分断されたアメリカをディストピアに描くA24製作の衝撃作
A24製作、『エクス・マキナ』(2015)のアレックス・ガーランド監督・脚本作の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が2024年10月4日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショーされます。
内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線での取材を試みるジャーナリストたちをサスペンスフルに描いた衝撃作の見どころをご紹介します。
CONTENTS
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の作品情報
【日本公開】
2024年(アメリカ映画)
【原題】
Civil War
【監督・脚本】
アレックス・ガーランド
【製作】
アンドリュー・マクドナルド、アロン・ライヒ、グレゴリー・グッドマン
【撮影】
ロブ・ハーディ
【美術】
キャティ・マクシー
【編集】
ジェイク・ロバーツ
【音楽】
ベン・サリスベリー、ジェフ・バーロウ
【キャスト】
キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー、ソノヤ・ミズノ、ニック・オファーマン、ジェシー・プレモンス(ノンクレジット)
【作品概要】
気鋭の映画会社A24製作、『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランド監督で贈るスリラー。内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを捉えるジャーナリストたちを追います。
出演は『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)のキルステン・ダンスト、Netflixドラマ「ナルコス」シリーズ(2015~16)のワグネル・モウラ、『DUNE デューン 砂の惑星』(2021)のスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、『エイリアン ロムルス』(2024)のケイリー・スピーニー。
A24史上最高の製作費となる5000万ドルを投じ、2週連続全米1位を獲得、世界興収1億2253万ドルを突破する大ヒットを記録しました。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』のあらすじ
連邦政府から19もの州が離脱したアメリカでは、テキサスとカリフォルニアの同盟からなる“Western Forces(西部勢力)”と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていました。
就任3期目に突入した権威主義的な大統領は、テレビ演説で政府軍の勝利を力強く訴えるも、ワシントンD.C.の陥落は目前。そこでニューヨークに滞在していた4人のジャーナリストは、14ヶ月一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うべく、ホワイトハウスへと向かいます。
しかし、戦場と化した旅路を進む道中で、彼らは内戦の恐怖と狂気に呑み込まれていくのでしたー
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』の感想と評価
分断されたアメリカをディストピアタッチで描く
アメリカでは大統領選が行われる年に、政権もしくは次期大統領候補をリンクさせる映画が必ずと言っていいほど作られます。
2008年に、ジョージ・W・ブッシュの大統領再選を阻止しようとオリヴァー・ストーン監督が突貫作業で撮った伝記『ブッシュ』(2008)はまさにそうですし、本年(2024)もドナルド・トランプ大統領候補の若き日を描く『The Apprentice(原題)』が、大統領選直前の10月11日に全米公開(日本公開は2025年予定)されます。
本国では4月に公開された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』もその系譜なのは明らかでしょう。ただ、前述した映画を含めた先行作品とは、少々趣が異なります。
任期3期目のために憲法を独断で改正した現アメリカ大統領政権に反発すべく、共和党支持が多い保守派のテキサス州と、民主党を支持するリベラルなカリフォルニア州が手を組み武装蜂起する――いわゆる分断されたディストピアなアメリカを描いています。
そもそも米国憲法において、現実の大統領任期は2期8年に制限されています。しかし、11月の大統領選に臨むトランプが、かつて現役大統領時に「憲法改正をして3期目を目指す」と発言したことを踏まえると、本作での大統領が重なります。
さらに、本作で描かれる全米各地でのテロや紛争描写も、2021年1月のトランプ支持派によるワシントン連邦議会襲撃事件を想起せずにはいられません。
監督・脚本のアレックス・ガーランドは、「現実的に深刻な問題は存在するし、いくつかの場所では実際に起きている。憶測ではない要素もある」と、今のアメリカをシニカルに見つめます。
「撮る」と「撃つ」は同じ
アメリカ内戦を起こした大元にして、14ヶ月取材を受けていない大統領に単独インタビューしようと試みる4人のジャーナリスト。ニューヨークからホワイトハウスがあるワシントンD.C.へと車を走らせる彼らの道中には、ハト派もタカ派も関係ないカオスが渦巻いています。
事故や災害、あるいは戦況を取材・撮影するジャーナリストは、目の前で死にそうになっていたり危ない目に遭っている人物を救うことはできません。それをしてしまうと職務放棄になるからで、当然彼らは、命の危険に及ぶ場にも進んで足を踏み入れる必要があります。
「自問自答するのをやめて、記録しなさい」と、ジャーナリストの1人で、著名な戦場カメラマンのリー・スミスは、彼女に憧れる新人のジェシーにカメラを持つことの心得を叩き込みます。
「このままだと目の前の人物が死んでしまうのでは…」「これ以上進んだら自分の身が危ないかも…」などと躊躇する暇があるぐらいなら、職務を全うしろ――それは起こった出来事を伝えることを生業とする者のプライド。「銃を撃つ」と「撮影する」は、英語では「shoot」、つまり同じ単語。カメラには銃のような殺傷能力はありません。が、時としてカメラは命以上のものを捉えます。
海外特派員をしていた祖父を持つガーランド監督は、「国を守るため、我々の自由な生活を守るためにジャーナリズムは必須。こんな世の中だから、映画ではヒーローとして描きたかった」と、ジャーナリストたちを主役にした理由を語ります。
まとめ
ホワイトハウスへと向かうリーたちに容赦なく向けられる危機。特に中盤での、独断で“アメリカ人の定義”を決めつける謎の兵士(演じるのは、リー役のキルステン・ダンストの夫ジェシー・プレモンス)による恫喝シーンは、本国アメリカで大きな波紋を呼びました。ガーランド監督は、この兵士がドナルド・トランプを意識したキャラクターであると明言しています。
そして、「自問自答をやめて、記録するの」とジェシーに命じたリーの言葉は、終盤での大きな伏線となっているのは言うまでもありません。
11月のアメリカ大統領選。その結果は世界各国の経済事情にも影響を及ぼすでしょうし、もしかすると、新たな“内戦”の引き金になるやもしれません。
ディストピアでありながら現実も描いた本作。秋シーズン公開映画の中でも、間違いなく要注目の1本でしょう。
映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は2024年10月4日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次ロードショー。
松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)