Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ホラー映画

Entry 2020/04/06
Update

映画『リトル・ジョー』感想とレビュー評価。キャストのエミリービーチャムがカンヌ映画祭女優賞を受賞した“赤い美しさと幸福に潜む恐怖”

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『リトル・ジョー』は7月17日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかでロードショー。

人々に幸福をもたらすという新種の植物の恐怖を、鮮やかな色彩感覚をもつこだわりの映像で描いた映画『リトル・ジョー』

研究室で開発、栽培された新種の植物「リトル・ジョー」をめぐり、開発した研究者たちを取り巻く人たちの恐怖体験を描きます。

作品を手掛けたのは、オーストリアの新鋭ジェシカ・ハウスナー監督。また主人公の女性研究員をエミリー・ビーチャムが演じ、本作でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞しました。

映画『リトル・ジョー』の作品情報


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

【日本公開】
2020年(オーストリア、イギリス、ドイツ合作映画)

【原題】
Little Joe

【監督・脚本】
ジェシカ・ハウスナー

【キャスト】
エミリー・ビーチャム、ベン・ウィショー、ケリー・フォックス、キット・コナー

【作品概要】
その香りが人々を幸せにするという新種の植物「リトル・ジョー」をめぐり開発した研究者のアリスと、彼女を取り巻く人たちとの恐ろしい体験を描いた異色スリラー。監督はカンヌ映画祭の「ある視点部門」上映で注目を浴びた『Lovely Rita ラブリー・リタ』や『ルルドの泉で』を手掛けたオーストリアのジェシカ・ハウスナー。

また仕事漬けで息子への罪悪感を抱える主人公、アリス役を『28週後…』『ヘイル、シーザー!』などのエミリー・ビーチャムが担当、本作でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞しました。また「007」シリーズのベン・ウィショーが、アリスに尊敬と恋心を抱く助手のクリスを演じています。

映画『リトル・ジョー』のあらすじ


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

バイオ企業で新種の植物開発に取り組む研究者のアリス(エミリー・ビーチャム)は息子のジョー(キット・コナー)と暮らすシングルマザー。

彼女は見た目が美しいだけでなく、特殊な効果をもつ深紅の花の開発に成功。その花はある一定の条件を守ると、持ち主に幸福をもたらすといいます。

その条件とは…。

1.必ず、暖かい場所で育てること
2.毎日、欠かさず水をあげること
3.何よりも、愛すること

公の場への発表を控え、花の栽培に勤しんでいたアリスたちでしたが、そんな中で彼女は会社の規定を犯して息子への贈り物として花を一鉢自宅に持ち帰り、それを”リトル・ジョー”と命名します。

ところが花が成長するにつれ、アリスは息子の行動に違和感をおぼえはじめます。

またある日、アリスの同僚ベラ(ケリー・フォックス)の愛犬ベロが一晩リトル・ジョーの温室に閉じ込められるというハプニングに遭遇、それ以来ベロの様子がおかしいと確信し、原因が花の花粉にあるのではと疑いはじめます。

また同じ時にアリスの助手、クリス(ベン・ウィショー)もリトル・ジョーの花粉を吸いこんでおり、アリスは息子同様にその異変を感じ取っていました。

人々に徐々に広まっていく異変。その違和感は、果たしてこの植物がもたらしたものなのか……。

映画『リトル・ジョー』の感想と評価


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

物語を寓話へと変化させる“幸福という曖昧”

ひとり、また一人と得体の知れないものに取り付かれ、最後には自分の大事な人も乗っ取られ、そして自分もという展開は、SFホラー映画1956年のドン・シーゲル監督の『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』を彷彿させます。

一方でこの作品のユニークな点は「幸福」というものを、ある意味具現化しているところにあります。

幸福感というものは誰しも人間に備わっているものでありますが、実際のところセロトニンやエンドルフィンなどのいわゆる「幸福ホルモン」と呼ばれる医学的な根拠などは実証されているものの、実のところ人それぞれが実感する「幸福」というものを定量的な尺度として表すことはできません

これに対し、この作品は「持ち主に幸福をもたらす植物」を開発したという断定から物語が始まります。

果たしてその「幸福」というものをどう定義して、彼らはその植物を開発したのかは本作では全く語られません。つまり本作の中で明確に表現される「幸福」は、登場人物の笑顔以外にはありません。

