呪いで蘇ったゾンビ集団に立ち向かうジャーナリストと呪術師を描くアクションホラー
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)のヨン・サンホ監督が原作・脚本を手がけ、ドラマ『愛の不時着』(2020)などを手がけるスタジオドラゴンとタッグを組みました。
監督を務めたのは、『ファイティン!』(2018)のキム・ヨンワン。
『パラサイト 半地下の家族』(2020)で、裕福な家族の長女を演じたチョン・ジソが呪術師の少女・ソジンを演じ、ジャーナリストのジニを『女は冷たい嘘をつく』(2017)、『ソウォン 願い』(2014)のオム・ジウォンが演じました。
死者による殺人事件が発生し、ジャーナリストであるジニのもとに犯人だと名乗る男から連絡がやってきます。
男は死者を操って殺人事件を起こしたと告白し、新たに3人の名前をあげ、殺害予告をします。殺害を止める方法は、ある大企業のトップが謝罪することだと言います。
ジニは、呪術師のソジンと共に、巨大企業の陰謀と、呪術師の呪いを解くべく奔走しますが……。
映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』の作品情報
【日本公開】
2023年(韓国・イギリス合作映画)
【英題】
The Cursed: Dead Man’s Prey
【原題】
방법: 재차의
【監督】
キム・ヨンワン
【原作・脚本】
ヨン・サンホ
【キャスト】
オム・ジウォン、チョン・ジソ、チョン・ムンソン、キム・イングォン、コ・ギュピル、クォン・ヘヒョ、オ・ユナ、イ・スル
【作品概要】
キム・ヨンワンが監督を手がけ、ヨン・サンホが脚本を手がけたドラマ『謗法 運命を変える方法』(2022)の続編となる映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』。
ドラマでは、人を呪い殺すことができる謗法という能力を持った呪術師の少女ソジンとジャーナリストのジニが、巨大企業の闇に立ち向かう姿を描きました。映画ではソジンが姿を消したところから始まっています。
ジニを『ソウォン 願い』(2014)のオム・ジウォンが演じ、ソジンは『パラサイト 半地下の家族』(2020)のチョン・ジソが演じました。他のキャストには、『ムルゲ 王朝の怪物』(2020)のキム・イングォン、『あなたの顔の前に』(2022)のクォン・ヘヒョなど。
映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』のあらすじとネタバレ
閑静な住宅街で殺人事件が発生します。被害者の近くに横たわっていた容疑者らしき人物を検死すると、死後3ヶ月経っていたことが分かります。不可解な事件にチョン・ソンジュン刑事(チョン・ムンソン)は頭を抱えます。
独立系ニュースチャンネル「都市探偵」の共同代表を務め、調査協力についてまとめた書籍を出版したばかりのジャーナリスト・ジニ(オム・ジウォン)は、宣伝のためラジオに出演していると、殺人事件の犯人だと名乗る男から連絡が来ます。
男はジニにインタビューをしてほしいと言い、場所を指定してきます。生放送のラジオを聞きつけたチョン刑事が、ジニの事務所にやってきます。
2人は夫婦であり、妻のジニの身を案じるチョン刑事は、この事件に関わらないほうがいいと忠告しますが、ジニは聞きません。
ジニは、「都市探偵」の社長であり元刑事のキム・ピルソン(キム・イングォン)に事件について調べるように言い、ジニは新人のジェシー・ジョン(イ・スル)らと共にインタビューの配信の準備にかかります。
指定されたホテルでジニらはインタビューのための機材をセッティングし、ホテル一体を警官が張り込んで待機しています。
そんななか、一人の中年の男性がホテルに入ってきます。そのままジニらが待機している部屋にやってきてインタビューが始まります。名前を名乗り疑うジニらに登録番号まで伝え、警察が照会すると数ヶ月前に行方不明届が出されていました。
男は、自分は呪術師であり、死んだ人間を操って人を殺したと告白します。そしてこれから更に3人殺害すると言い、スンイル製薬の会長と幹部の2人の名前をあげます。
殺害を止めるためには、会長が謝罪をしなければならないと男は言い、それがきちんとした謝罪かどうかをジニに判断してほしいと伝えます。
それだけ言うと男は突如ジニの首にナイフを突き当て、その場から逃げようとします。ジェシーは咄嗟にカメラを手に取りジニと男を追います。
緊迫感の流れるなか男は逃げようと足掻きますが、警官に全方位を囲まれてしまいます。すると当然男はその場に崩れ落ちていきます。男もまた、呪術師に操られた死者だったのです。
インタビュー放送を受けて、スンイル製薬の幹部らは会議を開きます。今や父である会長に代わって会社の運営を担っているビョン・ミヨン(オ・ユナ)は、アメリカの大企業との契約がもうすぐ決まりそうなのに、会長が謝罪をすれば会社の信用に関わると、謝罪はしないと言い放ちます。
殺害予告の当日、幹部らはスンイル製薬の会社に立てこもり、会社は警察によって厳重に警備されています。メディアが集まり呪術師が操る死者がくるのを待ち構えています。
ジニもカメラを持ち待機していると、突如灰色のパーカーを来た人物が登場し、その人物に続いて同じ服を着た集団がわらわらと集まり、その数は数千人近くまでになりました。
彼らは一斉にスンイル製薬の会社に向かって走り始めます。あまりの数に警察の防護網を瞬く間に破られてしまいます。武装していない相手に発報はできないと躊躇いますが、チョン刑事は足に向かって発報することを許可します。
しかし、死者の集団は撃たれてもすぐに立ち上がり向かってきます。警察は手が出ません。
