人気女優リリー・コリンズを主演に、摂食障害を抱える女性がグループホームでの生活や仲間たちとの交流を描く
Netflix映画『心のカルテ』は“摂食障害”で苦しむ主人公が、同じ病気に向きあう若者とケアハウスで生活し、自分の心と向き合う手がかりを見つけるまで描いた作品です。
人はお腹が空くという本能だけで、食事をするわけではありません。その時のできごとや感情で美味しくなったり、不味くなったり、そもそも食べられなくなることもあります。
主演を務めたリリー・コリンズが演じたのは、複雑な家庭環境で育ち、あるできごとをきっかけに摂食障害となった、天才芸術家の主人公エレン(イーライ)役。
リリー・コリンズといえば、2012年に『白雪姫と鏡の女王』で白雪姫役に抜てきされ、その後も『オクジャ Okja』(2017)でレッド役、『トールキン 旅のはじまり』(2019)ではエディス役など、話題作での演技が光る俳優です。
映画『心のカルテ』の作品情報
Netflix映画『心のカルテ』
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【監督/脚本】
マーティ・ノクソン
【原題】
To the Bone
【キャスト】
リリー・コリンズ、キャリー・プレストン、リリ・テイラー、キアヌ・リーブス、アレックス・シャープ、リアナ・リベラト
【作品概要】
脚本・プロデューサーなどで場数を踏んできた、マーティ・ノクソン監督の初作品となります。本作は2017年1月のサンダンス映画祭に出品しプレミア公開がされたのち、Netflixオリジナルドラマとして公開されました。
精神科医ベッカム役には『スピード』(1994)でブレイクし、「マトリックス」(1999)シリーズのネオ役で俳優としての存在感を不動のものとした、キアヌ・リーブス、主人公の義妹ケリー役には『チャット 〜罠に堕ちた美少女〜』(2010)で、第46回シカゴ国際映画祭で主演女優賞を受賞した、リアナ・リベラトが出演しています。
映画『心のカルテ』のあらすじとネタバレ
Netflix映画『心のカルテ』
エレンは拒食症の治療を受けていますが、回復の兆しがみえないまま、次々に心療方法を変えてきています。
入院中のワークショップで不適切な発言の多いエレンは、他の患者に悪影響を与えるという理由で、退院を余儀なくされ家に帰ります。
エレンの家族は父と継母のスーザン、義妹のケリーです。父親は仕事が多忙なのを口実にエレンの病に理解を示さず、治療に関してはスーザンに一任しています。
スーザンは治療に関することには協力的で熱心ですが、自己顕示欲が強く人のことには否定的な母でした。ケリーはエレンを大切に思い失いたくない存在だと思っています。
エレンの症状は食べないことと、摂取してしまったカロリーは腹筋で消費し、二の腕周りの太さを指で測ることでした。
スーザンは治療方法が“少し変わっている”が、回復率が高いと評判な精神科医ウィリアム・ベッカム医師の噂を聞きつけ、カウンセリングの予約を入れていました。
エレンは芸術大学を中退した20歳です。彼女の作品には、ファンがつくほどの才能がありました。
ベッカム医師の問診が始まるとスーザンはエレンの実母について、幼い頃に家を出てしまったこと、双極性障害で治療歴がありエレンが14歳の時に、同性愛であることをカミングアウトしたと話します。
その話をエレンはベッカム医師が制止するまで、だまったまま聞いているだけです。
エレンはベッカム医師の診察をうけ、「キミに生きる気がないなら治療はしない」ときっぱり伝え、治療の条件を言います。
“食べ物の話はしない” “親がしゃしゃり出ないで、自分の言葉で話す” “最低、6週間の入院をすること”のこの3つです。
エレンは入院を迷いますが最終的には条件を受け入れ、ベッカム医師の治療を受けることを決めるのでした。
エレンはケアホームの“門出の家”にやってきました。入院と言っても病院のような施設ではなく、摂食障害をもった患者が改善に向け、同じ家で暮すシステムでした。
