と、オタク化していく兄とが、対照的に描写されているのです。

『銀魂2 掟は破るためにこそある』 “ヘタレ”土方とエヴァンゲリオン

加えて、大ヒット中の映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』(福田雄一監督、2018)でも、『エヴァ』へのオマージュが登場します。

江戸時代に宇宙人が来襲して“開国”した世界を描くSF時代劇。前作は2017年の邦画実写興行収入1位を記録しました。

その“江戸”には、新選組をモデルにした警察組織「真選組」が治安維持にあたり、柳楽優弥が扮する“土方”は「鬼の副長」と恐れられています。

しかしながら、政敵の画策により、副長のなかの“ヘタレ”人格が立ちあがり、だんだんとオタク化していく姿がコメディタッチに描かれます。

首にはカメラを下げ、手にはフィギュアを握りしめ、つねに相手を「~氏」と呼ぶ副長。

銀時(小栗旬)たちは発明家の平賀源外(ムロツヨシ)のもとに相談にゆきます。

そこで、できるかぎりの唯一の治療法として提示されたのが、副長をVR上でエヴァンゲリオン(を模した)のロボットに搭乗させることでした。

要するに、「ヘタレが戦う」ことの代名詞として用いられたわけですね。

オタクと江戸と銀魂と 『動物化するポストモダン』から

一見すると荒唐無稽な映画ですが、江戸とオタクとの関係は示唆に富んでいます。

フランスの現代思想に多大な影響を与えた哲学者、アレクサンドル・コジェーヴ(1902~1968)は、ヘーゲル哲学を受け継ぎながら、「歴史」が歩みを止めたあとの「人間」をこう推察しました。

ひとつは、与えられた環境を否定せず、アメリカ的な生活様式を追求するもの。「消費者」のようなあり方を、コジェーヴは「動物」と表現しました。

もうひとつは、形式的な対立を維持して、日本的な「スノビズム」を生きるもの。例えば、切腹。無意味なものに意味を見いだす姿勢です。

『動物化するポストモダン』(講談社現代新書/2001)

批評家の東浩紀氏は『動物化するポストモダン』(講談社現代新書、2001年)でこの議論を発展させます。

「コジェーヴをはじめとして、日本の江戸時代はしばしば、歴史の歩みが止まり、自閉的なスノビズムを発達させた時代として表象されてきた。そして高度経済成長以降の日本は、「昭和元禄」という表現があるように、自分たちの社会を好んで江戸時代になぞらえていた」

「明治維新」と「敗戦」という文化的切断をもつ日本が、それらを忘れようとするならば「江戸時代のイメージにまで戻るのがもっともたやすい」という意味です。

“江戸時代がじつはポストモダンを先取りしていた”とする見方に対し、近未来的な環境が幕末に入り混じる『銀魂』の世界観は、その幻想の受け皿としても確認できるでしょう。

そして東氏は、1995年以降の時代精神を「スノビズム」に代わり人々が欲求に従う「動物化の時代」と名づけ、いわゆるオタクの消費行動を分析しました。

すなわち、オタク(銀魂)もコギャル(SUNNY)も物語を必要とせず、「欲求に生きる」という点では「動物化」のあらわれともいえるのです。

「セカイ系」をふりかえる

『セカイ系とは何か』(星海社文庫/2014)

『新世紀エヴァンゲリオン』を記号的に用い、当時の時代感覚を取り入れた映画が立てつづけに公開されている現状は、偶然では片づけられない「何か」が潜んでいると考えられます。

そこでいま一度、言葉としては使い古された「セカイ系」の意味をふりかえってみる必要があるでしょう。

先述の東浩紀氏は、続編となる『ゲーム的リアリズムの誕生』で一般的な説明を加えています。

「それは、ひとことで言えば、主人公と恋愛相手の小さく感情的な人間関係(「きみとぼく」)を、社会や国家のような中間項の描写を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」といった大きな存在論的な問題に直結させる想像力を意味している」

「そこでは、十代の平凡な主人公を取り巻く平穏な学園生活の描写で物語が始まり、かつその日常性を維持したままでありながら、ヒロインが戦闘機のパイロットであったり、同級生が宇宙人であったり、学園生活そのものが仮想世界であったりする、非現実的な世界が淡々と描かれていく」

