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Entry 2019/07/16
Update

映画『存在のない子供たち』ネタバレ感想。実話を再構築し難民の少年ゼインが背負う過酷な現実を描く

  • Writer :
  • 松平光冬

愛もなしに、なぜ産んだ――。
少年はどうして両親を告訴したのか。

世界の映画祭で称賛を浴びた衝撃作『存在のない子供たち』が、2019年7月20日(土)より日本公開されます。

中東の難民事情に派生する様々な問題を、一人の少年を目を通して描く社会派ドラマです。

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映画『存在のない子供たち』の作品情報

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

【日本公開】
2019年(レバノン・フランス合作映画)

【原題】
CAPHARNAUM

【監督・脚本】
ナディーン・ラバキー

【キャスト】
ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ、セドラ・イザム、ナディーン・ラバキー

【作品概要】
女優としてだけでなく、『キャラメル』(2009)で長編映画デビューを飾ったナディーン・ラバキー監督が手がける社会派ドラマ。レバノンの貧民窟に住む少年ゼインが、さまざまな困難に向き合いながら、ひたむきに生きていく様を捉えます。

ゼイン役のゼイン・アル・ラフィーアを筆頭に、出演者の大半を演じる役柄によく似た境遇にある一般人をキャスティングしており、ラバキー監督も検事役で出演しています。監督の夫でもあるプロデューサーのハーレド・ムザンナルは、自宅を抵当に入れてまで本作の製作費を捻出するなど、完成までに様々な紆余曲折を経ました。

本作は、第71回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したほか、アカデミー賞およびゴールデングローブ賞の外国語映画賞にノミネートされるなどの評価を得ています。

映画『存在のない子供たち』あらすじとネタバレ


(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

レバノンの首都ベイルート。

手錠をかけられた少年ゼインが、留置場から法廷に向かいます。

原告席に女性検事ナディヌと座ったゼインに対し、被告席には彼の両親であるセリームとスアードの姿が。

裁判が開廷し、裁判長から年齢を聞かれたゼインは、「よく知らない。向こう(親)に聞いて」と返答。

続けて、「なぜ逮捕されたのか」という問いに「人を刺したから」、さらに「何の罪で両親を訴えたのか」と問われ、「僕を生んだ罪で」と答えるのでした。

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

時間は遡り、ゼインはスラム街にある荒れ果てた雑居アパートで暮らしていました。

彼は、定職に就かない父セリームの代わりに、幼い7人の妹たちと一緒に自家製ジュースを手売りしたり、アパートの大家にして雑貨店を営む男アサードの手伝いで賃金を稼ぐ日々を送っています。

実はセリームと妻スアードは、故郷シリアの内戦を逃れ、ベイルートへと移った難民。

それゆえに出生届を出されずに生まれたゼインは自分の誕生日も知らず、年齢も「12歳ぐらい」としか把握していません。

スアードは、ゼインに偽の処方箋を持たせて鎮痛剤トラマドールを大量入手し、それを粉状にして水に溶かして衣服に染みこませたものを、密かに刑務所で売る仕事をしています。