以下、『心のカルテ』ネタバレ・結末の記載がございます。『心のカルテ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
“門出の家”には、看護師のロボのほかに女性の患者が6人、男性患者1名が暮らしています。
その男性患者のルーカスが施設を案内し、善行を重ねるポイント制で改善の兆候を診るシステムだと説明します。
1日の終わりのグループセラピーで、鼻からチューブで栄養を補給していたパールが、何カロリー注入されたのか気にします。
カロリーオタクのエレンは「1800カロリー」と口をはさみ、パールは軽くパニックを起こしてしまいます。
初日の晩にベッカム医師がエレンの部屋を訪れると、翌日は家族を呼んでのファミリーセラピーだと告げました。するとエレンは話し出します。
自分の描いた絵を“Tumbler”に投稿して、それを見た子が自殺をしてしまったと話します。エレンは課題として教授の指示に従い、“知っていること”を描いただけなのに…と、打ち明けました。
翌朝の体重測定で、拒食症患者のミーガンが妊娠していることを知り驚きます。摂食障害があると生理不順から妊娠しにくいからです。
エレンはファミリーセラピーに出向きます。父親は相変わらずエレンを避けて現れません。エレンの実母ジュディはパートナーのオリーブと病院にやってきます。
セラピーはエレン一人に対し継母と実母、養母の母親が3人という異例の組合せとなりました。母親たちはエレンと向き合ってきたことをアピールし、悪い面はなすりつけあってしまいます。
そして、最後に義妹のケリーは「何が問題なのか聞いても答えてくれないし、食べるだけでいいのに…寂しい思いをしているのはお姉ちゃんだけではない」と訴えました。
実母はエレンの絵の才能を認め、その公開の場を奪われたことが原因と言い、継母はそのせいで自殺する人が出て、ケリーもエレンのファンが真似をして、食べなくなっていると話します。
エレンは家族の話しを聞き終えると「ごめんなさい…私はもう人間じゃない…。やっかいなお荷物」と、言うとベッカム医師は「自分を責めずにどう生きたいのか、誰になりたいのかを考えることが大事だ」と、エレンに言います。
ファミリーセラピーで気持ちが沈み込んだエレンが外で喫煙していると、ルーカスがおせっかいを焼きエレンと口論になってしまいます。
ルーカスは「その家族にうんざりしているのに、家に帰ってやり直そうとする人っているけど、それってまた家族のせいにして言い訳できるからだ」と、指摘しました。
エレンはルーカスの部屋に行き謝ります。すると彼の部屋にエレンの描いた絵が飾られていて、ルーカスがTumblerに絵が公開されていたときにファンになったと告げます。
ルーカスは憧れのアーティストがエレンだと知り、ますます好意を抱いていきます。
エレンはミーガンが妊娠をしたことで「自分以外のことを考えたい。お母さんになるってことは、子供優先に考えることだと思う」と語ったことに、共鳴していました。
ベッカム医師はエレンにファミリーセラピーの感想を聞きます。家族総出はヘビーだったけど、思ったほど傷つきません。
それは同じような仲間と暮しているおかげで、家で暮すことでそこそこの人生を送れるような気になってきたと、ベッカム医師に前向きに話します。
ベッカム医師はエレンに改名を提案します。エレンも自分の名前は嫌いだと言うと、ベッカムは「キミの呼び名は今日から“イーライ”だ」と命名しました。
翌日、ベッカム医師の遠足企画が催され、水のアートを見学しにいきます。アートの美しさを人生に重ね前向きに感動するメンバーたちでした。
しかし、イーライだけはそのことに違和感を感じ、自分は今の生活を変えるのは無理と言います。ベッカム医師は「“無理だ”という声が聞こえたら、“黙れ!消えちまえ!”と言うんだ」と空に向かって叫びます。
その晩、イーライは大好きなチョコレート菓子を食べることに成功します。そして、ミーガンの妊娠を祝う“ベビーシャワー”も催されます。
イーライの症状は徐々に好転していくようにみえたのですが、庭で一服するイーライにルーカスはキスをし、愛を告白し体を触ろうとしてきて拒絶をしてしまいます。
