「オーシャンズ」シリーズのスティーブン・ソダーバーグ監督が全編[幽霊目線]で描く新感覚ホラー
崩壊寸前の家族が引っ越してきた家には“それ”がいました。10代の少女・クロエだけがその存在に気づいていました。
人に見られたくない家族の秘密を目撃した“それ”は、クロエを守るためにある行動に出ます。
「オーシャンズ」」シリーズのスティーヴン・ソダーバーグ監督が初のホラー映画に挑戦。全編[幽霊目線]で描き、観客に没入感を与えるという新感覚ホラーになっています。
『キル・ビル』(2000)や「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのルーシー・リューが母親に扮し、父親役を演じるのは『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016)のクリス・サリヴァン。
映画『プレゼンス 存在』の作品情報
(C)2024 The Spectral Spirit Company. All Rights Reserved.
【日本公開】
2025年(アメリカ映画)
【原題】
Presence
【監督】
スティーブン・ソダーバーグ
【脚本】
デビッド・コープ
【キャスト】
ルーシー・リュー、クリス・サリバン、ジュリア・フォックス、カリーナ・リャン、エディ・メデイ、ウェスト・マルホランド
【作品概要】
「オーシャンズ」シリーズや『マジック・マイク』(2012)、『サイド・エフェクト』(2013)、『ローガン・ラッキー』(2017)など様々な映画を手がけてきたスティーブン・ソダーバーグ監督による初のホラー映画。
脚本を担当したのは、『ジュラシック・パーク』(1993)、『ミッション:インポッシブル』(1996)、『スパイダーマン』(2002)など数々の名作を世に出してきたデビッド・コープ。
全編[幽霊目線]という新感覚ホラーとなった本作ですが、スティーブン・ソダーバーグ監督の母親は霊能力者であったといい、監督自身の体験が本作に現れていると言えます。
出演者は、「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのルーシー・リューに『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(2016)のクリス・サリヴァン、タイ映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2018)のUSリメイク版で主役に抜擢されたカリーナ・リャン。
兄のタイラーを演じたエディ・メデイは、本作が映画デビュー作となりました。
映画『プレゼンス 存在』のあらすじとネタバレ
(C)2024 The Spectral Spirit Company. All Rights Reserved.
一家が引っ越してくる前からその家に“それ”はいました。そこに引っ越してきたとある一家。
母のレベッカは、忙しそうに仕事をし、息子のタイラーのことばかり考えています。そんなレベッカに何か言いたいけども言えずにいる父・クリス。
クリスは10代の娘・クロエを気にかけています。クロエは親友と友人を相次いで亡くしていました。2人とも薬によるオーバードーズで亡くなったとされていました。
レベッカはナディアのことを昔から素行が悪かったと非難し、時間が解決するから大丈夫だと言います。そんなレベッカにクリスは「何もしないのと一緒だ」と言ってレベッカを怒らせてしまいます。
タイラーは、クラスにおける自分のランクばかり気にしていました。そんなタイラーは、クラスで人気者のライアンと親しくなります。家に招かれたライアンは、クロエに興味を持ちます。
クロエは、友人の死により塞ぎ込み、殻に閉じこもっています。1人不安で泣いている姿を見ていたのは“それ”でした。クロエは、何かがいることを感じ取っており、そんなクロエに“それ”はシンパシーを感じていました。
ある時、“それ”はクロエがシャワーを浴びている間に、クロエのベッドの上に広げていたダイアリーや本を片して机の上に置きます。シャワーを終えたクロエは物が移動していることに気づき悲鳴をあげます。
次第にクロエはその存在は亡くなった親友ではないかと感じ始めます。そして、家族に「何かの存在を感じないか」と聞きますが、皆相手にせず、タイラーは殊更に馬鹿にします。
映画『プレゼンス 存在』の感想と評価
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“それ”の正体とは
全編[幽霊目線]で描く展開する映画『プレゼンス 存在』。
“それ”は一家が引っ越してくる前からその家にいました。そして一家が引っ越してきて、一家の中でも一人娘のクロエだけがその存在を感じ取り、“それ”もクロエに対し自分の存在を知ってもらおうとしている印象を受けます。