ザインは、妹の中でも特に1歳下のサハルと仲が良く、常に一緒に行動していました。

アサードは、そんなサハルを気に入り何かと気を惹こうとしますが、彼を毛嫌いするゼインは必死に遠ざけます。

ある日、サハルに初潮が訪れたのを知ったゼインは、それを誰にも悟られないようにしろと忠告。

もしその事を両親が知ったら、滞納する家賃の代わりとして、サハルがアサードの妻として売られてしまうのが目に見えていたからです。

そうした荒んだ生活に嫌気が差していたゼインは、ついにサハルを連れて家出をしようと考えます。

しかし、いざ準備を整えて決行しようとした直前で、両親はアサードにサハルを引き渡してしまいます。

絶望したゼインは、サハルと乗るはずだったバスで家を出ます。

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

バスに途中乗車してきたスパイダーマンもどきのコスプレをした老人と、他愛のない会話をするゼイン。

その老人が遊園地前で下車したのに惹かれるように、ゼインもバスを降ります。

ゼインは付近で仕事を求めて回るも、誰も相手にしてくれません。

その姿を見かねて、遊園地で清掃員をしていた女性ラヒルが声をかけます。

彼女はエチオピアから密航してきた難民で、ティゲストという偽名で不法就労しつつ、生後間もない男子ヨハスを一人で育てていました。

ラヒルは生活費と、エチオピアに住む親への送金、そして新たな滞在証明書を偽造する費用を稼ぐ必要があったのです。

闇市場で証明書を偽造しているアスプロは、以前からヨナスに目を付けており、ラヒルに彼を養子に出せば証明書を作ってやると持ちかけますが、彼女は拒否します。

ゼインは、ラヒルたちが暮らす荒廃したバラック小屋にて、ヨナスの世話を頼まれることに。

自分の生家では味わえなかった平穏な日を送るゼイン。

一方ラヒルは、なんとかして正式に移民登録してもらおうと遊園地の同僚の協力を仰いだり、新たな職を探したりするも、上手くいきません。

そうこうするうちに偽造証明書の期限が切れてしまい、ラヒルは逮捕、投獄されてしまいます。

ラヒルがいつまでも家に戻らないために、ゼインはヨナスを連れて彼女を探すことに。

ラヒルの行方が分からないながらも、アスプロを訪ねて上手く金を得たり、違法に入手したドラッグを水で薄めて売るなど、なんとかして生活費を稼ぐゼイン。

そんな折、ゼインは闇市で花飾りを売る少女メイスンと出会います。

ゼインと同じく身寄りのないシリア難民である彼女は、アスプロを通じてスウェーデンに移住するつもりだと言います。

やがてラヒル探しを諦め、小屋に戻ったゼインたちでしたが、扉には鍵が。

家賃を払っていなかったとして、小屋がある一帯を仕切る大家に閉め出されてしまったのです。

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

もう自分の力ではどうにもならないと、ゼインはアスプロの元に向かいます。

イエメンにいる富豪の養子になれば、ヨナスは無事に育つというアスプロの言葉を受け、ゼインは彼を託すことに。

そしてメイスンのように自分もスウェーデンに行きたいと頼みますが、移住するには身分を証明する物が必要と言われ、やむなく証明書を取りに生家に戻ることにします。

家に戻ったゼインの身を案じることなく、罵声を浴びせる両親。

自分の身分証明書か病院の出生証明書が欲しいと言うゼインに、父のセリームは、「お前たちの誕生日も覚えていないし、お前たちを産むために病院にも行ったことがない」と発します。

そして激高のあまり、「病院に行ったのはサハルが運ばれた時だけだ」と口走るのでした。

父の言葉からサハルの死を悟ったゼインは、怒りに任せて包丁を握り、セリームの制止を振り切ってアサードの元へ走ります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『存在のない子供たち』ネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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ゼインがアサードを刺し逮捕され、留置場に入れられた数日後に面会の知らせが。

