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【ネタバレ】クラブゼロ|あらすじ感想と結末の評価レビュー。ハマるとヤバい意識的な食事が生徒たちを導く先にあるものとは?

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

ヘルシーで幸福度がアップする最新の健康法とは

「意識的な食事」を説く栄養学教師と彼女に心酔する生徒たちの運命を、ブラックユーモアを交えて描いたスリラー『クラブゼロ』

名門校に新たに赴任してきた栄養学の教師・ノヴァク。彼女が生徒に教えるのは、“意識的な食事”と呼ばれる最新の健
康法でした。

ノヴァク先生に心酔していく生徒に比例して親たちはノヴァクの教えに疑問を感じ、ノヴァクを危険視するようになりますが時すでに遅く……。ノヴァクが導く先にあるものとは……。

本作は、『リトル・ジョー』(2020)、『ルルドの泉で』(2011)のジェシカ・ハウスナー監督が手がけるイニシエーションスリラーです。

謎多き栄養学のノヴァク先生を演じたのは、『ピアッシング』(2019)のミア・ワシコウスカ。

本作には行動統制と摂食障害に関する描写があります。鑑賞の際はお気をつけください。

映画『クラブゼロ』の作品情報


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

【日本公開】
2024年(オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール合作映画)

【原題】
Club Zero

【監督・脚本】
ジェシカ・ハウスナー

【キャスト】
ミア・ワシコウスカ、エルサクセニア・デブリン、フレッドルーク・バーカー、ラグナフローレンス・ベイカー、ベンサミュエル・D・アンダーソン、ヘレングウェン・カラント、ミス・ドーセットシセ・バベット・クヌッセン、エルザ・ジルベルスタイン、マチュー・ドゥミ、アミール・エル=マスリ

【作品概要】
監督を務めたのは、オーストラリア出身でミヒャエル・ハネケに師事したジェシカ・ハウスナー。長編デビュー作である『LovelyRita ラブリー・リタ』(2001)は、第54回カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品され注目を集めます。他の作品に、『リトル・ジョー』(2020)、『ルルドの泉で』(2011)など。

ノヴァク役には、『ピアッシング』(2019)、『ナチス第三の男』(2019)のミア・ワシコウスカ。

共演には、『シモーヌ フランスに最も愛された政治家』(2023)のエルザ・ジルベルスタイン、『トムボーイ』(2021)のマチュー・ドゥミ、『インフェルノ』(2016)のシセ・バベット・クヌッセン。

映画『クラブゼロ』のあらすじとネタバレ


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

名門「THE TALENT CAMPUS」に新しく赴任してきたのは、栄養学の教師・ノヴァクでした。ノヴァクは、最先端の健康法である「意識的な食事」を生徒に教えるため招かれました。

校長は学校の説明をし、生徒たちに「There is more in you(可能性を秘めている)」と伝えることが大事だと話します。そんな校長に対し、ノヴァクは自らがプロデュースする断食茶をプレゼントします。

スポーツのための体づくりや、奨学金、環境問題を考えるため……と様々な理由でノヴァクの栄養学の授業を選択た生徒たち。ノヴァクは「意識的な食事」は身体にとっても環境にとっても良いと教えます。

「意識的な食事」を実践するため、一口を小さくし、目の前の食べ物に意識を集中するように言います。そして食事量を減らせば細胞が活性化し、強い身体が得られると説きます。

ノヴァクの授業の選んだ生徒たちはそれぞれ家庭にも事情がありました。

トランポリンの選手であるラグナは、健康志向の父親が作るベジタリアンの食事をとっていました。ノヴァクを学校に招いたのもラグナの両親でした。ラグナが「意識的な食事」を学ぶことにも賛同していました。

エルサは外見や綺麗な母親を意識して少食を心がけていました。また、フレッドは幼い弟を連れて両親が出張に行き、週末も寮で過ごしています。

フレッドも共に出張に行きたいと言いますが、「高校は卒業した方がいい。それに糖尿病の持病もあるから」と言われています。

生徒たちは「意識的な食事」をすることにより、少量で満腹になり、身体が活性化するのを感じ始めます。フレッドはインスリンの注射をしなくてもよくなったと言います。

皆が「意識的な食事」を実践している中、ひとり実践していない生徒がいました。それは、奨学金のために授業を選択したベンです。

ノヴァクが校長先生に相談すると、ベンは非常に優秀な生徒で、シングルマザーの母親のため、奨学金を得ようと頑張っていることを話します。

ノヴァクは授業の中でベンにどうして「意識的な食事」をしないのか尋ねます。「あなたも仲間に入りたいはず」と言うノヴァクにベンは、「自分のために食事を作ってくれる母親を悲しませなくない」と言います。ノヴァクは「母親は食べなくてはいけないという思い込みを押し付けている。それに応える必要はない」と諭します。