クロエは、親友や身近な友人を亡くしていました。オーバードーズで亡くなったと思われる2人の少女。しかしその死の真相は、オーバードーズによる不慮の事故ではなく、彼女たちを狙ったライアンによる殺人でした。
その魔の手がまさにクロエにも忍び寄っていました。クロエは、そんなことにも気づかず、家族も向き合おうとしない彼女の不安な心に寄り添ってくれたライアンに、すっかり心を許してしまいます。
そんなクロエに死の危機が迫った時、“それ”は兄・タイラーを起こし、タイラーはライアンからクロエを救おうとし、自身もろとも窓から飛び降ります。
そして、タイラーは亡くなり、家から引っ越す準備をしている一家を捉えたラスト。母・レベッカは鏡に映ったタイラーの姿を見て「私の息子が帰ってきた」と泣き崩れます。
その場面があることで、“それ”の正体は兄だったのではないか、と考えた人も多いでしょう。
確かに、霊を感じ取れる女性が霊を見て「自分が何者か分かっていないけれど、何か使命がある」と言っていたことや、クロエとライアンの性行為を見ないようクローゼットに隠れている様子など、兄だとしたら納得ができることもあります。
しかしそれでは説明のつかないこともあります。クロエが自分1人ではなく家族がいるところで初めて“それ”の存在を感じたのは、タイラーがクラスメートの話をしていた時でした。
自分がしていた話に幽霊であるタイラーが怒り、タイラーの部屋のものを壊したともいえなくはないですが、やはり生きているタイラーと幽霊であるタイラーが同時に存在しているのは変です。
では、“それ”の正体は何なのでしょうか。一つは、亡くなった(その後、殺されたことがわかる)親友の可能性があります。しかし、幽霊は必ずしも生前の記憶や心残りが止まった1人の存在ではなく、様々な人の感情や存在の複合体であるとも言われてきました。
そう考えるとナディアの心残りや、かつてこの家に住んでいた人の思いが複合された存在が“それ”だと考えることもできるのではないでしょうか。
ラストの場面で鏡に映ったタイラーの姿を見て泣き崩れる母を映し出した後、カメラは空に浮遊していく姿を映し出しています。空に浮かび上がったのは、“それ”が成仏したと考えることもできます。
“それ”がタイラーであった場合は、タイラーが家族の前に現れ、その後成仏したとも考えられますし、かつてその家にいた“それ”が成仏し、代わりにタイラーが家に住み着く幽霊になったと考えることもできます。
明確な答えを明示せず解釈を観客に委ねている本作。観客によって感じる“それ”の正体や目的も変わってくるのではないでしょうか。
まとめ
(C)2024 The Spectral Spirit Company. All Rights Reserved.
全編[幽霊目線]で描く展開する映画『プレゼンス 存在』では、展開が進んでいくとともに“それ”の存在を考察していく一方で、“それ”の目線を通して一家を俯瞰する映画でもあると言えます。
家族は決して仲が良いとは言えず、崩壊寸前です。
母のレベッカは、息子のタイラーばかり気にかけて、タイラーのためなら何だってすると言います。夫婦の会話から、レベッカはタイラーのために法を犯したかもしれないと推測できますが、その内容が劇中で明かされることはありませんでした。
夫のクリスは、レベッカが全てを決めるのを見るのが好きだったと言いますが、次第にそれが行き過ぎていると感じていますが、レベッカにうまく伝えることができません。
クリスは、タイラーばかり可愛がり友人が亡くなって心を閉ざしたクロエには何もしようとしないレベッカに代わって、クロエを気にかけますが、クロエはそんな父に心配させないようにしてしまいます。
自分が妹とうまくいかなかった経験から、兄に、妹の味方をしてやれとクリスは言いますが、タイラーには届きません。自分のクラスでのランクばかり気にするタイラーは、妹の不安定さを煩わしく思っています。
クロエもクロエで、塞ぎ込み、自分の気落ちを家族に話すことができません。そんなクロエに「自分で決めていい」と選択肢を与え、話を聞いてくれるライアンを信用してしまいます。
家族の誰も気づいていないクロエの身の危険を知っているのは、“それ”と私たち観客のみです。まるで“それ”のもどかしさが画面を通じて私たち観客にも伝わってくるようです。
そのようなもどかしさは、“それ”の生前の悔しさ、心残り、無念とも繋がっているのかもしれません。
しかし、一家の物語と“それ”とクロエのつながりがうまく噛み合っているわけではなく、唐突なラストという印象も受けます。ライアンの存在も分かりやすい変態的なサイコパスになっていますが、強引な印象もあります。
やりたいことと映画の完成度が高いとは言えない映画ですが、撮影法も含めて、ソダーバーグ監督がインディーズ映画のような粗のある映画を作ったという意外性は、かえって味わい深いとも言えるかもしれません。