繰り返される悪夢の謎に立ち向かう3人の探偵の物語
2021年4月から日本テレビ系列の「日曜ドラマ」にて、全10話で放送された連続ドラマ『ネメシス』。
横浜の街を舞台とした風変わりな探偵ドラマとして人気を集めていた『ネメシス』でしたが、終盤に差し掛かるに連れて明らかとなったドラマ全体を通した仕掛けが話題にもなりました。
そして2023年、そんな『ネメシス』の劇場版作品がついに公開となりました。
今回は“仕掛け”も“物語”もドラマ版からさらに進化した『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』(2023)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
CONTENTS
映画『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』の作品情報
【公開】
2023年(日本映画)
【監督】
入江悠
【脚本】
秦建日子
【キャスト】
広瀬すず、櫻井翔、勝地涼、中村蒼、富田望生、大島優子、上田竜也、奥平大兼、加藤諒、南野陽子、橋本環奈、真木よう子、魔裟斗、栄信、岡宏明、駒木根葵汰、三島あよな、笹野高史、佐藤浩市、江口洋介
【作品概要】
『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017)や『シュシュシュの娘』(2021)を手掛けた入江悠がドラマから引き続き監督を務めた劇場版作品。
劇場版で新たに登場する謎だらけの敵「窓」を、『ザ・マジックアワー』(2008)や『愛を積むひと』(2015)で知られる佐藤浩市が演じました。
映画『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』のあらすじとネタバレ
ドラマ版作中にて、自身が父・始によって作られた“世界初のゲノム編集ベビー”であることを知った、探偵偵事務所「ネメシス」所属の探偵助手・美神アンナ。
始の研究を狙う菅朋美による陰謀を、ネメシスの所長・栗田と探偵・風真と共に打ち破ったアンナでしたが、その攻防の最中に始を殺害されてしまいました。
それから2年後。暗い部屋でアンナは、栗田の声がけで目を覚まします。二人は椅子に縛られており、奥から現れた風真は、アンナが始から受け取ったゲノム編集ベビーの研究データの在処を聞き出そうとします。
何も答えないアンナを見た風真は、持っていたレターオープナーで風真を刺殺しました。
……という悪夢を見て目を覚ましたアンナは、依頼が突然途絶えたことで家賃が払えなくなり、狭い事務所に移転せざるを得なくなったネメシスに出勤します。
栗田と風真は、犬の「獅子丸」を誘拐された老人・榎戸から「誘拐犯と獅子丸の確保」を依頼されており、その報酬が破格の1000万円であったことから上機嫌でした。
夜。一人暮らしを始め、好条件のマンションを運良く「家賃無料」で借りることはできたものの、アンナは生活費を稼ぐために交通整理のバイトを始めます。そのバイト中、路上生活者の取材を行い富裕層への不満を記事にするジャーナリスト・凪沙と再会します。
凪沙はアンナの一人暮らしを心配し彼女をルームシェアに誘いますが、アンナは一人で生きていくことを決意していたため、凪沙の誘いを断りました。
翌日。再び同じ悪夢を見たアンナは、昨日から自身を尾行している男に声をかけます。その男は「窓」と名乗ると、アンナに“黄金螺旋”の描かれた名刺を渡し「あなたにもあなたの大切な人にも時間がない」と警告してきます。
その直後、ネメシスとつながりの深い刑事の鷹弘と勇次、薫の乗る車が制御不能となって暴走している様子をアンナは目撃。3人の乗る車にトラックが追突したことで、3人はアンナの目の前で亡くなりました。
ネメシスに戻ったアンナは、獅子丸を誘拐した犯人が“仮想通貨”で身代金を要求しているのを知ります。栗田と風真は天才プログラマー・姫川に協力を求めますが、カフェで姫川が飲んだ紅茶に毒が入れられていたことで姫川は二人の前で絶命しました。
さらにマジシャンの緋邑や料理人のリュウとリンリン、道具屋の星、医師の上原、そして凪沙までも、何者の手によって殺害されてしまいました。
……という悪夢を見て目を覚ましたアンナ。その後、交通整理のバイトをしていると、例の男「窓」が彼女の前に姿を現します。
「現実で出逢うのは初めて」と語る窓は、自身を「ゲノム編集ベビーの研究データを狙う富裕層の代理」だと告げると、悪夢を現実としないためにアンナに手を組むよう求めますが、突然現れたバイクに乗る集団に鉄パイプでめった打ちにされ、そのまま死亡してしまいました。
