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Entry 2021/04/13
Update

映画『デッドロック』あらすじ感想と評価解説。ドイツ西部劇にロックバンドカンが音楽を担当するカルトムービー

  • Writer :
  • 滝澤令央

映画『デッドロック』は2021年5月15日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開

ニュージャーマンシネマと時代を共にしながら、その栄光に背を向け、ドイツ映画界の知る人ぞ知る存在となったローラント・クリック監督。彼の代表作である、70年代の西部劇『デッドロック』。

スピルバーグや、ホドロフスキー、タランティーノを始めとした数多くの映画監督が絶賛した本作は、1970年の西ドイツ製西部劇です。

音楽を手掛けたのは、日本人ヴォーカル、ダモ鈴木を擁したクラウトロックバンド「カン」です。

1971年のドイツ映画賞長編作品賞を受賞した『デッドロック』がついに日本上陸!

5/15(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開されることになりました。

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映画『デッドロック』の作品情報


⒞ Filmgalerie451

【公開】
1970年(西ドイツ映画)

【原題】
Deadlock

【監督】
ローラント・クリック

【キャスト】
マリオ・アドルフ、アンソニー・ドーソン、マルクヴァルト・ボーム、マーシャ・ラベン

【作品概要】
本作で監督・脚本・製作を務めたローラント・クリックは、長編映画第2作目にてカルト的な人気を獲得しました。

その後ハリウッドやイタリア映画界(マカロニ・ウエスタン)からの誘いを受けるものの、商業性との折り合いがつかず、全て断り、テレビ・ドキュメンタリーやジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』ドイツ語版製作に携わりました。

80年代、当時ドラッグ中毒に陥っていたデニス・ホッパーと『WHITE STAR』を製作するも、公開までに4年以上を要し、アメリカでは短縮編集版のみ公開され、クリック監督はドイツ国内外で真っ当な評価を受けることはありませんでした。

2008 年、ベルリンの名画座がクリック作品の上映会を開催。それをきっかけに再注目の機運が高まり、クリック監督に関するドキュメンタリー映画も2013年に製作されました。

また、クリック監督をハリウッドに招待したスティーブン・スピルバーグ、アレハンドロ・ホドロフスキー、クエンティン・タランティーノなどの有名監督が、その奇抜さと大胆さを絶賛し、クリック監督と本作の影響を受けていると認めています。

主な出演は、『白昼の情事』(1963)『ブリキの太鼓』(1979)などで知られるイタリア系ドイツ人俳優マリオ・アドルフ。『ダイヤルMを廻せ!』(1954)や『007は殺しの番号』(1962)のイギリス人俳優アンソニー・ドーソン。『さすらい』(1976)やファスビンダー作品で知られるマルクヴァルト・ボーム。

音楽は、クラウトロック(ジャーマン・ロック)を代表する カンが担当。本作のために書き起こされたタイトル「deadlock」は、翌年にリリースされたアルバム「soundtrack」の代表曲として収録されています。

