Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/09/26
Update

映画『ファイティン!』感想と解説。マ・ドンソクの強さと優しさの魅力を探る|コリアンムービーおすすめ指南3

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「コリアンムービーおすすめ指南」第3回

こんにちは西川ちょりです。韓国映画を取り上げる月に一度の連載も今回で3回目。

今回は10月20日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にてロードショーされるのを皮切りに全国順次公開されるマ・ドンソク主演の『ファイティン!』の魅力に迫ります!

貧しさ故に幼い頃にアメリカに養子に出された男をマ・ドンソクが演じ、アームレスリングに人生をかけた姿と、これまで孤独に暮らしていた男が“家族”の暖かさに触れていく様を描いています。

ちなみに、タイトルにある「ファイティン!」というのは、日本の「ファイト!」にあたり、「頑張れ!」という意味です。

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

マ・ドンソクの過去の出演は


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

マ・ドンソクがアームレスラーを演じると聞いて、瞬時に、彼に勝てる人なんているの?と思った人も多いのではないでしょうか。 

ここは、ドウェイン・ジョンソンかジェイソン・ステイサムあたりを呼んでこなければ勝負にならないのでは?と。

今年日本でもヒットした『犯罪都市』(2017/カン・ユンソン監督)では、マ・ドンソク扮する刑事が、腕周り50cmの上腕筋のせいで、自らの肘や肩の傷が見えないという姿がユーモラスに描かれていました。あの腕で闘うわけですから、こんな発想をしてしまってもおかしくないでしょう。

参考映像:『犯罪都市』(2017)

『犯罪都市』での刃物をこれでもかと振り回す凶悪犯罪者との空港のトイレでの対決シーンは、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』と並ぶ秀逸なド迫力“トイレアクション”として記憶されていくことでしょう。

参考映像:『新感染 ファイナルエクスプレス』(2016)

しかしなんといってもマ・ドンソクの圧倒的な強さと存在感を印象づけたのは、『新感染 ファイナルエクスプレス』(2016)のサンファ役です。

先頭にたって次々と襲ってくるゾンビをなぎ倒し、愛するものを守ろうとする姿は、頼れる男として観るものの心を撃ちます。彼がいなければ、あっという間に乗客は全滅していたことでしょう。

圧倒的に強いドンソクの魅力は親しみやすさ


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

そんなマ・ドンソクですが、韓国ではLovelyをもじった「マブリー」という愛称で親しまれているそうです。

ただの強面でなく、愛されキャラとして人気を博しており、ピンクのエプロン姿でコマーシャルに出演しているのだとか。

確かに上記にあげた作品では、まず超人的な強さが目立ちますが、親しみやすさや、見た目のどこか愛らしい姿も魅力的でした。 

『ファイティン!』では、ヤクザな社長に「キュート」と褒められて「キュートだと!?」と怒るシーンがあるのですが、案外、マ・ドンソクが日常的に言われている言葉なのかもしれません。

『ファイティン!』は、そんなマ・ドンソクの強くてLovelyなキャラクターを巧にいかした作品となっています。

強くなければ優しくなれない


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

マ・ドンソクが演じるマークは、子供の頃に貧しさのため、アメリカに養子に出された男で、アームレスラーとなり頭角を表しますが、人種差別から八百長疑惑をかけられてしまいます。

怒って喧嘩したことで除名され、今はナイトクラブの用心棒や、スーパーの警備員をして暮らしています。

そんな彼に近づいたのが、彼を利用して金儲けしてやろうと考えたジンギという男で、韓国でアームレスリングの大会があるから、と彼を韓国につれてきます。

幼い頃に韓国を離れたマークは韓国料理を食べ慣れておらず、最初は拒否していたのが、次のカットでは何皿も食べているという笑えるシーンもあります。

その食べっぷりにほれぼれする一方、口数の少ない、生真面目なマ・ドンソクの姿が新鮮です。

参考映像:『海にかかる霧』(2014)

マークの“妹”であるスジンに扮するのは、ハン・イェリ。

多数の話題作に出演している女優さんですが、とりわけ、キム・ユンソク等と共演した『海にかかる霧』(2014)では、中国から密入国しようと大勢の仲間とともに船に乗り込んだ女性を演じ、凄惨な展開の中、圧倒的な存在感を示していました。