このままでは、危険だと判断したチョン刑事は幹部らを連れてこっそりと部屋を抜け出し、別ルートで地下の駐車場に向かいます。死者の集団はエレベーターに乗る幹部らの姿を見て、駐車場に向かっていることに勘づいてしまいます。
階段を登っていた集団は突如動きをとめ、階段から真下に飛び降り、そこから地下に向かって走り始めます。
チョン刑事と幹部らは何とか駐車場に辿り着きますが、車に乗り込もうとしたところで追いつかれてしまいます。そこに、ジニが車で死者に激突し、何とか車に乗り込み会社から脱出します。
脱出してホッとしたのも束の間、死者らはタクシーを運転手から奪い、乗り込むとすぐさまチョン刑事の乗る車を追います。ジニも追いかけます。
必死で逃げようとしましたが、追いつかれタクシーに囲まれ身動きができなくなってしまいます。幹部の一人は引きずり下ろされ、死者らに殺されてしまいます。
チョン刑事も死者らに抵抗し、怪我をして彼らの持つ毒にあたってしまいます。チョン刑事だけでなく多くの警官が死者の持つ毒によって重体になってしまいます。
映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』の感想と評価
巨大企業の陰謀
呪いによって蘇ったゾンビ集団に立ち向かうジャーナリストと少女呪術師の戦いを描いた映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』。
しかし、その背後にあるのは巨大企業の陰謀でした。人を助けるための薬を開発していたスンイル製薬が、お金のために人を殺す新薬を開発し、そのために多くのホームレスや不法移民らを殺します。
治験をする前から、治験者が亡くなることは会社の幹部らにとっては分かりきってきたことでしょう。それでも治験を決行したのは、彼らは死んでも問題ないであろうと判断していたからなのです。
大企業に搾取される社会的弱者の構図や責任転嫁し責任を取ろうとしない上層部の姿は、さまざまな韓国映画に描かれているものです。
ヨン・サンホが監督を務めた『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)は、コン・ユ演じる主人公が務めるファンド会社が操作していたバイオ会社が原因でウイルスが発生していました。
主人公は、数字のことしか頭になくバイオ会社の実情などには無関心でした。また、『サムジンカンパニー1995』(2021)においても汚水を川に流していたことを隠蔽していたことに対し、会社の陰謀に立ち向かう女子社員らを描いています。
前作であるドラマ『謗法 運命を変える方法』(2022)においても、大企業を前に無力感を感じるジャーナリスト・ジニがソジンと出会い2人で立ち向かっていく姿を描いています。
ジニは正義のために闘う人であり、ソジンに対しても家族として彼女を迎え入れる温かさも持っている人物です。その正しさは、ジニだけでなく夫であるチャン刑事においてもそうです。
刑事の汚職を描く映画も多い中、チャン刑事は正しい人間として描かれます。しかし、正義が必ず勝つわけではない不条理さも本作では描かれています。
ジニらの正義はスンイル製薬の上層部には全く届きません。心を痛めて責任を取ろうとしたのは、イ・サンインのみでした。それどころか、金も権力もある側の人間は巧妙に法の目をかいくぐってしまうのです。
法で裁けない、罪を認めない相手にインドネシアのドゥクンは、自らを生贄にしてまで謝罪を求めようとしました。その思いの切なさに苦しくなります。
まとめ
本作は、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)や『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2021)、『ソウル・ステーション パンデミック』(2017)など韓国のゾンビ映画のイメージを新たに打ち立てたヨン・サンホが原作・脚本を手がけた新たなゾンビ映画になっています。
ウイルスによってゾンビ化するという設定は比較的新しいものです。ゾンビの起源はブードゥー教からきており、ウイルスではなく、儀式によって死者を蘇らせるというものでした。本作においても呪術によって死者を操り殺人などさまざまなことをさせます。
しかし、ドゥクンはインドネシアの専門的呪術師で、主に病気の治癒や悪魔祓い、占いなどで黒魔術を操るとも言われていますが、死者を操ったりまでは行わないとされています。エンタメとしての説得力としてドゥクンを引用し、そこに韓国の不法移民に関する社会問題を織り交ぜたのでしょう。
そのように本作はエンタメとして見応えのある要素が多くあり、最大の魅力は大迫力なアクションシーンでしょう。
『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2017)では、ゾンビの速さが話題になりました。それまでのゾンビといえば、動きがのろいという印象でしたが、ヨン・サンホはそのようなゾンビのイメージを一新したのです。
『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2021)でも、ゾンビ相手に大迫力のカーチェイスを繰り広げました。
本作においても、チェン刑事の乗る車を追う、タクシーという大迫力のカーアクションを繰り広げました。カーアクションだけでなく、会社に向かってゾンビの集団が突撃するシーンも大迫力でした。ゾンビ集団ならではの捨て身の攻撃は、不気味で見応えがあります。
呪いで蘇ったゾンビ集団に立ち向かうジャーナリストと呪術師という構図だけでなく、大企業に立ち向かうという構図も盛り込み、ヨン・サンホならではのエンタメ大作として仕上げました。