そしてベンも「意識的な食事」を実践するようになります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『クラブゼロ』ネタバレ・結末の記載がございます。『クラブゼロ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

「意識的な食事」は次の段階へと進み始めます。一度に一種類の食事しか摂らない「モノ・ダイエット」です。「食べないと死ぬというのは思い込みに過ぎず、そのように言う人々は自分たちの当たり前が崩壊するのを恐れている」とノヴァクは言います。

授業を受けていた生徒たちの中に、「ノヴァク先生は極端だ、過激すぎる」という意見を言う生徒が出てきました。さらに保護者も「意識的な食事」と言って殆ど食べない子供たちの様子に違和感を覚え始めます。

エルサの父は怒って食べるように圧力をかけますが、逆効果でエルサは食べた後嘔吐を繰り返すようになります。

ベンの母も驚いて「無理して奨学金を得ようとしなくていい、他の学校に転校してもいい」と言いますが、ベンは耳を貸さず、「食べなくてはいけないというのは思い込みでしかない」と答えます。

そんな馬鹿なことがあるわけがないと驚いたベンの母は校長にノヴァクの指導が行きすぎていると訴えますが、校長は「ノヴァク先生は生徒思いでよくやってくれている」と言い、様子を見ると答えました。

校長が見ている前では普通に食事をしている様子の生徒たちですが、見ていないところで全て捨てて殆ど食べていません。

両親と離れ孤独なフレッドはノヴァクに教師以上の感情を抱き、ノヴァクも必要以上に肩入れしていました。そんななか、ノヴァクはフレッドをオペラに誘います。そこでフレッドのバレエ講師がその公演に居合わせ、2人の関係を訝しみます。

「意識的な食事」は最終段階に突入します。何も食べないでいることは可能だと言い、世界的な団体が存在することを明かします。その名は「クラブゼロ」。ノヴァク自身もその会員だと言います。

「クラブゼロ」の話を聞いてついていけないと数人の生徒が離脱します。そんななか残った生徒たちは「何も食べないこと」を実践していきます。

インスリン注射をやめたフレッドは、糖尿病昏睡(ケトアシドーシス)になり病院に運ばれます。連絡を聞いて帰国した父親は、フレッドの様子を聞くとフレッドは大丈夫、問題ないと言います。

父親はフレッドが痩せすぎていることに疑問を感じながらも仕事の方が気がかりで、フレッドにきちんと話を聞くことなく、校長に監督するよう言付けるとすぐに仕事のため出国してしまいます。

フレッドのバレエ講師は、フレッドがバレエに集中して欲しい時期であるのに、ノヴァクと過ごす時間が多く、2人の関係を訝しみ、校長に2人の私的な付き合いを報告します。

校長はノヴァクはよくやっているけれど、超えてはならぬ一線を超えたとノヴァクを危険視します。そのことは保護者にも伝えられ、保護者会でノヴァクの即解雇が決まります。

ノヴァクは納得できないといった様子でしたが、校長は断固として聞き入れず、「あなたは生徒思いの優秀な先生だということはわかっている。それでも生徒との私的な交流は許されるものではないの」と解雇を覆しませんでした。

ノヴァクの解雇後も生徒たちは断食を続けます。危機感を覚えたエルサの両親は何とかして食べさせようとしますが、抵抗して部屋に引きこもります。それでも説得する親の前で、食べた物を吐き出して、その吐瀉物を再び口にします。

他の家庭でも同様に、何を言っても子供たちは聞き入れる様子がありません。親たちは再び集まり、「ノヴァク先生の言うことなら聞くからノヴァク先生を呼び戻すのが良いのではないか」という意見に多くの親が賛同するなか、ベンの母親は断食を強要した元凶がノヴァクだと異を唱えます。

しかし、他の親たちの意見により呼び戻す方向になります。

その頃、ノヴァクの家にスキー旅行に出かけたヘレン以外のエルサ、ラグナ、フレッド、ベンが揃います。「何も食べないこと」を成し遂げた生徒たちにノヴァクは、「正式にクラブゼロの会員と認めます」と言います。生徒たちは喜びの表情を浮かべます。

それぞれの家に生徒たちは帰り、迎えたクリスマス・イブの日。フレッドはベンに招かれ共にベンの母の食事を口にします。今までが嘘だったかのように、微笑を浮かべ食事を食べるベンとフレッド。