その「幸福」という位置づけは「新種の植物を開発」という現実的な側面がありながら、作品を寓話へと変化させて見る側に「果たしてこの物語は現実的なものなのか、あるいは妄想的な表現なのか」という混沌をもたらします。

そしてこういった作用が、「幸福」とは人にとって良いものなのだという固定観念を打ち壊しており、雰囲気と相まって恐怖感とともに非常にイマジネーションの広がると興味深い作品です。

赤色が生み出す美しさ、恐怖感


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

一方で本作は「リトル・ジョー」の色をベースとした鮮やかな色彩構成で画面のイメージが構築されており、全般的に赤色が多い配色で物語のミステリアスな雰囲気を作り上げています。

研究室いっぱいの赤い花、その赤にさらに当てられる赤色の栽培用ライト。またそれとは対照的にアリスの家で、一輪だけで咲いているリトル・ジョー、またある時には研究所の打ち合わせコーナーでは、赤色が全く出てきません。物語の展開に合わせてこうした映像のバランスのとり方は巧妙に作られています。

そのため物語の中で赤という色は「幸福」の象徴でありながら、一方で「恐怖」の象徴となっている、という核心の部分を担っています。

またこれと対比して非常に興味深いのは、バイオレンスなシーンや鮮血が飛び散るようなグロテスクな表現が一切排除されている点。劇中では「そこまでやるか」と思えるほどにこういったシーンを排除し、作品の美しさを保つとともにかえって恐怖感を倍増させる要因を作り上げています。

まとめ


(C)COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019

本作『リトル・ジョー』で音楽を担当したのは日本人の伊藤貞司。洋画には珍しく尺八の音色を全編にまぶした音楽は大きなインパクトをもたらし、作品に独特の世界観を与えることに成功しています。

また面白いのは、アリスと息子の食事シーン。いくつかある食事シーンで、彼らは日本食を食べる姿が映し出されているのですが、映像と音楽のつながりに何らかの関連付けを与えているようでもあり、かつシリアスな展開で緊張感が持続される中にふとホッとできるようなエアポケットを設けているようでもあります。

そういったさまざまな配慮は斬新でもあり、新たな映像づくりの流れを生む予感すら醸しています。

映画『リトル・ジョー』は7月17日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかで公開されます!

関連記事

ホラー映画

【来るネタバレ】映画結末の岡田准一と小松菜奈のラスト意味の真相と解説。知紗の歌を翻訳すると秘密が⁈

2018年の年末からの冬休みに注目必至なのは、第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の原作『ぼぎわんが、来る』を映画化した、中島哲也監督のホラー・エンターテイメント作品『来る』。 独特の作風で高 …

ホラー映画

映画『樹海村』ネタバレ感想評価と考察レビュー。コトリバコは実在の心霊スポットなる場所と融合し“約束”の恐怖と化す

映画『樹海村』は2021年2月5日(金)より全国ロードショー公開! 2020年に大ヒットした『犬鳴村』に続く「恐怖の村」シリーズ第2弾であり、「自殺の名所」と知られる富士・青木ヶ原樹海、インターネット …

ホラー映画

映画『ディストピア パンドラの少女』あらすじとキャスト!試写会情報も

人類がハングリーズ化した世界に現れた、二番目の子供たち。彼女は人類の希望か、絶望か…。 「カズオ・イシグロ meets ウォーキング・デッド」と絶賛された小説を映像化した『ディストピア パンドラの少女 …

ホラー映画

ワニ映画2019『クロール 』ネタバレ感想レビュー。パニックとサバイバルの「凶暴領域」に襲われた父娘の絆

映画『クロール -凶暴領域-』は2019年10月11日(金)よりロードショー! ホラー映画の巨匠であるサム・ライミが製作、『ピラニア3D』などを手掛けたアレクサンドル・アジャが監督を務めたモンスター× …

ホラー映画

【ネタバレ】トンソン荘事件の記録|あらすじ結末感想と評価解説。実話と錯覚する“リアルさ”でフェイクドキュメンタリーが追う“映ってはならないもの”

“映ってはならないもの”を追うフェイクドキュメンタリー! 1992年・釜山の「トンソン荘」で起きた殺人事件。殺人事件を起こした犯人は、隠しカメラで一部始終を撮影していました。そのビデオが、当時検事らの …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学