摂食障害に悩む女子高生の不安と葛藤を描く映画『空(カラ)の味』。
「家族も、友達も、ちゃんとあるのに、眩しくて、私何もない気がする」気づいたら食べて吐いて、そんなことを繰り返す自分が嫌なのに止めることもできない。
摂食障害に悩み、追い詰められた聡子が、ある女性との交流を通して解放されていく様を描くヒューマンドラマ。
新鋭・塚田万理奈監督をはじめ、主人公聡子役にはインディーズ映画界の新人・堀春菜、同級生役には笠松七海、柴田瑠歌などが顔を揃え、揺れ動く女子高生の心情をみずみずしく、幻想的に描いています。
映画『空(カラ)の味』の作品情報
【公開】
2017年(日本映画)
【監督・脚本】
塚田万理奈
【キャスト】
堀春菜、松井薫平、南久松真奈、井上智之、イワゴウサトシ、柴田瑠歌、松本恭子、笠松七海、林田沙希絵
【作品概要】
監督を務めるのは日本大学芸術学部の卒業制作『還るばしょ』で注目された新鋭・塚田万理奈監督。初長編作となった本作は第10回田辺・弁慶映画祭で弁慶グランプリ、映検審査員賞、市民賞、女優賞と主要賞独占の4冠の快挙を成し遂げました。そして、同映画祭で受賞した新人監督3人にスポットを当てた特集上映「田辺・弁慶映画祭セレクション2017」で劇場公開されました。
主人公・聡子役を演じるのは『ガンバレとかうるせぇ』(2019)、『ぼくらのさいご』(2015)の堀春菜、マキ役には演劇ユニット・BELGANALの林田沙希絵、『家族ごっこ』(2015)の南久松真奈、『下衆の愛』(2015)の松井薫平、『まあだだよ』(1993)の井上智之など。
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映画『空(カラ)の味』のあらすじ
家族や友人に囲まれ、何不自由なく暮らしていた女子高生の聡子(堀春菜)でしたが、ある日摂食障害に陥ります。暴食をし、吐いてしまうという衝動を抑えきれず、聡子自身も自分がどうしたいのか、どうしたら治るのか分からず戸惑います。
次第に家族や友人との距離感もぎこちなくなり、うまく言えないまま聡子は追い詰められていきます。そんな聡子が出会ったどこか危なげな女性マキ(南久松真奈)。
聡子のことを直そうとするのでもなく、自由に話したいことを話す風変わりなマキと時間を過ごすことで、追い詰められていた聡子の肩の力が少しずつ抜けていきます。
しかし、マキとの間にも変化が起きていき…
映画『空(カラ)の味』の感想と評価
主人公の聡子は部活の子とダイエットや恋愛など他愛のない話をし、家族とも仲が悪いわけではない、ごく普通の女子高生です。そんな彼女は摂食障害に陥ってしまいます。
何より聡子自身がその原因が分からず、どうしたら良いのか戸惑います。明確な原因があるわけでもないのですが、漠然と自分には何もないのではないかと虚無感を抱えています。しかし、自分が得たいもの、したいことも分からないのです。
聡子の摂食障害を知った家族は何とかして治そうとし、助けてと求めなかった聡子に対し、そんなに頼りなかったのかと聡子を責めるような言い方をします。
更に「こんなことになってしまって」と泣き出す母親に、聡子は「助けてと言わないのは私の勝手で、結局心配も自己満足でしょう、私は頼んでない」と言います。
家族に言えないのではなく、何と言えば良いのか分からないのではないでしょうか。誰しも、誰にも言えない、説明できない漠然とした不安や虚無感を抱えているということはあるでしょう。
追い詰められていた聡子が出会ったどこか危なげなマキは、聡子のことを治そうとするわけでもなく、「さとちゃん面白いね」「さとちゃんのこだわり何だね」と今の聡子のままを受け入れてくれる存在でした。
ありのままを受け入れてくれ、会いたい時に会い、話したいことを話すマキと親しくなるにつれ、聡子も失ったもの、得られないものではなく、それでも残ったもの、自分のそばにあるものに目を向けるようになります。
さまざまな環境の変化に敏感な十代の少女の虚無感、漠然とした不安、それと同時に家族という身近なものに対する距離感の難しさを感じ始める様子を繊細に切り取った本作。
冒頭聡子が仮面をつけ、交差点で踊る場面が移され、その後幾度か同じ仮面をつけた聡子の場面が映し出されます。
それはどこかで家族や友達との距離感に息苦しさを感じ、誰からも心配されたり、気を使われたり気を使うことのない、誰でもない存在になって解放されたい聡子の様子をあらわしているかのようです。
同時に危うげではありますが、誰にも縛られることなくありのままの姿でいるマキに対し、こうありたい、こうなれたらと思う気持ちがあったのかもしれません。だからこそ、マキには変わらないでいてほしいと聡子は強く願うのです。
まとめ
摂食障害に悩み、揺れ動く少女の葛藤と解放を描いた映画『空(カラ)の味』。
誰もが経験したことのある漠然とした不安を、聡子演じる堀春菜がみずみずしく、空虚な演技で映し出します。更に冒頭の仮面をかぶった場面や、土手を歩くマキの姿など幻想的な映像が心の揺れ動きを繊細に描きます。
聡子を支えようとするも追い詰めてしまう家族、他愛のない話をしつつも聡子の様子の変化に気づき、戸惑いぎくしゃくしてしまう友人達の演技も注目です。