同じようにエルサもラグナも家で家族と共にクリスマスを祝い、食事を口にします。親たちは安心して眠り、クリスマスの日を迎えます。

しかし、どの家庭も部屋に子供たちの姿はありませんでした。ベンの母は、ベンの置き手紙を手にします。「心配しないで、探さないで」と書かれた手紙を前に呆然とするのでした。

映画『クラブゼロ』の感想と評価


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

子供が村から消える……と聞いて思い出すのは、ドイツの昔話『ハーメルンの笛吹き男』でしょうか。本作はまさに『ハーメルンの笛吹き男』が出発点になっていると言います。

『ハーメルンの笛吹き男』では、村の大人たちが正当な報酬を払わなかったため、子供が連れ去られました。しかし、本作においてノヴァクが生徒と共に消えたのは、報酬を払わなかったらというわけではないでしょう。

しかし、全く関係がないわけでもないでしょう。泊まり込みで週末も出勤し、生徒のために働く教師という仕事において、正当な対価が払われているかという問題や、親身になって指導し、愛を注いだノヴァクに対し、即解雇という仕打ちをしたということにおいて、ノヴァクが子供をさらうことにつながっているともいえます。

そのような『ハーメルンの笛吹き男』になぞらえた要素もありつつ、本作が提示しているのは、親によるプレッシャーがかえって子供の反発をうむことや、無関心によって子供が遠いところにいってしまう、どこまで親は子供を守れるか、向き合えるかという問題が大きいでしょう。

思春期を迎えた子供は、親に対して反抗する時期でもあります。「可能性がある」がモットーの名門「THE TALENT CAMPUS」において、生徒たちは常に様々なプレッシャーを背負っています

親の期待に応えたいという思いは子供を縛り付けるものでもあります。また、生徒たちが学業やスポーツで成果を出すことが、名門校である「THE TALENT CAMPUS」において宣伝効果にもなります。学校からもプレッシャーを与えられているのです。

外見至上主義による過度なダイエット、環境問題への意識など生徒たちそれぞれが抱える問題、悩みは現代社会の若者が直面しているものとつながってきます

そのような問題を浮き彫りにしながら、本作はユニークかつ痛烈さを持って資本主義や現代社会に蔓延るイデオロギーへのアンチを繰り広げます

生徒の立場によって見れば、“食べないこと”は親や資本主義に対する最大の抵抗であり、抵抗することがプレッシャーから解放されることにつながっているといえます。

更に、抑圧によってプレッシャーをかけ、自分を理解しようとしない親に対して感じていた不満や不安、孤独を巧みにすくいとって心を掴んでいくノヴァクの姿は、現代の若者を巧みに利用する存在とも言えるかもしれません。

子供の心の隙間に気づけない親と、甘言に騙される子供。愚かなのはどちらで、どうするべきだったのか……強烈なラストに何を感じるでしょうか。

解放か、後悔か……感じることは子供と親、どちらの立場に立って見るかによっても変わってくるかもしれません。

まとめ


(C)COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINEMA 2023

ハマるとヤバい?「意識的な食事」にのめり込んでいく生徒の姿を描くイニシエーションスリラー『クラブゼロ』。

本作で印象的なのは、色彩と不穏な音楽でしょう。その2つは、前作『リトル・ジョー』(2020)においても印象的でした。『リトルジョー』では、赤色の植物の色彩が特に印象深く残っている人も多いでしょう。

また生徒の制服の黄色の色も挙げられます。この色は、学食のトレーとも近い色になっています。明るい配色でカジュアルな制服はポップな印象を受けます。

そのような印象的な制服など衣装を手がけたのは、ジェシカ・ハウスナー監督の妹であるターニャ・ハウスナーです。『リトルジョー』をはじめジェシカ・ハウスナー監督の衣装を手がけるほか、ウルリヒ・ザイドル監督の『パラダイス』三部作や『グッドナイト・マミー』(2014)に参加しています。

また、衣装だけでなく紫を基調としたエルサの部屋など同系色を使った明るい色味が映画全体を通して使われています。

その明るさがかえって異様なものとして映るのは、不穏な音楽のなせる技でしょう。また、その明るさが人工的なものとして映ることも異様な雰囲気につながっています。

ビバリウム』(2021)や『ピンク・クラウド』(2023)など原色的な色彩とはまた違う、くすみはありつつも明るい配色を用いたスリラーは他にもあります。

柔らかく、可愛いと思われる色味が、どこか不気味に映る異様さは色が私たちに与えるイメージと相反するものでもあり、興味深い演出と言えます。

そのように、衣装や建築など映画の細部まで意識してみるとまた違った視点で見ることができるかもしれません。



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