彼らが路上で大道芸を行っていたところをスカウトしたダモ鈴木が、同バンドでヴォーカルを務めた数少ない一曲として、映画と並んでカルト的な人気を誇っています。

映画『デッドロック』のあらすじ


(C)Filmgalerie451

アメリカのどことも分からない荒野を、ジェラルミンケースを持つ一人の男が彷徨っていました。

男は疲労により気を失います。それをダンプで通りがかった男「ネズミ」が発見します。

男が大事そうに持っていたジェラルミンケースの中には、一枚のレコード盤と100万ドル相当の紙幣が入っていました。

ネズミはケースの中身を横取りし、気を失っている男を始末しようとしますが、意識を取り戻した男に銃を突き付けられ、彼を介抱することを余儀なくされます。

ネズミは自宅のあるゴーストタウンまで男を連れていきました。

気を失っていた男「キッド」は、現金を強奪し、列車での逃走中に追手の攻撃に遭い、走行中の列車から飛び降りて気を失っていたのです。

強盗仲間のサンシャインがキッドの後を追ってくると言いますが、ネズミはそれを信じませんでした。

キッドは、左腕に食らった銃弾を摘出するようネズミに懇願しますが、ゆっくりと彼を衰弱死させ、現金を横取りしようと画策したネズミはそれを拒みます。

銃撃の痛みにもだえ苦しむキッドは、「いっそひと思いに殺してくれ」とまで言いますが、ネズミはそれすらも受け入れません。

彼に人を殺すことは出来なかったのです。

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映画『デッドロック』の感想と評価

(C)Filmgalerie451

売れることだけを目的としなかった本作

本作は、カンヌ映画祭からコンペティション出品としてオファーを受けたものの、ドイツ国内の監督や批評家から、商業的であるとの理由で反対を受けた結果、特別上映というかたちでの上映がされました。

この上映を巡るトラブルは、不運にもクリック監督が、当時注目を集めていたファスビンダーやヴェンダースに代表されるニュー・ジャーマン・シネマの勃興と時代を共にしてしまったことが、原因と考えられています。

国からの助成金を受けて作られた本作を、プロパガンダ的であると捉えた映画祭参加者は少なくありませんでした。

監督は後年のインタビューにて、映画がプロパガンダや宣伝として受容されないよう、国からの補助金は極力避けたかったとのことを明かしています。

補助金受給は、興行的成功には繋がらない。そして儲け主義に基づいた映画制作は、作品の成功と結び付かないと悟っていたのです。

当時ドイツ映画は、当初の予算だけでは失敗のリスクが高く、補助金支給により何とか成立していました。

注目を集めてきたニュー・ジャーマン・シネマの映画監督たちも、作品の芸術的価値こそ認められていたものの、アメリカ映画などの巨大資本を持つ映画会社にフックアップされることで、ようやく映画が作れるという状況でした。

クリック監督は、映画制作とは自身の享楽であり、興行的都合は二の次だと考えていました。

そして監督が映画祭側と直接交渉。1970年当時ドイツで最大の規模を誇っていた映画館ツォー・パラストでの特別上映が決定しました。

上映は、雨の中での少数の観客だけであったにもかかわらず、絶大な支持を受けたことで、その後のカルト映画化に拍車がかかりました。

その後ドイツ国内では興行的に成功し、1971年ドイツ映画賞長編作品賞に選出されました。

このような完成後の逸話にも事欠かない本作は、撮影中においてもあらゆる困難が続いていました。

映画撮影中、世間は第三次中東戦争の最中でした。ロケ地は、ちょうど中立地帯に位置しており、撮影中周囲の山を銃を携えたイスラエル兵やヨルダン兵が包囲。

撮影は主に日中に行われましたが、周辺で戦闘が始まると、それに合わせてロケ隊も照明を落とすなどの協力を余儀なくされるなんてことも。戦争の前線近くでの撮影は、文字通り戦局に左右されたのです。

こんな困難に挑戦しながらも完成した映画は、非常にソリッドでサイケデリックな怪作に仕上がりました。

粗削りな映画と音楽

(C)Filmgalerie451

限定的空間で、数少ない登場人物によって繰り広げられる小規模な西部劇をサイケデリックに盛り上げているのは、音楽の功績が大きく、本作の見どころと切り離せないのが、can(カン)の歌う主題歌『deadlock』です。

本作における劇中での主題曲の配置は、『続・荒野の用心棒』(1966)や『殺しが静かにやって来る』(1968)など、名作マカロニ・ウエスタンのそれに近く、どことなく『エクスタシーオブゴールド』のようなメロディと『朝日のあたる家』のような歌。

しかしそれらと決定的に異なるのは、当時カンでボーカルを務めていたダモ鈴木独特の歌い方です。

劇中曲として、断末魔のように鬼気迫る実験音楽を取り入れたことが影響してか、本作は、アシッド・ウエスタンというジャンルが持つ、エネルギッシュな力強さに溢れています。

