連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile166
鑑賞した人間が一定期間後に必ず死亡する「呪いのビデオ」を描いた映画『リング』(1998)は原作小説と共に大ヒットを記録し、全世界にジャパニーズホラーブームを巻き起こすこととなりました。
時代の変動によって「ビデオテープ」が下火となりましたが、「リング」を原作とした映画シリーズは動画配信サイトによる生放送を題材としたり、実況者を題材とするなどその都度新しい試みを繰り返しながらファンを盛り上げる作品を提供し続けています。
そんな訳で今回は「リング」シリーズの通算8作目となる映画『貞子DX』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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映画『貞子DX』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
木村ひさし
【脚本】
高橋悠也
【キャスト】
小芝風花、川村壱馬、黒羽麻璃央、西田尚美、八木優希、池内博之、渡辺裕之
【作品概要】
鈴木光司が執筆した「リング」シリーズを原作とした映画シリーズの8作目となる作品。
実写映画『魔女の宅急便』(2014)で映画初主演後、連続テレビ小説「あさが来た」に出演するなど活躍の場を広げる小芝風花が主演を務め、「THE RAMPAGE from EXILE TRIBE」のボーカリストとして活躍する傍ら映画『HiGH&LOW THE WORST』に主演し俳優としても高い評価を受ける川村壱馬が共演として参加しました。
映画『貞子DX』のあらすじとネタバレ
原因不明の心不全で死亡する人が全国で増え始め、その数は既に39人を超えていました。
IQ200以上を記録しクイズ番組でトップを取り続ける大学院生兼タレントの一条文華は出演した特番で世界的な人気を誇る霊媒師のKenshin(以下ケンシン)と出会います。
特番の内容は連続する不審死についてであり、死亡した全員が「呪いのビデオ」を闇サイトから購入していたことから司会は不審死が「呪い」によるものであると進行していきます。
ケンシンは20年前に流行した都市伝説「貞子」の呪いが現代に蘇ったと話し、以前は鑑賞して7日後に死んでいた呪いが今では24時間で死亡する呪いに進化しており、SNSで拡散されればあっという間に人類は滅亡すると力説。
しかし、非科学的な現象を信じない文華はケンシンの言葉に異を唱え、「貞子」の呪いは心理的な恐怖心が生み出したプラセボ効果によるものだと指摘します。
SNS上では文華によってケンシンは論破されたと言う論調となり始めていました。
撮影終了後、ケンシンと廊下で出会った文華が撮影中の発言を詫びるとケンシンが持っていた彼の顧客から届いた「呪いのビデオ」を渡され、方程式で解けない呪いは存在すると言われます。
20時、自称占い師の前田王司は「呪いのビデオ」を見た愛を救おうとしますが目の前で死亡してしまいました。
帰宅後、文華が妹の双葉と母の智恵子に「呪いのビデオ」の話しをすると、亡き父親が使っていたビデオデッキが押し入れにあったと智恵子に聞かされます。
22時、姉と同様に非科学的なことを信じない双葉でしたが「呪いのビデオ」の存在に興味を持ち、ビデオデッキを押入れから出すと鑑賞。
ビデオには井戸から這い上がる人間の目線が映されており、井戸から出た先が自分の家であることに不気味さを覚えた双葉が外を見ると、そこには白い服を着た人間が双葉を見つめていました。
翌日、双葉は学校でその場に居るはずのない静岡に住んでいる叔父が白い服を着て立っている姿を目撃し、友人の目にはその姿が映らないことから「呪いのビデオ」が本物であったことに気づき文華に助けを求めます。
