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アニメ映画『ザ・タワー』あらすじと感想レビュー。難民問題を鋭く描きグランプリと観客賞をW受賞|2019SKIPシティ映画祭14

  • Writer :
  • 松平光冬

レバノンの難民キャンプに暮らす少女と曽祖父の強い絆

埼玉県川口市にて、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成”を目指し誕生したSKIPシティ国際Dシネマ映画祭も、2019年でついに16回目を迎えます。


©Jour2Fete

そこで上映された作品の一つが、国際コンペティション最優秀作品賞(グランプリ)と観客賞のW受賞に輝いたアニメ映画『ザ・タワー』

世界各国で問題となっている難民事情をアニメーションで描いた、和平への願いを込めた作品です。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『ザ・タワー』の作品情報

【日本公開】
2018年(ノルウェー・フランス・スウェーデン合作映画)
※日本劇場公開未定。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて日本初上映

【原題】
The Tower(別題:Waldi)

【監督・脚本】
マッツ・グルードゥ

【声のキャスト】
ポーリーヌ・ジアデ、サイード・アマディス、スリマヌ・ダジ

【作品概要】
祖国パレスチナを追われ、70年もの間レバノンの難民キャンプで暮らす曽祖父シディと、彼を愛する孫娘ワルディの深い絆を軸に、4世代に渡る歴史を綴ったアニメーション映画。

ワルディとシディが登場する現在パートは、クレイのストップ・モーション、シディや彼の家族の若き頃の回想パートは2Dと、2つのアニメーション手法を分けて活用。

監督はノルウェー人のアニメーション作家マッツ・グルードゥで、レバノンの首都ベイルート郊外のブルジュ・バラジネの難民キャンプでアニメーションの教師をしていた際に見聞きした体験を元に自ら脚本を執筆、長編デビューを果たしました。

本作は2018年のアヌシー国際アニメーション映画祭でプレミア上映され、埼玉県川口市で開かれたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019では、国際コンペティション最優秀作品賞(グランプリ)&観客賞のW受賞に輝いています。

マッツ・グルードゥ監督のプロフィール

参考:マッツ・グルードゥ監督のインスタグラム

ノルウェー出身の映画監督・アニメ作家。長編映画、ドキュメンタリー、MVなどにアニメーターとして参加。

1990年代にはレバノンのベイルート・アメリカン大学に通いながら、ブルジュ・バラジネ難民キャンプで英語とアニメを教えています。そこで見聞した難民の話を元に、初長編となる本作の脚本を書き上げました。