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

本作『ファイティン!』では、夫を交通事故で亡くし、一人で商売をしながら二人の子供を養う母親を演じています。

借りたお金が返せず、借金取りに追われる毎日。ぎりぎりの生活を続けている女性です。

そんな彼女の二人の子供は、結構毒舌ですが、礼儀正しくしないといけないときは、ちゃんと出来る愛らしい子たちです。孤独だったマークは、 “家族”の暖かさに初めて触れるのです。


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

笑いどころも多い人情喜劇という体ですが、その背景には貧困、格差社会、差別主義という深刻な社会問題もきっちり描かれています。

昨今、韓国映画では社会派映画の傑作が数多く作られていますが、本作にもその流れが確実にあると思われます。作り手の骨太な意思を感じさせます。

それにしても、マ・ドンソク出演作品を観ていると、人に優しくあるためには、強くなくてはいけないのだなぁ、とつくづく思い知らされます。

強いからこそ、愛する人を守ることが出来るし、強いからこそ、真に優しくなれるのです。

強さとは優しさの裏返しであり、逆もまたしかりではないでしょうか。そしてそれは誰もが持てるものではありません。

だから、強くて優しいマ・ドンソクは大勢の人々からLovelyなキャラとして、親しまれ愛されるのでしょう。

名作アームレスリング映画へのリスペクト

参考映像:『オーバー・ザ・トップ』(1987)

マ・ドンソクが見事な上腕筋を披露し、シルベスター・スタローン主演の『オーバー・ザ・トップ』(1987/メナハム・ゴーラン監督)以来の本格的アームレスリング映画として話題の本作。

劇中のテレビ番組でマークの紹介をする際に、「シルベスター・スタローンの映画に影響を受け、アームレスリングを始める」という台詞が登場します。

アームレスリングを通して、父と息子の絆の再生を描いた名作『オーバー・ザ・トップ』への目配せをきっちりしているあたりにも好感が持てました。


(C)2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

スタローン演ずるホークが、一世一代の大勝負にのぞむように、マークもまた激戦へと向かいます。彼を突き動かすものは何か?勝負の行方は果たして?!対戦相手も多彩で魅力的です。

次回の『コリアンムービーおすすめ指南』は…

次回は10月、第4回もオススメのコリアンムービーをご紹介します。

お楽しみに!

【連載コラム】『コリアンムービーおすすめ指南』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『四畳半タイムマシンブルース』原作小説ネタバレと結末までのあらすじ。キャラクターとタイムマシンの“愛すべき”ところとは⁈|永遠の未完成これ完成である32

連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第32回 映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。 今回紹介するのは、森見登美彦の小説『四畳半タイムマシンブルース』です。 …

連載コラム

韓国映画『クローゼット』ネタバレ感想と結末までのあらすじ。本格ミステリーで描かれた現代の“大きな社会問題”|サスペンスの神様の鼓動39

サスペンスの神様の鼓動39 妻を事故で亡くし、新居で再起を図ろうとした男が、突然消えた娘の行方と、クローゼットに隠された謎に迫るミステリー・エンターテイメント『クローゼット』。 メインとなっているクロ …

連載コラム

映画『ガール・イン・ザ・ミラー』感想と評価レビュー。鏡の少女の正体とは何か解説|SF恐怖映画という名の観覧車62

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile062 新宿シネマカリテにて2019年7月13日より4週間に渡り開催された「カリコレ2019/カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション20 …

連載コラム

地獄が呼んでいる最終回6話ネタバレあらすじ感想と結末評価。シーズン2はいつ⁈Netflixドラマが待ち遠しいヨン・サンホ監督の秀作

Netflixドラマ『地獄が呼んでいる』を各話完全紹介 『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)と長編アニメ映画『ソウル・ステーション パンデミック』(2016)をヒットさせ、韓国を代表するア …

連載コラム

【短編映画無料配信】ラブ・デート~恋人たちの散文詩|あらすじ感想評価レビュー。初々しい国際的馬鹿ップルの悩みと喜びを鮮やかに描く《松田彰監督WEB映画12選 2023年9月》

「月イチ」企画の短編WEB映画第9弾『ラブ・デート~恋人たちの散文詩』が無料配信中 『つどうものたち』(2019)、『異し日にて』(2014)、『お散歩』(2006)などの作品で数々の国内外の映画賞を …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学