イーライは知り合ってたった3週間で恋をしたというルーカスに疑問を持ち、ルーカスはイーライのことを2年前から知っていて、芸術的なセンスや世界観から好きだと言います。
ところがイーライはそれは拒食症になって、自殺をした子と同じだといいます。一方的に思いを伝えてきて満足しているだけだと。
深夜イーライは再び腹筋をはじめます。そして、とつぜん悲痛な叫び声が聞こえトイレに行くと、ミーガンが流産をしてパニックをおこしました。
この一夜のことをきっかけにしてイーライはうつ状態に陥ってしまい、体重が減少の一途をたどって“門出の家”を出され入院の手前まできてしまいます。
イーライはベッカム医師のカウンセリングを受けますが、楽になる道を待っていたり、人の助けをあてにせず、人生に起こる理不尽も跳ね返さなければ、素晴らしい人生は開けないと諭します。
イーライはベッカム医師から突き放されたと感じ、門出の家を出て行き高速バスで実母の暮らすフェニックスへ向かいました。
ジュディはイーライが生まれた時にひどい産後うつで、あまり抱っこしてあげられずうまく絆が結べなかったと話します。イーライを苦しめているのはそのせいだとジュディも悩んでいました。
ジュディは自己啓発学者の助言から、自愛が足りないことに気づき、ジュディはイーライが生きるためなら、どんなことも受け入れる覚悟をしていました。
そして、もうひとつ模擬授乳をすることを薦められたといいます。イーライはいったんは戸惑いますが、二人が立ち直るために母からの授乳を受け入れます。
深夜、イーライは夜空には満月が輝きそれに導かれるように、岩山へと昇り岩陰に寝ころぶと月を仰ぎ見ながら、そのまま眠り夢をみます。
血色の良い美しい姿の自分がでてきます。目の前には大きな木ともう一人の自分が立っていました。
木の枝に腰掛けてると、継母やケリーの言葉が聞こえてきて、隣りにルーカスが座ります。彼はイーライの美しさを諭しキスをし、イーライもルーカスを受け入れますが、それを見ていた木の下のもう一人の自分は「最低…」とつぶやきます。
ルーカスが見てほしいものがあると、木の下を見せるとそこにはもう一人のイーライが、痩せた裸体をさらし朽ちていきます。その姿を見て彼女はショックをうけました。
朝になり陽の光を浴びるイーライは、目覚めて自分が“生きている”ことを実感します。
そして、岩山を歩き続けると国道の見える場所までたどり着き、そのままタクシーに乗ってスーザンとケリーの待つ家に帰り、自らスーザンをハグして「もう大丈夫」と伝え、“門出の家”に戻り治療に専念すると決心しました。
映画『心のカルテ』の感想と考察
Netflix映画『心のカルテ』
エレンが摂食障害になった要因はさまざまありました。血のつながった親子であっても築けない絆であったり、見知らぬ他人が勝手に自分に共感し死んでしまう、予期しない事件のショックもありました。
彼女に再び生きる気持ちにさせたのは、幼いエレンをおいて離婚をしてしまった実母が、エレンが「生きてくれるなら」なんでも受け入れると言ったこと。
そして、エレンには自己満足にしか感じていなかった、継母の献身的な行動にも、エレンを「生かしたい」と、いう気持ちがなければできないと、悟ったからです。
摂食障害になってしまう理由は個々で違い理解しようとしても、当事者以外にはかり知ることは難しいと率直に感じますが、人に頼りすぎたり妄信になってしまう悲劇は充分に伝わる映画でした。
まとめ
Netflix映画『心のカルテ』
Netflix映画『心のカルテ』では、複雑な人間社会には摂食障害で悩む人の多さと、そこからの更生しようと治療に励む人には、人によってやり方や相性があることがわかります。
本作の“門出の家”にいる患者たちには、ある程度の“自我”があって、その部分を奉仕に向かわせることで、生きる希望に導ける要素になると伝えています。
『心のカルテ』は、自分が輝かしい素晴らしい人生を望むならば、まずは「生きる」という強い意志が大切だと教えているのでしょう。
エレンが「生きている」と、目覚めた時に乗り越えた岩山は、その困難に例えられ自力で乗り越えた先に、輝く人生と大切な人たちがいることを気づかせてくれたのです。