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映画『ザ・タワー』のあらすじ


©Jour2Fete

レバノンの首都ベイルート郊外にあるブルジュ・バラジネ難民キャンプ。

ここに暮らす11歳のパレスチナ出身の少女ワルディは、通っている小学校の成績も良く、そのまま中学に進むことを夢見ていました。

ワルディたち難民の住まいは、決して清潔とは言えない雑居ビルで、彼らは住居スペースを確保するために、積み木を上へ重ねるようにバラック小屋を作って生活しています。

彼女は曽祖父シディのことが大好きで、心臓が弱っている彼にずっと付き添っています。

そのシディは診療所で、医師に「もう薬はいらない」と告げていました。

「ひ孫のワルディの学費として充てたい」と言うシディに、「ワルディっていい名前ね」と答える医師。

シディは今から70年前、長らくイギリスの委任統治下にあったパレスチナの北部ガリラヤの農家で平和に暮らしていました。

しかし1948年5月14日、国内にユダヤ人国家イスラエルが樹立、それにより発生した第1次中東戦争で住まいを追われ、一家総出でベイルートに逃げていたのです。

その日のことを「アン・ナクバ(大災害)」と呼ぶシディは、いつかパレスチナに戻れる日が来ることを願い、生家の鍵を肌身離さず持っていました。

しかしワルディは、シディから大切に持っていた鍵を託されたことで、彼が帰郷の夢をあきらめてしまったのではと不安になります。

美容師をしているワルディの姉ヤサールは、外国に嫁いで難民キャンプを出ていく準備をしています。

実は本来の恋人がいるヤサールですが、よりよい暮らしや将来のために外国人と結婚する道を選ぶことにしたのです。

家に帰ったワルディは、母と叔母ハナンの会話から、ワルディを中学校に通わせるお金がないことを知り、ショックを受けます。

そんな彼女をなぐさめるハナンは、「暗い場にいる時は光のある場を求めていた」と、暗い防空壕で戦火を逃れていた体験を語るのでした。

そして、ワルディの祖父(シディの息子)も、パレスチナ解放を求めイスラエル軍と戦って捕虜となった辛い記憶を思い出していました。

家族以外にも、上階に暮らす紛争で足を失ったシリア難民ヤヒヤとの会話で、各々が抱える過去や未来への希望に触れていくワルディ。

そしてワルディはハナンの代わりに、住まいの最上部で無数の鳩を飼っている青年にコーヒーを届けることに。

青年は、子供時に目の前で友だちが射殺されたトラウマを抱えており、「階下には辛い過去しかない」と、最上部から降りようとしません。

そんな中、日が暮れて強風となり、シディが寝ている階下の小屋を覆っていたシートが破れて飛んでしまいます。

階上から、シディが心臓を抑えて苦しんでいる姿を見たワルディは、急いで彼の元に。

「一緒にパレスチナへ帰ろう」と言うワルディに見守られ、安らかに息を引き取るシディ。

すると、頂上の鳩たちが舞い降り、シディを運んで空へと旅立っていきます。

その光景を見て、「おじいちゃんはパレスチナへ帰っていったんだ」とつぶやくワルディは…。

映画『ザ・タワー』の感想と評価


©Jour2Fete

難民のリアルな生態をアニメで伝える

本作監督のマッツ・グルードゥは、母親がセーブ・ザ・チルドレンの看護師だった関係で、幼少時から毎年夏をブルジュ・バラジネ難民キャンプで過ごしていました。

成長してアニメーターとなった彼は、レバノンのベイルート・アメリカン大学に通いつつ、難民キャンプで英語とアニメを教えることとなり、そこで見聞した難民の話を元に本作の脚本を執筆しました。

そのため、本作に登場するワルディの家族は、監督自身の友人家族がモデルになっており、セリフも実際に難民キャンプで行ったインタビューがベースになっているとのこと。

また、作品に登場する写真は実際のキャンプのそれを使用するなど、難民の生態を忠実に伝えることに尽力し、構想開始から完成まで8年もの月日を費やしました。

民族闘争がもたらす様々な負のスパイラル

参考映像:『存在のない子供たち』予告

本作の主人公である少女ワルディたちパレスチナ難民が生まれた背景には、1948年にパレスチナ国内に建国されたユダヤ人国家イスラエルがあります。

イスラエルの建国宣言を受けて第1次中東戦争(イスラエル側は「独立戦争」、アラブ側は「アン・ナクバ(大災害)」と呼称)が勃発したことで200以上の村が破壊され、70万人以上のパレスチナ人が故郷と家を失うこととなります。

ワルディの曽祖父シディのようにパレスチナを追われた者たちは、隣国レバノンの首都ベイルートにある劣悪なキャンプに住まわざるを得なくなり、『存在のない子供たち』(2019)では、そこで生まれ育った子供たちに降りかかる厳しい実態が描かれます。

その一方で、シディの息子のように、パレスチナ解放を求める難民たちが武装組織を立ち上げ、世界各地でテロ行為を敢行。

10月4日に日本公開される『エンテベ空港の7日間』(2019)は、そうしたテロリストと化した者たちによる1976年の空港ハイジャック事件が題材です。

シディのように「いつかは故郷へ帰る」という切望を持つ者は後を絶たないばかりか、それによって負のスパイラルも途切れることはないのです。

参考映像:『エンテベ空港の7日間』予告

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まとめ

参考画像:ノルウェー大使館のツイッター

7月に開かれたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019で、見事に国際コンペティション最優秀作品賞と観客賞に輝いた本作『ザ・タワー』ですが、残念ながら劇場での一般公開が決まっていません(2019年9月現在)。

しかしながら、内容はもちろんのこと、ストップ・モーションや2Dを巧みに使ったアニメーション手法は目を見張るものがあります。

過酷な状況に置かれながらも、祖国への帰還という希望と可能性を見出そうとする難民たちの思いを、本作を観て多くの人に知ってもらう場が増えることを切に願います。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら


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