誘拐犯に襲いかかるバレリーナヴァンパイア(踊る吸血鬼)を描くホラーアクション
面識のない6人の男女で構成された犯罪グループは、5,000万ドルの身代金を得るため、富豪の娘を誘拐します。
後は一晩少女を監視すればいいだけ、でした。
しかし、少女の正体はバレリーナヴァンパイア(踊る少女)だったのです。
監禁されたのは少女ではなく、犯罪グループ側だったことに気づいた時にはもう遅い。彼らは容赦なく襲いかかるヴァンパイアから逃げ切ることができるのか……。
Netflix映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』(2022)で注目を浴びたアリーシャ・ウィアーが、初のホラー映画出演でバレリーナヴァンパイアを魅力的に演じます。
監督を務めたのは、『レディ・オア・ノット』(2019)や、『スクリーム』(2022)のマット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレット。
映画『アビゲイル』の作品情報
【公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
Abigail
【監督】
マット・ベティネッリ=オルピン、タイラー・ジレット
【脚本】
スティーブン・シールズ、ガイ・ビューシック
【キャスト】
メリッサ・バレラ、ダン・スティーブンス、キャスリン・ニュートン、ウィル・キャトレット、ケビン・デュランド、アンガス・クラウド、アリーシャ・ウィアー、マシュー・グード、ジャンカルロ・エスポジート
【作品情報】
『レディ・オア・ノット』(2019)や、『スクリーム』(2022)のマット・ベティネッリ=オルピン&タイラー・ジレットが監督を務めたアクションスリラー。
バレリーナヴァンパイアを演じたのは、Netflix映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』(2022)のアリーシャ・ウィアー。
犯罪者グループには、『イン・ザ・ハイツ』(2021)のメリッサ・バレラ、『美女と野獣』(2017)のダン・スティーブンス、『ザ・スイッチ』(2020)のキャスリン・ニュートンなど。
映画『アビゲイル』のあらすじとネタバレ
元軍医のジョーイ、元警官のフランク、裕福な家出身でハッカーのサミー、用心棒のピーター、元海兵隊のリックルズ、ドライバーのディーン。
互いに面識のない男女6人は、ランバートの手引きによって集められ、とある富豪の娘を誘拐することになります。しかし、誰の娘を誘拐するのか、娘の年齢も知らされていませんでした。
屋敷に忍び込んだジョーイは、部屋を見て「誘拐するのは子供なの?」と動揺しますが、そんなジョーイにフランクは、「だったら何だ、やめるなら出ていけ」と言われます。
バレエの練習から帰った富豪の娘・アビゲイルを注射で眠らせ、連れ出そうとすると、父親らしき人物が帰ってきてしまいます。アビゲイルが誘拐されたことに気づき、警報を鳴らしますが、間一髪で屋敷を抜け出し車に乗り込みます。
そして郊外の屋敷にたどり着くと、出迎えたランバートが手短に説明をします。捕まった時に自白させないため、それぞれ偽名をつけ、携帯を回収し、アビゲイルの父親が身代金を払うまでアビゲイルを監視しつつ待機することになります。
皆はお酒を飲んで談笑していますが、アビゲイルの世話役を頼まれたジョーイは断ります。そんなジョーイにディーンが、ジョーイの素性を予想してみせます。そんなディーンにジョーイは「外れている」と言います。
フランクは、「一つでも当てて見せたらこのお金をやる」とジョーイを焚き付けます。最初は断ったジョーイでしたが、「元警官だ」とフランクの正体を当てます。「歩き方でわかる。そして頭も切れるから刑事ね。ここら辺にも最近来たばかり」と他にも当ててみせます。
周りも驚き、次はピーターが「面白い、俺のことも当ててみろ」とお金を出します。「父親に虐待され、強くなると立場は逆転。力で仕事を得るも、周りに馬鹿にされている」と言います。
更に、サミーも乗っかります。「お金持ちのお嬢さんで最初の盗みは親の口座から。自分の手は汚さず、パソコンで罪悪感を紛らわしている」とジョーイは言います。
リックルズは、「お金は持っていない」と言い、ジョーイは「では元海兵隊とだけ。酷いこと言われなくて良かったわね」と返します。
「お前はジャンキーだ。ヤクの代わりに飴をなめ、酒を避けるのもそのせいだ。邪魔だけはするな」とフランクは牽制します。
ジョーイはアビゲイルの様子を見に行きます。目隠しをされ、縛られて怯えているアビゲイルの様子を見たジョーイは、アビゲイルの目隠しを取り、後ろ手にかけられていた手錠を前にかけ直します。
そして「何も酷いことはさせない。私が守るから」とアビゲイルに約束します。そして「アビゲイルの父親が身代金を払えば解放する」というと、アビゲイルは「私はパパに愛されていないの。だから残念だったわね」と言います。
アビゲイルの発言に驚いたジョーイは皆のところに戻ると、「アビゲイルの父は誰か知っている?」とたずねます。ジョーイの様子に異変を感じたフランクは、アビゲイルの父親の名前を聞きに行きます。
目隠しをしていると思い、顔を隠さずアビゲイルの部屋に入ったフランクはアビゲイルが目隠しをしておらず、顔を見られてしまったことに動揺し、銃で脅しながら「顔を見たか? 目の色は何色だ?」と問い詰めます。
怯えながら「見ていない」と答えるアビゲイルに、父親の名前を聞きます。その名前を聞いた瞬間フランクは、部屋を飛び出し「俺は降りる」と言い始めます。