翌日、窓の仲間たちは窓が襲われ死亡したことに驚きますが、依頼内容を遂行するために動き出します。
一方のアンナは、警察病院に収監されている朋美に窓についての助言を求めます。対して朋美は“黄金螺旋”が「アンナの人間関係」を指していること、窓の仲間たちがアンナとつながりの薄い人物から殺害を試みていることだけを伝えます。
アンナの異変を感じとっていた風真が彼女の家に見舞いに来ると、持っていた探偵道具「電磁波探知装置」を誤作動させてしまいます。すると、壁付近で探知装置が強く反応し、アンナが壁を破壊するとそこには巨大な装置が設置されていました。
星を呼び出し調査させると、その装置は人の脳に特定の電磁波を与えることで、見る夢をコントロールできる装置であることが判明。また装置には数億を超える制作費がかかっていること、装置をアンナに使うために不動産屋までをも用意した巨大な存在が、研究データを狙っていることも明らかになります。
事務所に向かう途中、凪沙と遭遇したアンナと風真でしたが、その場にバイクの集団が出現。目の届かない場所に行った凪沙は、ナイフで刺殺されてしまいます。
病院で凪沙の死を確認したアンナ。これが夢でないことに絶望し「自分が研究データを削除しなかったことで多くの人が傷ついている」と嘆きますが、栗田は「始が残したものは決して無駄なものではない」とアンナを励まし“ある策”を実行に移します。
一人道を歩いていたアンナは、再びバイクの集団に襲われ研究データの入った首飾りを奪われますが、その首飾りは偽物。バイク集団のアジトを突き止めた栗田は、刑事の鷹弘・勇次・薫の手を借り、バイク集団を一斉に検挙します。
検挙されたバイク集団の護送に同行するネメシスの3人でしたが、風真は「鉄パイプ」で人を襲っていたバイク集団が、凪沙の殺害時だけ「ナイフを用いたことに違和感を覚えていました。
すると、鷹弘・勇次・薫が乗るパトカーに突然トラックが追突し、3人は重傷を負って病院に緊急搬送されます。
目の前の状況に意を決したアンナは、もう一度自身の部屋に戻ると、装置でリピートさせられている悪夢の“続き”をわざと見ることで、手がかりを探すそうとしま。
映画『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』の感想と評価
コミカルさ・不気味さを兼ね揃えた劇場版
世界中の人間が欲する研究データを所持した探偵事務所「ネメシス」の3人は、常にシリーズの裏で暗躍する「富裕層」との戦いに巻き込まれることになります。
しかしそんな心配とは裏腹に、所長の栗田や探偵の風真は日々の依頼に一喜一憂しており、二人の登場する場面はドラマ序盤のようなコミカルな演出で物語が進んでいきます。
一方、毎日“仲間が死ぬ悪夢”を見続けるアンナのパートでは、夢と現実で接触を図る「窓」の存在や無機質な装置による監視など、ディストピアを思わせる不気味な演出に終始。
コミカルと思わせながらも、十数分に一度は人の死が巻き起こる不穏さ。「劇場版」であり「ネメシス」であるからこその風変わりな映画となっていました。
“ゲノム編集ベビー”をめぐる光と影
ドラマ終盤で明らかとなった、「アンナは“ゲノム編集ベビー”だった」という衝撃の事実。
遺伝子を操作することで、産まれる子どもの能力を決定づけることのできるゲノム編集ベビーという技術の存在は、現実世界でも問題となっています。
実際に2018年には、中国の研究者がエイズウイルスに感染しない双子を「ゲノム編集」で生み出したと発表し世界的なバッシングを受けることになりました。
狙った遺伝子情報だけを操作できなかった場合の安全面での問題はもちろんのこと、親の求める能力を持つ子ども「デザイナーベビー」を生み出すという倫理面での問題が、この分野では常に議論され続けています。
本作は現実的となってきたゲノム編集ベビーが、格差社会が縮まらない世の中でどうあるべきなのを問いかけるような作品となっており、決して他人事ではなくなってきたこの問題を再度考える機会をくれる内容でした。
まとめ
不気味で容赦のない展開が繰り返される一方で、どこか気の抜けた「ネメシス」の3人による掛け合いも相変わらずの雰囲気で披露される本作。
夢オチに次ぐ夢オチを繰り返すことで、次第にどの場面が現実なのかが曖昧になる異質な展開と、積み上げたものを崩すような衝撃的なラスト。
『映画ネメシス 黄金螺旋の謎』は一風変わった探偵映画を観たい人にオススメの作品です。