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Entry 2023/12/13
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『Ben-Joe』あらすじ感想と評価解説。岩松あきら監督が三河映画第二弾で摂食障害問題を描く|映画という星空を知るひとよ183

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第183回

愛知県三河地域を拠点にする完全自主制作映画プロジェクトの“三河映画”第二弾『Ben-Joe』

家庭や社会からの疎外感から‟摂食障害”となった女子大生が、病気治療のために山奥の施設に入所しますが……。

本作は、もと小学校教師の岩松あきら監督の教え子による実話をもとに作られました。ディスコミュニケーションと飽食の時代である現代を舞台に、摂食障害、DVなどの社会問題を通し、現代人の心の痛みを描きだします

タリン・ブラックナイト映画祭で、コンペティション部門のオフィシャルセレクトになり、2023年11月3日~11月19日にワールドプレミア上映がされました。

ショッキングな内容と描写で、現代社会の闇を問いかける本作をご紹介します。

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映画『Ben-Joe』の作品情報

【監督・プロデューサー】
岩松あきら

【脚本】
清水雅人

【撮影】
沓澤武志

【メイク・ヘアメイク・特殊メイク】
岩井菜摘

【助監督】
荒川慎吾、高橋佑奈

【制作】
彬田れもん、竹内宏司

【キャスト】
石川野乃花、かとうむつみ、新藤栄作、火田詮子、大島葉子、高橋慎祐、山本加代、獅子見琵琶、大路絢果

【作品概要】
元教師の岩松あきら監督が自分の教え子の体験を基に描いた『Ben-Joe』。

摂食障害、DVなどの社会問題をショッキングな描写とともに映し出した本作は、FIAPF(国際映画製作者連盟)認定のAカテゴリーのタリン・ブラックナイト映画祭でコンペティション部門のオフィシャルセレクトになり、ワールドプレミア上映されました。

主演を務めるのは石川野乃花、共演にかとうむつみ、新藤栄作、火田詮子、大島葉子などが集結しています。

映画『Ben-Joe』のあらすじ

大学生の早紀(石川野乃花)は、大学教授である父(新藤栄作)と母(大島葉子)、障害を持つ姉・翔子(かとうむつみ)との4人家族。

一見、家族関係も問題なく平穏な生活を送っています。ですが、心の奥に孤独を抱えていました。

ある日、彼女はキャンパスで玲奈の存在を知り、一気に魅了されました。

玲奈のように痩せて美しくなり、誰からも愛されたいという思いが芽生えますが、ある時に早紀と玲奈の関係は悪化します。

早紀は自分の外見にコンプレックスを感じるようになりました。

傷ついた早紀は、そのストレスから食べ吐きを繰り返し、摂食障害に陥ってしまいます。

そして、病気治療のため山奥の施設に入所し、入所者との共同生活を送ることになりました。

入所生活では予想もしない出来事が待っていました……。

映画『Ben-Joe』の感想と評価

映画『Ben-Joe』が描くのは、衝撃的な摂食障害の実情と病気療養施設の実態です。実話に基づいて制作された作品ですから、多くの人々に伝えなければならない内容と言えます。

本作では、家族間の愛憎、学校での友人関係、社会においての敗北感・・・。そんなものが一度に襲い掛かり、主人公・早紀の精神をずたずたにしていきます。

早紀は心を病んで満腹感を求めては吐き戻しをする摂食障害に陥ります。病気療養のために早紀はある施設に入所します。その施設に入るために、条件として早紀は頭を丸め、尼僧のような姿になりました。

そして他の入居者と同じような衣類を身に付け、自然食野菜の食事を採り、規則正しい排便を強いられます。それはまるで山寺で修業をする尼のようでした。

半強制的と言える施設の暮らしの中で、早紀はどうなっていくのでしょう。

摂食障害の怖さと苦しみもよく表され、社会の人間関係による精神的な苦しみに、早紀はどこまで耐えられるのかと考えさせられます。そのうちに精神が破戒されるのではないかと不安にもなりました。

感情の移り変わりの激しい早紀を演じきった石川野乃花。彼女の丸坊主姿も愛らしく、好演が光る作品でした。

まとめ

愛知県三河地域を拠点とする自主制作映画プロジェクト・“三河映画”が作り上げた『Ben-Joe』。

本作は、FIAPF(国際映画製作者連盟)認定のAカテゴリーの国際映画祭のタリン・ブラックナイツ映画祭のコンペティション部門でワールドプレミア上映されました。

現代の社会問題ともいわれる‟摂食障害”の怖さや入所施設の逆らうことの許されないルールをはじめ、ぬぐい切れない心の闇が一人の女性の心を壊していくさまが、リアルに描かれています

誰からも愛されていないと思い込む早紀。自分が早紀と同じような境遇ならどうするか。考えさせられることでしょう。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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