偶然にも同じ留置場にいたラヒルは、ゼインの名が呼ばれたのを聞き、ヨナスがアスプロに奪われたと直感、泣き叫びます。

ラヒルは改めて自身の境遇を明かし、ゼインの口から、アスプロの人身売買行為を留置場職員に告げます。

ゼインへの面会者はスアードでした。

キャンディの差し入れを持ってきた普段着姿の母に、「サハルの喪が明けてないのに、なぜ喪服を着ていないのか」と尋ねるゼイン。

彼女は、「悲しみから新たな喜びが生まれた」と、お腹に新たな命が宿ったことを告げます。

「娘が生まれたらサハルと名付ける」と言ったスアードに、ゼインは吐き捨てるように「二度と会いに来るな」と言い、キャンディをゴミ箱に投げつけて面会場を離れます。

留置場のテレビで視聴者が電話相談する生放送番組を見ていたゼインは、その後、施設内から番組に電話。

受話器ごしに「両親を訴えたい」と告白したザインは、瞬く間に世間に知れ渡ります。

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

法廷。

ゼインに刺され車椅子状態となったアサードは、サハルが妊娠するも、出血多量となって亡くなったと証言。

サハルをまるで物扱いするような言い方をするアサードを罵るゼイン。

裁判長から両親を訴えた理由を問われたゼインは、「僕が生まれてきたから。生まれてきた子供を育てられないなら、最初から産まなきゃいい」と答えます。

難民だから安定した生活を送れない実情を、涙ながらに訴えるセリームとスアードに、裁判長は、「今お腹にいる子が生を受けることはないだろう」と冷酷に告げます。

数日後、アスプロが逮捕されるニュースが報道され、売買された他の人間と共に暗い倉庫に閉じ込められていたヨナスは、ラヒルの元に戻ります。

そして傷害罪で5年の懲役を言い渡されたゼインは、写真撮影に臨んでいました。

「これは身分証明用の写真だから笑って」というカメラマンの言葉を受け、無表情だったゼインは初めて笑顔を見せるのでした。

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映画『存在のない子供たち』感想と評価

(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

ドラマに深みを与えたストリートキャスティング

本作の出演者の大半は、演技経験がなく、なおかつ演じる役柄も自身と似た境遇を持った、いわゆるストリートキャスティングで選ばれた人物です。

主人公ゼインを演じたゼイン・アル・ラフィーアと、彼の妹サハル役のセドラ・イザムは、実際にシリアからレバノンに大量に流れ込んできた難民で、2人とも役柄同様に日銭を稼ぐ仕事をしていました。

ラヒル役のヨルダノス・シフェラウも、2016年エチオピアから不法移民として逮捕され、本作の監督ナディーン・ラバキーが身元保証人となり、釈放された経歴を持ちます。

さらに、ラヒルの息子ヨナス役のボルワティフ・トレジャー・バンコレに至っては、本作撮影中に実の両親がベイルートへの不法入国の疑いで逮捕される事態となっています(撮影後に両親は国外退去処分となり、バンコレは母の故郷ケニアに帰国)。

こうした、出演者たちが現実に抱えてきた苦難を、ラバキー監督はそのまま活かすことで、ドラマに深みを持たせています。

子どもたちに降り注ぐ過酷な実情


(C) 2018MoozFilms / (C) Fares Sokhon

ラバキー監督が特に本作で注力したのは、貧困に喘ぐ難民、とりわけ子どもたちを取り巻く実態です。

難民としてシリアから逃れてきたゼインの両親は、まともな定職に就くこともできない状態から心が荒んでおり、将来性も計画性もないのに次々と子どもをもうけています。

子どもたちは学校に行くこともできず、幼くして働かされますが、当然のごとく生活は困窮。

そうなると、両親は口減らしと目先の金欲しさに子どもを売り渡したり、女の子の場合は無理やり結婚させられたりします。

ドキュメンタリー映画の『ソニータ』(2017)では、そうした中東における子どもの強制結婚の実態を追っています。

アフガニスタンからイランへと逃れた16歳の少女ソニータは、兄の結納金を得るために、顔も知らない年上男性との結婚を迫られ、その怒りをラップで訴えるのです。

弱者に付けこむ大人たちの都合で、将来を左右されてしまう子どもたち

本作はフィクション形式ではありますが、「映画の中で繰り広げられる光景は、私自身が貧困地域、拘置所、少年院などを訪れて得たもの」とラバキー監督が語るように、こうした負のスパイラルは実際に起こっているのです。

まとめ

経済的な不平等により、困難を強いられる者たちを真正面から捉えた『存在のない子供たち』。

現在、シリアやパレスチナからの難民の多くはヨーロッパに移民申請をしており、ゼインを演じたゼイン・アル・ラフィーアも、家族でノルウェーに移住したとのこと。

しかし、ドキュメンタリー映画『ヒューマン・フロー 大地漂流』(2019)で提示されるように、難民の受け入れ先でも様々な問題が生じたり、国によっては彼らを排斥する運動が起こるなど、事態は今なお混沌としています。

本作の舞台レバノンでも150万人の難民の受け入れをしていますが、その影響もあり経済状況が悪化しています。

それでも、生まれてくる子どもに罪はありません。

本作を観て、不当に扱われ、放置された子供たちを守る意識が生まれることを願う」とするラバキー監督の思いを、是非とも感じ取ってください。

『存在のない子供たち』は、2019年7月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほかで全国ロードショー!


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