一般的にアシッド・ウエスタンは、1960年代から70年代に登場した西部劇のサブジャンルを指し、『シェーン』(1953)や『捜索者』(1956)などに代表される現実のメタファーが組み込まれた西部劇の精神性と、イタリア製のマカロニ・ウエスタンが持つ暴力性、そして1960年代のカウンターカルチャーの展望とが組み合わさったものと定義されています。

ジャンルの代表例として『エル・トポ』(1970)や『銃撃』(1966)が挙げられるアシッド・ウエスタンは、初期の西部劇の慣習(「古き良きアメリカ」の姿)を覆し、実践的独我論を貫くアメリカ人の救われなさ、崩壊しつつある白人至上主義国家アメリカのありのままを描き、「失われた古き姿」を想起させます。

本作におけるジャンル的要素には、登場を予期させるも、なかなか画面に現れない年配の殺し屋サンシャインの不確実性、廃墟のような隔絶された社会からの脱出といったプロットと、カンが手掛けた幻覚的な音楽が当てはまります。

カンの音楽と実験映画への探究心の強いクリック監督とが、見事な化学反応を魅せ、西部劇の形式的な予定調和を破壊することに成功しています

欲深い奴、悪い奴、卑劣漢

(C)Filmgalerie451

片手で数えられるほどの登場人物たちは、みな情緒的で暴力的です。それぞれが持つ汚らしさ、卑しさに奥行きがあるため、語られる台詞は最小限にとどまっていました。

世界観を示す舞台はネズミの住む廃墟と周辺の採石場のみと限定的でありながらも、鑑賞後には、何故か満腹感のある映画でした。

おそらく90分というタイトな尺の中で、3人の悪漢たちがぎっしりと描かれているからではないでしょうか。

それぞれの因縁を、最初の30分でねずみ対キッド。次ぐ30分でねずみ対サンシャイン。そしてキッド対サンシャインと順に1対1の構図で描いていきます。

3人の悪漢が手にしたのは、たった2丁の拳銃。なので対決が、三竦みになることはありません。

それぞれが手に死するのは、サブマシンガン、トンプソンM1928A1とライフルストックを装着したモーゼルM712。

前者は戦争映画や特殊部隊の活躍を描いた映画にたびたび登場し、後者は言わずと知れた「スター・ウォーズ」シリーズ、ハン・ソロのブラスターであり、『殺しが静かにやって来る』(1968)の主人公の愛銃でもある、ピースメイカーに次ぐ、西部劇の花形的名銃です。

また、本作を絶賛したホドロフスキーの作品『エル・トポ』(1970)とは、ジャンル、製作年、終末的荒廃感のある世界観と共通点が数多く存在します。

また、本作は、あらすじや世界観といった表層的な要素こそ違えど、同じくホドロフスキーが近年に手掛けたフランス・ベルギーのグラフィックノベル(バンドデシネ)『バウンサー』(2015)に近似する精神性を見出すことが出来ました。

一癖も二癖もある登場人物には、誰ひとりとして善人はいません。到底正気とは思えないような残虐非道な行いをするにもかかわらず、時折垣間見える義理、思いがけない形で露見する人情といった人間臭さに、両作とも同じようにギョッとさせられます。

まとめ

(C)Filmgalerie451

アシッド・ウエスタンという非常に珍しいジャンルの作品でありながら、他作品と一線を画す奇抜さ、奇妙さが本作の唯一無二の見どころです。

西部劇に造詣が深い人であっても、明確な類似作が見当たらない本作は新鮮に映ることでしょうし、反対に西部劇に詳しくない人は、ジャンルらしさを感じさせない本作を観てから、他作品と見比べるとその異様さが際立って見えるでしょう。

物語性が少ないプロットの単調な西部劇は数多く存在しますが、活力の枯渇した廃墟で繰り広げられる、3人の対立構造に2丁の拳銃というシチュエーションの面白さが、90分映画を十分に盛り上げています

限られた空間、限られた人間だけで、人が死ぬ重たさ、生々しさを描くことができるローラント・クリック監督の技量が伺える数少ない作品です。

『デッドロック』は2021年5月23日㈮より渋谷 Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開




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