手がかりを集める文華がケンシンの事務所を訪ねると、そこには自身も呪いにかかったと主張し自殺を試みる王司が居ました。
王司は愛の呪いを解く際に20年前のルールである「別の人にビデオを見せる」と言う手段を試しましたが結果的に愛が死んでしまい、次は自分の番であると怯えていました。
ケンシンは王司にかけられた呪いを解くというと文華と王司、ケンシンとその助手の4人のいる場で「呪いのビデオ」を再生し儀式を実行。
文華は井戸から出た人間の目線が今自分のいる施設の外であることに驚きますが、ケンシンは王司の解呪が成功したと言い、逆に文華とケンシンに24時間のタイムリミットが出来てしまいます。
王司と共に喫茶店に寄った文華は、王司のリミットである20時になっても王司が死ななかったことに安堵すると同時に、貞子の怨念が天然痘と合わさったとされる「呪い」の正体が「ウイルス」であり、白い服の「貞子」は感染者による幻覚症状であることを勘付きます。
しかし、ウイルスの目的が繁殖だとするとリミットが7日から24時間になったことは違和感しかなく、そうこうしているうちに双葉のリミットが迫り始めてしまいます。
ビデオを検証するために王司の家に寄った文華は自身のフォロワーである引きこもりのハッカー「感電ロイド」からビデオ通話で王司が死ななかった理由の分析を行うように促されると、複数人でビデオを見たことでウイルスが分散し抗体が出来たと考え、双葉に智恵子と共に「呪いのビデオ」を見るように伝えます。
22時、叔父の姿から親友の姿に形を変えた「貞子」に襲われる双葉でしたが、智恵子と共に「呪いのビデオ」を見たことで「貞子」は姿を消しました。
文華は解呪方法をSNSで拡散すると、ケンシンへのバッシングはさらに強まっていきます。
映画『貞子DX』の感想と評価
「エンタメ」としての魅力に磨きがかかった「リング」
斬新すぎる推理小説を実写映像化した『屍人荘の殺人』(2019)を手掛けた木村ひさしが手掛けた本作は、「エンタメ」感の強まっている近年の「リング」シリーズの波に乗る作品になっています。
そのため本作は全編に渡って「バケモンにはバケモンをぶつけんだよ」と言いきり「貞子」を「呪怨」シリーズの怪異「伽椰子」とぶつけた『貞子vs伽椰子』(2016)のエンタメ性を受け継いでいるかのような、「ホラー」でありながらもどこか笑えてしまうノリを見せつけてくれます。
初代映画『リング』では1週間だった呪いのビデオを見てからの「死のリミット」は本作では1日と大幅に短縮され、より展開性の激しいジェットコースタームービーにシリーズを昇華。
「ホラー」と言うジャンルを飛び越え、「エンターテインメント」に言及した本作は全く新しい「貞子」体験を楽しめる作品でした。
癖の強すぎる登場人物たち
IQ200の大学院生である主人公の一条文華を始め本作には人気霊媒師のKenshin、極度のナルシストかつ「自称」占い師の前田王司、超人級の腕前を持つハッカーの感電ロイドが登場します。
それぞれの簡易的な説明文だけで「今までのシリーズとは違う」と言うことを察していただけるような異色の登場人物たち。
しかし、シリーズにおける絶対的な存在である「貞子」の存在感は、そんな癖の強すぎる登場人物たちをまとめ上げており、エンタメ性が強くなってもなお恐怖の対象としての威厳は失われていません。
強烈なキャラ立ちとインパクトを与えてくれる個性豊かな登場人物によって、物語展開に飽きが来ない「ホラー」としても「リング」としても異色の作品でした。
まとめ
呪いの根源となった存在の過去に触れ解呪を試みることは「リング」シリーズだけでなく、ホラー映画でも定番と言える展開。
しかし、本作は「貞子」と言う呪いの原点についてシリーズで重ねて描いてきたことからあえて触れることはなく、「呪いのビデオ」への追及にほとんどの時間を割いています。
何もかもが新鮮で良い意味でこれまでのシリーズに縛られていない『貞子DX』は、本作からシリーズに入ることにも最適な異色すぎるジャパニーズホラー映画でした。