『エヴァ』を観ていない方も、この説明でだいたいの内容がつかめるかと思います。

『フリクリ』も、とくにOVAのほうは、「きみとぼく」や「この世の終わり」といった大枠がとらえられます。

なぜ、そのような関係が構築されるのか。

より詳しい説明を前島賢氏の『セカイ系とは何か』(星海社文庫、2014)に求めると、まず社会的状況についての前置きが入ります。

「『エヴァ』のテレビ放映が開始された1995年は、バブルの崩壊から始まった経済不況(「平成不況」)の長期化が人々に実感され、経済大国・日本という神話に陰りが見え始めた時代だった。そんな最中、1月に阪神・淡路大震災、3月にオウム真理教による地下鉄サリン事件というふたつの衝撃的な事件が発生し、時代の閉塞感を決定的にする。そのような不安な時代のなかで(…)「内面」「本当の自分」など、人々の関心が内省化していた」

そしてこの「内省化」は、表現的にはつぎのように示されます。

「戦場はいつもどおり学校もあればコンビニもある場所で、なぜ敵は襲ってくるのか、なぜ戦わなければならないのか、まったくわからないのである。結果的に思考は空転し、抽象化し、自分の内面の問題に行き着いてしまう」

これは劇場版の『フリクリ』でも同様のことがいえ、襲いかかる“巨大アイロン”を口実に、カナを中心とした「自分の問題」が表面化するかたちです。

“不条理”からなにが立ちあがるか?

「理由がわからない」を言い換えれば「不条理」でしょうか。

そうみると、文学では不条理はたびたびモチーフになっているわけですから、馬鹿げていると一蹴することはできません。

しかしながら、サルトルやカミュなどの不条理文学(実存主義文学)まで比較対象を広げると、社会への関心という点で差異が際だち、セカイ系は別の様相を呈していることがわかります。

前島氏は「ひとり語りが激しい=自意識」を重視し、セカイ系にこの定義を採用します。

「『新世紀エヴァンゲリオン』の影響を受け、90年代後半からゼロ年代に作られた、巨大ロボットや戦闘美少女、探偵など、オタク文化と親和性の高い要素やジャンルコードを作中に導入したうえで、若者(特に男性)の自意識を描写する作品群。その特徴のひとつとして作中登場人物の独白に「世界」という単語が頻出することから、このように命名された。命名者はウェブサイト「ぷるにえブックマーク」の管理人、ぷるにえ」

日常系の映画『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』
(川面真也監督 2018)

以上、「セカイ系」と呼ばれるもののイメージをおおまかにお届けしました。

言葉は古くなる一方で、先の見えない社会は連綿とつづいていますし、より見通しが悪くなっているともいえ、「その感覚が現在どのような表現をとっているか」をみていくべきでしょう。

たとえば、『SUNNY』や『銀魂2』では自己言及的に表現し、ややシニカルに状況を伝えます。

一方、『フリクリ オルタナ』では監督みずから言うように、心情をリアルに描くことで、かすかな変化=成長をつかんでいきます。

そしてもうひとつ、「日常とセカイ」から「セカイ」をとってしまう作品群、公開中の映画でいえば『劇場版 のんのんびより ばけーしょん』のような「日常系」という表現形態をとることもあります。

本作では、なにも起きません。少女たちが沖縄旅行をしてくる、それだけです。

ただこれは「無為自然」なのではなく、やはり苦しい時代から逃れるための「人工的な日常」とみるべきです。

わたしたちはもはやスクリーンでしか、かつて「日常」と呼んでいたものと出会えないのかもしれません。

9月28日公開『フリクリ プログレ』

少年の自意識を描いたセカイ系に、少女たちの終わりのないコミュニケーションを描く日常系。

おおざっぱにそうくくると、『フリクリ』のOVA(2000-2001)から『フリクリ オルタナ』(2018)への製作過程で、主人公が男子児童から女子高生グループに変化したことは、時代の流れを感じます。

また、そういったコミュニケーションのうえで、彼女たちがきちんと自分の問題と「戦う」ことは、少しでも前に進むしかないという「現在」の位置を認識させてくれます。

9月28日(金)に公開される『フリクリ プログレ』では、「オルタナ」の日常とは一転、大暴れの世界が描かれているとのこと。

主人公も『エヴァ』とおなじく中学生となり、ここでどんな「セカイ」が現代を表現するのか、ぜひ注目してみてください。

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