アビゲイルの父は、政界にも影響を及ぼす大物で、報復されることを恐れたのです。そんなフランクでしたが、説得され残ることにします。父親が雇った殺し屋が来るかもしれないと警戒したフランクは、警戒するよう皆に言います。
映画『アビゲイル』の感想と評価
70〜80年代のスラッシャー映画をはじめとしたホラーブームを再起させつつも、進化を遂げてきた昨今のホラー映画。
そのような様々な進化を遂げているホラー映画界に新たなスターの誕生を感じさせるのが『アビゲイル』です。本作の一番の魅力はアビゲイルのキャラクターといっても過言ではないでしょう。
純粋無垢な少女のように誘拐されて怯えていた少女が残忍な殺し屋であるという衝撃だけでなく、皆を弄びゲームをするかのように嬉々として狩っていく姿は、恐ろしくもユーモラスで魅力的です。
それだけではなく、フランクがヴァンパイアになったことでアビゲイルはジョーイにともに戦って欲しいと言います。ラストのジョーイとアビゲイルの連帯が説得力のあるものとして観客に映ったのは、序盤にきちんと布石を置いているからといえます。
では、その布石とはなんでしょうか。まず、ジョーイは非常に洞察力に優れた人物であり、犯罪集団の中でも良心的な存在として描かれます。誘拐する前に相手が子供であることを知って躊躇ったのはジョーイ1人です。
それはジョーイに同じ年頃の息子がおり、自分が麻薬中毒になったことで疎遠になり見捨ててしまったという罪悪感と、この仕事でお金を得てやり直すんだという強い思いがあったことも関係しています。
フランクもジョーイ同様に子供と妻を見捨てていますが、フランクは利己的で差別的で、倫理観のない人物として描かれています。フランクとジョーイは共通点もあり、頭脳派という点で似てもいますが、倫理観の点で異なり、対となる存在となっています。
洞察力に優れたジョーイでもアビゲイルの正体は見抜けませんでした。それは、アビゲイルがジョーイらより遥かに長く、何世紀にも渡って生きているということや、相手が少女ということで疑っていなかったということもあるでしょう。
そのような意味で本作はなめていた相手が実は……という『ジョン・ウィック』(2014)などに見られる衝撃も、きちんとおさえています。
しかし、それだけではジョーイとアビゲイルの間にある絆のようなものは感じられませんが、アビゲイルの言葉の中にあった本音をジョーイが見抜いていることが肝になってきます。
実は全て自分が仕組んだことだと白状したアビゲイルにジョーイは、「父の敵をたくさん殺しても父はあなたのことを愛さない。父に愛されていないというのはあなたの本心でしょう」と指摘するのです。
それはアビゲイルにとって図星であり、最後の父の登場によってその布石が生きてくるのです。
アビゲイルにとってジョーイは獲物でしたが、アビゲイルに対し子供だと馬鹿にして高圧的な態度をとったフランクと違い、ジョーイは親身になってアビゲイルを守ると約束してくれた優しさがありました。
その優しさを信じたアビゲイルの“約束”のサインでジョーイはアビゲイルと共にフランクを倒す決意をします。散々騙してきたアビゲイルが、フランクを倒した後本当に解放してくれるかどうかはジョーイにもわからなかったかもしれません。
でもあの場面でフランクを倒さなければ、自分も殺されると感じたジョーイはアビゲイルを信じることにしたのです。
そんなジョーイと裏腹にアビゲイルを倒し、共に世界を牛耳ろうと提案したランバートをフランクは殺します。フランクは最初から誰も信用せず、誰の約束も守る気はないのです。
そんなフランクにアビゲイルとジョーイが連帯して倒し、その後にアビゲイルが父親に立ち向かって自分の思いを伝えることにもつながっていきます。
そばにいてくれない、愛してくれない、利用するだけの父とジョーイは違っていた、だからジョーイは殺させない、アビゲイルの強い意志に父も折れます。
ジョーイに、まだ間に合う、息子のことを諦めないでと背中を押すアビゲイルの姿は、長く生きてきたけれど父に愛されなかったアビゲイルの悲しさがそこにあります。
王道の展開や、様々なホラー映画のオマージュも交えつつアビゲイルのキャラクターの魅力にハマってしまうホラー映画です。
まとめ
誘拐した富豪の娘の正体はバレリーナヴァンパイアであったという衝撃のサバイバルホラー映画『アビゲイル』。
バレエのダンスを取り入れた手足を自在に駆使した戦い方も魅力の一つです。
また、首の取れたディーンの死体と共にダンスをしたり、サミーを操ってヒップホップ調の音楽ともに踊ったり…と不気味さとコミカルさが融合したダンスシーンに、『ミーガン』(2023)を思い出した人もいるのではないでしょうか。
『ミーガン』もヴィランでありながら魅力的でどこか応援したくなるようなキャラクターでした。
『アビゲイル』では、アビゲイルの魅力が大きな見どころではありますが、犯罪者グループも非常に魅力的なキャラクター揃いといえます。
ジョーイは良心的な人物でありながら、弱さもありその弱さが麻薬に溺れるというところに繋がっています。
しかし、軍医であった彼女は敵に立ち向かう強さを持っています。フランクに対し、ファイティングポーズをし、果敢に立ち向かっていきますが、フランクの強さを前に吹き飛ばされてしまいます。
吹き飛ばされたジョーイをアビゲイルがキャッチし共闘する流れには思わず胸が熱くなります。
そんな2人が立ち向かうフランクにも、ヒールとしての魅力があります。フランクの存在があるからこそ、アビゲイルのヴィランでありながらヒーローでもある二面性が引き立つのです。